下請法違反による経済的負担を避けるためになすべきこと

2018.1.25

下請法違反による経済的負担を避けるためになすべきこと

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1. 下請法違反による巨額の経済的負担
 
(1) 下請法の執行状況について

 

平成29年7月21日、公正取引委員会は、セブン-イレブン・ジャパンに対して下請法に基づく勧告を行った。公正取引委員会によれば、同社は、新規出店時等に実施する値引セールの原資として徴収する「新店協賛金」等を、下請事業者に支払うべき下請代金から減じていたとのことであり、その総額は2億2746万1172円に及ぶとされている。なお、セブン-イレブン・ジャパンは、平成28年10月31日及び平成29年7月5日に、下請事業者に対してこれを支払ったとのことである。

公正取引委員会は、書面調査や下請事業者等からの申告等を通じて、後述の禁止事項の違反を認識した場合には、違反行為を行った親事業者に対して、違反行為の取りやめ、原状回復措置等を内容とする勧告(下請法7条)や、違反行為の改善を求める指導を行っている。これら勧告及び指導の件数は、以下のとおり増加傾向にある(平成28年度の指導件数は過去最多のものである。)。
 

平成26年度 平成27年度 平成28年度
勧告件数 7件 4件 11件
指導件数 5461件 5980件 6302件

 
(2) 原状回復措置は巨額な負担となり得る

 

勧告が行われた場合、その事実は公表される。そのため、勧告を受ける事業者にはレピュテーションの問題が生じることとなる。

また、勧告、指導のいずれであっても、それを受ける事業者は、原状回復措置を行うよう求められる。例えば、後述の下請代金の減額に関していえば、下請法の規制に違反した事業者に対し、当該事業者において既に決済が終了したと考えていたところの下請事業者に対する減額分の支払いが求められることとなるのである。なお、平成27年度においては延べ235の事業者から延べ7,760名の下請事業者に対し総額13億2622万円相当の原状回復がなされた。また、平成28年度には延べ302名の事業者から延べ6,514名の下請事業者に対して総額23億9931万円相当の原状回復がなされている。

この原状回復措置は、一事業者に対し、極めて巨額の経済的負担を生じさせる可能性がある。実際、日本生活協同組合連合会に対して平成24年9月25日付けでなされた勧告では、同連合会が、平成22年9月以降、下請事業者449名に対して総額25億6331万7863円もの違法な減額をしていたとされ、その結果、この減額にかかる原状回復措置として、当該減額した金額を下請事業者に支払ったとされている。

また、日本生活協同組合連合会に対する同日付けの指導においては、同連合会が、延べ452名の下請事業者に対して下請代金の支払遅延も生じさせていたとされ、この支払遅延に関しても、遅延利息として13億2334万9755円を支払ったとされている。なお、支払遅延に係る遅延利息に関しては、下請法に特別の定めがあり、給付を受領した日から起算して60日を経過した日から支払をする日までの期間について年14.6%で計算するものとされている(下請法4条の2)。

このように、下請法は、その違反について、巨額の経済的負担を事業者に生じさせることがあるのである。

 

2. 下請法の規制の概要
 
(1) 下請法が規定する親事業者の義務や禁止事項

 

下請法は、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もって国民経済の健全な発達に寄与することを目的とした法律である(下請法1条)。下請法は、この目的を達するため、資本金額と取引の内容という形式的な要件で親事業者、下請事業者及び対象となる取引を定め、当該取引に関する親事業者の義務や禁止事項を定めている。

例えば、物品の製造委託については、これを発注する事業者が資本金1000万円超3億円以下の法人であり、受注する事業者が個人又は資本金が1000万円以下の法人である場合には、発注する事業者を親事業者、受注する事業者を下請事業者として下請法が適用されるのである。

このようにして下請法が適用されることとなった場合の親事業者の義務や禁止事項は、概要以下のとおりである。

 

親事業者が負担する義務 親事業者の禁止事項
①     発注の際に直ちに給付の内容、下請代金の額、支払期日等が記載された下請法3条に定める書面を交付する義務

②     下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内で、かつ、できる限り短い期間内に定める義務

③     下請取引の内容を記載した書類を作成し保存する義務

④     遅延利息を支払う義務

①     受領拒否

②     下請代金の支払遅延

③     下請代金の減額

④     返品

⑤     買いたたき

⑥     購入・利用強制

⑦     報復措置

⑧     有償支給原材料等の対価の早期決済

⑨     割引困難な手形の交付

⑩     不当な経済上の利益の提供要請

⑪     不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

 

(2) 禁止事項に違反した場合、原状回復措置の対象となる

 

原状回復措置の対象となるのは、禁止事項についての違反である。そのため、上記の巨額の経済的負担を防ぐためには、この禁止事項に違反しないようにすることが極めて重要なものとなる。もっとも、この違反は、気付かずに行ってしまう場合も少なくない。

例えば、平成28年度において最も違反件数が多かった「支払遅延」に関していえば、下請法上、下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から60日以内に定められなければならないとされ、これに違反した支払期日が定められた場合には、給付の受領日から起算して60日経過した日の前日が支払期日として定められたものとみなされる(下請法2条の2)。この点、親事業者において、「毎月末日納品締切、翌々月10日支払」等といった締切制度を採っているような場合、例えば7月1日になされた給付に係る下請代金は、9月10日(72日後)に支払われることとなるが、これでは、給付の受領日から60日以内の支払期日が定められていないこととなってしまい、受領日である7月1日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日とみなされることになる。そのため、9月10日に支払ったのでは下請法違反(支払遅延)となるのである。

上記の日本生活協同組合連合会の事例でも、毎月20日を納品締切りとし、締切り後40日から120日後に下請代金を支払う制度が採用されていた。その結果、延べ452の下請事業者に対して合計13億2334万9755円もの遅延利息を支払うこととなったのである。

また、勧告の対象となることが多い「下請代金の減額」に関していえば、下請事業者の責に帰すべき理由(例えば、給付内容が委託内容と異なる場合、給付に瑕疵がある場合等)がないにもかかわらず、事後的に下請代金額を減額すれば、多くの場合、下請法に違反することとなる。発注後に下請事業者と発注価格を変更するための交渉を行い、それにより合意した結果に基づいて当該発注にかかる代金額を減額した場合であっても、当該減額が、下請事業者の責に帰すべき理由によるものでなければ、通常、当該減額は下請法違反(下請代金の減額)となるのである。

 

(3) 下請法コンプライアンスの必要性

 

このような禁止事項の違反は、多くの場合、特定の下請事業者に対するものにとどまらず、同様の取引を行っている下請事業者一般に対しても同様に行われることが多い。そのため、違反の事実が判明したときには、既に多くの違反行為を積み重ねてしまっていることが少なくない。

しかしながら、このような下請法違反の多くは、下請法への知識があれば防ぐことが可能である。そのため、このような下請法違反を防止するために、関係者に対する下請法に関するコンプライアンスマニュアルの配布や研修等を行うこと、さらには、下請法の規制を前提として、自らの業務の過程を見直し、下請法違反が生じやすい場面を洗い出して、違反を防ぐ仕組み(例えば、締切制度の見直し、発注後の下請代金は減額することなく機械的に振り込むようにすること等)を設けることが重要となる。

 

3. 下請法の執行強化
 
下請法に関しては、平成28年6月2日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2016」において「・・・下請法等の運用強化・・・等を通じ、下請等中小企業の取引条件の改善を図る」(同19頁)とされ、また、同年8月2日に閣議決定された「未来への投資を実現する経済対策」においても、その運用強化等により「下請け企業等の中小企業の取引条件の改善を図る」等とされている。

しかも、これらの閣議決定等を受けて、公正取引委員会が下請法運用基準などの改正(平成28年12月14日)を行った後も、「未来投資戦略2017-society5.0の実現に向けた改革-」(平成29年6月9日閣議決定)で、「昨年12月の、違反行為事例の大幅追加等を行った下請法運用基準・・・等に基づき・・・主要業界の自主行動計画・・・における適正取引や付加価値向上の取組を促進し、下請Gメンによる調査等を通じて、下請事業者の取引条件の着実な改善を図る」などとされるに至っている。そのため、今後も、下請法の運用はさらに強化されるものと予想され、勧告の件数や指導件数も増加する可能性が高いものと思われる。

 

このような状況を踏まえれば、事業者においては、下請法に関するコンプライアンス体制を早急に確立することが必要である。もっとも、下請法に関するコンプライアンス体制の確立のためには、下請法の知識が不可欠であることから、早期にその分野に明るい弁護士の助言を受けるなどして、対応することが肝要である。

以 上

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