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2016年5月18日、LINE株式会社(以下「LINE」という。)のスマートフォン向けゲーム内で販売されるアイテムについて、関東財務局は資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)の「前払式支払手段」に該当すると認定したと報じられた。今回、「前払式支払手段」に該当すると認定されたのは、LINE POPというゲーム内で入手できる「宝箱の鍵」というアイテムであるが、同アイテムは通常のゲーム内通貨とは異なる特徴を有しており、今回の関東財務局の認定は今後のゲーム内通貨の実務に影響を与えるものと思われる。

1. 法律の規制

まず、資金決済法が定める「前払式支払手段」とはどのようなものか、また前払式支払手段に該当する場合どのような規制があるかについて簡単に説明する。

(1) 前払式支払手段とは

今回問題となった前払式支払手段とは、以下のものをいう(資金決済法3条1項)。

証票、電子機器その他の物(証票等)に記載され又は記録される金額に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号であって、発行者等から物品を購入したりサービスの提供を受ける場合に代価の弁済のために使用することができるもの、あるいは発行者等に提示等することにより、物品の給付又はサービスの提供を請求することができるもの

これを踏まえ、一般に、以下の3つの要件を全て満たすものが「前払式支払手段」にあたると整理されている。

(i) 金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)

(ii) 金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等、番号、記号その他のものであること(対価発行)

(iii) 代価の弁済等に使用されること(権利行使性)

典型的には、テレホンカードや図書カード等のプリペイドカード、商品券、SuicaやEdy等のプリペイド型の電子マネーがこれにあたる。

これに対し、いわゆるポイントサービスは、景品やおまけとして付与されるものであるから「対価を得て発行される」ものではないため、前払式支払手段に該当しない。

(2) 前払式支払手段に該当する場合の規制

前払式支払手段に該当する場合、その発行者は、概要以下の規制を受ける。

●内閣総理大臣への届出(自家型[1]かつ未使用残高が1000万円を超えた場合)又は登録(第三者型[2]の場合)が必要となる(資金決済法5条、7条)。
●当該前払式支払手段あるいは発行者のウェブサイト等において、一定の情報を表示あるいは提供する必要がある(同法13条)。
●破綻する場合に備え、基準日に未使用残高が1000万円を超える場合にはその2分の1の金額以上の額に相当する額の発行保証金を供託所に供託しなければならない(同法14条)。 もっとも、銀行等との間で発行保証金保全契約を締結するか、信託会社等との間で発行保証金信託契約を締結すれば、保全された金額又は信託財産の額の範囲は供託しないことができる(同法15条、16条)。

これらの規制に違反すると、罰則の適用がある(同法107条1号2号、112条1号3号、114条2号、115条1項3号4号)。

2. 「宝箱の鍵」の前払式支払手段該当性について

今回問題となった「宝箱の鍵」とは、ゲーム内で「宝箱」を開けるための「鍵」である。「宝箱」を開けると、アイテムや「ルビー」というゲーム内通貨を入手することができる。

2016年5月19日付日本経済新聞朝刊記事によれば、LINEは、「宝箱の鍵」について、①直接現金を払うのではなく、「ルビー」を介して手に入れるものであること、②しかも「宝箱の鍵」はゲーム中にプレーを通じても獲得できること、③商品券のように多くのものを買えるわけでなく、キャラクター強化など特定の用途にしか使えないことから前払式支払手段に該当しないと考えていたという。

これに対し、今回、関東財務局は、「宝箱の鍵」を「前払式支払手段」に該当すると認定したが、関東財務局がどのような解釈をしたかは公表されていない。

しかし、資金決済法3条1項の「対価を得て発行される」でいう「対価」とは、必ずしも現金に限られず、財産的価値があるものはすべて含まれるとされている。ゲーム内通貨の「ルビー」は、現金と引き替えに発行され、ゲーム内のアイテムを入手する際に使用できるものであり財産的価値があると考えられる[3]。したがって、ルビーを介してしか手に入れられないものであったとしても「対価」性は認められるものと考えられ、関東財務局においても同様の解釈がなされたのではないかと推測される。

なお、問題となった「宝箱の鍵」は、ゲーム中にプレーを通じて無償で獲得することもできる。このように、無償で発行したものと有償で発行したものとが区分管理できない場合には、両者は1つの種類のものとして「対価」性があるか否かが判断される[4]

また、LINEは、「宝箱の鍵」がキャラクター強化など特定の用途にしか使用できないことを主張している。これは、「権利行使性」がない旨の主張と思われる。

権利行使性とは、商品・サービスの提供を受ける場合に、発行された証票等や符号等を通常使用することが予定されていることをいい、その証票等に財産的価値が保存され、符号等に保存された財産的価値が紐づいているものであることが必要である。したがって、アイテムを入手することによって利用者が利用するサービスの対価の支払を終えているといえる場合には、前払式支払手段には該当しないとされている。例えば、一定時間ゲームのキャラクターの能力を一時的に増加させるアイテムを購入した場合、当該アイテムを使用するとキャラクターの能力の増加という効果を得られるが、当該効果は既に支払済みのアイテムの効果そのものであり、当該効果に対する対価の支払いはアイテムの購入時点ですでに終えていると考えることができる。このような場合にはアイテムの利用は権利行使性の要件を満たさないこととなる。

これを本件に当てはめてみると、その判断は極めて難しい曖昧なものとなる。例えば、「宝箱の鍵」が宝箱を開ける用途にしか使用できない以上、宝箱を開けることは鍵の効果そのものであり、鍵を購入した時点で当該効果に対する支払は既に終えていると捉えることもできる。これに対し、宝箱の鍵は宝箱内のアイテムやルビーを入手するというサービスの提供を受ける代価の弁済のために使用されているか、それを提示等することによりサービスの提供を請求することができるものであると捉えることもできる。正確なところは不明であるが、関東財務局は後者の考え方を採ったものと考えられる。

3. 関東財務局の判断が実務に与える影響

以上から、まず、現金ではなくゲーム内通貨でしか購入できないアイテムであっても前払式支払手段に該当し得ることが明確となった。オンラインゲームやスマートフォン向けゲームの事業者は、ゲーム内通貨のみならず、ゲーム内通貨で取得できるアイテムについても、前払式支払手段に該当しないかを慎重に検討する必要がある。

その上で、当該アイテムが前払式支払手段に該当するかどうかの判断は非常に難しいものがある点に注意が必要である。当該アイテムが、物品を購入したりサービスの提供を受ける場合に代価の弁済のために使用できたり、それを提示等することにより物品の給付又はサービスの提供を請求することができるものであれば、アイテムそのものが前払式支払手段に該当することになるからである。前払式支払手段に該当すると、発行保証金の保全等の義務が生じるため慎重な判断が求められるところである。

以 上

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[1] 自家型とは、前払式支払手段の発行者(発行者と資本関係がある等密接な関係がある者を含む。)から商品の購入等を受ける場合に限り、これらの代価の弁済等のために使用できるものをいう。

[2] 第三者型とは、前払式支払手段の発行者以外の第三者から商品の購入等を受ける場合にも、これらの代価の弁済等のために使用できるものをいう。

[3] したがって、ルビーそのものが前払式支払手段にあたることになる。

[4] 立案担当者らの著書である高橋康文編「詳説資金決済に関する法制」79頁(商事法務、2010年)は、有償割合が50%以下となる場合には「対価」性を否定することが適当と考えられるとしている。かかる見解からすれば、ゲーム中にプレーを通じて獲得した「宝箱の鍵」と「ルビー」によって購入した「宝箱の鍵」の総額に対する後者の割合が50%以下であれば「対価」性は否定されることになる。