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2025.02.21

借地権譲渡許可の裁判

業務分野

執筆弁護士

<目次>
1. 借地権譲渡許可の裁判とは
2. 借地権譲渡が認められるための要件
(1) 借地権設定者に不利となるおそれがないこと
(2) 借地権の存在または性質について争いがある場合
3. 借地権譲渡の許可がなされる場合の「財産上の給付」(承諾料)
(1) 承諾料の相場
(2) 承諾料の支払

1. 借地権譲渡許可の裁判とは

 土地上に建物を所有する目的で地主から土地の賃借を行うことは、「借地」と呼ばれており、かかる賃借を行った場合の賃借権のことを、法律上、「借地権」という。
 通常、借地人は、地主から借りた土地上に自己所有の建物を建築し、当該建物にて生活を営んだり(居住)、事業を営んだりする(営業)。しかし、特に後者においては、事業上の都合により(たとえば、当該地域からの撤退等)、借地人が借地上に所有する建物を第三者に譲渡しようと考える場合も少なくない。ところが、借地上に所有する建物を第三者に譲渡するためには、必然的に、借地権を譲渡する必要があるところ、借地権の譲渡には通常、地主の承諾を得なければならない(民法第612条)。
 地主が借地権の譲渡を承諾しない場合は、借地人は所有建物を第三者に譲渡できず、建物を活用しないまま借地を続けることに経済合理性もないため、結果、まだ利用できるにもかかわらず建物を解体して土地を地主に返還することになろう。しかし、そのような事態は、経済の活性化を阻むことになる。
 そこで、借地借家法は、一定の要件のもと、地主に代わって裁判所が借地権譲渡の許可を与える制度を設けている。借地人が裁判所に対して、借地権譲渡の許可を求める裁判の申立てを行い、裁判所が審理を行った結果、一定の要件を満たしていると判断する場合には、地主の承諾に代わって借地権の譲渡の許可を与える制度である(借地借家法第19条)。この借地権譲渡許可の裁判手続は、通常の民事訴訟とは異なり、当事者間の権利関係の確定を目的とするものではなく、裁判所が当事者間の法律関係に介入して処理することを目的とする手続であり、非訟手続と呼ばれている。
 審理の結果、裁判所が借地権譲渡の許可を認めれば、借地人は、地主からの承諾を得られなくとも、第三者に対して借地権(及び借地上の建物)を譲渡することができることになる。

2. 借地権譲渡が認められるための要件

(1) 借地権設定者に不利となるおそれがないこと

 借地権譲渡の裁判所による許可が認められるための実質的な要件は、「借地権譲渡を認めても借地権設定者(地主)に不利となるおそれがないこと」である。これは一般的には、借地権を譲り受けようとする第三者(譲受人)の資力をもって判断される。譲受人の資力が、従前の借地人と同じく、当該借地に係る地代を支払うに十分であると判断される場合には、通常は、「借地権設定者に不利となるおそれがない」と認められるものといえる。当事務所が関与した裁判においても、この点が実質的な争点として問題となることはほとんどなかった。もっとも、譲受人が反社会的勢力であったり、風紀上好ましくない営業を行おうとする者であったりする場合には、資力が十分であっても「借地権設定者に不利となるおそれ」があると判断されるといわれている。

(2) 借地権の存在または性質について争いがある場合

 借地権譲渡許可の裁判の申立てがなされた場合において、まれに、地主から、賃貸借契約はすでに終了しており借地権は消滅しているなどの主張がなされ、結果、そもそもの借地権の存在自体が争いになることがある。また、当事務所でも経験があるが、借地権の存在自体には争いがなくとも、当該借地権の性質(例えば、普通借地権か、あるいは定期借地権かなど)に争いが生じることもある。
 このように、借地権の存在について争いがある場合は、借地権譲渡許可の裁判の前提問題として、当該裁判手続の中で、借地権の存在の有無について判断してもらうことが可能である。借地権の性質に争いがある場合も同様である。
 最終的に、裁判所によって借地権自体が存在しないと判断された場合には、当然のことながら、借地権譲渡許可の裁判の申立ては却下されることになる。
 問題は、この借地権譲渡許可の裁判は、前述したとおり、非訟手続と呼ばれる裁判手続であるが、非訟手続における裁判所の最終判断である決定には、通常の民事訴訟における判決とは異なり、「既判力」が認められないという点である。(※)
 したがって、借地権譲渡許可の裁判手続において、借地権の存在や性質(普通借地権なのか定期借地権なのか、など)に争いがあり、当該裁判の裁判所によって借地権の存在や性質について一定の判断がなされても、当事者は、理論上は、後の民事訴訟において、借地権の存在や性質について再度争うことが可能であり、後の裁判を審理する裁判所も、借地権譲渡許可の裁判においてなされた判断とは異なる判断を行うことができることになる。
 このような事態を避けたければ、当事者は、借地権譲渡許可の裁判手続とは別に、借地権の存在や性質(普通借地権か定期借地権か)を確認する内容の民事訴訟(確認訴訟)を提起したうえで、進行中の借地権譲渡許可の裁判手続を裁判所に中断してもらい、確認訴訟における借地権の存在等に関する裁判所の判断(判決)を得たうえで、借地権譲渡許可の裁判手続を再開してもらうという手順を踏む必要がある。確認訴訟における判決中の裁判所の判断には既判力が生じるため、確認訴訟で判断された借地権の存在や借地権の性質について、当事者は別の裁判で争うことはできなくなるからである。
 ※「既判力」とは、民事訴訟において確定した判決に認められる効力であり、前の裁判における確定判決にて裁判所が判断した事柄については、当事者は後の裁判で争うことができず、後の裁判を審理する裁判所も、前の確定判決と異なる判断をすることができないという効力のことである。

3.借地権譲渡の許可がなされる場合の「財産上の給付」(承諾料)

(1) 承諾料の相場

 審理の結果、借地権が存在し、かつその譲渡を認めても地主に不利となるおそれがないと判断された結果、借地権譲渡の許可が認められる場合には、同時に、譲渡許可の条件として、借地人から地主へ「財産上の給付」(いわゆる承諾料)の支払を命じられるのが通常である。
 承諾料の額については、借地権譲渡許可の裁判手続において裁判所によって組成される鑑定委員会(不動産鑑定士や弁護士などの有識者3名で構成される)の意見を踏まえて裁判所が決定することになっているが、その相場は、対象たる借地の借地権価格の10%であると言われている。当事務所でも、昭和46年以降、調べられる範囲で決定例を調べたが、借地権価格が把握できる事例では9割以上の割合で借地権価格の10%前後(8%~13%)が承諾料として支払を命じられていた。
 もっとも、地主が受領している地代が相場水準と同等あるいは相場水準より高い場合(いわゆる「借り得部分」がない場合)は、借地権の価格がゼロあるいは相当低額と評価されることがある。そうすると承諾料もゼロあるいはゼロに近い価格となってしまう。当事務所が賃貸人側で実際に関与した裁判でも、鑑定委員会の意見において借地権価格はゼロと評価された例があった。もっとも、その裁判では、裁判所を説得した結果、裁判所は鑑定委員会の上記意見にもかかわらず、相当額の承諾料の支払を借地人に対して命じた。

(2) 承諾料の支払

 借地権譲渡の裁判所による許可がなされる際に承諾料の支払が条件とされる場合は、「この裁判確定の日から●か月以内に」支払うことを条件として借地権を譲渡することを許可する旨の決定がなされるのが通常である。このように、承諾料を期限内に支払うことが譲渡許可の条件であるため、裁判所が決定で定めた期限内に承諾料の支払がなされないと、裁判所による借地権譲渡の許可は効力を生じないことになる。譲渡許可の決定を得た借地人(譲渡人)は、決定における支払期限を徒過しないよう注意する必要がある。

以上

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