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2025.01.10

2025年 下請法改正等に向けた動向(企業取引研究会報告書を踏まえて)

<目次>
1. はじめに
2. 適正な価格転嫁の環境整備(買いたたき規制の在り方)
3. 下請代金等の支払条件
4. 物流に関する商慣習
5. 型取引の在り方
6. 知的財産・ノウハウの取引適正化
7. その他(下請法の改正)
8. おわりに

1. はじめに

公正取引委員会及び中小企業庁は、2024年7月19日、適切な価格転嫁を我が国の新たな商慣習としてサプライチェーン全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について、下請法を中心に検討することを目的とした企業取引研究会(以下「本研究会」といいます。)を開催することを公表しました。
本研究会は、2024年7月22日以降、6回にわたり開催され(※1)、2024年12月25日には、その検討結果を「企業取引研究会報告書」(以下「本報告書」といいます。)にとりまとめ公表し、本報告書は2025年1月23日までパブリックコメントに付されています(※2)。
本報告書は、①下請法の見直し(下請法の改正)と②独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直しの観点から各問題について解決の方向性を示しており、特に①については2025年の通常国会で下請法改正案の成立を目指すとの報道もされています。

①下請法の見直し(下請法の改正)②独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直し
適正な価格転嫁の環境整備○(後記2(1))○(後記2(2))
下請代金等の支払条件○(後記3(1))○(後記3(2))
物流に関する商慣習○(後記4(1))○(後記4(2))
型取引の在り方○(後記5(1))○(後記5(2))
知的財産・ノウハウの取引適正化○(後記6)
その他○(後記7)

独占禁止法(優越的地位の濫用)及び下請法の規制を受ける業種は多岐にわたり、本報告書の内容が企業における今後の取引実務へ与える影響は小さくないと思われることから、以下では、本報告書の概要を説明します。

※1 企業取引研究会「最近の開催状況」(公正取引委員会ウェブサイト)

※2 企業取引研究会「(令和6年12月25日)「企業取引研究会報告書」に対する意見募集について」(公正取引委員会ウェブサイト)

2. 適正な価格転嫁の環境整備(買いたたき規制の在り方)

(1) 下請法の見直し(下請法の改正)

現行の下請法における買いたたき(下請法4条1項5号)は「通常支払われる対価に比し著しく低い」場合に問題となるところ、「通常支払われる対価」は「市価」をいい、市価の把握が困難な場合には「従前の対価」を「市価」として取り扱われていました。
しかしながら、近年のような労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇局面などにおける価格の据置き等の行為は価格が「従前の対価」から引き下げられるわけではないため、買いたたき規制の要件には合致しにくいなどの指摘がありました(※3)。
そこで、本報告書は、現行の下請法における買いたたきとは別途、例えば、給付に関する費用の変動等が生じた場合において、下請事業者からの価格協議の申出に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に下請代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為を規制する必要があるとしています。

(2) 独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直し

サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を実現する観点から、本報告書は、上記(1)の下請法の見直し(下請法の改正)の趣旨を優越的地位の濫用の考え方にも当てはめ、優越ガイドライン等で想定事例や考え方を明確にし、より実効的な取組とすることを併せて検討する必要があるとしています(※4)。

※3 現行の下請法においても、①労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くことや、②労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くことは買いたたきに該当するおそれがあると運用されているところです(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(以下「下請法運用基準」といいます。)第4の5(2)ウ・エ)

※4 現行の独占禁止法においても、※3の下請法運用基準と同様の運用がとられています(公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」Q20)。

3. 下請代金等の支払条件

(1) 下請法の見直し(下請法の改正)

手形は資金繰りの負担を下請事業者に求める手段として用いられてきた実態がある一方、手形の発行残高は減少傾向にあり、下請法の対象取引においても支払手段の現金化が大きく進むといった商慣習の変化を受け、本報告書は、紙の有価証券である手形を親事業者による下請代金の支払手段として使用することを認めないことが必要であるとしています。
また、電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング等)についても、手形と同様に下請代金の全額を現金で受領するまでの期間が納品日や役務提供日から起算して60日を超えることが多いことから、本報告書は、支払期日までに下請代金の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めないことが必要であるとしています。

(2) 独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直し

ア 下請法対象取引以外における手形の廃止や支払サイトの短期化

上記(1)の下請法における手形の取扱いの見直しは、同法の親事業者に資金繰りの問題が生じうるため、本報告書は、下請法が適用されない取引においても手形の廃止や支払サイトを短くしていく対策が必要であるとした(※5)上で、例えば、下請法対象取引以外についても、正常な商慣習に照らして不当に長く支払サイトを設定するような行為について、優越的地位の濫用の問題として優越ガイドライン等で考え方を示すこと等を検討していく必要があるとしています。

※5 公正取引委員会及び中小企業庁は、2024年4月30日に「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」を発出し、同年11月1日以降、手形、一括決済方式又は電子記録債権(以下「手形等」といいます。)のサイトの指導基準を60日とする旨公表した際に、下請法対象外の取引についても手形等のサイトを60日以内に短縮する、代金の支払をできる限り現金によるものとするなど、サプライチェーン全体での支払手段の適正化に努めることを要請していました。

イ 決済手段使用時の費用負担

現行の下請法の運用では、「下請事業者と書面で合意することなく、下請代金を下請事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金から差し引くこと」を減額に当たるとしています(下請法運用基準第4の3(1))が、本報告書は、振込手数料を下請事業者に負担させる行為は、合意の有無にかかわらず、下請法上の違反に当たることを運用基準において明示すべきとしています。また、ファクタリグの手数料など決済手段を使用する際に伴う費用も同様の取扱いとすべきとしています。

ウ 有償支給原材料の対価の支払い

製造委託の取引において不良品が発生した場合、不良の原因の所在にかかわらず不良の是正に要した費用を親事業者から有償支給されている「原材料代」として一方的に下請代金から相殺する行為は、下請法や商法の趣旨に反するものであるとの意見を踏まえ、本報告書は、そのような行為が、下請法上の減額等の違反行為となり得る等の考え方を明確に示すべきであるとしています。

4. 物流に関する商慣習

(1) 下請法の見直し(下請法の改正)

着荷主と発荷主の間には通常、明示的な有償の運送契約等が結ばれないことから、現行法では、発荷主から運送事業者への運送業務の委託は下請法の適用対象とはされず、独占禁止法に基づく「物流特殊指定」の適用対象とされています。
しかしながら、近年は独占禁止法上の問題につながるおそれのある行為(買いたたき、代金の減額、支払遅延など)がみられた荷主が一定数前後で高止りしているなどの指摘がありました。
そこで、本報告書は、より簡易な手続により、迅速かつ効果的に問題行為の是正を図るため、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引の類型を新たに下請法の対象取引とするとともに、新たに下請法の適用対象となる具体的な取引の内容や事業者の範囲を明確にした上で幅広く周知するなど、事業者の予見可能性の確保への配慮が必要であるとしています。

(2) 独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直し

本報告書は、独占禁止法や下請法は、取引関係がある当事者との問で適用されるため、直接の取引関係にない事業者間の問題に規律を及ぼすことが困難であるとする一方で、事業所管省庁の有する制度と連携して課題に対応していく必要があるとしています。
本報告書は、各省連携の考え方としてさしあたり以下の内容を示しており、今後の方向性を探る上で参考になります。

  • 改正後の貨物自動車運送事業法は発荷主から運送事業者に運送を委託する場合は相互に、運送事業者間で運送を委託する場合は委託元の運送事業者から委託先の運送事業者に対し、運送の役務の内容及びその対価等について記載した書面を交付する義務を課しているところ、国土交通省や荷主の事業所管省庁による業界に対する働きかけ等により、着荷主-発荷主間、発荷主-元請運送事業者間、元請運送事業者-実運送事業者間において、荷待ちや附帯業務が生じた場合の費用の負担等について取り決め、適正な契約が結ばれるよう事業者への働きかけを行っていく必要がある。
  • 無償で荷積みや荷下ろしが強要されたり、指定された時間に運んだのに荷下ろし場所で長時間待たされたりするなど、契約が不公正なものであるときに、買いたたきや不当な経済上の利益の提供要請の問題として、独占禁止法や下請法による対応も執り得るのではないか。
  • 着荷主と運送事業者間に明示的な契約関係がなくとも、着荷主の強い指示や管理の下で実運送事業者に役務提供をさせている実態がある場合、着荷主と運送事業者間に取引関係を認めて規制対象と整理することも考えられるのではないか。

5. 型取引の在り方

(1) 下請法の見直し(下請法の改正)

現行の下請法では金型を発注する行為が下請法の対象とされていますが、金型以外にも、例えば木型や樹脂型等や一部の治具についても、製造する物品と密接な関連性を有するとともに、他の物品の製造のために用いることができないものについては金型と異なることはないため、本報告書は、木型その他専ら当該物品の製造の用に供されるものとして適切な物品を規則等で具体的に定めるなどして追加していくことが適切であるとしています。

(2) 独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直し

近年、金型等の無償保管を行ったとする下請法違反の勧告事例が複数生じているところ、現行の下請法運用基準には、発注者側に所有権がある金型を長期間無償保管させる場合には「不当な経済上の利益の提供要請」に当たる旨の記載があるものの、金型の所有権が下請事業者にある場合の取扱いに関する記載はありません。
そこで、本報告書は、現行の下請法運用基準を見直し、金型の所有権の所在にかかわらず型の無償保管要請が下請法上の問題となり得る旨整理し、どのような場合に下請法上問題となるのか、発注者や受注者にとって分かりやすい基準を明記すべきとしています。

6. 知的財産・ノウハウの取引適正化

受注者側が元来保有していたり、取引によって取得したりした知的財産権やノウハウを、無償又は低廉な価格で発注者側に帰属させる行為は、優越的地位の濫用や下請法における買いたたきや不当な経済上の利益の提供要請として問題となり得ますが、これまで公正取引委員会が実態調査を踏まえ報告書を発出したり、中小企業庁がガイドライン等の提示を行ってきた(※6)にもかかわらず、依然として知的財産権の不当な侵害が生じているとの報告がありました。
そこで、本報告書は、今後、幅広い業種を対象とした実態調査を改めて行い、調査結果を踏まえ、独占禁止法のガイドラインや下請法運用基準の見直しにつなげることが必要であるとするとともに、ガイドラインで示した内容が遵守されるような実効性のある取組も併せて講じていくべきであるとしています。

※6 公正取引委員会では、2019年6月、「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」を公表し、また、中小企業庁では2020年に「知的財産取引に関するガイドライン・契約書のひな形」を公表し、2024年10月には当該ガイドライン等の改正を行っています。

7. その他(下請法の改正)

(1) 下請という用語

現行の下請法における「下請」という用語につき、本報告書は、「下請」という用語を時代の情勢変化に沿った用語に改める必要があるとしています。

(2) 下請法の適用基準

現行の下請法は、適用の対象となる下請取引の範囲を①事業者の資本金の額と②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の両面から定めています(下請法2条)が、事業規模の大きな事業者であるものの、少額の資本金で設立されていたり、減資をしたりすることで下請法の親事業者の対象とならない事例や、取引先に増資を求めることにより下請法の適用を逃れる事例などな資本金基準のみで対象事業者を画していく制度の問題点が指摘されていました。
そこで、本報告書は、現行法の資本金基準に加えて、従業員基準(300人(製造委託等)又は100人(役務提供委託等)の基準を軸に検討することが適当であるとしています。

(3) 電磁的な書面交付

現行の下請法では親事業者にいわゆる発注書面の交付が義務づけられており、電子メールなどの電磁的方法で提供する場合には下請事業者の事前の承諾が必要とされています(下請法3条)。しかしながら、広く普及していると考えられる電子メールによることが下請事業者に大きな支障を生じさせるものではないと考えられることから、本報告書は、下請事業者の承諾の有無にかかわらず、必要的記載事項を電磁的方法により下請事業者に対し提供することができるように対応すべきであるとしています。

(4) 遅延利息

現行の下請法では、遅延利息の対象行為は支払遅延に限られています(下請法4条の2)が、本報告書は、下請代金を減額された部分について遅延利息の対象に加えることが適切であるとしています。

(5) 既に受領拒否、支払遅延又は報復措置がなくなっている場合の勧告

現行の下請法では、受領拒否、支払遅延及び報復措置が継続している場合に勧告するものとしており、既に行為がなくなっている場合には勧告できないとされています(下請法7条第1項)。しかしながら、勧告の内容として再発防止策なども含まれ得ることから、本報告書は、これらについて、過去に当該行為をした事実が認められた場合でも勧告することができるように対応することが適切であるなどとしています。

(6) 執行に係る省庁間の連携の在り方

事業所管省庁は、所管する業界構造・取引実態に精通し、設置法・事業法に基づき業界の健全な発展を実現する役割を有していることなどから、本報告書は、事業所管省庁に対して、現行の下請法においても付与されている調査権限(下請法9条3項)に加えて、下請法上問題のある行為について指導する権限を付与する旨を規定することが有益であるとともに、下請事業者が申告しやすい環境を確保すべく、報復措置の禁止(下請法4条1項7号)の申告先として、現行の公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え、事業所管省庁の主務大臣を追加することが必要であるとしています。

8. おわりに

以上のとおり、本報告書は各問題について様々な考えを示しており、今後、パブリックコメントの結果も踏まえ、下請法の改正や、独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直しなどが行われると思われます。
また、本報告書は、将来的な課題として、①執行力の強化、②デジタル通過での支払に係る整理、③取引の適正化に向けたルールの整備、④面的執行の強化などの課題を挙げており、これらについては今後も更なる検討が継続されることとなっております。
企業においては、これらの動きを注視し、適切な対応を取ることが求められます。