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2017.08.03

住宅宿泊事業法(民泊新法)について

業務分野

執筆弁護士

1. 住宅宿泊事業法の成立

近時、民泊サービス(住宅を活用した宿泊サービスの提供)が世界各国で展開され、我が国でも急速に普及しています。他方、民泊サービスに起因した近隣トラブルも少なからず発生し社会問題となっています。このため、民泊サービスの提供に関して一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図ることが急務となっていたところ、2017年6月16日、住宅宿泊事業法(「法」)が公布されました。施行は公布日から1年以内です。

2. 背景

(1) 実態:

平成28年の調査[1]によれば、民泊仲介サイト登録情報(15,127件)のうち、営業許可を確認できたものは16.5%にすぎず、その多くは無許可営業[2]と考えられます。特に大都市圏では、営業許可を取得している物件の割合は1.8%にすぎず(大都市以外は34%)、また無許可物件の54.2%が共同住宅でした。

(2) 原因: 

このような違法な民泊が行われている原因としては、インバウンド消費に伴う外国人旅客の増加と宿泊需要の急増、異文化交流の機会増加といった事情にかかわらず、現行法に沿った宿泊施設の供給が十分に行われていない点があります。現行法では、民泊を行うには、旅館業法[3]における簡易宿所[4]として許可を得るか、国家戦略特別区域法に基づく特例(後記4参照)を利用するしかありません[5]。しかし、前者については、住居専用地域では営業ができず、また、各自治体が法令の要件に上乗せした条例を定め、地域によっては玄関帳簿(フロント)設置[6]や、法令の規制より広い客室延床面積の確保を求めていることが多く、既存住宅の活用に制限があります。他方、国家戦略特別区域法に基づく特例の利用は、特区内でしか営業できません。

(3) 他国の実情・現状: 

世界各国で展開されている民泊サービスは、日本でも急速に普及しており、また、急増する訪日外国人観光客のニーズや大都市部での宿泊需給の逼迫状況等に対応するため、民泊サービスの活用を図る必要がありました。他方で、このような民泊サービスについて、公衆衛生の確保、地域住民等とのトラブル防止に留意したルール作り、違法民泊への対応が必要であったことから、今般、住宅宿泊事業法が成立しました。

3. 法律の概要

(1) 主な内容

A) 対象事業等

法は、住宅宿泊事業、住宅宿泊管理業及び住宅宿泊仲介業について、事業運営に必要となる手続き、実施するべき義務、監督権限等を規定しています。各事業のおおまかな内容は以下のとおりです[7]

B) 住宅宿泊事業

(a) 住宅宿泊事業:旅館業法に基づく許可を受けた営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業[8]

(b) 都道府県知事への届出[9]

(c) 年間営業日数の上限は180日以内[10]

(d) 各部屋床面積に応じた宿泊者数の制限

(e) 家主居住型の場合:住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置(衛生確保措置、騒音防止のための宿泊者への説明、苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付け、標識の掲示等)を義務付け

(f) 家主不在型の場合:上記措置を住宅宿泊管理業者に委託することを義務付け

(g) 都道府県知事が監督(宿泊日数等の届出義務)

(h) その他、行政による立入検査権等

C) 住宅宿泊管理業

(a) 住宅宿泊管理業:住宅宿泊事業者から委託を受け、報酬を得て、届出住宅の宿泊・維持保全等を行う事業

(b) 国土交通大臣の登録(5年ごと更新、登録免許税9万円、登録簿の公開)

(c) 家主居住型の場合でも、届出住宅の部屋数が、民泊ホストとして対応できる適切な管理数を超える場合に(a)の委託が必要

(d) 住宅宿泊管理業の適正な遂行のための措置(住宅宿泊事業者への管理受託契約内容の説明等)の実施、②(d)及び(e)の措置(標識の掲示を除く。)の代行を義務付け

(e) 名義貸し、誇大広告、全部再委託の禁止等

(f) 国土交通大臣が監督

(g) その他、行政による立入検査、登録取消、業務改善・停止命令等

(h) 想定:不動産業者等

D) 住宅宿泊仲介業

(a) 住宅宿泊仲介業:旅行業法に基づく登録を受けた旅行業者以外の者が、報酬を得て、宿泊者又は住宅宿泊事業者のために、宿泊契約の締結について、代理、媒介、取次を行う事業[11]

(b) 観光庁長官の登録(5年ごと更新、登録免許税9万円)

(c) 住宅宿泊仲介業の適正な遂行のための措置(宿泊者への住宅宿泊仲介契約の内容の説明等)を義務付け

(d) 名義貸し禁止、住宅宿泊仲介業約款の作成届出、手数料の公示等

(e) 観光庁長官が監督

(f) その他、行政による立入検査、登録取消、業務改善・停止命令等

(g) 想定:各民泊仲介サイト(Airbnb、とまりーな、HomeAway等)

E) 罰則

(a) 住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者に対する罰則

無登録の運営、不正な手段による登録、名義貸しの場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金等

(b) 住宅宿泊事業者に対して

虚偽の届出の場合、6ヶ月以下の懲役又は100万円以下の罰金

F) 都道府県による上乗せ条例

騒音など生活環境の悪化防止が特に必要と認められる区域で、かつ観光旅客の宿泊に対する需要への的確な対応に支障を生ずるおそれがないものとして政令が定める基準の範囲内において条例の定めにより、期間を定めて、宿泊事業の制限が可能。

(2) 利用と問題点

(a) 区分所有建物(マンション等)における民泊サービスの提供は、他の区分所有者や他の居室の賃借人の抵抗及び反対を受ける可能性があり、リーシングの悪化・賃貸業の収益への悪影響等も考えられます。この点は、管理組合[12]や他の賃借人との賃貸借契約での民泊許容の意思確認が必要と思われます。なお、国交省作成のマンション標準管理規約、賃貸住宅標準契約書の見直しが検討されています。

(b) 住宅宿泊事業の年間営業日数が180日以内とされていることから、ビジネスとしては、住宅に入居者が居る間は賃貸を行い、入居者が退去後の空室で民泊サービスを提供することが考えられる。しかし、その兼合い、収益性、建物の構造設備や消防設備の整備等、その費用等を考慮する必要があります。

(c) 不動産の証券化スキーム等では、住宅宿泊管理業の登録業者をマスターレッシーやPMとして、その業務に住宅宿泊管理業を含めて委託することも考えられます。

(d) 政省令が制定されていない段階ですが、180日を超えない営業の確認方法が徹底されているのか、クレーム対応が都道府県任せとならないか、騒音等に対する警察の取締まりの対象となるのかといった問題点も指摘されています。

4. 国家戦略特別区域法に基づく特例

同法は、指定された特区内で、都道府県知事の認定を受けた事業者が、旅館業法の許可を得ずに、外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約等に基づき一定期間以上使用させる等の事業(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)を認めています。現在、東京都大田区、大阪府、大阪市、福岡県北九州市で試みられています(他の都市でも検討されています)。概要・義務は以下のとおりです。

(a) 最低宿泊日数の規制(3日から10日の範囲内で条例が定める期間以上。大田区は6泊7日(但し、再検討中)、他は2泊3日)

(b) 居室の床面積は原則25㎡以上

(c) 滞在者名簿の備置き義務、周辺住民に対する適切な説明義務、苦情等に対する適切な処理体制

(d) 事業の一部が旅館業法2条1項に定める旅館業に該当すること等

5. イベント民泊 

年数回のイベント開催時に、宿泊施設が不足することが見込まれる場合で、自治体の要請等により自宅提供をする公共性の高いものをいいます。「反復継続」とならない場合は「旅館業」に該当しないが、「反復継続」に当たる場合でも、旅館業法施行規則5条1項3号による特例として扱われます[13]

以 上

[1] 厚生労働省「全国民泊実態調査の結果について」(2016年10月~12月調査)

[2] 無許可営業については罰則がある(6月以下の懲役又は3万円以下の罰金)。

[3] 旅館業法は、旅館業として、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業を定める。

[4] 客室の延床面積は33㎡以上(宿泊者が10人未満なら1人当たり3.3㎡を乗じた面積で足りる。)。但し、構造設備の基準の詳細は都道府県が条例で定められる。

[5] 他にイベント民泊という方法がある(後記5参照)。

[6] 2016年4月の旅館業法改正で、一度に宿泊させる宿泊者数が10人未満の小規模施設による簡易宿所営業の許可取得については、玄関帳簿等(フロント)の設置を要しないとされたが、自治体の条例でこれを求めている場合がある。

[7] 現時点で、政省令はまだ制定されていない。

[8] 住居専用地域でも事業可能。また旅館業法5条のような、宿泊拒否制限規定はなく、ホストにとって営業方針に沿わない宿泊者の宿泊拒否も可能。なお「住宅」であることから、現に人の生活の本拠として使用され又は賃貸や分譲物件として募集中であることが必要。

[9] 共同住宅の居室毎の届出も可能

[10] 都道府県等は、日数制限が可能

[11] 住宅宿泊事業者が、宿泊サービス提供契約の締結の代理又は媒介を他人に委託するときは、住宅宿泊仲介業者又は旅行業者に委託しなければならない。

[12] 内閣府地方創生推進事務局の「区分所有建物における特区民泊の実施について(通知)」によれば、『管理規約が標準管理規約のままであり、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」との規定があるときは、特区民泊はもともと、住宅としての施設利用を前提とした制度であることから、「住宅として使用するもの」にあたらないとの管理組合の解釈が決議されているなど、管理組合の意思が専有部分を特区民泊の用に供することを禁ずるものと認められる場合を除き、特定認定の対象となります。』としている。ただ、具体的な取扱いとして、特定認定の申請前に、建物内の居住者に対して「適切な説明」を行う必要があるとする(国家戦略特別区域法施行令12条7号)。

[13] 厚生労働省健康局生活衛生課平成27年7月1日付「規制改革実施計画への対応について」2項、観光庁観光産業課他平成29年7月10日付「イベント民泊ガイドラインの改訂について」参照