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2025.06.17

全面施行間近!建設業法の令和6年改正のポイント

業務分野

執筆弁護士

<目次>
1. はじめに
2. 労働者の処遇改善に関する改正
(1) 標準労務費の作成・勧告
(2) 労働者の処遇確保を建設業者に努力義務化
(3) 材料費等の額を著しく下回る見積りの提出(建設業者)や見積り変更依頼(注文者)の禁止
(4) 原価割れ契約の禁止の建設業者への導入
3. 資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止
(1) 請負代金の算定方法等を契約書の法定記載事項とする改正
(2) おそれ情報の通知等に関する改正
4. その他の改正(概要)
(1) 働き方改革に関する改正
(2) ICTを活用した生産性向上に関する改正
(3) 改正法の実効性確保(建設Gメンによる監視体制の強化)

1. はじめに

 令和6年6月7日、建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案が第213回国会において成立し(令和6年6月14日公布/法律第49号)、同年9月1日及び12月13日にそれぞれ一部施行され、今年の末まで(公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内)に全面的に施行されることになります。
 本改正は、就業者の減少が続いている建設業の担い手の確保や資材価格の高騰分の適切な価格転嫁を図ること等を背景とするものであり、①労働者の処遇改善、②資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止、③働き方改革と生産性の向上という3つの観点からの改正になります。
 本ニューズレターでは、本改正の内容や改正後の議論の状況の概要を紹介したいと思います。本改正の概要については国土交通省のウェブサイトでも整理されており、参考になります。

2. 労働者の処遇改善に関する改正

(1) 標準労務費の作成・勧告(※令和6年9月1日施行)

 建設業の担い手確保に必要不可欠な技能労働者の処遇改善のため、本改正により、中央建設業審議会において、建設工事の「労務費に関する基準」を作成し、その実施を勧告することができることとされました(建設業法第34条)。かかる改正を受け、令和6年9月10日、国土交通省の中央建設業審議会に「労務費の基準に関するワーキンググループ」が設置され、現在も労務費の基準に関する議論が進められています。(※1)
 直近の令和7年6月3日に実施された第8回のワーキンググループにおいては、「契約段階における『労務費の基準』の運用方針(案)」として、「工事の完成を請け負うという請負契約の労務費の目安として、下請工事の請負の単位となる技能者の職種ごとに、労務単価(円/人日(8時間))×歩掛(人日/単位あたり施工量)の計算式によって、単位施工量あたりの労務費として示す。この際、労務単価については、公共工事設計労務単価を適用するとともに、歩掛については、国交省直轄工事における標準的な施工条件等を前提とした標準値として設定される。」との指摘がなされています。令和7年11月頃に労務費の基準の勧告等がなされることが予定されており、今後の議論の状況にも注視していく必要があります。

(※1)中央建設業審議会:労務費の基準に関するワーキンググループ – 国土交通省

(2) 労働者の処遇確保を建設業者に努力義務化(※令和6年12月13日施行)

 本改正により、建設業者について、その労働者が有する知識、技能その他の能力についての公正な評価に基づく適正な賃金の支払その他の労働者の適切な処遇を確保するための措置を効果的に実施することが努力義務化されています(建設業法第25条の27第2項(新設))。

(3) 材料費等の額を著しく下回る見積りの提出(建設業者)や見積り変更依頼(注文者)の禁止(※未施行/公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内に施行)

 本改正により、建設業者には、材料費等記載見積書(※2)を作成する努力義務が課せられることになります(改正後建設業法第20条第1項)。材料費等記載見積書に記載する材料費等の額については、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものとすることが禁じられています(改正後建設業法第20条第2項)。
 他方で、注文者には、建設工事の請負契約を締結するに際して、当該建設工事に係る材料費等記載見積書の内容を考慮する努力義務が課されています(改正後建設業法第20条第4項)。また、注文者には、材料費等記載見積書を交付した建設業者に対し、その材料費等の額について当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めることが禁じられることになり、これに違反した場合には勧告や公表の対象となります(改正後建設業法第20条第6項~第8項)。

(※2)材料費等(材料費、労務費及び当該建設工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの)、その他当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳、工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数等を記載した建設工事の見積書のことをいいます。

(4) 原価割れ契約の禁止の建設業者への導入(※未施行/公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内に施行)

 本改正前より、注文者には、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約の締結が禁じられていました(建設業法第19条の3)。
 本改正により、建設業者について、自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができること等の正当な理由がある場合を除き、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約の締結が禁じられることになります(改正後建設業法第19条の3第2項(新設))。

3. 資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止

(1) 請負代金の算定方法等を契約書の法定記載事項とする改正(※令和6年12月13日施行)

 民法上、請負契約は諾成契約であり、口頭でも契約の効力を生じることになりますが、建設業法上、工事内容、代金額、工期等の所定の事項を記載した書面を作成することが要求されます(建設業法第19条第1項各号)。
 本改正により、建設業法第19条第1項第8号が改正され、契約書等に「価格等…の変動又は変更に基づく・・・請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め」が規定されることになり、規定内容に従った対応を行うことが契約上の義務となっています。
 この点については、国土交通省のガイドラインにおいて、「請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め」等の内容を契約書に記載しないことはもとより、記載している場合でもその内容が「変更しない」あるいは「変更を認めない」のように、協議を前提としない規定である場合には、建設業法第19条第1項に違反すると指摘されていることには注意が必要です。(※3)

(※3)国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第11版)-元請負人と下請負人の関係に係る留意点 -」(令和6年12月)9頁、「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第7版)」(令和6年12月)13頁

(2) おそれ情報の通知等に関する改正(※令和6年12月13日施行)

 建設業者(受注予定者)は、工期又は請負代金の額に影響を及ぼす、①主要な資機材の供給の不足若しくは遅延又は資機材の価格の高騰、②特定の建設工事の種類における労務の供給の不足又は価格の高騰であって、天災その他不可抗力により生じるものが発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに、注文者に対して、その旨を通知しなければならないものとされています(建設業法第20条の2第2項、建設業法施行規則第13条の14第2項)。
 また、契約締結前に通知した上記①②の事象が契約締結後に顕在化した場合、建設業者は、建設業法第19条第1項第7号又は第8号の定めに従った請負契約の変更についての協議を注文者に対して申し出ることができ(建設業法第20条の2第3項)、この場合、注文者は、当該協議に対して誠実に応じるよう努めなければならないものとされています(建設業法第20条の2第4項)。

4. その他の改正(概要)

(1) 働き方改革に関する改正(※未施行/公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内に施行)

 建設業者について、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約の締結が禁止されることになります(改正後建設業法第19条の5第2項)。

(2) ICTを活用した生産性向上に関する改正(※令和6年12月13日施行)

 建設工事に置くことが求められている主任技術者又は監理技術者について、一定の場合には工事現場毎に専任で置くこととされていますが、本改正により、情報通信技術を活用する等の一定の要件に合致する工事に関して兼任を可能とする制度が新設されています(建設業法第26条第3項等)。
 また、営業所毎に専任で置くことが求められている者(営業所技術者等)に関しても、本改正により、情報通信技術を活用する等の一定の要件に合致する専任工事について、営業所技術者等が当該工事の主任技術者等の職務を兼務できることとされています(建設業法第26条の5)。
 その他、建設業法第25条の28が新設され、同条第3項に基づき「情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工を確保するための基本的な指針」(ICT指針)が示されるなどしています。

(3) 改正法の実効性確保(建設Gメンによる監視体制の強化)(※令和6年9月1日/同年12月13日施行)

 国土交通大臣は、請負契約の適正化及び建設工事に従事する者の適正な処遇の確保を図るため、建設業者に対して、①建設工事の請負契約の締結の状況、②建設業法第20条の2第2項から第4項までの規定による通知又は協議の状況、③建設業法第25条の27第2項に規定する措置の実施の状況等につき必要な調査及びその結果の公表を行うとともに、中央建設業審議会に対し、当該結果を報告するものとされています(建設業法第40条の4)。

本ニューズレターは、掲載時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことにご留意ください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

以 上