平成21年改正後の優越的地位の濫用規制に係る初めての審決(日本トイザらス事件)について

2015.12.18

平成21年改正後の優越的地位の濫用規制に係る初めての審決(日本トイザらス事件)について

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1.公正取引委員会による審決

公正取引委員会は、平成27年6月4日、日本トイザらス株式会社(以下「日本トイザらス」という。)に対し、平成23年12月13日付けでなされた同社に対する排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)及び課徴金納付命令(以下、当該課徴金納付命令を「本件課徴金納付命令」といい、本件排除措置命令と併せて「本件命令」という。)についての審決(以下「本件審決」という。)を行った。本件審決は、平成21年の独占禁止法改正によって課徴金の対象とされた優越的地位の濫用規制について初めてなされた審決である。そのため、そこに示された解釈等が、公正取引委員会における今後の運用指針になることが想定される。

 

2.審決のポイント

(1) 優越的地位の濫用の要件について

本件命令は、玩具等の小売業を営む日本トイザらスが、その納入業者に対し、自己の取引上の地位が優越していることを利用して商品の返品や減額を行うことで、優越的地位の濫用規制に違反したとするものである。

この優越的地位の濫用にかかる要件は、以下の①ないし④である。もっとも、そのうち③及び④は、②(濫用行為)が認定されれば通常肯定されるものである。

① 自己の取引上の地位が相手方に優越していること(優越的地位)

② 独占禁止法第2条9項5号に定める行為(濫用行為)を行うこと

③ 濫用行為が(自己の取引上の地位を)利用して行われたこと

④ 正常な商慣習に照らして不当であること

本件審決は、上記の①(優越的地位)に関しても、②(濫用行為)が認定された場合には、それを相手方が受け入れたことが①(優越的地位)の認定において重要な要素になるとした。そのため、優越的地位の濫用の有無に関する認定においては、②(濫用行為)の存否が極めて重要なものとされたのである。

 

この点、優越的地位(①)の存否の認定にあたっては、相手方の取引依存度[1]や取引先変更の可能性等も考慮したうえで判断するものとされている[2]。しかしながら、本件審決の解釈によれば、これらの点が考慮されても、濫用行為(②)が認定される限り、優越的地位(①)が認定される可能性は高いものと言わざるを得ない。

すなわち、例えば取引依存度について、本件審決は、それが4%程度にとどまる場合であったとしても「低くはない」などとして優越的地位の認定との関係において肯定的な評価を行っている[3]。また、取引依存度が1%前後であったとしても、そのことから直ちに優越的地位が否定されることはなく、かえって相手方の各取引先についての取引依存度を基準とした順位が高いことや当該取引先の日本トイザらスに対する売上金額が高額であること等を理由として優越的地位は肯定されているのである[4]。また、取引先変更の可能性に関しても、相手方の主観に依拠した認定がなされており、容易に認定され得るものとなっている[5]。そのため、優越的地位の有無に関する判断においては、これら要素が勘案されても、(濫用行為(②)を相手方が受け入れたことが認定される限り)優越的地位(①)が肯定される可能性は高いと言わざるを得ない。

したがって、本件審決の解釈を前提とすれば、優越的地位の濫用の有無の認定に際して、濫用行為(②)の有無が決定的に重要なものとなるのである。

 

(2) 課徴金額の算定方法について

本件審決は、日本トイザらスに科す課徴金の金額を2億2218万円とした。これは、平成21年改正独禁法の施行日である平成22年1月1日以降から平成23年1月31日までにおける取引先53社からの購入額合計額(約222億1860万円)の1%の金額(2億2218万円)である。

優越的地位の濫用についての課徴金の金額は、法令上、濫用行為が行われた期間(以下「違反行為期間」という。)における相手方との間の売上合計額又は購入合計額の1%に相当する額とされていることから[6]、違反行為期間のとらえ方(解釈)によって課徴金の金額が大きく変わることになる。

この点について、本件審決は、日本トイザらスが、複数の濫用行為を複数の取引先に対して組織的・計画的に行ったものとし、それらの行為は一体的に評価することができるとして、これら濫用行為のうち最初に行われたものがなされた日から、これらの濫用行為がなくなったと認められる日までを違反行為期間とするものとした(ただし、課徴金の算定に当たっては、上記のとおり、優越的地位の濫用を課徴金の対象とした平成21年改正独禁法の施行日である平成22年1月1日からの購入額合計額とされている。)[7]

かかる解釈によれば、複数の事業者に対して優越的地位の濫用を行ったと認定された事業者は、ある相手方との関係では1回の濫用行為しか行っていなかったとしても、違反行為期間全体にかかる当該相手方からの売上額又は購入額の合計額の1%に相当する金額の課徴金を負担することとなる。そのため、本件審決の解釈を前提とした場合には、優越的地位の濫用を原因とした課徴金の金額は、極めて高額なものとなり得る。実際、これまでに下された課徴金納付命令は、かかる考え方に基づいて課徴金の金額を算定していることから、以下のとおり高額な課徴金の納付を命じるものとなっている。

 

【優越的地位の濫用規制に係る課徴金額】

対象事業者 課徴金額
山陽マルナカ 2億2216万円
日本トイザらス 本件課徴金納付命令:3億6908万円

本件審決:2億2218万円

エディオン 40億4796万円
ラルズ 12億8713万円
ダイレックス 12億7416万円

 

3.独占禁止法コンプライアンスの重要性

本件審決の解釈は、少なくとも当面の間、公正取引委員会における運用指針になることが想定される。

上記のごとき高額な課徴金は、事業者にとって大きなリスクとなり得ることから、事業者においては、かかる課徴金を課される事態を招かないためのコンプライアンス体制を構築しておくことが重要である。そして、優越的地位の濫用規制違反の認定において濫用行為の有無が極めて重要な役割を果たしていることからすれば、かかる体制の構築にあたっては、濫用行為と評価される行為がなされることを防ぐための体制を構築することが肝要であり、自らの事業活動において生じ得る濫用行為を洗い出したうえで、それを踏まえたコンプライアンス・マニュアルの策定や関係社員の教育等を行うことが必須である。

[1] 商品又は役務を供給する取引にあっては、事業者(A)の相手方(B)に対する売上高を当該事業者(A)全体の売上高で除して算出したものをいう(公正取引委員会の平成22年11月30日付「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「優越的地位ガイドライン」という。)第2.2(1))。

[2] 本件審決第6.1.(2)(審決書20頁)、優越的地位ガイドライン第2.2

[3] 本件審決第6.1.(4)ク(イ)b(b)及び同(イ)d(審決書55及び56頁)

[4] 本件審決第6.1.(4)イ(イ)b(b)(審決書28頁)

[5] 本件審決第6.1.(4)ア(イ)b(c)(審決書25頁)、同(4)イ(イ)b(c)(審決書28頁)等

[6] 独占禁止法20条の6

[7] 本件審決第6.3.(2)(審決書78及び79頁)

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