2013年7月26日

 

牛島総合法律事務所
弁護士 影島広泰

hiroyasu.kageshima@ushijima-law.gr.jp

 


 我が国の政府調達においては、調達に対する「苦情申立て」の制度が整備されている。
 
 にもかかわらず、平成8年に現在の苦情申立ての制度ができて以来、長い間、頻繁に利用されているとはいい難い状況が続いていた。また、数少ない苦情申立ては、ことごとくそれが認められることがなかった(民事訴訟でいえば「却下」又は「棄却」にあたる判断がなされ続けた)。
 
 しかしながら、平成20年に初めて苦情申立てが「認容」され入札のやり直しが行われて以来、申立てがやや活発化している。平成24年には、2件が申し立てられ、かつ、いずれも「認容」されるに至っている。
 
 本稿においては、政府調達に係る苦情申立ての制度概要を説明した上で(後記1)、これまでの申立ての実例を紹介する(後記2)とともに、当職の経験からの実務上の留意点を述べることとする(後記3)。今後の制度利用の参考となれば幸いである。
 

-目 次-

1.政府調達に係る苦情申立ての制度(CHANS(チャンス))概要

(1) 政府調達に係る苦情申立てとは
(2) 申立ての対象となる政府調達
(3) 政府調達苦情検討委員会
(4) 手続の概要
(5) 参加人

2. これまでの苦情申立ての実例

3. 苦情申立てにかかる実務上の留意点

(1) 「10日ルール」
(2) 申立後も主張・立証に迅速さが求められること
(3) 申立前の証拠収集の重要性

4. 終わりに

(別紙 実例一覧)

 
 

1. 政府調達に係る苦情申立ての制度(CHANS[1])概要

 

(1) 政府調達に係る苦情申立てとは

 

 政府調達に係る苦情申立てとは、物品及びサービスの政府調達において、当該政府調達に参加した又は参加できる資格のある者が、苦情を申し立てることができる制度をいう[2]。同制度は、1996年(平成8年)1月1日に発効したWTO政府調達に関する協定(Agreement on Government Procurement of WTO。以下「WTO政府調達協定」という。)20条に基づく苦情申立ての手続を処理するためのものである[3]
 
 苦情は、政府調達苦情検討委員会(以下「委員会」という。)に対して申し立てる。
 委員会は申立て受理することを決定した場合、原則として申立てから90日以内に報告書及び提案書[4]の作成を行う。
 
 苦情に理由があるとされた場合、委員会による提案の内容は、次の(ア)から(オ)の1つ又は複数を含むこととなる(「政府調達に関する苦情の処理手続」[5](以下「処理手続」という。)6項(2))。

(ア) 新たに調達手続を行う。
(イ) 調達条件は変えず、再度調達を行う。
(ウ) 調達を再審査する。
(エ) 他の供給者を契約締結者とする。
(オ) 契約を破棄する。

 

 当該調達機関は、原則として委員会の提案に従うものとされており、上記(アから(オ)の提案がなされれば、これに従って入札のやり直しや契約の破棄等が行われることになる。

 

(2)申立ての対象となる政府調達

 

 WTO政府調達協定が適用される政府調達(WTO政府調達協定1条)が対象であり、一定規模以上[6]の、公共事業の工事、公共事業の設計・コンサルティング、物品又はサービスの調達等、幅広い政府調達[7]が対象となる(処理手続2項(1)参照)。
 
 これまでの実例(後述)を見ると、駐車場の建築工事からITシステムの調達まで、幅広い政府調達について申立てが行われている[8]

 

(3) 政府調達苦情検討委員会

 

 委員会は、苦情申立ての手続を処理するための組織であり、政府調達に関して学識経験を有する者をもって構成するとされており(平成7年12月1日閣議決定(最終改正平成19年12月28日))、事務局は内閣府政府調達苦情処理対策室である。
 
 政府調達苦情検討委員会の中に、委員及び専門委員(個別分野の学識経験者)で構成される政府調達苦情検討委員会分科会を設置できるとされており[9]、具体的な苦情申立ての検討は、分科会で行われるのが通例である。例えば、ITシステムの調達についてはITシステムの専門家の委員を中心に構成される「コンピューター分科会」によって検討されることになる。

 

(4) 手続の概要[10]

 

(ア) 苦情申立人は、調達手続のいずれの段階であっても、政府調達協定等のいずれかの規定に違反して調達が行われたと判断する場合には、苦情の原因となった事実を知り又は合理的に知り得たときから10日以内に、委員会に申し立てを行う(処理手続5項(1)。以下「10日ルール」という。後述するとおり、実務上、この10日ルールが、申立ての最初の障壁となる。)。
 
(イ) 委員会は、申し立て後7作業日以内に、当該苦情を受理するかどうかを判断する。申立てがWTO政府調達協定の適用される政府調達でない場合や、10日ルールを満たさない場合には、この段階で申立てが却下される(処理手続5項(2))。
 委員会が苦情を受理する場合には、苦情申立者及び調達機関等に文書にて通知するとともに、官報、インターネット等を通じて公示を行う。
 
(ウ) 当該苦情に係る調達に利害関係を有する供給者は、「参加者」として、苦情処理手続に参加することができる(処理手続4項)。
 
(エ) また、委員会は、関係調達機関に対し、原則として、契約締結に至る前の段階における苦情申立てについては、苦情処理に係る期間内は契約を締結すべきでない旨の要請を、契約締結後10日以内に行われた苦情申立てについては、苦情処理に係る期間内は契約執行を停止すべきである旨の要請を、速やかに文書をもって行う(処理手続5項(6))。
 
(オ) その後、14日以内に、調達機関が委員会に「報告書」を提出する(義務的。処理手続5項(9①)。
 苦情申立人は、当該報告書に不服の場合、「意見」又は委員会での検討を希望する旨を表明できる。これにより、委員会の検討が開始される。
 
(カ) 苦情申立人、参加者及び関係調達機関は、委員会が検討の結果をとりまとめる前に、委員会に出席し、意見を述べることができる(処理手続5項(7)⑤)。
 
(キ) 委員会は、当該政府調達がWTO政府調達協定及び日本政府が自主的に定めている政府調達の手続に沿っているかどうかを検討し、苦情が申し立てられてから90日以内に検討の結果の報告書を作成する(処理手続6項(1))。当該調達が政府調達協定等に定める措置が実施されていないと認める場合には、報告書とともに提案書を文書で作成する。
 
(ク) 調達機関は原則として苦情に関する委員会の提案に従うこととなっている(処理手続6項(5))。
 

(5) 参加人

 

 前述のとおり、当該苦情に係る調達に利害関係を有する供給者は、「参加者」として苦情処理手続に参加することができる(処理手続4項)。参加の意思は、委員会が苦情を受理する旨の公示を行った後5日以内になされなければならない。
 参加者とは、例えば、入札手続において、第2順位となった入札者が苦情申立てを行ったケースにおいて、第1順位の入札者が参加者となるのがその典型例である。

 

2. これまでの苦情申立ての実例

 
 これまでになされた申立ての数は12件であり、うち、申立てが「認容」されたものは3件である(詳細は、別紙実例一覧参照。)
 
 平成8年に制度ができて以来しばらくは利用が低調な状態が続き[11]、結論においても、平成20年までは申立てが「認容」されたことがなかった。しかしながら、平成20年に申立てが認められて以降、申立てが増加する傾向にあり、また、平成24年になされた申立てが2件とも「認容」されている点が注目される。
 


 

却下

申立てが認められず

申立てが認められて提案がなされた

平成8年

1件

 

 

平成9年

 

 

 

平成10年

 

 

 

平成11年

 

 

 

平成12年

 

1件

 

平成13年

1件

1件

 

平成14年

1件

 

 

平成15年

 

 

 

平成16年

 

 

 

平成17年

 

1件

 

平成18年

平成19年

平成20年

1件

平成21年

平成22年

1件

1件

平成23年

1件

平成24年

2件

 

3. 苦情申立てにかかる実務上の留意点

 

(1) 「10日ルール」

 

 上述のとおり、苦情申立人は、「苦情の原因となった事実を知り又は合理的に知り得たときから10日以内」に申立てを行う必要がある(10日ルール)[12]
 この要件は、実務上大きな壁となる。事業部門が事実関係を確認して調達手続に問題があったことを認識した後、法務部門が苦情申立てを検討すると決め、外部の弁護士に依頼する時点で、既に10日間のうちの相当の期間が経過していることが想定されるからである。
 実際、これまでの実例を見ると、10日ルールで却下された申立てが散見される。
 申立てをしようとする者は、10日ルールを遵守すべく、事業部門と法務部門の連携、適切な代理人の選任等を行い、必要書類の確認、事業部門への事情聴取、証拠の収集、申立書の作成等を迅速に行う必要がある。
 
 なお、10日ルールとの関係で留意すべきは、「苦情の原因」[13]は、10日経過後には追加できないとされている[14]点である。苦情申立人は、10日経過後に「苦情の原因」を追加することのないよう、申立書の内容を十分吟味すべきである。
 
 では、急ぎ申立てを行ったものの、10日経過後になって、例えば事業部門へ事情聴取等により、苦情の原因となる新たな事実が発見された場合にはどうすればよいか。
 
 10日経過後であっても、「正当な理由がある」(処理手続5項(4))場合や、当該主張が「当初の主張と密接に関連する内容」(検委事第6号「報告書」)である場合には、追加の主張も検討の対象となる。一義的にはこれらを主張することになる。
 もっとも、実務的には、当初の苦情の原因に関する主張の「補充」にあたる主張[15]は、当然に認められると考えられるから(検委事第7号において「申立補充書」の提出が認められている(「報告書及び提案書」11頁参照)。)、補充にあたるといえるかどうかを最初に検討すべきであろう。

 

(2) 申立後も主張・立証に迅速さが求められること

 

 申立後も、手続はタイトなスケジュールで進むことになる。苦情の処理手続は、原則として、申立てから90日以内に提案書及び報告書を作成するとされているからである。
 
 申立後のスケジュールは、とりわけ苦情申立人側にとってタイトである。
 例えば、調達機関の「報告書」作成には14日間が確保されているが(5項(9①)、それに対する苦情申立人の「意見」は7日間で作成しなければならないとされている(同②)。調達や入札に対する評価に関する資料は、調達機関側に偏在しているのが一般的であるにもかかわらず、である。
 
 したがって、申立てにあたっては、実務に詳しい代理人を選任し、事業部門の担当者と緊密な連携を行って、問題点を素早く把握して書面を作り、委員会で意見を述べることができる体制を整える必要がある。例えば、入札説明書に記載されたITシステムの要件と、提案書に記載された仕様と、調達機関による提案書に対する評価の3つを比較して、何が苦情の原因になるかを早期に抽出する能力が求められる。
 申立てが認められるか否かは、このような迅速な対応がとれる体制を取ることができるかどうかにかかっているといっても過言ではないと思われる。

 

(3) 申立前の証拠収集の重要性

 

 上述のとおり、申立後は90日以内に結論を出すことを目指してタイトなスケジュールで手続が進むことになるから、「証拠」となるべき資料を、申立て前の段階に十分に収集しておく必要がある。
 
 申立後にも、民事訴訟における文書提出義務と類似の制度が利用できるが、実務上、スケジュールが非常にタイト[16]なため、これを活用することには困難が伴うためである[17]

 

4. 終わりに

 
 以上のとおり、政府調達に関する苦情の処理手続は、手続上の様々な問題を抱えつつも、平成20年以降、徐々に申立てが活発化しているように思われる。
 後も、申立てが更に活発化し、委員会による報告書及び提案書が蓄積されて、それが政府調達のプロセスを適正化していく結果となることが期待される。

 

 
(別紙 実例一覧)

苦情番号

申立日

報告書及び提案書、又は通知等の日

苦情申立人

調達機関名

購入等件名

苦情の概要

報告書及び提案書の概要

検委事第1号

H8.6.10

H6.6.19(苦情を受け付けないとされた)

モトローラ株式会社 警察庁/通信システム 苦情申立人に対して事前の情報提供が十分に行われなかったこと等により機会を阻まれているとして苦情申立てを行った。 WTO政府調達協定23条に基づき同協定の適用除外に当たる調達(国家の安全保障等のために不可欠の調達に関連するもの)に係る申立てであるとされて、苦情を受け付けないとの判断がなされた。
検委事第2号

H12.7.12

H12.10.3
「報告書」

モトローラ株式会社(参加者:ソニー株式会社) 東日本旅客鉄道株式会社/鉄道出改札業務用ICカードシステム 以下の点において、WTO政府調達協定及び「日本の公共部門における電気通信機器及びサービスの調達に関する措置」(平成6年3月28日政府決定)に違反し、その影響するところは重大であるとして、苦情申立てを行った。
(a) 国際規格の不採用
(b) 国際貿易に対する不必要な障害をもたらす技術仕様
(c) 参加者からの助言の不正使用
(d) 試供品の提出期限及び製品の納期が不当であり、参加者以外の供給者を排除しようとした
(e) 外国の供給者が満たすことがおよそ不可能な試供品の提供を入札の条件にすることで苦情申立人の開札手続への参加を拒否したという、開札手続の不適正

左記(a)について、10日ルールにより却下。但し、苦情申立人の主張する点は国際規格に該当しない旨の見解が示された。

左記(b)について、技術仕様と参加者のシステムの仕様で共通なのは、全体の項目数120のうち15であることなどから、技術仕様が国際貿易に対する不必要な障害をもたらすことを目的として、又はこれをもたらす効果を有するものとして定められたものであるとの主張は論拠が不十分であるとした。

左記(c)について、助言の不正使用の事実は認められないとした。

左記(d)について、期限及び納期に合理性がないとは認められないばかりでなく、参加者以外の供給者を排除する意図をもってこれらの期限を定めたと認めるに足りる資料は存在しないとした。

左記(e)について、総合評価で必須とされている試供品を提供しなかったことにより入札が無効とされたのであるから、理由がないとした。

検委事第3号

H13.2.17

H13.2.26
(申立て却下の通知)

株式会社浄美社 山口大学の建築物清掃サービスの調達 調達機関と派遣元事業主との間で締結された労働者派遣契約がWTO政府調達協定に基づいてされていないとして、苦情申立てを行った。 当該契約は、WTO政府調達協定「附属書I」の「付表4」にある「CPC874建築物の清掃サービス」としてではなく、「CPC872人材派遣サービス」として行われたものであるから、WTO政府調達協定の適用を受けないとして、申立てが却下された。
検委事第4号

H13.10.9

H13.12.21
「報告書」

日本アイ・ビー・エム株式会社 日本原子力研究所/ITBL計算機システム 一式 以下の点において、WTO政府調達協定及び「スーパーコンピューター導入手続」(昭和62年7月16日アクション・プログラム実行推進委員会決定)に違反して苦情申立人を不合格にしたものであり、その違反は重大であるとして、苦情申立てを行った。
(a)苦情申立人のベンチマーク・プログラムの修正提案に対して、手続に定める少なくとも50日間の提案期間が違法に認められず不承認とされたこと
(b)最終仕様書に記述されていない機能を評価の対象にしたこと

左記(a)及び(b)の点において、調達機関に極めて重大な調達手続上の義務違反があったものの、苦情申立人の提案システムは調達機関の仕様書の要求要件を充たしていないため、結局は調達手続の結果を是認せざるを得ない、とされた。

検委事第5号

H14.5.29

H14.7.8
「報告書」

ロッテ建設株式会社
(参加者:清水建設株式会社、株式会社竹中工務店東京本店、大林・大日本・大末特定建設工事共同企業体)
国交省東京航空局/東京国際空港東側立体駐車場新築工事 入札参加資格条件が、以下のとおりWTO政府調達協定に違反するものであるとして、入札参加資格条件を緩和して再公告を実施することを求めた。
(a)競争参加資格の不当な制限(必要不可欠ではない条件を課した)
(b)参加条件・資格審査が国内供給者より他の供給者が不利となっている
10日ルールにより却下。
検委事第6号

H17.12.2

H18.1.20
「報告書」

オーバーシーズ・ベクテル・インコーポレーテツド(参加者:大成建設株式会社、鹿島建設株式会社、株式会社大林組) 東日本旅客鉄道株式会社/JR東日本滝野川社宅新築 入札参加資格条件が、以下のとおり、WTO政府調達協定並びに「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(平成6年1月28日閣議了解)及び同計画運用指針(平成8年6月17日事務次官等会議申合せ)に照らして適切ではないとして、苦情申立人の競争参加資格を認めることを求めた。
(a)「立地」及び「近隣住民への配慮及び対応」は技術的条件には該当せず、必要の程度を超えて厳しい条件を設定していること
(b)工事実績要件の客観性、具体性が欠けること
(c)入札公告と入札説明書に差違があること
(d)近隣住民への対応は請負者の責任の範囲ではないこと
(e)過去の同種工事の実績に係る技術的要件のすべてについて、同一工事での実績に限定する必要はないこと
(f)今回の工事は、「技術的難度の高い工事、困難な作業条件の下で施工する工事等」には該当せず、経験時における主任技術者、監理技術者等の役職による限定は設けるべきではないこと
左記(a)について、「技術」とは「technological」ではなく「technical」であり、左記条件は技術的要件に該当するとした。
左記(b)について、十分理解できる文言であるとした。
左記(c)について、入札説明書に記載されている「近隣住民への配慮及び対応を伴う」との文言が入札公告に記載されていない点において瑕疵があるというべきではあるが、その記載がないことにより、本件公告が協定又は行動計画に反する違法なものであるということはできないとした。
左記(d)について、調達機関がかかる対応等を行う能力があることを重要な条件であると説明し、これを証明することを求めたにもかかわらず、苦情申立人は説明・証明しなかったとして、主張は失当であるとした。
左記(e)について、必要な程度を超えた厳しい条件とまではいえないとした。
左記(f)について、本件は失敗の許容度が通常よりも極めて低いなどとして、運用指針に違反するものではないとした。
検委事第7号[18]

H20.10.3

H20.12.25
「報告書及び提案書」

日本アイ・ビー・エム株式会社
(参加人:株式会社エヌ・ティ・ティ・データ)
国土交通省自動車交通局/次期自動車登録検査業務電子情報処理システムの設計・開発業務 一式 入札手続について、以下のとおり、WTO政府調達協定、「日本の公共部門のコンピューター製品及びサービスの調達に関する措置について」(平成4年1月20日アクション・プログラム実行推進委員会決定)、「コンピューター製品及びサービスの調達に係る総合評価落札方式の標準ガイド」(平成7年3月28日調達関係省庁申合せ。「コンピューター標準ガイド」)及び「情報システムの調達に係る総合評価落札方式の標準ガイド」(平成14年7月12日調達関係省庁申合せ。「情報システム標準ガイド」)に違反していることから、主位的に、苦情申立人を落札者とするよう求める旨の是正案を、予備的に、入札の再審査を求める旨の是正案を、関係調達機関に提案されるよう求めた。
(a)評価項目に記載されていない基準で評価が行われたこと
(b)評価の対象となる提案をするのに必要な情報が公平に提供されていないこと
(c)評価が公正、公平な審査に基づくものではないこと
(d)評価委員会の構成自体も公正、公平ではないこと
(e)既存のベンダーに特に有利な評価をしていること
入札説明書(要件定義書)の記載からは要件の詳細が明らかでない項目について、提案の内容が具体的ではなかったことをもって、低い評価としたことは、「入札の評価は、入札説明書(仕様書及び総合評価基準を含む。)に基づいて行うものとし、入札説明書に記載されていない性能等は評価の対象としない」とするコンピューター標準ガイド及び情報システム標準ガイドの規程に違反しているなどとして、調達機関の行った技術点審査が、コンピューター標準ガイド及び情報システム標準ガイドの規定に違反していると判断した。その上で、調達機関が苦情申立人と参加者の「入札を再審査する」ことを提案した。また、この提案が実施される際には、手続的見地から、調達機関は、参加者が提案を不当に低く評価されたと考える項目について、参加者に意見を述べ、反駁する機会を与えるのが妥当であると考えるとした。
さらに、以下のとおり予備的な提案も行った。
すなわち、本件調達に係る入札手続においては、既に苦情申立人及び参加者の入札価格が明らかになっており、かかる状況において技術点の評価について「入札を再審査する」ことを調達機関に求めても、実際に公正、かつ、公平な審査を行うことが不可能となる事態も想定できるとし、そのような可能性があることを踏まえて、要件定義書などの入札条件を変更せずに、関係調達機関が再度入札を行うことができるよう、「入札条件は変えずに再度入札を行う」ことを予備的に提案した。また、この提案が実施される際にも、調達機関は、参加者の提案について低く評価した項目に関しては、その理由を参加者に提示すべきであると考えるとした。
検委事第8号

H22.1.25

H22.1.29
(却下)

匿名 国立大学法人東京大学/光触媒空気浄化システム 入札説明書において公正性が確保されていないとして苦情を申し立てた。 苦情申立人が処理手続2項(1)に定める供給者に当たらないとして、却下した。
検委事第9号

H22.7.16

H22.9.7
「報告書」

スカパーJSAT株式会社
(参加者:三菱UFJリース株式会社)
気象庁/静止地球環境観測衛星の運用等事業 以下のとおり、WTO政府調達協定及び「日本の公共部門における電気通信機器及びサービスの調達に関する措置」(平成6年3月28日アクション・プログラム実行推進委員会決定)に違反しているとして、入札条件を変えずに再度入札を行うよう求める旨の是正案を調達機関に提案するよう求めた。なお、本件は、苦情申立人を代表企業とするグループが入札したところ、グループ中の企業の従業員が特許庁職員に対する贈賄容疑で逮捕されたことから指名停止措置(1か月)を受けたことをもって、グループ構成員である苦情申立人に対して、入札参加資格喪失を通知した事案である。
(a)実質的に参加資格を有する苦情申立人らが参加する意思を表明しているにもかかわらず、それらに参加の機会を十分に与えないまま一社入札として落札を認めてしまっていること
(b)グループ構成員に対する指名停止により苦情申立人らの参加資格まで喪失させ、単独での参加の機会すら与えなかった点で、参加資格を必要以上に限定していること
左記<(a)及び(b)いずれの点についても、WTO政府調達協定の規定は苦情申立人が主張する趣旨の規定とはいえない、あるいは調達機関の措置が規定に違反するとはいえないなどとして、認めなかった。
検委事第10号

H23.5.16

H23.6.28
「報告書」

株式会社日立プラントテクノロジー
(参加者:株式会社荏原製作所)
独立行政法人水資源機構/武蔵水路糠田排水機場ポンプ設備改修工事 以下のとおり、WTO政府調達協定に違反しているとして、入札の再審査を行うよう求める旨の是正案を提案するよう求めた。
(a)本件入札説明書に記載のない落札基準が用いられていること(コスト縮減額を反映しない基準額をもって重点調査の対象と判断したこと)
(b)重点調査への移行判定時に追加資料の提出が求められなかったこと
(c)本件入札説明書に定める特定の評価基準、記載された落札基準及び基本的要件に従って落札者が決定されていないこと
左記(a)について、当該違反があるとした場合には入札全体が違法となるから、入札のやり直しが求められるべきであるとし、にもかかわらず入札のやり直しではなく単に入札の再審査を求めているから、WTO政府調達協定に違反するとの主張は失当であるとした。
左記(b)について、WTO政府調達協定に違反しないとした。
左記(c)について、「いかなる意味で『落札基準及び基本的要件』に従っていないのかについて、苦情申立人の主張・立証は不十分である」として主張を認めなかったが、調達機関に対し、「今後、関係者に協定違反との疑問を生じさせる余地のない形で、公正・透明な入札を実施することを求める」とした。
検委事第11号

H24.2.17

H24.4.24
「報告書及び提案書」

匿名 国立大学法人豊橋技術科学大学/横型薄膜形成装置 以下のとおり、WTO政府調達協定に違反していることから、当該一般競争入札における技術審査を再度行うよう求める旨の是正策を提案するように求めた。
(a)技術審査委員会による審査が、入札仕様書に記載されていない基準で行われていること
(b)入札説明書及び仕様書に定める技術的要件が、WTO政府調達協定12条2項(g)の求める「完全な説明」の要件を満たしていないこと
左記(a)について、苦情申立人が主張したWTO政府調達協定9条6項(f)は、供給者に要求される技術上の要求を規定するものであって、本件で問題となっている製品に係る技術上の仕様を問題としているものではないとして、苦情申立人の主張を認めなかった。
左記(b)について、入札説明書及び仕様書の記載がWTO政府調達協定12条2項(g)に違反する疑いが濃厚であるとした上で、同記載を補完する意図で行われた質問書のやりとりについて検討した。その結果、質問書の送付等を行っても、なお、応札した事業者3者のうち2者が有効な入札書を提出できなかったことなどから、説明が不十分であったと認定し、同条項に違反するとした。その上で、(i)関係調達機関が本件の「契約を破棄する」こと及び(ii)本件調達条件のうち、納入日等やむを得ないものを除き、「調達条件は変えず、再度調達を行う」ことを提案した。なお、苦情申立人は、「入札における技術審査を再度行う」ことを申し立てたが、本件調達手続においては、既に苦情申立人及び本件落札者の入札価格が一部明らかになっており、かかる状況において「調達を再審査する」ことを関係調達機関に求めても、実際に公正、かつ、公平な調達を行うことが困難な状況にあることにかんがみ、再審査ではなく上記の提案をすることとしたとされている。また、仕様書に、問題となっていたヒータに関する図面を添付すること等により、求めている技術仕様について完全に説明した上で、再度調達を行うことをも提案している。
検委事第12号

H24.10.19

H25.1.17
「報告書及び提案書」

匿名
(参加者:株式会社ヴァイナス)
国立大学法人東京大学/大規模第一原理電子状態解析ソフトウェア(PHASE)の最適化 一式 以下のとおり、WTO政府調達協定に違反しているとして、当該契約を破棄する旨の是正策を提案するように求めた。なお、本件は、左記PHASE関連の業務を調達機関から10年以上にわたって受注してきた苦情申立人が、官報の掲載を見落として入札しなかった事案である。
(a)入札公示以前に特定の供給者と関係調達機関との間で仕様書の作成等に関するやりとりが行われていたこと
(b)落札者が仕様書にある調達要件を満たしていないこと
苦情申立人が入札していない者である点については、「調達手続への参加に関心を有し又は有していた者」(処理手続細則1(1))にあたるとして、「供給者」による適法な申立てであると判断した。
左記(a)について、具体的な事実認定を行って、(1)「特定の調達のための仕様の準備に利用し得る助言」を民間事業者に所属していた者に求め、又は受けていたとし、(2)1特定の事業者に所属する者が1か月程度早く仕様書原案の子細な内容を承知していたことは提案書の準備及び入札に有利に働くとして「競争を妨げる効果を有する方法により」(3)「当該調達に商業上の利害関係を有する可能性のある企業」から求め又は受けたといえるとして、WTO政府調達協定違反に当たるとした。また、他の一般の事業者に先駆けて仕様書の内容を知っていた者が担当者となっている会社を落札者としたことについて、技術審査委員会で議論がなされていないこと、また、技術審査委員会の審査委員が学内の者だけで構成されていたことも、WTO政府調達協定違反であるとした
左記(b)については、疑義が残るとしつつも、積極的に裏付ける証拠が不充分であるとした。
以上から、委員会は、関係調達機関が本件の「契約を破棄する」ことを提案した。また、本プロジェクトが、5年間という長期間にわたる大規模なプロジェクトであり、プロジェクトの完成度を高めるために民間事業者の職員を研究員として採用している等の特殊性を有していることを踏まえれば、調達見込額が意見招請を必須とする規模でないとしても、仕様書案について広く意見招請を実施する等の方法により、本件調達の公正性、無差別性を確保すべきであったと考えられるとし、次回以降の類似の調達案件においては、そうした点での配慮が望まれるとした。


 


[1]Office for Government Procurement Challenge System」の略称。

[2]制度の詳細は、政府調達苦情処理体制のウェブサイト(http://www5.cao.go.jp/access/japan/chans_main_j.html)及び川口康裕「新しい政府調達苦情処理手続の概要」NBL No.6231997年)13頁を参照されたい。

[3]それまで我が国の自主的措置で行ってきた苦情処理体制を統合・強化したものである。

[4]民事訴訟でいう「判決」・「決定」に該るものである。

[5]http://www5.cao.go.jp/access/japan/pdf/tetsuzuki.pdf (なお、「スーパーコンピューター導入手続の改正について」(平成2419日付けアクション・プログラム実行推進委員会決定)、「非研究開発衛星の調達手続等について」(平成2614日付けアクション・プログラム実行推進委員会決定)及び「日本の公共部門のコンピューター製品及びサービスの調達に関する措置について」(平成4120日付けアクション・プログラム実行推進委員会決定)に基づく苦情の処理手続と重複する場合には、これらの処理手続が本処理手続に対し、優先して適用される(処理手続10項)。)

[6] WTO政府調達協定の「付表」により特別引出権(SDR)による基準が設けられている。

[7]国の政府機関及び政府関係機関(特殊法人等)が行うものを対象としている。なお、地方公共団体については、各地方公共団体に苦情受付窓口が設けられている。

[8]申立ての対象とした契約がWTO調達協定の適用を受けないものであるとして、申立てが却下された例もある(山口大学の建築物清掃サービスの調達に関する申立て(検委事第3号))。

[9]政府調達苦情検討委員会運営要領(http://www5.cao.go.jp/access/japan/pdf/youryou1.pdf7

[10]本文中の日数の記載は、通常の場合の日数である。苦情申立人又は関係調達機関から「迅速処理」の要請があり、委員会が迅速処理の適用を決定した場合には、日数はより短くなる(処理手続7項)。また、これら日数は当該政府調達の種類によって異なることがある。

[11]前掲川口

[12]但し、委員会は、正当な理由があると認めるときには、当該申立てを受理することができる(処理手続5項(4))。

[13]民事訴訟にいう「請求の原因」と同様のものである。

[14]委員会は、「幾つかの苦情の原因がある場合には、それぞれの原因について、期間(筆者注:10日ルールのこと)の制限を受けることになる」(検委事第2号「報告書27頁)との判断を示している。

[15]民事訴訟でいえば、「訴えの変更」にあたらない追加的・補充的な主張に該るものである。

[16]手続の詳細は本文中に述べたとおりであるが、要するに、申立書を提出した後は、14日以内に調達機関から「報告書」が提出され、それに対する苦情申立人からの「意見」が7日以内に提出された後、委員会でのプレゼンテーションが行われれば手続は終了となる、というのが大きな流れである。

[17]この点が、本制度の課題であるともいえよう。入札に対する評価の内容等、調達に関する資料は調達機関側に偏在しているからである。

[18]筆者が苦情申立人代理人となった事件

ENGLISH SITE