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セミナー
事務所概要・アクセス
事務所概要・アクセス
牛島総合法律事務所 Client Alert 2022年6月17日号
<目次>
パートナー 川村 宜志
今年9月1日より、株主総会資料の電子提供制度が施行されます。上場会社は、施行日から6 カ月経過後に開催される株主総会から当該制度が適用されますので、当該制度への対応が求められます。
株主総会資料の電子提供制度とは、定款の定めに基づき、取締役が、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載(電子提供措置)し、株主に対し、当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知した場合には、取締役は、株主に対し、株主総会資料を適法に提供したものとする制度のことです(会社法325条の2~325条の7等)。
会社法には既に、株主総会資料の電磁的方法による提供の制度がありましたが(会社法299条3項及び301条2項)、株主の個別の同意が必要であり、上場会社においては、株主の数が多数に上り、全ての株主から個別の承諾を得ることは困難であることから、ほとんど利用されてきませんでした。これに対して、今回の株主総会資料の電子提供制度は、株主の個別の同意なくして、定款の定めにより、株主総会資料を電子的に提供することも可能にするものです(上場会社については、施行日を効力発生日として定款の定めがあるとみなされます。)。
株主総会資料をインターネット経由で提供することで、今までかかっていた印刷・封入・郵送の時間を短縮することができるため、その分早期に株主に対して情報提供することが可能となり、コーポレートガバナンス・コードの趣旨にも合致することになります(補充原則1-2②)。具体的な電子提供が必要な事項(電子提供措置事項)については、会社法325条の3第1項に規定があります。一例を挙げますと、書面によって議決権行使をすること(議決権行使書面)を認める場合には、①会社法298条1項各号に掲げる事項(株主総会招集通知に記載する事項)並びに②株主総会参考書類及び議決権行使書面に関する情報を電子的に提供する必要があります。ただし、アクセス通知(株主総会の日時・場所・議題、電子提供措置をとっていること、ウェブサイトのアドレス等、必要最低限の内容を記載した書面のことを指します。上場会社が、電子提供措置をとる場合であっても、これらの事項は、書面で通知する必要があります(会社法325条の4))とともに議決権行使書面を株主へ送付する場合には、議決権行使書面に関する電子提供措置は不要となります(会社法325条の3第2項)。
上場会社の皆様が電子提供措置事項を掲載するウェブサイトに特段の制限はなく、二つ以上のウェブサイトに掲載することも問題ありません。むしろ、電子提供措置が、株主総会の日までにサーバーダウンなどにより株主に対して情報提供できなくなった場合には、招集手続に瑕疵があることになるため、慎重を期すべく2つ以上のウェブサイトで電子提供措置を採ることも考えられます。なお、実務上は、自社ホームページのほか、東証ホームページの株主総会資料の公衆縦覧用サイトのアドレスを参照先として指定するのが一般的な運用となる可能性が高いと考えられております。
株主総会資料の電子提供制度については、会社のホームページ等にわざわざアクセスして株主総会参考書類等を閲覧しなければ、議案等の具体的な内容がわからないといったことから、株主が議決権を行使する意欲を失くし、株主の投票率が低下する可能性も否定できません。そのため、上述のアクセス通知において、株主が議決権を行使するために有益な情報(議案の内容等)を記載するなどの工夫をすることも考えられるところです。
パートナー 渡邉 弘志
パートナー 稗田 直己
パートナー 山内 大将
シニア・アソシエイト 伊藤 侑也
2022年3月31日、公正取引委員会と経済産業省は共同して、スタートアップと出資者との契約の適正化に向けて、「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(「本指針」)を策定しました。本指針は、成長戦略実行計画を受け、「スタートアップとの事業連携に関する指針」(2021年3月29日策定)を改正したものです。公取委の実態調査で明らかとなった問題について、公取委が独占禁止法上の考え方等を示し、経産省が解決の方向性等を示しています。
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220331010/20220331010.html
本指針のうち「スタートアップへの出資に関する指針」では、出資者との出資契約について、問題となりうる事例や独占禁止法・競争政策上の考え方、取引上の課題と解決方針が示されています。出資契約に係る問題としては、NDAを締結しないままの営業秘密の開示、NDA違反、無償作業、第三者への委託業務の費用負担、不要な商品等の購入、出資者による出資契約に基づく株式の買取請求権、研究開発活動の制限、最恵待遇条件の設定が指摘されています。例えば、M&Aに関連する株式の買取請求権については、以下のような事例において、独占禁止法や競争政策上の問題が生じうるとされています。
上記のような事例において生じうる問題の要因として、出資者側のオープンイノベーションに関するリテラシーの不足や、対等な立場を前提としたオープンイノベーションを推進する上で望ましくない慣習の存在が指摘されています。
買取請求権の問題に対する解決の方向性として、「出資者とスタートアップ側が十分な協議の上、その行使条件については重大な表明保証違反や重大な契約違反に明確に限定すべきであり、また、行使を示唆しての不当な圧力を阻止するべきである」とされており、重大な表明保証違反、重大な契約違反の例が挙げられています。スタートアップの経営株主等の個人への買取請求権の設定については、経営者の個人責任を求めないグロバールスタンダード、融資慣行、起業や企業経営へのインセンティブ阻害等の観点から、買取請求の対象は発行会社のみに限定することが望ましいとされています。スタートアップへの出資契約を締結する際には、このような本指針に記載されている問題や解決の方向性に留意する必要があります。
令和4年5月18日、民事裁判手続をIT化する改正民事訴訟法(改正法)が成立しました。民事裁判手続のIT化については、日本でも十数年前から検討されており、平成16年には民訴法が一部改正されました。しかし、この改正によるIT化は、支払督促手続などのほんの一部に限定されており、日本は、現在でも諸外国と比較して大きく後れています。そのような中、政府は平成29年6月に「未来投資戦略」を閣議決定し、内閣官房に「裁判手続等のIT化検討会」が設置されました。
それ以来5年間にわたる検討の末、遂に民訴法の大幅な改正案が両議院で可決され令和4年5月18日に改正法が成立するに至りました。改正法は、2025年度中の全面施行が検討されております。
民訴法のIT化に関する主な改正事項は以下の通りです。
これまでも、一部の裁判所では、準備書面や書証の写しなどをオンラインで提出する運用を順次開始しておりますが(民事裁判書類電子提出システム(mints))、民訴法改正により、訴状についてもオンライン提出が可能となります(改正法132条の10)。そして、弁護士が訴訟代理人となる場合は、裁判書類を電子提出することが義務化されます(改正法132条の11第1項1号)。
現在、訴訟当事者は口頭弁論期日に出頭するのが原則ですが、場合によってはオンライン会議で参加できるようになり(改正法87条の2)、弁論準備手続でも一方当事者の出頭が不要となります(改正法170条3項)。また、証人尋問がオンラインで実施可能となる要件も緩和されます(改正法204条)。
裁判所が事件記録を電子的に管理し、訴訟当事者が随時にオンラインで確認できるようになります(改正法91条の2)。
新型コロナウイルスの影響で、既にウェブ会議を利用した訴訟手続の実施が増加しています。例えば、東京地裁や大阪地裁を中心に、オンライン会議システム(Microsoft Teams)を利用した期日(書面による準備手続の電話協議を利用したもの)の実施により、第1回期日から裁判所に出頭せず審理を実施し、また和解案等のやり取りをMicrosoft Teams上で行うケースも見られます。今回の民訴法改正により、民事訴訟手続の利便性と効率性がさらに向上し、国民が民事裁判をより利用しやすくなることが期待されます。例えば、オンラインシステムの普及により、依頼者の近隣の弁護士ではなく、専門性を有する遠隔地の弁護士に訴訟を依頼する傾向がこれまで以上に強くなることも想定されます。
パートナー 牧田 奈緒
「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」による法改正の一環として「再生可能エネルギーの電気の利用の促進に関する特別措置法」(改正再エネ特措法)が2022年4月1日より施行されました。経産省・資源エネルギー庁のサイト等において同法関連の情報が公表されておりますが、今後も随時情報が更新される可能性があり、動向を注視していくことが重要と思われます。
今般の改正内容の大きな柱は、①FIP制度、②系統整備に係る賦課金制度、③廃棄等費用の外部積立制度、④未稼働案件の認定失効制度の導入です。
以下では①及び③に関して最新情報も含め簡単にご紹介します。
再エネ事業の自立化に向け、これまでのFIT制度(固定買取価格制度)に加え、FIP制度(市場価格を踏まえて一定のプレミアムを交付する市場連動型の制度)が創設されました。もっとも、しばらくはFIT制度と併存する形となります。
FIP制度について、現時点では対象となる事業が限定されているものの、調達価格等算定委員会の「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」(2022年2月4日)にもあるとおり、1,000kW以上の太陽光発電事業では2022年度より新規認定においてFIP制度(入札制)のみが認められ、翌年度以降段階的にその対象を拡大することとされています。また、50kW以上の太陽光発電事業については、既にFIT認定を受けている場合であっても希望によりFIP制度への移行認定を受けることが可能です。
https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/20220204_report.html
FIP制度における基準価格、FIT制度における調達価格についても2022年4月1日付で経済産業大臣により決定されています。
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html
発電設備が適切に廃棄されない懸念に対応するため、10kW以上の全ての太陽光発電のFIT・FIP認定事業の認定事業者に対し、廃棄費用に関する源泉徴収的な外部積立を求める制度が創設されました。既認定案件も対象であり、最も早い案件では2022年7月1日から積立が開始します。かかる積立の不実施は認定取消事由となります。
資源エネルギー庁では2021年9月30日に廃棄等費用積立ガイドラインを公表しており(2022年4月1日付で一部改定)、また、上記外部積立制度の例外として認められている内部積立に関しては事前相談を受け付けています。
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fip_2020/naibu_tumitate_soudan.pdf
パートナー 粟原 大喜
オブ・カウンセル 荒関 哲也
スペシャル・カウンセル 柳田 忍
最高裁は、借入れ及び不動産取得による相続税の節税事案において、財産評価基本通達に基づく評価(路線価評価等)ではなく鑑定評価に基づき行った税務当局の課税処分(更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分)を適法とし、納税者の敗訴が確定しました。
相続税の課税価格に算入される財産の価額について、相続税法は時価による旨定めていますが、一部の財産を除き評価方法を定めていません。この点、財産評価基本通達は、各種財産について画一的かつ詳細な評価方法を定めつつ、かかる通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めています(総則6項)。
本件では、相続人が不動産を通達に定める評価(路線価評価等)により評価し、相続税を0円として申告したことに対し、税務当局がかかる通達に定める評価を著しく不適当として総則6項を適用し、鑑定評価に基づき不動産を評価して課税処分を行ったことについて、租税法上の平等原則違反などが争われました。
最高裁は、税務当局が特定の者の相続財産の価額についてのみ通達に定める方法による評価額を上回る価額によることは、合理的な理由がない限り、平等原則に違反するものとして違法としつつ、通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由が認められるとの枠組みを示しました。そして、通達に定める評価額と鑑定評価額の間に大きなかい離があることをもって上記事情があるとはいえないものの、不動産の購入・借入れがなされることにより通達に定める評価では相続税の負担が著しく軽減されることになること及び租税負担の軽減をも意図して不動産の購入・借入れが行われたことを指摘して上記事情を認め、税務当局が総則6項を適用して鑑定評価に基づき不動産を評価したことを適法と判断しました。
この判決が実務に与える影響は極めて大きく、今後、不動産の通達評価を利用した行きすぎた節税には総則6項の積極的な適用が行われる可能性がありますので、今後の各種のプランニングや不動産に関する商品設計においては一層の注意が必要になるでしょう。例えば、本判決により不動産や不動産関連商品(任意組合型の不動産特定共同事業法に基づく商品)の取得について相続税対策を謳う勧誘が禁止されるものではありませんが、本判決では不動産の購入が租税負担の軽減をも意図してなされたことを総則6項の適用を認める一要素としていることから、かかる勧誘については慎重な検討を要するものと考えます。
本年6月1日に施行される公益通報者保護法改正法について、公益社団法人日本監査役協会により「改正公益通報者保護法施行に当たっての監査役等としての留意点―公益通報対応業務従事者制度との関係を中心に―」(2022年4月25日付)が公表されました(以下、「本留意点」といいます。)。
同改正法は、従業員が300人を超える企業に対して、公益通報対応業務に従事する者を「公益通報対応業務従事者」(以下、「業務従事者」といいます。)に指定すること等を新たに義務付けるものです。本留意点は、かかる改正を受けて、企業が自社の監査役、監査委員、監査等委員(以下、「監査役等」といいます。)を業務従事者に指定する必要があるのかなどを、企業が採用する内部通報の体制に応じて整理しています。その内容は大要として以下のとおりであり、改正法への円滑な対応に向けて準備をされている企業の担当者や監査役等において参考になるものと考えられます。
業務従事者の指定について
公益通報該当性について
監査役への報告と守秘義務の関係について
企業が業務従事者の指定を怠った場合には、報告徴収等や公表措置の対象となることがあります。各企業においては、自社体制と本留意点を踏まえて、必要に応じて監査役等を業務従事者として指定するなど、適切な体制を整備しておく必要があると考えられます。
当事務所では、改正法準拠の匿名の外部通報窓口サービス(グローバル対応)も提供しておりますので、あわせてご参照下さい。
パートナー 渡邉 弘志
パートナー 東道 雅彦
パートナー 川村 宜志
アソシエイト 池田 侑希
2022年3月30日、公取委は、昨今の労務費、原材料費、エネルギーコストなどの上昇にもかかわらず、その上昇分を適切に価格転嫁できていない中小事業者等を保護するため、新たに「令和4年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を策定しました。
同アクションプランでは、大きく分けて、独禁法と下請法の執行強化が行われました。執行強化の主たる概要は下表のとおりです。
<独禁法>
独禁法上の優越的地位の濫用に関する緊急調査
荷主と物流事業者との取引に関する調査
独禁法の適用の明確化
<下請法>
買いたたきの解釈の明確化
買いたたきに対する取締り強化
特に下請法の運用基準の改正には十分な注意が必要です。すなわち、改正後の下請法運用基準では、以下の行為も、親事業者の禁止行為である「買いたたき」に該当するおそれがあることが示されました。
①下請事業者に、原材料等のコスト上昇による値上げの必要性が生じているにもかかわらず、価格交渉の場において、上昇分の取引価格への反映の必要性につき、明示的に協議を行わず取引価格を据え置くこと。
②コスト上昇に伴い、下請事業者から値上げの要請があったにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面やメール等で下請事業者に回答せずに、取引価格を据え置くこと。
そのため、親事業者においては、上記の各場面において、「買いたたき」とされることのないよう、➀コスト上昇分の取引価格への反映の必要性につき明示的に協議を行うとともにそれを議事録等で証拠化しておくことや、②書面等で転嫁をしない合理的な理由を示すようにすることが必要となりましたので、留意が必要です。
公取委は、関係各省庁とも連携しながら、中小事業者等の保護政策を強く打ち出しています。COVID-19やウクライナ情勢の影響により、コスト上昇が強く懸念される現況下においては、公取委による規制もより厳しくなることが予想されますので、各事業者においては、独禁法及び下請法に関するコンプライアンス体制を今一度確認することが必要です。
パートナー 猿倉 健司
2022年5月20日に、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(以下「省エネ法」という。)の改正が公布されました(2023年4月1日施行)。
経済産業省から公表されている、改正省エネ法の主な改正点は、以下のとおりです。
省エネ法においては、定期報告の懈怠又は虚偽報告には、50万円以下の罰金が科せられることになっています(両罰規定あり)。
なお、省エネ法と同じくCO2削減達成のための規制として、温室効果ガスの排出量等の定期報告を求める「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)や、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(東京都環境確保条例)その他の条例において、同趣旨の改正がなされることも想定されることから、注視していることが必要となります。なお、条例は、都道府県のみならず市区町村にも存在することから注意が必要です。
(参考資料等)
スペシャル・カウンセル 柳田 忍
令和3年6月、男性の育児休業取得の促進を主な目的として育児介護休業法が改正されました。そのうち、以下の制度については、令和4年10月1日に施行が予定されています。
産後パパ育休は、産後8週間以内に限って、通算4週間までの範囲で、通常の育児休業と別に取得 することができる育児休業であり、2回に分割して取得することが可能です。子を出産した女性については労働基準法上の産後休業が適用されるため、産後パパ育休は基本的には男性に適用される制度となります。
現行法の下においても、通常の育児休業の他に、出生後8週間以内に育児休業を取得できる制度がありますが(いわゆる「パパ休暇」)、産後パパ育休については2回に分割して取得できることになったことなどがポイントとなります。なお、産後パパ育休の新設に伴いパパ休暇は廃止されます。
通常の育児休業においては原則として休業中に就業することができませんが、産後パパ育休においては、事前に労使協定を締結していること、本人が就業を希望していること等の所定の要件を満たした場合に、産後パパ育休中の就業を認めることができます。これまで男性(正社員)が育児休業制度を利用しなかった主な理由として、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」といった、業務を離れることによる支障が多くあげられていますが(厚生労働省委託事業「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(株式会社日本能率協会総合研究所)参照)、このような理由により育児休業制度の利用を避けていた従業員による育児休業の取得を促進するものといえます。
現行の育児休業は、原則として子が1歳(一定の場合は最長2歳)に達するまでの間、1回に限り取得することができるとされていますが、改正法により、分割して2回まで取得することが可能になります。これにより、産後パパ育休と合わせると、最大4回の育児休業を取得することができるようになります。
現行法においては、パパ休暇を取得した場合には育児休業を再取得することができるため、パパ休暇と併せて育児休業を2回取得できることになります。一方、改正法の下では、上記のとおり、産後パパ育休も通常の育児休業も2回に分割して取得することができるようになるため、産後パパ育休と通常の育児休業をあわせて最大4回の育休を取得することができるようになります(なお、産後パパ育休を分割取得する際にはあらかじめ2回分の申請をまとめて行うことが必要となります。)。
上記のとおり、改正法下においては、育児休業制度について、より多様な制度設計が可能となることから、企業においては、従業員が育児休業を取得しやすいよう、十分な説明等を行うことが重要となります。また、改正法における育児休業・産後パパ育休の要件や必要な手続については誤りがないよう適切に確認しておくことが必要です。特に、常時雇用する労働者が1000人を超える事業主については、今回の育児介護休業法の改正により、令和5年4月1日以降、①育児休業等の取得割合または②育児休業等と育児目的休暇の取得割合を年1回公表することが義務づけられることになりますので、ご留意ください。
パートナー 東山 敏丈
パートナー 川村 宜志
パートナー 猿倉 健司
アソシエイト 椙村 昂平
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「中小企業再生ガイドライン」といいます)、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」Q&Aの策定・公表を経て、令和4年4月15日、中小企業再生ガイドラインの適用が開始されました。
中小企業再生ガイドラインは、⑴「中小企業者の「平時」「有事」「事業再生計画成立後フォローアップ」の各々の段階において、中小企業者、金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方を示すこと、⑵「令和2年以降に世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症による影響からの脱却も念頭に置きつつより迅速かつ柔軟に中小企業者が事業再生等に取り組めるよう、新たな準則型私的整理手続、即ち「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」を定めること」(中小企業の事業再生等に関する研究会「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」3頁)を目的としています。
従来の私的整理ガイドラインと異なり、公正中立な第三者支援専門家の関与の下、中小企業の実態に即した「再生型私的整理手続」と「廃業型私的整理手続」という2つの手続によって、中小企業者が迅速かつ柔軟に事業再生に取り組めるようになることが期待されています。
そこで、中小企業再生ガイドラインは、中小企業の現状に鑑みて、以下の事項を規定しています。
中小企業者は、①収益力の向上と財務基盤の強化、②適時適切な情報開示等による経営の透明性確保、③法人と経営者の資産等の分別管理などが求められます。
一方で、金融機関は①経営課題の把握・分析等、②最適なソリューションの提案、③中小企業者に対する誠実な対応などが求められます。また双方に④「有事」移行への予防が求められています。
中小企業者は、①経営状況と財務状況の適時適切な開示等、②本源的な収益力の回復に向けた取組み、③事業再生計画の策定などが求められます。
金融機関は、①事業再生計画の策定支援、②専門家を活用した支援が求められます。そして双方に④有事における段階的な対応(㋑返済等の条件緩和、㋺債務免除・金銭支援、㋩スポンサー支援・経営共同化、㋥事業廃止等)が求められています。
再生型私的整理手続は、自助努力のみによる事業再生が困難で、経営情報等を適時適切かつ誠実に開示しており、反社会的勢力と関係のない中小企業者が対象となります。
中小企業者は、主要債権者の同意を得て第三者支援専門家を選任し、専門家の支援を受ける等して、事業の見通しや資金繰り計画、債務の返済猶予や債務減免等について事業再生計画案の作成が求められます。計画成立後、「経営者保証に関するガイドライン」を活用した経営者保証債務の整理や、事業再生計画達成状況等のモニタリングが行われることとなります。
廃業型私的整理手続は、「再生型私的整理手続」の要件に加えて、早期廃業の合理性が認められる中小企業者から廃業の申出があった場合に、対象債権者間の平等や清算価値以上の債権回収の見込みなどを考慮しつつ廃業を進める手続です。
弁済計画案の策定という点は「再生型私的整理手続」と異なりますが、続く調査報告、弁済計画の成立、債権者会議等の流れは変わりありません。「再生型私的整理手続」の途中段階で移行することも可能で、「再生型私的整理手続」で関与した第三者支援専門家の支援を継続して得られるという特徴があります。
なお、第三者支援専門家の役割の中には法律事務(金融支援として債務減免等の要請を行う必要が生じる場合を含む)を実施することがあることから、弁護士法第72条(非弁行為)に反しないように、第三者支援専門家に弁護士を含める必要があると指摘されています。第三者支援専門家は、独立して中立かつ公正・公平の立場で支援を行う立場であることから、顧問弁護士を選任することができないことに留意が必要です。
(参考資料)
2022年5月11日、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(経済安全保障推進法)が成立しました。
本法は、(a)供給網の強化、(b)基幹インフラの安全確保、(c)先端技術の研究開発、(d)特許の非公開化の4つを柱とするもので、2023年から段階的に施行されます。
このうち、(b)基幹インフラの安全確保には、電気事業、ガス事業、鉄道事業、電気通信事業、金融業など14の業種のうち省令が定める基準に該当する「特定社会基盤事業者」に対し特定重要設備(基幹インフラ)の「導入等計画書」の届け出義務を課す等、外部からのサイバー攻撃等の特定妨害行為を防止するための規定が盛り込まれています。
今後公表される政省令により「特定社会基盤事業者」となる企業においては対応が必要となりますので、動向に注意が必要です。
2022年3月21日、英国からの越境移転の枠組みとなる国際データ移転契約(IDTA)及び補遺(Addendum)が発効しました。
IDTA及びAddendumは、従前英国からの越境移転に用いられてきた旧EU SCC (2001/497/EC, 2010/87/EU)に代わるもので、2022年9月21日以降に新たに英国からの越境移転に係るデータ移転契約を締結する場合には、IDTAを締結するか、新EU SCCに加えてAddendumを用いる必要があります。また、既に旧EU SCCに基づいて締結されたデータ移転契約は、経過措置により2024年3月21日まで有効となります。
EU一般データ保護規則(GDPR)との関係では、欧州委員会が公表した新しいSCCを2022年12月27日までに締結(更新)する必要がありますが、英国からのデータ移転があれば、同時に英国IDTA及びAddendumも締結するとよいと考えられます。
2022年3月24日、ユタ州で包括的なプライバシー法であるUtah Consumer Privacy Act(UCPA)が、2022年5月10日にコネチカット州で同じく包括的なプライバシー法であるConnecticut Data Privacy Act(CTDPA)が、それぞれ成立しました。
いずれも、州内に居住する個人である「消費者」を対象として保護するものであり、カリフォルニア州CCPAとは異なり、商業的又は雇用に関連する個人は対象に含まれません。UCPAは2023年12月31日に、CTDPAは2023年7月1日にそれぞれ施行される予定です。
これにより、米国で包括的なプライバシー法が制定された州は、カリフォルニア州、バージニア州、コロラド州、ユタ州、コネチカット州の5つとなり、いずれも2023年に施行される予定(カリフォルニア州はCCPAの改正法であるCPRAが施行予定)であるため、これらの州でビジネスを行っている事業者は対応を進める必要があります。
パートナー 井上 治
パートナー 石川 拓哉
パートナー 山内 大将
スペシャル・カウンセル 薬師寺 怜
アソシエイト 武本 稜平
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を受けて、昨今、欧米企業を中心に、ロシアにおけるビジネスから撤退する動きが強まっています。
アメリカのMcDonald’sは同年5月16日に、ロシアから恒久的に撤退することを発表しました。また、フランスの自動車大手のRenault Groupも同日に同社の取締役会がロシア事業の売却に関する契約締結を承認することを発表しました。
日本企業を見ても、日本郵船株式会社がロシア国内での自動車陸送事業から撤退する方向で調整を行っています。また、帝国データバンクが行ったロシアに進出する日本の上場企業168社に対する調査では、同年4月11日時点で全体の36%にあたる60社が事業の停止や撤退の方針を決定しています。事業の停止や撤退を決めた企業は同年3月15日に行われた調査から23社増えており、日本企業にもロシアからの撤退の流れが広がっています。
(参照:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220426/k10013598591000.html)
ただ、直近では、日本企業のロシアからの撤退=「脱ロシア」の動きが鈍化しているとも報じられています。
このようなロシアビジネスからの撤退の傾向の理由の1つとして、人道危機という観点が挙げられます。人道危機という観点は、ロシアのウクライナ侵攻が長期化している中、ロシアでビジネスを展開することが現地従業員への安全配慮義務等の観点から国際的に批判の対象となるというものす。McDonald’sが撤退を決めた決定的な理由の1つに人道危機を挙げています。
また、ロシア経済の不透明性の観点から見ると、欧米を中心としたロシアへの経済制裁に伴う物流の混乱、輸出入にかかる代金決済や許認可取得などの手続に困難が生じているという現状があります。一方、ロシア経済の不透明性は、ロシアビジネスからの撤退の方向のみに向かっているわけではありません。実際に、ジェトロの調査によれば、企業から、「ロシアで法令が施行された場合、撤退が容易にできない事態が想定されており、非常に悩ましい」とのコメントや、「売掛金が何千万円も回収できていない」とのコメントが見られ、撤退を躊躇させる原因にもなっていることがわかります。
(参照:https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/05/4cf2050c5963fee2.html)
さらに、米欧を中心とする国際的な対ロ非難が長期化する状況下では、特に海外シェアの大きい企業を中心に、レピュテーションリスクを考慮し、ロシア事業の撤退といった判断を迫られるケースが今後増えるともいわれています。
なお、日本企業においても、ロシアビジネスを停止・撤退する流れが広がっている中、恒久的な撤退に踏み切ることには躊躇があるようです。ジェトロの調査によると、ロシアでビジネスを行う企業の駐在員をロシアに戻すきっかけとして、全体の68.4%が、外務省による危険度レベルの引き下げ、次いで停戦合意、ロシアによる規制の緩和・撤廃、西側諸国による対ロ制裁緩和・撤廃等を挙げております。
今後のロシアビジネスを考えていく上では、ウクライナ侵攻とそれに伴う国際的な対ロ非難がどこまで長期化するかという点に注意することはもちろんですが、ロシアにおける事業の撤退や縮小がやむを得ないといった状況になった場合に多額の損害賠償責任を負うなどといったことにならないよう、法的なリスクへの備えも検討していく必要があるといえます。
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