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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. No. 1表示に関する近時の行政処分例
3. No. 1表示に関する実態調査
4. No. 1表示に関する景品表示法上の考え方
(1) No. 1表示が合理的な根拠に基づくと認められるための要件
(2) ①比較する商品等の選定
(3) ②調査対象者の選定
(4) ③調査方法
5. 高評価%表示に関する景品表示法上の考え方
6. 事業者(広告主)が講ずべき管理上の措置
7. おわりに
2024年(令和6年)9月26日、消費者庁は、「顧客満足度 No.1」などのいわゆるNo.1表示等に関して行った実態調査の結果に基づき、No. 1表示等に関する景品表示法上の考え方を整理した「No. 1表示に関する実態調査報告書」(以下「本報告書」といいます。)を取りまとめ、これを公表しました。
以下、本報告書の概要及び不当なNo.1表示等を防止するための留意点について説明します。
近時、事業者が行う広告等において、「顧客満足度 No.1」などの表示により、第三者の主観的評価を指標として商品等の内容の優良性又は取引条件の有利性を強調する、いわゆるNo.1表示が多く見られるようになっています。
しかし、このようなNo. 1表示が、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、景品表示法上不当表示として問題となるところ、近時、かかるNo. 1表示に関する措置命令が増加しています。
令和5年度に消費者庁がNo. 1表示について景品表示法違反を理由として措置命令を行った事件は、合計13件に上ります(下記表1参照)。そのうち、2024年(令和6年)2月末から同年3月上旬の短期間に、集中的に11件の措置命令が行わたことが注目されます(※1)。
No. | 事件名 | 措置命令 日付 | 対象商品・サービス |
① | 株式会社バウムクーヘンに対する件 | R5.6.14 | ペット用サプリメント |
② | 株式会社ハハハラボに対する件 | R5.12.7 | 機能性表示食品 |
③ | 株式会社新日本エネックスに対する件 | R6.2.27 | 太陽光発電システム機器等及びそれらの導入に伴う施工 |
④ | 株式会社安心頼ホームに対する件 | R6.2.27 | 太陽光発電システム機器等及びそれらの導入に伴う施工 |
⑤ | エクスコムグローバル株式会社に対する件 | R6.2.28 | モバイルルーターのレンタルサービス |
⑥ | フロンティアジャパン株式会社に対する件 | R6.2.29 | 太陽光発電システム機器及びその導入に伴う施工 |
⑦ | 飯田グループホールディングス株式会社に対する件 | R6.2.29 | 注文住宅の建築請負 |
⑧ | 住宅情報館株式会社に対する件 | R6.2.29 | 注文住宅の建築請負 |
⑨ | 一建設株式会社に対する件 | R6.2.29 | 注文住宅の建築請負 |
⑩ | 株式会社飯田産業に対する件 | R6.2.29 | 注文住宅の建築請負 |
⑪ | 株式会社アーネストワンに対する件 | R6.2.29 | 注文住宅の建築請負 |
⑫ | 株式会社エスイーライフに対する件 | R6.3.5 | 家庭用蓄電池及びその導入に伴う施工 |
⑬ | 株式会社SCエージェントに対する件 | R6.3.6 | 蓄電池及びその導入に伴う施工 |
いずれの事案も、調査対象の商品・サービスやこれと比較する競合商品等のウェブサイトを閲覧させ、閲覧した際の印象(イメージ)に基づき、「顧客満足度が高いと思うものを選んでください。」等の質問に回答させる方法によるイメージ調査を根拠に、No. 1表示がされた点に特徴があります。
※1 No. 1表示に関する実態調査報告書2頁脚注1
このように、顧客満足度などの第三者の主観的評価を指標とするNo. 1表示は、売上額等の客観的指標ではないだけに、表示内容に見合った調査が行われず、恣意的・安易な調査に基づくものである可能性があります。
そこで、消費者庁は、景品表示法の目的である一般消費者による自主的かつ合理的な商品・役務の選択(景品表示法1条)を保護する観点から、第三者の主観的評価を指標としているNo. 1表示を中心に実態調査を行い、No. 1表示に関する景品表示法上の考え方を示すこととし、2024年(令和6年)3月から同年9月までの期間、(1) 広告等のサンプリング調査、(2) 消費者に対するアンケート調査、(3) 広告主に対するヒアリング調査、(4) 大手調査会社及び事業者団体に対するヒアリング調査を行いました。
かかる調査の過程で、例えば「医師の○%が推奨しています。」等と表示された、第三者の主観的評価を指標とする「高評価%表示」も数多く見られたことから、かかる表示も調査の対象に含まれました。
上記調査結果に基づき、消費者庁は、「No. 1表示」及び「高評価%表示」(以下、総称して「No. 1表示等」といいます。)に関する景品表示法上の考え方を整理し、本報告書を取りまとめました。
以下では、本報告書において示されたNo. 1表示等に関する景品表示法上の考え方について説明します。
No.1表示は、これが合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際のもの又は競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認され、不当表示として景品表示法上問題となります。
一般論として、No. 1表示が「合理的な根拠」に基づくと認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があります(※2)。
(1) No.1 表示の根拠とされる調査が、関連する学術界若しくは産業界において一般的に認められた方法若しくは関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること、又は、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること (2) 表示内容が(1)の調査結果と適切に対応していること |
この点、第三者の主観的評価によるNo. 1表示を行う場合についていえば、第三者の主観的評価を調査するために実施されるアンケート調査やヒアリング調査等の結果が「合理的な根拠」に基づくと認められるためには、少なくとも次の4つの要件を満たしていることが必要となります(※3)。
① 比較する商品等が適切に選定されていること ② 調査対象者が適切に選定されていること ③ 調査が公平な方法で実施されていること ④ 表示内容と調査結果が適切に対応していること |
上記表2の(1)に対応するのが、上記表3の①から③の要件となります。以下、これら①から③の要件の具体的な留意点について、さらに敷衍して説明します。
※2 No. 1表示に関する実態調査報告書17頁脚注2
※3 No. 1表示に関する実態調査報告書17頁
No.1表示は、競争事業者との比較において、自らの供給する商品等が第1位(No.1)であることを示す表示です。したがって、No.1表示の裏付けとなる調査が、合理的な根拠というためには、少なくとも比較対象となるべき同種又は類似の商品等を適切に選定した上で、これらと比較した場合の順位を調査する必要があります。
これに対し、例えば、以下のような調査に基づいてNo.1表示を行っている場合、合理的な根拠に基づいているとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがあります(※4)。
① 「○○サービス 満足度 No.1」等と表示する場合において、○○に属する同種商品等のうち市場における主要なものの一部又は全部を比較対象に含めずに、調査を行っている場合 ② インターネット検索により、単に検索結果で上位表示された同種商品等を比較対象として選定しているだけで、市場における主要な同種商品等の一部又は全部を比較対象に含めないまま、調査を行っている場合 |
※4 No. 1表示に関する実態調査報告書18頁
主観的評価によるNo. 1表示を行う場合、調査者による恣意性や調査対象者のバイアスが働きやすいと考えられるため、調査の客観性が担保されるよう特に留意する必要があります。
具体的には、少なくとも調査対象者は無作為に抽出された者である必要があり、以下のような調査に基づいてNo.1表示を行っている場合、調査者による恣意性が排除されていないため、合理的な根拠に基づいているとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがあります。
① 自社の商品等を継続的に購入している顧客だけを調査対象者に選定する場合 ② 調査対象者として自社の社員や関係者を選定する場合 |
また、主観的評価によるNo.1表示の中には、表示内容全体から見たときに、その商品を実際に利用したことがある者を対象として調査をした結果、第1位であったかのように示す表示となっているものがあります。
例えば、「A商品 顧客満足度No. 1」という表示がされた場合、A商品を実際に利用したことがある者でなければ、A商品に満足したかどうかを適切に判断することはできないと考えられるため、かかる表示は、特段の事情がない限り、実際にA商品を利用したことがある者を対象に調査をした結果を表示したものと考えられます。
したがって、このような表示をしていながら、A商品を実際に利用したことがない者を調査対象者としたり、利用経験の有無を確認することなく調査対象者を選定している場合は、当該表示は合理的な根拠に基づいているとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがあります(※5)。
※5 No. 1表示に関する実態調査報告書18頁~19頁
No.1表示の裏付けとなる調査を行う際、調査内容の客観性が担保されるよう、調査方法についても、調査者による恣意性や、調査対象者のバイアスを排除し、公平な調査が行われるよう留意する必要があるとされています。例えば、以下のような場合には、No.1表示が合理的な根拠に基づいているとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがあります(※6)。
① 自社に有利になるよう回答を誘導する場合(例えば、複数の商品等の中から「おすすめしたい」商品等を選択して回答させる場合に、自社の商品等を、選択肢の最上位に固定する等して、選択されやすくする場合を含む。) ② 自社の商品等が1位になるまで調査を繰り返している、1位になったタイミングで調査を終了するなど、結論ありきの調査が行われている場合 |
※6 No. 1表示に関する実態調査報告書21頁
「医師の○%が推奨しています。」などといった高評価%表示についても、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、不当表示として景品表示法上問題となります。
この点、高評価%表示は、必ずしも同種商品等との比較を前提とするものではありませんが、第三者の主観的評価を調査し、これを根拠とする点では、上述した主観的評価によるNo. 1表示の場合と同様であるため、合理的な根拠についての考え方も、上述のNo. 1表示について述べたところと基本的に共通します。
一方で、高評価%表示の中には、例えば「医師の90%が推奨する」などといった、一定の有資格者や、専門家の主観的評価を訴求するものが数多く存在します。かかる表示を見た一般消費者は、調査対象者である医師が、対象商品の効果効能等に関する客観的なデータを踏まえ、専門的な知見に基づく判断として「推奨」していることを示す表示と考えるため、一般消費者に与える影響も大きいと考えられます。
したがって、「医師の90%が推奨する」などといった表示を行いながら、実際に行われた調査が、例えば、次のようなものであった場合には、当該表示との関係で合理的な根拠があるとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがあります(※7)。
① 調査回答者が医師かどうかを自己申告により確認するだけで、医師であることを客観的に担保できていない場合 ② 調査対象者である医師の専門分野(専門の診療科など)が、対象商品等を評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない場合 ③ 調査対象者である医師が、回答に際し、調査会社等から、対象商品等の品質・内容について合理的な根拠がない情報の提供を受けている場合(例えば、「△△試験の結果、この商品には○○の効果がある」、「この商品は安全性について○○の認定を受けている」等の情報が提供されているが、当該情報が事実と異なっていたり、効果等が客観的に実証されているとはいえない場合) |
※7 No. 1表示に関する実態調査報告書22頁~23頁
以上述べてきたような不当なNo. 1表示等を防止するため、本報告書は、事業者(広告主)が、管理上の措置を適切に講ずることが重要であると指摘しています。
この点、事業者は、不当表示等を未然に防止するため、必要な体制の整備を行うことを義務付けられており(景品表示法22条1項)、事業者が当該義務を履行する際の参考として、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年内閣府告示第276号。以下「管理措置指針」といいます。)が定められています。
管理措置指針においては、次の7項目の実施が求められています。
① 景品表示法の考え方の周知・啓発 ② 法令遵守の方針等の明確化 ③ 表示等に関する情報の確認 ④ 表示等に関する情報の共有 ⑤ 表示等を管理するための担当者等を定めること ⑥ 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること ⑦ 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応 |
上記表8に示す管理上の措置のうち、不当なNo. 1表示等の防止との関係で留意すべき点は、以下のとおりです。
まず、No.1表示等の根拠を確認する際は、単に、第三者機関による調査が実施されていることのみを確認するだけでは不十分であり、調査内容が表示内容と適切に対応しているかどうかなど、自らの責任において当該No.1表示等が合理的な根拠を有しているといえるかを確認する必要があります(上記表8・③)。
事業者(広告主)自らがこのような確認を行うためには、表示等管理担当者を定め、表示の根拠の確認が確実に実施されるよう管理することが必要です(上記表8・⑤)。この表示等管理担当者は、必ずしも専任の担当者又は担当部門である必要はなく、例えば、一般的な法令遵守等の担当者又は担当部門がその業務の一環として表示等の管理を行うことが可能な場合には、それらの担当者又は担当部門を表示等管理担当者に指定することで足りるとされています(管理措置指針第4・5参照)。
次に、広告に携わる役職者に対し、本報告書において示した景品表示法の考え方を周知することも有益です(上記表8・①)。また、業務マニュアル等を策定している事業者においては、本報告書を踏まえた具体的なチェックポイントを記載すること等も有益と考えられます(上記表8・②)。
一般消費者との関係でいえば、表示の根拠となる調査の内容について、一般消費者がその情報を確認することができるようにすることが望ましいとされています。具体的には、表示物に調査方法の概要を表示することや、直接表示することが難しい場合においては、例えばQRコードを記載するなどして容易に確認できるようにすることも一つの方法です(※8)。
※8 No. 1表示に関する実態調査報告書25頁~26頁
本報告書のベースとなったNo. 1表示を巡る実態調査結果によると、事業者(広告主)がNo. 1表示等を行っている目的として、「競合他社がNo.1表示を行っているため」、あるいは、「他社の商品等と比べて自社の商品等が見劣りするのを避けるため」といったものが挙げられています。また、調査会社・コンサルティング会社等が不適切な調査を廉価(1フレーズ10万円~数十万円)で勧誘・提案し、これを行っている実態があり、景品表示法上の適法性を強調して不適切な調査の勧誘を行っている調査会社もみられたとされています。
事業者(広告主)が調査会社からこのような廉価でのNo. 1表示等の勧誘を受けた場合、「競合他社に見劣りしないようにしたい」、「調査会社が適法と言っているから大丈夫」などといった動機で、自ら調査内容を十分確認することなく、意図せずに不当なNo. 1表示等を行ってしまう事態は十分に想定されます。
近時、消費者庁が不当なNo. 1表示等について集中的な行政処分を行ったことや、本報告書の公表により、少なくとも当面は不当なNo. 1表示等を勧誘・提案する調査会社等が減少することが予想されます。
しかしながら、仮に今後企業が広告としてNo. 1表示等を行うことを検討する場合、意図せずに不当なNo. 1表示等を行ってしまうことのないよう、本報告書に示された景品表示法上の考え方に照らして、慎重に検討する必要があると考えられます。
以上