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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. 経緯等
2. 本調査の手法
3. 本調査の結果の概要
(1) 労務費転嫁交渉指針のフォローアップ結果
(2) 各業種や業種別のサプライチェーンにおけるコスト全般の価格転嫁等の状況
(3) 独禁法Q&Aに係る注意喚起文書の送付
(4) 令和5年度の事業者名公表10名に対するフォローアップ調査の結果
4. 公正取引委員会における今後の取組
公正取引委員会は、2024年12月16日、「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「本調査」といいます。)の結果を公表しました。
2021年12月27日に公表された「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に基づく取引の一環として、公正取引委員会では2022年1月26日に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」を改正するとともに、「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ&A(以下「独禁法Q&A」といいます。)に、以下のいずれの行為も独占禁止法上の優越的地位の濫用(買いたたき)に該当するおそれがあることを明確化しました。
①労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと ②労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと |
その後、公正取引委員会では以下の調査を行い、独禁法Q&Aに該当する行為が認められた発注者に対する注意喚起文書の送付、相当数の取引先に対する協議を経ない取引価格の据置き等が認められた事業者について事業者名を公表するなどしています。
令和4年度 | 「独占禁止法上の『優越的地位の濫用』に関する緊急調査」(以下「令和4年度調査」といいます。) |
令和5年度 | 「独占禁止法上の『優越的地位の濫用』に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「令和5年度調査」といいます。) |
また、令和5年度調査において、原材料価格やエネルギーコストと比べて労務費の転嫁が進んでいない結果となったことを踏まえ、内閣官房と公正取引委員会は2023年11月29日、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(以下「労務費転嫁交渉指針」といいます。)を策定・公表するなどしています。
本調査では、労務費の転嫁円滑化の進捗状況を把握するとともに、独禁法Q&Aに該当する行為が疑われる事案に関する実態等を把握する目的で行われました。
本調査の手法は以下のとおりです。
(1) 令和5年度調査の結果価格転嫁が進んでいないことが判明した業種(21業種)を含む43業種を調査対象業種とし、事業者11万名に対する調査票の発送 (2) 令和5年度調査で注意喚起文書送付の対象となった事業者に対するフォローアップ調査 (3) 上記(1)(2)の結果を踏まえ、独禁法Q&Aに該当する行為や、労務費転嫁交渉指針に沿った取組を行っていないことが疑われた発注者に対する立入調査 (4) 労務費転嫁交渉指針に基づく労務費転嫁円滑化の積極的な取組に関する調査 (5) 令和5年度に事業者名公表(※1)の対象となった10名(以下「事業者名公表10名」といいます。)に対するフォローアップ調査 |
※1 公正取引委員会は、2023年11月8日、「価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名の公表に係る方針について」を公表し、相当数の取引先について協議を経ない取引価格の据置き等が確認された場合は、独禁法43条の規定に基づき、その事業者名を公表する方針としています。令和5年度の事業者名公表は、当該方針に基づき行われたものです。
労務費転嫁交渉指針の公表から約半年後に実施された本調査時点で労務費転嫁交渉指針の認知度は48.8%となっており、労務費の上昇を理由に価格転嫁を要請した場合に取引価格が引き上げられた受注者の割合は、労務費転嫁交渉指針を知っていた者の割合(51.8%)が知らなかった者の割合(38.9%)よりも高い結果となりました。
また、労務費転嫁交渉指針が発注者及び受注者双方に求める行動指針の概要は以下のとおりですが、発注者としての行動指針(②)に関して、全ての受注者と定期的な協議を実施した発注者の割合(23.7%)は少ないことが判明した一方、協議を実施した場合には、発注者の大部分が発注者としての行動指針(③~⑥)に沿った行動を採っていることが判明しました。あわせて、受注者の大部分が受注者としての行動指針(②~④)に沿った行動を採っていること、労務費転嫁円滑化の積極的な取組を行っている発注者・受注者も存在することが判明しました。
【参考:労務費転嫁交渉指針における行動指針の概要】
発注者としての行動指針 | 受注者としての行動指針 | 発注者・受注者共通の行動指針 |
①本社(経営トップ)の関与 ②発注者側からの定期的な協議の実施 ③説明・資料を求める場合は公表資料とすること ④サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと ⑤要請があれば協議のテーブルにつくこと ⑥必要に応じ考え方を提案すること | ①相談窓口の活用 ②根拠資料として公表資料を用いること ③発注者との定期的な価格交渉などを値上げ要請のタイミングとして活用 ④発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示 | ①定期的なコミュニケーション ②交渉記録の作成、発注者・受注者双方での保管 |
公正取引委員会は、本調査において、労務費転嫁交渉指針を知っていたものの、発注者としての行動指針及び発注者・受注者共通の行動指針のうち、一つでも行動指針に沿った行動を採らなかった発注者9,388名に対し、優越的地位の濫用の未然防止及び労務費の転嫁円滑化の観点から、注意喚起文書を送付しています。なお、注意喚起文書の送付件数が多い業種は、情報サービス業、協同組合、総合工事業、機械器具卸売業及び金属製品製造業であったとされております。
後述のとおり、令和7年度においても労務費転嫁交渉指針のフォローアップや労務費の上昇分の価格転嫁の状況等について重点的に調査を実施するとされておりますので、注意喚起文書送付の対象となった発注者においては、今後労務費転嫁交渉指針に照らした取組の強化が必要となります。
受注者が発注者に対して7割以上の商品・サービスについて価格転嫁を要請したと回答した割合は53.6%となり、令和5年度調査から6.8%上昇しました。また、受注者が発注者に対して価格転嫁を要請した商品・サービスのうち7割以上の商品・サービスの価格転嫁が認められた割合は80.7%となり、令和5年度調査から5.8%上昇しました。しかしながら、価格転嫁を要請した割合や取引価格が引き上げられた割合には業種ごとにばらつきがあり、これらの割合が低い業種は以下のとおりとなりました。
価格転嫁を要請した割合が低い業種 | 取引価格が引き上げられた割合が低い業種 |
放送業(12.2%) インターネット附随サービス業(12.8%) 不動産取引業(15.3%) 不動産賃貸業・管理業(21.0%) 映像・音声・文字情報制作業(27.7%) 広告業(28.3%) | 放送業(56.9%) 通信業(64.9%) インターネット附随サービス業(68.4%) 道路貨物運送業(68.5%) 不動産取引業(69.9%) ビルメンテナンス業・警備業(70.2%) 映像・音声・文字情報制作業(70.3%) |
また、道路貨物運送業、映像・音声・文字情報制作業、ビルメンテナンス業・警備業及び放送業については、これらの業種のサプライチェーンにおいて多重委託構造が存在し、かつ、価格転嫁が円滑に進んでいないことがうかがわれるとされています。
他方で、令和5年度調査と比較して、製造業、流通業(卸売業・小売業)及びサービス業の各サプライチェーンの各取引段階において、受注者が発注者に対して価格転嫁を要請した商品・サービスのうち7割以上の価格転嫁が認められた割合が上昇しました。
もっとも、コスト構造に占める労務費割合が高いサービス業において、令和5年度調査では低調であった価格転嫁に改善がみられた一方で、サービス提供業者(元請)や各段階の受注者がその先の取引先受注者からの価格転嫁を受け入れるための原資となる、サービス提供業者(元請)から需要者(事業者)への価格転嫁が十分に進んでいない状況がうかがわれると報告されています
公正取引委員会は、本調査の結果、独禁法Q&Aに該当する行為が認められた発注者6,510名に対して、優越的地位の濫用の未然防止の観点から注意喚起文書を送付しました。なお、注意喚起文書の送付件数が多い業種は、情報サービス業、協同組合、総合工事業、機械器具卸売業、建築材料、鉱物・金属材料等卸売業及び金属製品製造業であったとされています。
本調査では、発注者から進んで価格協議の呼び掛けはしないが受注者から価格転嫁の要請があれば必ず協議に応じるとする発注者がみられた一方、独禁法Q&Aや労務費転嫁交渉指針の趣旨に鑑みれば発注者からの定期的な価格協議の呼び掛けを実施すべきであると指摘されており、かかる点は注意喚起文書送付の対象となった発注者などを中心に引き続き取組が求められる事項になると思われます。
事業者名公表10名はいずれも、2024年1月頃以降、経営トップの了承の下で価格転嫁円滑化の取組方針を策定又は改定し、社内体制を整備して受注者に当該取組方針を周知し、文書、メール、面談、説明会等の方法により、価格転嫁の要望があれば協議に応じる旨を呼び掛けており、価格協議の呼び掛けに応じた受注者との協議の結果については、取引価格を据え置いた事例や引き下げた事例はほとんどみられず、価格転嫁の要請額に対して満額又は一部引上げを受け入れていたなどとされています。
他方で、事業者名公表10名の受注者からの声として、①価格転嫁が円滑に進んでいないとの指摘や、②価格協議の呼び掛けがあり、労務費の上昇を示す資料を提出して協議を行ったが、飽くまで現状維持との回答で取引価格が据え置かれているとの指摘も寄せられています。①の指摘に対しては、経営トップから価格協議の担当部門までの事業者全体としての当該取組方針の徹底や、本社等による必要に応じた価格協議の担当部門における取組の進捗状況の把握・管理の実施(ガバナンスの改善)が求められ、②の指摘に対しては、受注者のコストが上昇していることが明らかであるにもかかわらず、協議したことのみをもって合理的な理由なく取引価格を据え置くことは適切ではなく、受注者・発注者の双方がお互い納得するまで協議することが望ましいとされています。これらの指摘は事業者名公表10名の実情に対するものではありますが、同様の問題はそれ以外の事業者においても十分あり得る問題ではないかと考えられます。
公正取引委員会は、本調査の結果等を踏まえ、以下(1)~(6)の取組を行っていくとしています。
(1) 労務費転嫁交渉指針及び独禁法Q&Aの普及・啓発 (2) 独禁法Q&Aに係る注意喚起文書送付の対象となった発注者及び事業者名公表10名への対応 (3) 事業者名の公表に係る方針に基づく個別調査の実施 (4) 労務費転嫁交渉指針及び価格転嫁円滑化に関する調査の継続実施 (5) 優越的地位の濫用行為等に対する厳正な法執行 (6) 適切な価格転嫁のサプライチェーン全体での定着(事業所間省庁との連携等による下請法執行強化) |
特に上記(2)との関係では、令和5年度調査から2年度連続で独禁法Q&Aに係る注意喚起文書送付の対象となった発注者2,357名に対して、個別に独禁法Q&Aの考え方や労務費転嫁交渉指針の内容を説明し、改めて注意を喚起することされ、ただし、そのうち、令和4年度調査から3年度連続で受注者との協議を経ずに取引価格を据え置いていたと回答し、注意喚起文書送付の対象となった発注者63名に対しては、追加で立入調査を実施し、独禁法Q&Aに該当する行為を繰り返し行った理由等について経営トップに確認を求め、その内容を聴取することとされています。
また、上記(4)との関係では、令和7年度においても、労務費転嫁交渉指針のフォローアップや労務費の上昇分の価格転嫁の状況等について重点的に調査を実施することが示唆されております。
したがって、本調査において注意喚起文書送付の対象となった発注者においては、速やかに、注意喚起文書において指摘された事項を中心に改善を行うことが望ましいと考えられます。その際、例えば、事業者名公表10名におけるそれぞれの具体的な取組内容(※2)や、労務費転嫁交渉指針に基づく労務費転嫁円滑化の積極的な取組の概要(※3)は実務上参考になると思われます。
※2 本調査の別紙8に取りまとめられています。
※3 本調査の別紙2に取りまとめられています。
関連記事:特集「2025年 下請法改正等に向けた動向(企業取引研究会報告書を踏まえて)」(2025年1月10日)
以 上