牛島 信 × 渡邊 弘志

敵対的買収~常勝である理由
昨今、日本でも事例が増えている敵対的買収。当事務所でも、世間で話題を集めたドン・キホーテによるオリジン東秀に対する敵対的買収、王子製紙による北越製紙に対する敵対的買収、ダヴィンチ・アドバイザーズによるテーオーシーの敵対的買収などの案件を扱ってまいりました。防衛側やホワイトナイト側の代理人として成功を収めました。その理由はどこにあったのか?また敵対的買収という仕事の醍醐味とは?牛島信と渡邉弘志が語り合いました。

敵対的買収で守られるべきものとは

<< 渡邊 >>
敵対的買収で守られるべきものの一つが株式の価値であり株主であることは間違いありません。しかしながら、株主以外のステークホルダーの利益も守られるべきかどうかという点については、いろいろな考え方があるようです。ステークホルダーとは、従業員や取引先、あるいはその会社の商品を買っているユーザー、また企業の立地する地域社会等、つまり企業を取り巻く利害関係人のことですが、牛島先生は、敵対的買収で守られるべきものについてどのように考えられていますか。
<< 牛島 >>
それについて答えるには、先ずその前に、敵対的買収の局面において、弁護士としてどのように仕事をするかのということを明らかにしておきたいと思います。弁護士は引き受けた仕事を、一生懸命きちんとすることが本分であり、それが法の支配のためになることなのだと考えています。敵対的買収についても防御だけが仕事というわけではありません。
そこで、先ほどの渡邉先生の質問である敵対的買収で守られるべきものは何か、に対して答えましょう。この議論の根本は「会社は何のためにあるのか」ということです。私は「会社は世の中の人がより幸せに暮らすためにある」と考えています。世の中の人が、働いて生活の糧を得ることで幸せになる。そのために会社がある。株主がお金を儲けるためだけにあるものではないのです。世の中の人が幸せになるのなら、敵対的買収によって経営者が追い出されないように守ることも間違いではありません。
一方、会社は、株主が経営者を選ぶことによって成り立っているシステムであることも忘れてはならない。そのシステムの最もドラスティックな現われが、敵対的買収です。しかし、会社を単に解体して、従業員も仕事も放り出してまで、株主として儲けようとすることが許されるべきだとは思わない。その間で、敵対的買収にもいろいろなバリエーションがあるのだろうと思います。
<< 渡邊 >>
会社法上の建前としては、守られるべきものは株主ということになるのだと思います。しかし、ある株主が株式を100%取得した場合に、本当に何でもやって良いのかという点については疑問に感じることがあります。例えば、ファンドが業績好調な上場会社を解体する目的で株式を100%購入しようとしている場面においては、株主だけではなくて、会社が継続していくことに利害関係のある人たちの利益にも、ある程度配慮する必要があるのではないでしょうか。
<< 牛島 >>
それは社会が会社というものについて、株主の利益だけではなく、ステークホルダー、中でも特に従業員の利益を守りつつ継続してゆく事業体として存在するものであることを必要としているからです。職業をつくりだし、よりよい製品を供給し、よりよいサービスを生む会社を、自分の金儲けために消滅させたり、解体して売り払ったりすることを許していいのかというのが出発点なんです。
 だからといって、怠惰な経営者を会社から排除するシステムがなくて良いというわけではありません。我々弁護士は、防御する側に立つのなら、現経営陣が経営を続けたほうがいいという理由をいろいろ考えて、裁判所でより説得力のある議論が展開できるよう布石を打っていかなければならない。他方、敵対的買収をする側に立つのであれば、その敵対的買収が人びとのためなり、世の中のためにもなるという理由を、いろいろ考えてあらかじめ手段を講じておく。実際にドン・キホーテがオリジン東秀に対して敵対的買収を仕掛けたとき、渡邉先生はホワイトナイトであるイオン側の代理人を務めました。どんなところに難しさ、やりがいを感じましたか。

ドン・キホーテのオリジン東秀に対する敵対的買収

<< 渡邊 >>
この事案は守る側と攻める側の双方が東証一部上場企業という、日本では初めてのケースでした。ルールおよび経験のない中で、どういうことができて、どういうことができないのか、研究は尽くしたつもりでいても実践していく過程に出現する難しさとそれを克服してゆく過程にやりがいを感じました。また、この事件を通して、私たちがルールとしておかしい点を広く世間に指摘したことで、結果的に法律改正に繋がった点も印象に残っています。
<< 牛島 >>
具体的にはどういうところに法律の穴があったのでしょう。
<< 渡邊 >>
この事案は、ドン・キホーテらがオリジン東秀の筆頭株主である創業者一族らから約23. 62%の株を買ったことに端を発します。ドン・キホーテはオリジン東秀との間で提携を模索していたのですが、なかなかうまくいかない。そういう中で、ドン・キホーテがオリジン東秀に対してTOB(株式公開買付け)を仕掛けたのです。オリジン東秀の経営者、従業員ともそれに反対したところ、イオンがホワイトナイトとして友好的TOBを実施することになりました。私たちはそのイオンの代理人としてこの事案に関わった訳です。市場でもイオンの友好的TOBが成功するムードになり、一旦、ドン・キホーテのTOBは不成立に終わりましたが、その直後もオリジン東秀の株価が全く下がらなかったのです。「これはおかしい」と思った私たちは、ドン・キホーテに質問書を送りました。するとなんと株式市場で「約46. 21%まで買い進んでいる」という回答でした。わずか4営業日程度の間に株式市場で約15.28%も買い進めていたのです。しかしこの事件をきっかけにして法律が改正されました。すなわち、市場内外の取引を組み合わせた一連の取得行為により、所有割合が3分の1を超える場合は、TOBが強制されること、また買い付け者が競合している場合で、既に3分の1を所有している者がさらに5%を超える買い付けを行う場合は、TOBを行わなければならないことになりました。

王子製紙の北越製紙に対する敵対的買収

<< 牛島 >>
渡邉先生は王子製紙と北越製紙の攻防のときも、北越製紙の側で活躍していますが、この事案では、どういうところが成功のポイントだったのでしょうか。
<< 渡邊 >>
世間で言われているように、王子製紙が、三菱商事の第三者割当増資に対して差止めを申立てなかったところがポイントだったとは思います。しかし、より詳しく言えば、王子製紙が差止めの申立てをしなかったのには、できないというそれなりの理由があり、その見えていないところに真のポイントがあったのだと思っています。
<< 牛島 >>
私にとってもこれは印象深い事案でしたね。北越製紙の経営陣は買収合戦に負けると、全員会社を去らなければならない。しかし、全員が一致団結して、なんとかして北越製紙の独立した経営を守りたいと言って頑張りぬいたのです。王子製紙の経営者もそれなりの覚悟を持ってはいたのでしょうが、王子製紙の経営者は失敗したところで会社を辞めるわけではありません。つまり、一方は失敗したら会社を去る、もう一方は失敗しても「残念だった」で終わるという構図の事案でした。
 当事務所は買収の前から北越製紙のお手伝いをしており、いろいろな布石を打つよう助言していました。それが生きたからこそ、王子製紙は第三者割当増資についての仮処分を諦めざるを得なかったのかなと思っています。この敵対的買収は成功すべきだというマスコミ論調の逆風の中で、私たちがお手伝いし、撃退できたという意味では、やりがいもありましたね。
<< 渡邊 >>
同感です。王子製紙は製紙業界トップであるのに対し、北越製紙は製紙業界5位の会社でしたが、経営効率という点で大変すばらしい会社でした。北越製紙の経営者も従業員も、王子製紙に比べて、自分たちの会社は大変すばらしいと考えており、労使も一体だったのです。また北越製紙は新潟をはじめとする地元を大事にしており、地元の関係者も北越製紙が王子製紙になることを望みませんでした。防衛が成功を収めた背景には「北越製紙が王子製紙の傘下になっては困る」という北越製紙側のステークホルダーの自主的な動きや流れもありました。この事案では、冒頭で議論した「守るべきもの」について本当に考えさせられました。
<< 牛島 >>
敵対的買収は会社同士のけんかです。けんかは、原理原則だけでは勝てません。法の下にある会社同士のけんかで勝つために、法律が何を許して、何を許していないのかが分からないと、作戦を立てることもできません。そこに法律家の出番があるわけです。法律家が全体の状況を把握し、トップと密接に連携して作戦を進める。敵対的買収における弁護士の役割は、非常に大きいと思います。そのほかにも渡邉先生は敵対的買収で立て続けに成功していますね。
<< 渡邊 >>
テーオーシーがダヴィンチ・アドバイザーズに買収を仕掛けられた事案も担当しました。この事案では、敵対的買収をかけられる直前にMBO(経営陣による買収)を実施して失敗していたという点が非常に難しかったですね。
 また、クオンツとオープンループの事案も担当しました。このときはクオンツの代理人として、オープンループの新株予約権の発行差止めに成功しました。そのほかにもいろいろ担当しています。

敵対的買収という仕事のやりがい

<< 牛島 >>
弁護士としての仕事の中でも、特に敵対的買収のやりがいとはなんでしょう。

<< 渡邊 >>
敵対的買収はあらゆる法律分野が一気に問題になります。いろいろな法律について短い時間で事案にあわせて考えなければならず、しかも様々な利害関係人がいます。防衛サイドも買収サイドも本気になっている中で、ベストのアドバイスや判断をしなければなりません。大変つらい仕事ですが、そこにやりがいがあると考えています。
<< 牛島 >>
同じですね。会社は法律が創り出したものです。会社を経営している人間から法律にしたがって会社を取り上げる、交代させることが敵対的買収です。したがって法律家は、会社を取り巻くあらゆる法律を前もって頭に入れておかなければ、直ちに動くなどということはできません。普段の勉強が試される場でもあり、判断力、瞬時の判断を要求される場ともなる。しかも一定の時間内に答えを次々と出していかなければなりません。長い時間をかけて徹底的に戦う訴訟も面白いですが、敵対的買収には次々と変化していく状況に応じてその場その場の判断をしていく面白さがある。例えるなら、舞台と映画の違いと同じようなものかもしれません。映画はいろんなシーンを別々に撮って継ぎ合わせますよね。舞台は頭から最後までを一気に通して上演する。そのため舞台はやり直しが利かない。そういう意味では舞台で演じる面白さに通じるのかなと想像しますね。
<< 渡邊 >>
そうですね。舞台はお客様の反応が直に感じられるといいます。敵対的買収はこの点が似ています。法律的な手法の一つ一つが、市場から、従業員から、取引先から、あるいは相手側から、さらには世間からどう見えているのかが、それこそリアルタイムで伝わってきます。そこがプレッシャーでもあり面白いところでしょう。
<< 牛島 >>
最後に、私は、私たちが担当しなければ、イオンも北越製紙もテーオーシーも同じ結果が得られたとは思っていません。私たちが、依頼者が法律を通して実現したいと思うすべてをできるだけ実現したいという意欲に燃えているから、そういう結果を残してきたんだと思います。
渡邉先生はどう思いますか。
<< 渡邊 >>
そうですね。私も、当事務所が、依頼者のためにできる限りのことをする、ということを徹底しているからこそ、成功を収められてきたのだと思います。

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