民法(債権関係)改正と不動産売買について

2017.8.17

民法(債権関係)改正と不動産売買について

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  • 1. 民法(債権関係)改正 

 

    1. 現行民法は、明治29年(1896年)に制定後、債権関係の規定(契約等)について約120年間殆ど改正されていませんでした。この間、経済取引の複雑高度化、高齢化、情報化社会の進展等社会・経済は大きく変化し、他方で多数の判例や解釈論が実務に定着しました。民法(債権関係)の見直しは、平成21年(2009年)10月から審議され、社会・経済の変化への対応の観点からの改正検討、及び「国民一般に分かりやすい民法」とする観点からの改正検討が行われ、2015年(平成27年)2月10日、「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が決定され、同24日、法制審議会(総会)において承認されました。その後、改正法案は国会に提出され、2017年(平成29年)5月26日に可決、同年6月2日公布(法律第44号)されました。最終的には、2020年(平成32年)ころに施行予定とされています。以下、改正が予定されている民法(債権関係)のうち、不動産売買に関する担保責任について、その概要と実務への影響等について検討します。

 

  • 2. 売買の担保責任について

 

  • (1) 契約責任説の採用
  •  

    1. 改正案は、権利・物の(瑕疵)担保責任の法的性質に関し、法定責任説ではなく契約責任説を採用しました。法定責任説、契約責任説についてはその意義について種々ありますが、大まかにいうと、法定責任説とは、特定物ドグマ=特定物の売買につき性質は契約の内容にならず、したがって、「この物」を引き渡せば完全な履行となるという考え方であり、契約責任説とは、売買契約に基づく売主の義務の違反(債務不履行)による責任と構成する考え方です[1]
      主な改正点等は以下のとおりです。

 

  • (2) 主な改正点等
    1. (i) 目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合[2]

 

  1. (a) 追完請求権

(効果)買主による追完請求権(目的物修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)が明確に規定されました。

(要件)売主の帰責事由は不要ですが、買主に帰責事由がある場合、請求できません。なお、買主に「不相当な負担」を課すものでない場合、売主からの追完内容の変更が可能です。

 

  1. (b) 代金減額請求権[3]

(効果)現行法では他人の権利の一部不移転、数量不足及び一部滅失の場合にのみ規定されていますが、改正法ではこれらの場合に限られません。「不適合の程度に応じて」代金減額請求が可能となります。

(要件)売主の帰責事由は不要ですが、買主に帰責事由がある場合、請求できません。また、相当期間を定めて追完を催告後、追完されず相当期間が経過することが必要ですが、追完不能の場合、明確な追完拒絶があった場合、定期行為における履行遅滞の場合、追完の期待不可能の場合は催告が不要です。

 

  1. (c) 解除権

(要件)売主(債務者)の帰責事由は不要[4]ですが、買主(債権者)に帰責事由がある場合、請求できません。現行法と異なり、売買目的が達成できる場合でも解除可能となります。「隠れた」(買主の善意無過失)を要件とはしていません[5]

催告することが必要ですが、定期行為における履行遅滞の場合、契約目的達成の期待不可能等の場合は催告が不要です。但し、催告期間の経過時に債務の不履行が軽微であるときは行使できません。

 

  1. (d) 損害賠償請求権

(効果)損害は、いわゆる「信頼利益」に限られません。

(要件)売主(債務者)は自己に帰責事由がないことを抗弁として主張できます。

 

  • (ii) 移転した権利が契約の内容に適合しない場合

 

改正法は、(i)とは別に、移転した権利の内容が契約の内容に適合しない場合を規定しますが、この場合も(i)(a)ないし(d)が準用されます。

 

  1.  
    1. (iii) 期間制限について[6]

 

(内容)現行法では他人の権利の一部不移転、数量不足・一部滅失、用益権による制限、隠れた瑕疵の場合にのみ規定されています。改正法では、物の種類・品質に関する契約不適合の場合に限り権利行使の期間制限が規定されています。買主は、契約不適合を「知って」から1年以内に売主に「通知」しなければ権利を行使できません[7](但し、売主が悪意・重過失の場合を除きます。)。

(注意)数量に関する契約不適合、権利移転面での契約不適合の場合は特別の期間制限はありません。これらの場合は、債権の消滅時効に関する一般原則(知った時から5年、行使可能時から10年)によります。

 

  • 3. 留意点等

 

    1. (1) 改正法では、「隠れた」、「瑕疵」は要件ではなくなり、新たな要件(「契約の内容に適合しない」等)の意義が問題となります。契約内容を判断するため契約目的の明記、詳細な契約内容の規定が必要になります。また、信義則上の説明義務違反、付随義務違反に関する判例等[8]の取扱いが変わる可能性があり、判例の動向にも留意が必要です[9]
    2. (2) 民法の改正により、民法と関連する宅建業法、消費者契約法、品確法等関連法令の改正・関係にも注意が必要です。また表明保証責任との関係についても注意が必要です[10]
    3. (3) 代金減額請求については、債務不履行による損害賠償につき免責事由がある場合でも行使できる点に意義があります。また、売主の帰責事由の主張・立証を避け、請求を代金減額に限定し早期解決を図るために利用することも可能です。但し、「不適合の割合に応じて」の意味、減額の計算方法、基準時等について明確ではない点に留意が必要です[11]
    4. (4) 改正前に締結した契約への影響:売買に関しては原則として従前の例によります(附則34条)。但し、契約に記載されていない事項について新法が適用されるのか、また、契約において使用する法律用語(例:「法定利率」等)については、旧法、新法いずれが適用されるか等、問題になり得ます。

 

以 上

 

[1] 契約責任説への転換について、法制審議会民法(債権関係)部会の資料75A・8頁以下は、「移転すべき権利に瑕疵があった場合の規律」、「目的物の性状等に関する売主の責任の在り方については」、「・・・債務不履行の一般原則との関係が明確ではなく、理論的にも法定責任説と契約責任説が対立するなど、規定内容の理解が困難・・・」、「法的責任説の考え方は非常に硬直的であり、工業製品が目的物の中心となっている現代の取引実務に適合しない」、「売主の義務としては、目的物が不特定物か特定物かを問わず、契約の趣旨に適合した目的物を引き渡す義務を負っているとするのが適切」であると述べている。また、潮見佳男「売買・請負の担保責任」(NBL No.1045(2015・3・1)7頁以下では、「売買契約において、・・・売主は・・・契約に適合しない給付であることのリスクを引き受けている-したがって、売主が契約の内容に適合しない給付をしたときには、契約上の債務の不履行となる-と考えるのが契約に基づくリスク分配という点で適切である」と述べている。

[2] 現行法では、数量不足・一部滅失の場合(現565条)、隠れた瑕疵ある場合(現570条)に対応

[3] 現行法では他人の権利の一部不移転、数量不足及び一部滅失の場合にのみ規定

[4] 解除について債務者の帰責事由は要件とはならない。解除制度を、債務者に対する責任追及手段ではなく、債務の履行を得られなかった債権者を契約の拘束力から解放する制度として捉えており、従来の伝統的学説から変わっている。

[5] 過失ある買主の救済を否定することは酷であること、買主の過失は過失相殺で考慮する方が事案の弾力的な解決に資すること、当事者が瑕疵を知っていて締結しても、修補請求による解決が相当な事案もあること等による(部会資料75A・18頁等)。

[6] 期間制限の規定の趣旨は、目的物の引渡後は履行が終了したとの期待が売主に生じることから、このような売主の期待を保護する必要があること、物の瑕疵の有無は目的物の使用や時間経過による劣化等により比較的短期間で判断が困難となることから、短期の期間制限を設けて法律関係を早期に安定化する必要があるとの趣旨である。

[7] 最判平成4年10月20日判タ802号105頁は、「・・・具体的な瑕疵の内容、請求する損害額の算定の根拠を示して、損害賠償請求する旨を表明して、・・・瑕疵担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」と判示し、数量不足の場合を定める民法564条の除斥期間に関する最判平成13・2・22判時1745号85頁は、「買主が売主に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したことを要する」としている。瑕疵の内容や損害賠償を請求する旨の表明等を要するというこの判例と比べて、1年の期間が容易に経過することになっている。なお、商事売買について商法526条に留意が必要。

[8] マンション売買において、防火戸が作動しない状態で引き渡されたことについて、買主が売主に対し損害賠償を請求した事案(最判平成17年9月16日、判タ1192号256頁)。防火扉の電源スイッチが切れ作動しない状態で引き渡された点につき、1審は「瑕疵」を否定し、2審は肯定した。最判(破棄差戻し)は、売主及びその販売代理人である宅建業者に、防火扉の操作方法等について説明すべき(付随義務又は信義則上の)義務を認めた。なお、説明義務について、「ある物の利用に関して必須となるような、例えば使用説明・・・に関しては、物と使用説明が一体をなして性状を形成しているときは、場合によっては、性状が契約不適合といえることもあり得る、・・・それは解釈上の問題が残る」との指摘がある(部会第84回会議議事録18、19頁)。

[9] 青山大樹編著「民法改正の要点と企業法務への影響」中央経済社247頁以下等参照

[10] 潮見佳男「表明保証と債権法改正論」銀行法務21・No.719、20頁以下参照

[11] 部会資料75A・15頁以下参照。代金減額の割合の算定基準時(契約時、履行期、引渡時等)については、引渡時説が有力(国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)50条等参照)

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