〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階
東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分
東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)
セミナー
事務所概要・アクセス
事務所概要・アクセス
<目次>
1.店舗賃貸借契約を中途解約する場合の違約金条項
2.裁判例
3.実際に解約する場合の対応
たとえば、あるブランドがショッピングセンター内に出店する場合や、建物を賃借して路面店という形で出店する等、商業施設を対象とする賃貸借契約を締結する場合は、事務所として使用する場合の賃貸借契約と比べて賃貸借期間が長期とされることが多くみられます(短くて5年、長い場合は15年など)。
このような期間の定めのある賃貸借契約において、当事者は、契約書中に中途解約条項がなければ期間中に賃貸借契約を解約することはできません(民法618条)。商業施設に関する賃貸借契約の多くは、借主(テナント)による期間内解約を認める中途解約条項を定めていることも多いのですが、同時に、借主側が中途解約を行う場合には貸主側に違約金を支払わなければならないという違約金条項が定められることも多く見受けられます。
この違約金の額については、「月額賃料の1年分」「月額賃料の24か月分」というように、月額賃料の一定期間相当額とする場合も多くみられますが、「残存期間の賃料相当額」とする例も少なからずあります。前述のとおり、店舗賃貸借契約においては、賃貸借期間を15年といった長期間とすることもありますが、借主が店舗を開業して1年経過したところ、開業前に想定していたよりも業績が上がらず、赤字が継続しているなどといった場合、借主としては当然早期に閉店し撤退することも検討せざるを得ません。しかし、そうした場合でも、中途解約を行った場合に高額の違約金を支払わなければならないことを危惧して、不採算店舗であるにもかかわらず賃貸借期間満了に至るまでその店舗での営業を継続するという判断を借主において行うこともあります。
このような違約金条項は、貸主にとっては、次のテナントが見つかるとしても、少なくとも数か月間の募集期間が必要となる以上、その期間の損失(賃料収入にかかる逸失利益)を補填してもらうためのためのものです。ところが、前述のとおり、実際には、「24か月分の月額賃料」「残存期間の賃料相当額」といった、通常想定される損失額(数か月分の月額賃料)を超える額の違約金が定められることが多くあります。
民法上、違約金は、損害賠償額の予定と推定するとされています(民法420条3項)。実際に貸主に生じた損害が予定された賠償額より少なかったとしても、裁判所は、予定賠償額を減額することができず、借主(テナント)側は、原則として定められた額を貸主に支払わなければならず、2020年に改正民法(債権法)が施行される以前の民法においては、その旨が明確に定められていました(2020年改正前民法420条1項後段は、損害賠償額の予定がなされた場合について、「裁判所は、その額を増減することができない。」と定めていました。)。
しかしながら、違約金の額が現実に発生した損害額と比較して著しく多額な場合などは、かかる違約金の定めは暴利行為に該当するとして、公序良俗違反により、その一部が無効となる可能性があります。2020年改正前民法の下においても、公序良俗違反を適用して、違約金条項の一部を無効とし、違約金額を減額した裁判例もありました(このような裁判例を受けて、2020年改正民法は、「裁判所は、その額を増減することができない。」としていた民法420条1項後段の規定を削除しました。)。
以下、関連する裁判例をいくつか紹介します。
この事案では期間4年の建物賃貸借契約が締結されましたが、契約書中の中途解約条項では、「賃借人が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払う」旨が定められていました。
賃借人が、賃貸借開始後わずか10か月で賃貸借契約を解約しため、賃貸人が、残存期間の賃料及び共益費相当額を違約金として請求した事案です。当該建物については、賃借人による契約解約後4か月程度で次の賃借人が入居していました。
結論として、裁判所は、賃料(及び共益費)の1年分を超える部分の違約金の定めを無効としました。
契約期間 | 4年 |
賃貸借終了の時期 | 賃貸借開始後10か月 |
約定の違約金条項 | 残存期間の賃料及び共益費相当額 |
約定の違約金の額 | 約6340万円(賃料及び共益費の3年2か月分) |
新賃借人の有無及び時期 | 解約後4か月程度で次のテナントが入居 |
裁判所が認めた違約金額 | 約1880万円(賃料及び共益費の1年分) |
裁判所の判示 | 「違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もある。」 |
賃貸人が、家電量販店を営む賃借人のために店舗建物及び附属駐車場を建築し、賃借人に賃貸したという事案です。このため、賃借人による中途解約の場合は、賃借人が差し入れた建築協力金の残額及び保証金の全額を放棄する旨の条項が設けられました。ところが、賃借人が破産宣告を受け、就任した破産管財人が当該賃貸借契約を解除したため、賃貸人は上記違約金条項に従って建築協力金の残額及び保証金の全額を返還せず、これらの返還を求めて賃借人の破産管財人が提訴した事案です。賃貸人は、賃借人の破産管財人による賃貸借契約解除の約4か月後には、別の家電量販店との間で新たな賃貸借契約を締結していました。
裁判所は、最終的に、上記違約金条項をその半額の限度で有効と判示しました。
契約期間 | 20年 |
賃貸借終了の時期 | 賃貸借開始より2年3か月後 |
約定の違約金条項 | 建築協力金の残額及び保証金の全額を放棄 |
約定の違約金の額 | 合計約2億8000万円(月額賃料の81か月分) |
新賃借人の有無及び時期 | 解約後4か月経たずに次のテナントが入居 |
裁判所が認めた違約金額 | 約1億4000万円(月額賃料の約40か月分) |
裁判所の判示 | 「もし本件放棄条項をそのまま適用して建築協力金及び保証金残金全部を賃貸人が支払わなくともよいとなると、結果的に被告は3億円の建築費を要した本件建物を賃借人の破産という偶然の事情により実質的にほとんど自らの出捐なく手に入れたことになり、賃借人の事情とあまりに均衡を失する感を否めない。」「このような(略)こと等を総合考慮し、違約金の金額としては、本件放棄条項で放棄が予定された建築協力金及び保証金の半額の限度で有効であり、それを超える部分は無効と解するのが相当である。」 |
こちらは、賃借人による中途解約の事案ではなく、賃借人の債務不履行(賃料未払)により賃貸人が賃貸借契約を解除した事案です。テナントは歯科医院であり、賃貸借期間は5年とされていたところ、賃借人の賃料未払により賃貸借開始後3年3か月後に賃貸人が契約を解除しました。賃貸借契約には、賃借人が契約を解除された場合には、契約残存期間の賃料相当額を違約金として支払う旨の条項がありました。
しかし、裁判所は、契約残存期間21か月分の賃料相当額の違約金を、6か月分相当額に減額しました。
契約期間 | 5年 |
賃貸借終了の時期 | 賃貸借開始後3年3か月 |
約定の違約金条項 | 残存期間の賃料相当額 |
約定の違約金の額 | 1260万円(賃料の21か月分) |
新賃借人の有無及び時期 | 不明 |
裁判所が認めた違約金額 | 360万円(賃料の6か月分) |
裁判所の判示 | 「違約金の額は,賃貸人が新たな賃借人を確保するために必要な合理的な期間に相当する賃料相当額を超える違約金を定めるものであり,合理的な期間の賃料相当額を超える限度では,著しく賃借人に不利益を与えるものとして,無効と解すべきである。そして,新たな賃借人を確保するための合理的な期間は,それが診療所という限定された目的であることを考慮しても,せいぜい6か月程度と見るのが相当である。」 |
こちらも、中途解約ではなく賃借人の債務不履行(賃料不払)により賃貸人が賃貸借契約を解除した事案です。
飲食店を経営する賃借人の債務不履行(賃料未払)を理由として賃貸人が契約を解除しましたが、賃貸借契約書には、「賃借人が契約を解除された場合には、契約解除の日の翌日から上記契約の賃貸借期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払う」旨の条項がありました。
当該条項に基づき、賃貸人が契約残存期間(34か月)の賃料相当額の支払を求めたところ、裁判所は、賃料の6か月分に限って支払を認めました。
契約期間 | 5年 |
賃貸借終了の時期 | 賃貸借開始後約2年2か月 |
約定の違約金条項 | 残存期間の賃料相当額 |
約定の違約金の額 | 8500万円(賃料の34か月分) |
新賃借人の有無及び時期 | 不明 |
裁判所が認めた違約金額 | 約1500万円(賃料の6か月分) |
裁判所の判示 | 「賃貸人の主張のとおりであるとすると,賃借人(略)が本件建物の使用を全くしなくなったにもかかわらず当初の賃貸借期間の終期までの賃料相当額の全額を負担することになり,一方で賃貸人は(略)いつでも新たな賃借人を探し,その者から賃料を獲得することにより二重の利益を得ることを可能とすることになる。上記結論は,賃貸人が,賃借人退去後,新たな賃借人を探すために必要と思われる相当期間賃料収入を得られないことによる損害額をはるかに上回るものであって,暴利行為に当たるというべきである。」 |
いわゆるメディカルモールの事案であり、賃借人は歯科医院でした。この事案では、賃貸借契約が締結されたものの、賃貸借開始前に、賃借人側が約定の保証金を支払わなかったとして賃貸人により賃貸借契約が解除されたという点に特徴があります。違約金条項は、保証金全額相当額及び賃貸借期間の賃料全額相当額というものであり、賃貸借開始前に解除されたため、契約によって算出される違約金は賃料の130か月分に相当するものでした。
裁判所は、最終的に、賃料の30か月分に限って違約金の支払を認めました。
契約期間 | 10年 |
賃貸借終了の時期 | 賃貸借開始前 |
約定の違約金条項 | 保証金全額相当額(賃料の10か月分相当額)及び賃貸借期間(10年)の賃料全額相当額 |
約定の違約金の額 | 1億2480万円(賃料の130か月分) |
新賃借人の有無及び時期 | 解除から約5か月後には新たな賃借人が入居。 |
裁判所が認めた違約金額 | 2880万円(賃料の30か月分) |
裁判所の判示 | 「一般に,相当程度の規模を有する店舗・事務所等の賃貸借において,賃貸人が建物賃貸借契約を解除した後に新たに賃料を得るまでに要する期間(略)としては6か月程度を要するものと考えられるところ,現に,本件においては,(略)新たな賃借人が本件区画に入居し,原告は賃料を受領することになったから,この6か月程度の違約金の収受は相当であり,これより多額の違約金の収受も,契約自由の原則によれば,直ちに明らかに過大であるとはいえない。」「しかしながら,(略)上記6か月分の賃料相当額の5倍に当たる3 0か月分の賃料相当額(2 8 8 0万円)を超える違約金額の請求は,明らかに過大であり,本件違約金条項の無効又は信義則違反に該当するものとして,許されないというべきである。」 |
上記において紹介した裁判例のほか、裁判例の中には、賃貸借契約において定められた違約金を全く減額しなかった例もあります。もっとも、それらの裁判例は、賃貸建物が汎用性のない特殊な仕様の建物であるため新たな賃借人が見つかっていない事案であったり、あるいは、賃貸借契約の残存期間が短いため、約定条項どおりの違約金を認めても賃貸人に生じるであろう損害と比べて違約金の額が著しく過大であるとは評価できない事案が多いといえます。
これに対して、次の賃借人がすでに見つかっていたり、あるいは、仮にその時点で見つかっていなくとも、賃貸建物の仕様や立地条件からしてさほど遠くない時期に次の賃借人が決まるであろうと見込まれるような事案において、実際に賃貸人に生じるであろう損害額と比べて違約金の額が著しく過大な場合は、違約金条項が一部無効とされ、違約金の額が減額される傾向にあるといえます。
上記のとおり、裁判例によれば、契約条項どおりの違約金を認めず、一部減額をした例がいくつもあります。
賃貸人としても、現実に生じた損害さえ補填できれば、裁判を行ってまで契約どおりの違約金額に固執する理由もないため、賃借人が賃貸借契約を途中解約する場合において違約金条項がある場合でも、賃貸人と交渉をすることにより違約金を減額できる可能性があります。
特に、あるブランドの店舗を全国的に展開している小売業者が、当該店舗を閉店する場合などは、累積される違約金の額も相当な額に上るため、交渉によって違約金を減額することのメリットは大きいといえるでしょう。
なお、前述のとおり、2020年改正民法は、「裁判所は、その額を増減することができない。」としていた民法420条1項後段の規定を削除しました。しかし、これにより、実際の損害額を上回る違約金の額を定めた条項が直ちに無効となるわけではありません。2020年改正後の民法でも、違約金の条項が実際に生じた損害額と比して著しく過大な場合に、違約金条項の一部を無効とするという改正前民法における裁判実務が引き続き適用されることになると考えられます。
以 上