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2024.09.03

プロスポーツビジネスに関する法律問題②-スポンサーシップ

<目次>
1. はじめに
2. スポンサーシップの目的
3. スポンサーシップ契約における留意点
(1)競技団体等に対するスポンサーシップ
(2)選手個人に対するスポンサーシップ

1. はじめに

 プロスポーツビジネスにおける大きな収入の柱は、①放映権、②スポンサーシップ、③グッズ販売、④チケット販売である。
 近時、スポーツに対するスポンサーの出資額は年々増加しているといわれており、例えば、米国市場では、2014年から2019年にかけて2割増えているとのことである(※1)。また、日本においては、日本オリンピック委員会(JOC)が募った「チームジャパン」の最高位「ゴールドパートナー」の契約金額は、2022年~24年の3年間で22億5000万円であり、2013年~16年の4年間で6億円と比較すると5倍になったとのことである(※2)。
 また、これまでは、スポーツに対するスポンサーシップについては、広告代理店に依存していることが多かったと思われるが、東京五輪を巡る汚職事件等を踏まえ、広告代理店への依存を脱却する方向に進んでいるようである。例えば、冬期五輪・パラリンピック招致を目指している札幌市が2023年7月にまとめた大会運営見直しの中間報告では、「代理店への過度な依存を防止する」と明記されており(※3)、また、東京2025世界陸上財団では、特定の代理店を置かず、スポンサーシップ販売についても直接販売するとのことである(※4)。
 広告代理店を介在させないことのメリットとしては、スポンサー選定の手続・内容の透明性が高まるので、コンプライアンスの遵守につながることだと考えられる。また、広告代理店を介在させなければ、競技団体側もスポンサー側も直接相手方と協議することになるので、双方ともスポンサーシップを通じて実現したい目的を明確にすることができ、また、その目的を達成するためにどのような取組みができるかについて主体的・積極的に検討するようになるというメリットも考えられる。
 そこで、今回は、スポンサーシップに関する法律問題について解説する。

 ※1:「ユニクロ、一流選手と一生Win-Win 引退後も異例の契約」日本経済新聞電子版2023年6月19日
 ※2:「強気の3年22億円超 チームジャパンの未来かけた挑戦」日本経済新聞電子版2021年11月10日
 ※3:「札幌市の五輪運営見直し案、スポンサー選定の透明化」日本経済新聞電子版2023年7月7日
 ※4: 月刊陸上競技「25年東京世界陸上は150億円規模に スポンサーシップ契約は代理店介さず入札実施」2023年12月26日
   (https://www.rikujyokyogi.co.jp/archives/124678、2024年9月2日最終閲覧)

2. スポンサーシップの目的

 スポーツに対してスポンサーシップをする企業の目的は、ブランド力向上、認知度向上やイメージ戦略のため等が従来は最大の目的だったと思われるし、今でも重要な目的の一つだと思われる。
 もっとも、近時は、それだけにとどまらず、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を受け、SDGsに対する意識が高まっていることに加え、スポーツは持続可能な開発における重要な鍵になるといわれていることもあり、スポーツに対するスポンサーシップがSDGs・ESG活動の取り組みの一環として位置付けられている例もある(※5)。

 ※5:スポーツ庁・経済産業省「第ニ期スポーツ未来開拓会議 中間報告」(2023年7月)13頁

3. スポンサーシップ契約における留意点

 それでは、スポンサーシップ契約をする際に、何に留意すべきであろうか。スポンサー側から見た場合、スポンサーシップ契約における契約類型は、(1)競技団体等に対するスポンサーシップ、(2)選手個人に対するスポンサーシップの2種類がある。

(1競技団体等に対するスポンサーシップ

 競技団体等に対するスポンサーシップには、特定の大会に対するスポンサーシップや、リーグ・ツアー全体に対するスポンサーシップ、競技団体等そのものに対するスポンサーシップ等がある。
 まず、いずれの類型においても、(i)競技団体等がスポンサーに提供する利益・メリットの内容、(ii)スポンサーが競技団体等に提供する利益・メリットを明確に定める必要がある。
 上記(i)の競技団体等がスポンサーに提供する利益・メリットとしては、①大会名称権、②大会関係物にスポンサーの企業ロゴが掲出される権利、③呼称権(「○〇は、△△の●●パートナーです」等)、④競技団体等のロゴの使用権、⑤選手の肖像の使用権などが考えられる。他方、上記(ii)のスポンサーが競技団体等に提供する利益・メリットとしては、資金、商品・役務(サービス)が考えられる。なお、今後は、スポンサーにおいても競技団体等においても、SDGs・ESG活動・社会貢献活動の取り組みにつながるような利益・メリット等をどのように設定できるかについての検討が重要になると思われる。
 また、競業排除の有無・範囲も問題となる。1業種1社に限定するとしても、その業種をどのように設定するかが問題となる。なお、東京オリンピック2020の国内スポンサーでは、1業種1社の原則が排除され、同じ業種から複数の企業がスポンサーになっている。
 また、スポンサーシップの対象となった大会が中止・短縮・無観客開催等となった場合や、スポンサー・競技団体等が不祥事を起こした場合にどのように処理されるのか(解除の有無、協賛金の減額・返金の有無・金額、損害賠償・違約金の有無・金額等)についても、契約交渉段階で検討し、契約書に明記するのが望ましい。

(2)選手個人に対するスポンサーシップ

 選手個人に対するスポンサーシップにおいても、上記(1)で述べた競技団体等に対するスポンサーシップにおいて留意すべき点は同様に当てはまる。
 それに加え、選手個人に対するスポンサーシップにおいて、特に留意すべきなのは、選手の肖像を競技団体等が管理保有していることがあり、選手自身が自由に許諾できない可能性があることである。そのため、どの範囲であれば当該選手の肖像を使用することができるのかについて、当該選手が所属している競技団体等の規定等の確認が必要である。
 また、怪我等により競技に出場できない場合の対応や、競技における成績に応じてのスポンサー料の調整(増額・減額)の有無・範囲等も問題となる。

以上