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2024.08.30

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2024年7月・8月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法・民事手続法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. 租税法

 裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2024年7月・8月)。

 下記1(1)(最一判令和6年7月8日)は、テレビ宮崎の元代表取締役が、同人の退職慰労金の額を大幅に減額した取締役会決議には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとして、退職慰労金の減額分など約2億円の損害賠償等を求めた事案です。最高裁は、取締役会に広い裁量権を認め、原判決を破棄し、元代表取締役の請求を棄却しました。

 下記2(1)(最一判令和6年7月11日)は、旧統一教会の元信者の遺族が、元信者が行った献金について損害賠償等を求めた事案です。最高裁は、献金の返還請求等を一切行わない旨の不起訴合意は、元信者に一方的に大きな不利益を与えるものであり公序良俗に反し無効とする初めての判断を下し、信者らによる献金勧誘行為の違法性について審理するため、事件を東京高裁に差し戻しました。

 下記4(1)(札幌地判令和6年2月27日)は、目元用美容クリーム(アイクリーム)の通信販売業者X社が、同種商品の通信販売業者Y1社及び同社から委託を受けてウェブサイトを制作したY2社に対し、ウェブサイトにおけるランキング表示の広告が不正競争防止法所定の品質誤認表示に、比較広告が信用毀損行為にそれぞれ当たると主張し、1億円の損害賠償等を求めた事案です。札幌地裁は、X社の請求を一部認め、Y1社及びY2社に連帯して36万円の損害賠償の支払等を命じました。本判決では、商品の比較広告が不正競争防止法所定の信用毀損行為に当たることを否定しつつ、民法上の一般不法行為に当たることを肯定しており、知的財産権侵害行為に該当しない場合は一般不法行為にも該当しないとする従来の判例の流れとは異なる判断を示したものとして注目されます。

 下記4(2)(東京地判令和6年2月26日)は、全国展開する回転寿司チェーンを経営するE社の親会社であるD社の本部長等であった者が、同じく全国展開する回転寿司チェーンを経営するA社に転職し、E社の商品の原価等、食材の仕入れ先及び仕入価格等の情報(「本件各データ」)をA社社員に開示した行為につき、不正競争防止法義務違反に問われた事案です。東京地裁は、本件各データがE社の営業秘密に該当すると認め、A社に罰金3000万円の有罪判決を言い渡すなどしました。本件では、営業秘密該当性の判断において争われることの多い秘密管理性の要件について、3万名を超える全従業員のうち、本件各データにアクセス可能であった従業員が約220名、パスワードを認知していた従業員が約37名であったという具体的事情を重視してこれを認めたことが注目されます。

1.商事法

(1) 最一判令和6年7月8日(裁判所ウェブサイト)

退任取締役の退職慰労金について株主総会決議による委任を受けた取締役会がした、内規の定める基準額から大幅に減額した額を支給する旨の決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえないとされた事例

(2) 東京高判令和4年12月8日(判例タイムズ1521号131頁)

商人間の売買事案において、売主が目的物の引渡しに際し当該目的物に瑕疵が存在するのを知らなかったことにつき重過失がある場合は商法526条3項が規定する売主悪意の場合と同視できるとの解釈を採った上、当該事案の事実関係の下では売主に重過失があるとして損害賠償責任を認めた事例

(3) 大阪高判令和4年10月28日(判例時報2594号81頁)

高等学校が生徒募集を停止して廃校したことにつき、提携先の事業者に対して、学校設置会社は債務不履行責任に基づき、同会社代表取締役は会社法429条1項に基づき、各損害賠償責任を負うとした原判決について、控訴審において、学校設置会社の親会社及びその代表取締役の損害賠償責任を付加して認めた事例

(4) 東京高判令和3年9月29日(金融・商事判例1695号38頁)

訴訟手続によって株主総会開催を会社に義務付けることの可否(否定)

2. 民事法・民事手続法

(1) 最一判令和6年7月11日(裁判所ウェブサイト)〔旧統一教会高額献金訴訟〕

1 宗教法人とその信者との間において締結された不起訴の合意が公序良俗に反し無効であるとされた事例
2 宗教法人の信者らによる献金の勧誘が不法行為法上違法であるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例

(2) 東京高判令和6年4月11日(金融・商事判例1696号9頁)

控訴審において、ファクタリング業者である被控訴人らには債権譲渡の対象となった債権に譲渡禁止特約が付されていることを知らなかったことについて重大な過失があると判断し、被控訴人らには重大な過失がないと判断した原判決を取り消した事例

(3) 東京地判令和6年2月26日(金融・商事判例1696号42頁)

ビットコインの交換取引所を運営していた株式会社を再生債務者とする民事再生手続において再生債権者である原告の再生債権の一部のみを認めた再生裁判所の査定決定が、再生債権査定異議請求訴訟において認可された事例

(4) 東京地判令和5年10月16日(判例タイムズ1521号188頁)

国会議員への名誉毀損に該当するSNSの投稿について被告会社の業務として行われたものと認定された事例

3. 労働法

(1) 大阪地判令和6年3月27日(労働判例1310号6頁)〔社会医療法人警和会事件〕

事業譲渡時の年休消化における不法行為の成否等

(2) 大分地判令和6年3月8日(WEB労政時報4082号10頁)〔朝日ソーラー事件〕

スマートフォンのタイムラインの記録は関係資料や証言等とも整合し信用性があり、当該記録を基に始業・終業時刻を認定するのが相当

(3) 東京地判令和5年12月7日(WEB労政時報4081号12頁)〔TCL JAPAN ELECTRONICS事件〕

休職事由となった適応障害の発症には業務起因性が認められ、労基法19条1項類推適用により休職期間満了に伴う自然退職扱いは認められない

4. 知的財産法

(1) 札幌地判令和6年2月27日(金融・商事判例1696号26頁)

1 商品広告におけるランキング表示が、不正競争防止法2条1項20号所定の品質誤認表示に当たるとされた事例
2 商品の比較広告が、不正競争防止法2条1項21号所定の信用毀損行為には当たらないが、民法上の一般不法行為に当たるとして、損害賠償責任が認められた事例

(2) 東京地判令和6年2月26日(金融・商事判例1695号44頁、裁判所ウェブサイト)

1 回転寿司チェーンを経営する会社が提供する商品の原価等の情報ならびに食材の仕入先および仕入価格等の情報に係るデータが、不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当するとされた事例
2 転職した役員が、元の会社の営業情報を転職先の会社の部長に開示し、これを取得した部長がその上司および部下にさらに開示したことが、営業秘密の不正開示に当たるとされた事例

5. 租税法

(1) 最一判令和6年7月18日(裁判所ウェブサイト)

租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のもの)39条の117第8項5号括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」とは、関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保する保険をいう

(2) 最一判令和6年7月4日(裁判所ウェブサイト)

労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和2年法律第14号による改正前のもの)12条3項所定の事業の事業主は、当該事業についてされた業務災害に関する保険給付の支給決定の取消訴訟の原告適格を有しない

(3) 大阪地判令和6年3月13日(金融・商事判例1694号18頁)

納税者が同族会社から受領した不動産の賃貸料収入について同族会社の行為計算否認に関する所得税法157条1項の適用が否定された事例

以 上

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