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<目次>
1. はじめに
2. 報告書で検討された下請法の主な改正点
(1)下請法の適用基準の追加(下請法逃れへの対応)
(2)買いたたき規制の見直し
(3)下請代金等の支払条件に関する見直し
(4)物流分野における下請法の適用対象取引の拡大
(5)下請法の執行に係る省庁間の連携の拡大
(6)その他
3. まとめ

1. はじめに

令和6年7月以降、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)の見直しを検討するために設置された「企業取引研究会」(以下「本研究会」といいます。)が計6回にわたり開催され、同年12月25日に同研究会の検討結果をまとめた「企業取引研究会報告書」(以下「報告書」といいます。)が公表されました(※1)。
報告書では、近年の物価上昇を受けて、適切な価格転嫁をサプライチェーン全体で定着させ取引環境を整備するという観点から、下請法を中心として優越的地位の濫用規制の在り方の検討が行われました(※2)。かかる検討を受けて、政府は、2025年通常国会において、下請法改正案の成立を目指すとの報道がなされています。
当職らの扱う案件においても改正法下で下請法違反となる事案は多いことから、実務で留意すべき点は多いと思われます。
以下では、現時点において、報告書で検討されている下請法の主な改正点について紹介します。

※1企業取引研究会「企業取引研究会報告書
※2令和5年度の下請法の運用状況等及び勧告事例等については「公正取引委員会『令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組』(令和6年6月5日)」を参照

2. 報告書で検討された下請法の主な改正点

1下請法の適用基準の追加(下請法逃れへの対応)

ア 現行の下請法と課題

現行の下請法は、下請法の適用対象となる取引の範囲を、下記(ア)及び(イ)のとおり、①事業者の資本金の額と②取引内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの要件から定めています(※3)。
しかしながら、会社法における資本金制度の柔軟化や減資手続が緩和されたことに伴い、事業規模の大きな事業者であっても少額の資本金で会社設立されている事例、減資を行うことで親事業者の対象から外れる事例や逆に取引先に増資を求めることで下請事業者の対象から外す事例など、下請法の適用を意図的に免れる「下請法逃れ」が見られると指摘されています。

※3公正取引委員会HP「下請法の概要」

(ア)物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
親事業者下請事業者
資本金3億円超資本金3億円以下(個人を含む)
資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
(イ)情報成果物作成・役務提供委託を行う場合((ア)の情報成果物・役務提供委託を除く。)
親事業者下請事業者
資本金5千万円超資本金5千万円以下(個人を含む)
資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下(個人を含む)

イ 改正案

かかる状況を踏まえて本研究会では、下請法が対象とする事業者の要件設定について検討が行われました。
改正案では、恣意的な下請法の脱法行為を防止するために、上記(ア)及び(イ)の事業者の資本金基準と取引内容基準に加えて、「従業員数」を下請法の対象となる事業者の範囲を画するための基準として用いることが検討されています。
具体的には、製造委託等の場合には従業員数300人、役務提供委託等の場合には従業員数100人を基準とすることが検討されています。
かかる改正により、大幅に下請法の適用のある取引が増加することになります。

2買いたたき規制の見直し

ア 現行の下請法と課題

現行の下請法第4条第1項第5号は、親事業者が「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。」を「買いたたき」として禁止しています。
もっとも、近年の労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇局面や生産量が減少する場合において、単価等の見直しをせずに下請代金を据え置く行為は、それだけでは直ちに下請代金が引き下げられる場合にあたらないこともあるため、「買いたたき」の要件に当たらない場合もあり、下請事業者の経営を圧迫しているとの指摘がなされていました。

イ 改正案

かかる状況を踏まえ、改正案では、親事業者と下請事業者との間で実行的な価格交渉がなされることを確保するという観点から、下請法第4条第1項第5号の「買いたたき」規制とは別途、新たな規制対象の行為類型として、例えば、下請事業者の給付に関する費用の変動等が生じた場合において、下請事業者からの価格協議の申し出に応じないなど、親事業者が一方的に下請代金を決定して下請事業者の利益を不当に害する行為を下請法の規制対象とすることが検討されています。

なお、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に向けた取組みを行う中で、取引先に対して、製造過程における各排出の削減を要請したり、使用部品等を仕様として設定するなどの取組の実施を要請することが、事業者間の公正かつ自由な競争を制限し、独占禁止法上問題となる可能性もあることにも留意が必要です(※4)。

※4以上について、猿倉健司著「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」(第一法規株式会社、2024年)、同「カーボンニュートラル・SDGsへの取り組みに関する独占禁止法上ガイドラインのポイント(2024年4月改定版)」(牛島総合法律事務所ニューズレター、2024年)もご参照。

3)下請代金等の支払条件に関する見直し

ア 現行の下請法と課題

現行の下請法の下では、下請代金は手形等(手形、ファクタリング等の一括決済方式又は電子記録債権)により支払うことが認められています。
しかし、政府は令和3年の閣議決定(※5)において約束手形の利用廃止を目標に掲げていることに加えて、電子記録債権や一括決済方式により下請代金の支払をする場合、下請代金の全額を現金で下請事業者が受領するまでの期間が下請事業者の給付の受領日から起算して60日を超えることが多いという問題点が指摘されています(※6)。

※5令和3年6月18日付「成長戦略実行計画」26頁
※6下請法第2条の2第1項は、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、下請代金の支払期日を定められなければならないと規定しています。

イ 改正案

かかる状況を踏まえ、改正案では、下請代金の支払条件等の見直しが検討されています。
具体的には、下請代金の支払いについて、①支払手段として紙の有価証券である手形は認めないとすること、②金銭以外の支払手段(電子債権、ファクタリング等)は、支払期日までに下請代金の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めないとすること、が検討されています。

4)物流分野における下請法の適用対象取引の拡大

ア 現行の下請法と課題

平成15年に行われた下請法改正では、下請法の対象取引として役務提供委託(下請法第2条第4項)が追加され、これに伴い運送サービス分野でも元請運送事業者と下請運送事業者の間の取引は下請法の対象取引となりました。もっとも、同改正では、発荷主から運送事業者への運送業務の委託は下請法の適用対象とはされず、発荷主と運送事業者の取引は独占禁止法第2条第9項に基づく「物流特殊指定」(※7)として規制対象となっているものの、買いたたき等の件数は依然として高止まりしている状況にあります。さらに、近年では、発荷主と運送事業者間において、下請代金の買いたたきや、契約では定められていない荷役を無償で行うことの強制、長時間の荷待ちを余儀なくされる等の問題点があることが指摘されています。

※7「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(平成16年3月8日公正取引委員会告示第1号)

イ 改正案

かかる状況を踏まえて、改正案では、発荷主と着荷主との間の製造委託や販売契約等において、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引の類型を新たに下請法の対象取引とすることが検討されています。

5)下請法の執行に係る省庁間の連携の拡大

ア 現行の下請法と課題

下請法違反に該当する行為に対しては、同法に基づく勧告権限(第7条)を有する公正取引委員会、公正取引委員会に対して勧告を求める措置請求(第6条)を行う権限を有する中小企業庁のみならず、各業界の取引実態に精通している事業所管省庁とも連携して、厳正に対処していくことが必要となります。
また、下請事業者が親事業者の下請法違反に該当する行為について情報提供を行った場合の報復措置禁止規定(同法第4条第1項第7号)が設けられていますが、各事業所管省庁に対して情報提供を行った者への保護規定は現状設けられていません。

イ 改正案

かかる状況を踏まえ、改正案では、下請法上問題のある行為について事業所管省庁の指導権限を規定することが検討されています。また、下請事業者が下請法違反該当行為を申告しやすい環境を確保するために、報復措置禁止規定(同法第4条第1項第7号)の対象となる申告先として、各事業所管省庁の主務大臣を追加することが検討されています。

6その他

上記(1)ないし(5)以外にも、①「下請」という用語が発注者と受注者が対等な関係ではないことを想起させるため「下請」という用語を改めること、②支払代金が減額された場合に、減額された代金分の支払についても遅延利息の対象とすること、③下請法第3条に基づき交付が義務付けられている書面につき、下請事業者の承諾なくして電磁的方法により提供することができるようにすること、等についても検討されています。

3. まとめ

下請法は、近年の物価上昇等を受けた政府の価格転嫁への取り組み(※8)(※9)を背景として、各種の改正が検討されています。同法の改正が行われた場合、事業者におかれましては対応が必要となります。報告書では、下請法の大まかな改正の方向性が明らかとなりましたが、今後は、改正後の正式な法案につきまして、その動向を注視する必要があります。

※8「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月27日内閣官房・消費者庁・厚生労働省・経済産業省・ 国土交通省・公正取引委員会)
※9「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和5年11月29日内閣官房・公正取引委員会

以 上

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