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セミナー
事務所概要・アクセス
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<目次>
1.はじめに
2.再販売価格拘束規制の概要
(1)独占禁止法の規定
(2)再販売価格拘束の具体例
(3)再販売価格拘束規制違反への制裁
3.再販売価格拘束規制への対応
(1)再販売価格拘束規制違反とならない場合
(2)公正取引委員会による相談事例集において再販売価格拘束規制違反とはならないとされた事例
(3)医療機器メーカーとしての留意点
4.おわりに
昨年、公正取引員会が医療機器販売会社に対して独占禁止法19条(不公正な取引方法第10項(抱き合わせ販売等))に違反するとして、排除措置命令を行ったことがニュースとなった。また、2019年のことではあるが、医療機器販売会社3社に対し、独占禁止法19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引))に違反する疑いがあるとして、立ち入り検査が行われている。
独占禁止法への対応は企業にとっては極めて重要な問題であるため、慎重な対応が求められる。
実務においては、医療機器を販売するにあたり、医療機器メーカーから医療機関へ直接販売される場合もあるが、通常は販売代理店を通じて流通することが多い。販売代理店を通じて医療機器を販売する場合、独占禁止法上の再販売価格拘束規制に抵触する可能性があるため、規制違反とならないよう留意する必要がある。
本ニューズレターでは、医療機器の販売において問題となる独占禁止法につき、再販売価格拘束規制を概説するとともに、規制への対応について述べたい。
独占禁止法2条9項4号により、自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、①相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束する、又は②相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させる条件を付けて、当該商品を供給することは、「不公正な取引方法」に該当し、同法19条により原則として禁止される。
※「拘束」の意義につき、最判昭和50年7月10日は、「必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に経済上なんらかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる」とする。なお、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)では、経済上の不利益に限らず、「事業者の何らかの人為的手段によって、流通業者が当該事業者の示した価格で販売することについての実効性が確保されている」場合をいうとされていることに留意する必要がある。
※「販売価格を定め」につき、審判審決平成22年6月9日は、「一定の販売価格を定める場合のみならず、販売価格の下限を定める場合も含む」とする。流通・取引慣行ガイドラインによれば、例えば「近隣店の価格を下回らない価格」といった価格の定め方を拘束する場合も対象となる。
※「正当な理由」につき、流通・取引慣行ガイドラインは、「事業者による自社商品の再販売価格の拘束によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され、それによって当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、当該競争促進効果が、再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合において、必要な範囲及び必要な期間に限り、認められる」とする。もっとも、これまでの審判決例において、再販売価格拘束の事案で「正当な理由」が認められたものはなく、要件充足は困難であると考えられる。
流通・取引慣行ガイドラインは、再販売価格拘束に該当するケースとして、以下の具体例を示している。
ア 価格の提示方法
(ア)確定した価格
(イ)希望小売価格の○%引き以内の価格
(ウ)一定の範囲内の価格(□円以上△円以下)
(エ)事業者の事前の承認を得た価格
(オ)近隣店の価格を下回らない価格
(カ)一定の価格を下回って販売した場合には警告を行うなどにより、事業者が流通業者に対し暗に下限として示す価格
イ 価格拘束の方法
(ア)文書又は口頭による合意
a 文書又は口頭による契約において定める
b 流通業者に同意書を提出させる
c 取引の条件として提示し、条件を受諾した流通業者とのみ取引する
d 売れ残った商品は値引き販売せず、当該事業者が買い戻すことを取引の条件とする
(イ)何らかの人為的手段を用いる場合
a 出荷停止等の経済上の不利益を課し、又は課す旨を流通業者に対し通知・示唆する
b リベート等の経済上の利益を供与し、又は供与する旨を流通業者に対し通知・示唆する
c 販売価格の報告徴収、店頭でのパトロール、派遣店員による価格監視、帳簿等の書類閲覧等を行う
d 商品に秘密番号を付すなどによって、安売りを行っている流通業者への流通ルートを突き止め、当該流通業者に販売した流通業者に対し、安売り業者に販売しないように要請する
e 安売りを行っている流通業者の商品を買い上げ、当該商品を当該流通業者又はその仕入先である流通業者に対して買い取らせ、又は買上げ費用を請求する
f 安売りを行っている流通業者に対し、安売りについてのその他の流通業者の苦情を取り次ぎ、安売りを行わないように要請する
ア 行政処分
再販売価格拘束規制に違反する行為があった場合、独占禁止法20条により、公正取引委員会は事業者に対し、当該行為の差止め契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。また、同法20条の5により、違反行為が繰り返された場合には課徴金納付命令の対象となる。
イ 刑事処分
排除措置命令等が確定した後に事業者がこれに従わない場合、独占禁止法90条3号・95条1項2号・95条の2により、法人、法人の代表者及び行為者に対して罰金刑が科せられる。
ウ 民事上の責任
排除措置命令等が確定した場合、独占禁止法25条により、事業者は被害者に対し損害賠償義務を負い、故意や過失がないことを理由としてその義務を免れることができない。
以下の①及び②の場合には、再販売価格拘束規制違反とはならないと考えられている。
① 事業者が設定する希望小売価格や建値は、流通業者に対し単なる参考として示されているものである限りは、そもそも価格を拘束しているわけではないため、それ自体は問題となるものではないとされている。
② 流通・取引慣行ガイドラインによれば、「事業者の直接の取引先事業者が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみて当該事業者が販売していると認められる場合」には、当該事業者が当該取引先事業者に対して価格を指示しても、通常違法とはならない。具体的には、「メーカーと小売業者(又はユーザー)との間で直接価格について交渉し、納入価格が決定される取引において、卸売業者に対し、その価格で当該小売業者(又はユーザー)に納入するよう指示する場合であって、当該卸売業者が物流及び代金回収の責任を負い、その履行に対する手数料分を受け取ることとなっている場合」が挙げられている。
① A社(医療機器メーカー)が、B会(医療法人)との間で、当該B会傘下の医療機関に医療機器を販売する際の価格を取り決め、卸売業者に対し、取り決めた価格で販売するように指示することについて、①A社が卸売業者に対して指示する価格は、A社がB会との間で取り決めた、B会所属の医療機関に販売する価格であることから、実質的には、A社がB会所属の医療機関に直接販売し、卸売業者は両者の取次ぎとして機能していると認められること、②A社が卸売業者に販売価格を指示するのは、あくまでもB会に所属する医療機関向けのみであり、他の医療機関向け製品の販売価格まで拘束するものではないことを理由に直ちに独占禁止法上問題となるおそれはないとされている(公正取引委員会平成16年度相談事例集「医療機器メーカーによる卸売業者への価格の指示(事例1)」)。
② 医療機器等の販売業者が、卸売業者(以下「ディーラー」という。)を通じて特定の病院等のエンドユーザ(以下「特定エンドユーザ」という。)に販売する医療機器等について、特定エンドユーザとの間で商品の販売価格・数量を決定し、ディーラーに対して、当該価格・数量での特定エンドユーザへの販売を指示することは、①事業者が病院等の特定エンドユーザとの間で直接交渉を行い、対象とする商品とその販売価格・数量を決定し、卸売業者に対して、当該商品をその価格・数量で特定エンドユーザに販売することを指示するものであること、②卸売業者は、商品の物流及び代金回収のみの責任を負うものであることから、再販売価格拘束に該当しないとされている(公正取引委員会令和4年度相談事例集「医療機器等の販売事業者による卸売業者への販売価格の指示(事例3)」)。
上記を踏まえ、医療機器メーカーとしての留意点について述べる。
まず、販売代理店に対して希望小売価格等を通知する場合には、「正価」、「定価」といった表示や金額のみの表示ではなく、「参考価格」、「メーカー希望小売価格」といった非拘束的な用語を用いるとともに、通知文書等において、希望小売価格等はあくまでも参考であること、流通業者の販売価格はそれぞれの流通業者が自主的に決めるべきものであることを明示することが望ましい。
上記①の相談事例集における公正取引委員会の回答のとおり、医療機器メーカーが医療機関と直接価格交渉をする場合であっても、販売代理店が単なる取次ぎとして機能していれば、再販売価格拘束には直ちには該当しないとされているため、実態について検討する必要がある。
※なお、上記場合であっても、再販売価格拘束該当性に疑義が生じないよう、医療機関との直接の価格交渉は医療機器メーカーが行うこと、販売代理店は商品の物流及び代金回収のみの責任を負い、その履行に係る手数料を受け取ることといった事項を販売代理店との契約書に明記することが望ましい。
例えば、「第●条(代理店業務)販売代理店は、商品の物流及び代金回収を行う。ただし、医療機関との直接の価格交渉は医療機器メーカーが行い、販売代理店はこれを行わないものとする。第●条(手数料の支払い)医療機器メーカーは、販売代理店に対し、第●条(代理店業務)の履行に係る手数料を支払う。」と明記することが考えられる。
医療機器の販売にあたって販売代理店を利用することは、医療機器メーカーの市場参入コストや参入に伴うリスクを軽減するとともに、流通過程における負担を軽減するため有用である一方、販売代理店との契約やその機能につき検討する必要がある。
以 上