〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階

東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分

東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)

ニューズレター
Newsletter

2025.12.09

賃料の増減請求

業務分野

執筆弁護士

<目次>
1.はじめに
2.どのような場合に行使できるか
(1)現行賃料を定めた際の「事情の変化」により現行賃料の額が「不相当になった」ことが必要である
(2)「相当期間の経過」は、必須ではない
3.賃料増減請求権行使後の流れ
(1)請求権の行使→当事者間の協議→民事調停の申立て
(2)賃料増減請求権が行使された後の賃料の授受
4.相当賃料額の決定のプロセス

1. はじめに

借地借家法の適用のある建物や土地の賃貸借においては、貸主・借主の双方に、賃料増減請求権が認められています。
これは、法律上に定める要件が満たされていることを前提に、貸主または借主が、賃貸借契約において定められている賃料の額を、相手方当事者の承諾なしに一方的に、改定することができる権利です。
本来、賃料は賃貸借契約中の重要な要素であり、その変更(改定)は貸主・借主という当事者の合意があって初めてなされるものです。しかし、建物や土地といった不動産の賃貸借は長期間に亘って継続することが多いところ、そのような長期の間に、市中の賃料相場や経済事情が変動し、当事者が過去に合意した賃料額が当事者が考えていた水準に見合わないものになってくることもあり得ます。それにもかかわらず、当事者の一方がその改定に合意しない場合は、不相当な水準の賃料がその後も継続することとなってしまいます。このような事態を是正するために、借地借家法の適用のある賃貸借契約(つまり、建物賃貸借か、建物所有を用途とする土地賃貸借です)においては、法律上、相手方当事者の承諾なしに貸主又は借主が一方的に賃料を改定できる権利が認められています(借地借家法第11条及び第32条)。
当事務所は、この賃料増減請求権に関する裁判(調停及び訴訟)について豊富な経験を有していますので、以下、賃料増減請求権に関して実務上重要となることが多い点について、説明いたします。

2. どのような場合に行使できるか

(1)現行賃料を定めた際の「事情の変化」により現行賃料の額が「不相当になった」ことが必要である

 賃料増減請求権を定める借地借家法第11条及び第32条は、増減請求権を行使するための要件として、「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減」「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動」「近傍同種の建物の借賃に比較」により賃料の額が「不相当となった」こととされています。もっとも、これらの諸事情はあくまでも例示に過ぎません。賃料増減請求権に関しては多くの裁判例がありますが、これらを見ると、賃料を合意した当時、貸主・借主間に特殊な事情があり、そのために賃料の額を相場よりも低く設定した(あるいは高く設定した)が、後にかかる特殊事情がなくなった場合に、賃料増減請求を認めている例もあります。
 但し、いずれにしても、現行賃料を定めた際の諸事情が後に変動したことにより、賃料額が「不相当になった」ことが必要です。当初から相場よりも低い賃料額で合意していた場合に、その後、経済事情その他賃料を定める際の諸事情が変動していないにもかかわらず、現行賃料が相場よりも低いからといって相場の水準に改定することを請求できるわけではありません。

(2)「相当期間の経過」は、必須ではない

 また、1.で述べた賃料増減請求権が認められた趣旨からすれば、現行賃料が適用されてからある程度の期間(相当期間)を経過しないと、増減請求権の行使は認められなさそうです。しかし、相当期間の経過は賃料増減請求権の行使が認められるための要素の一つに過ぎず、現行賃料を合意してから相当期間が経過していなくとも、経済事情の変動等により現行賃料が「不相当となった」のであれば、賃料増減請求権を行使することが認められます。裁判例上は、自動増額特約に基づき改定された現行賃料の適用後、1年4か月後に賃料増額請求がなされた事案で、現行賃料の約1.6倍の増額を認めた例があります。

3. 賃料増減請求権行使後の流れ

(1) 請求権の行使→当事者間の協議→民事調停の申立て

 賃料増減請求権の行使は、必ずしも書面でなくともよいのですが、請求をしたという事実、及びその内容(改定賃料額等)を明確にするため、内容証明郵便により通知を行うのが通常です。当事務所でも経験がありますが、その通知内容が、借地借家法で定められた賃料増減請求権の行使であるかどうかが後に裁判で争われることも多いため、その記載には十分に注意し、それが賃料増減請求権の行使であることを明確にする必要があります。また、いつからの賃料の増減を請求するかも明確にする必要があります。なお、過去に遡って賃料の増減を請求することはできません。実務上は、翌月分の賃料からの増減を請求することが多いかと思われます。
 賃料増減請求権行使後、通常は、当事者間で改定の是非、及び改定額についての協議が行われますが、かかる協議が整わない場合、当事者は、裁判を行うことになります。
 裁判を行う場合、当事者は、訴訟を提起する前にまず裁判所での民事調停を申し立てなければならず、裁判所での調停を経ても当事者間の協議が整わない場合に、訴訟を提起して裁判所による相当賃料額の判断を求めることができます(調停前置主義)。民事調停は、通常、申立てから調停不成立となるまでに半年程度はかかります。
 調停を経ずに訴訟を提起した場合は、これを受理した裁判所は、原則として、事件を調停に回すことになります。しかし、従前の経緯などにより、調停を行っても調停による解決が見込めないような事案の場合は、事件を調停に付さずに、訴訟を継続することが認められることがあります。当事務所が取り扱った案件でも、調停を経ずに訴訟によって審理をすることが認められた事案があります。

(2) 賃料増減請求権が行使された後の賃料の授受

 賃料増減請求権が行使された後も、当事者間の協議が成立するまで、あるいは裁判所による相当賃料額を確認する判決が確定するまでは、相手方当事者は、とりあえず従前と同額の賃料を支払い続ける(あるいは受領し続ける)ことができます。但し、その場合、裁判所が判決により賃料の改定を相当と認めた場合は、相手方当事者は、賃料増減請求権が行使された後に支払われた賃料の額と、裁判所が認めた改定賃料額との差額(不足額または過払額)に年1割の利息を付した額を支払わなければなりません(借地借家法第11条第2項・第3項、及び同法第32条第2項・第3項)。賃料増減請求権にかかる裁判は、調停を経て判決で確定するまで数年かかることも多いため、この利息は無視できない額になることもままあります。

4. 相当賃料額の決定のプロセス

 賃料増減請求にかかる紛争が裁判(調停、さらに訴訟)にまで至ることが想定される場合、当事者(特に賃料増減請求を行った側)の多くは、自己の主張する改定額を根拠づけるため、不動産鑑定事務所に依頼して継続賃料の鑑定を行います。この継続賃料というのは、すでに賃貸借契約を締結している当事者間において成立するであろう適正な賃料のことをいい、これから契約を締結する当事者間において成立するであろう適正な賃料(いわゆる相場賃料のことであり、鑑定上は「正常賃料」あるいは「新規賃料」と呼ばれます)とは異なります。
 継続賃料は、(詳細は割愛しますが)差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法という4つの手法のうちの複数の手法を用いて算定されます。もっとも、当事務所の経験上、継続賃料の鑑定において賃貸事例比較法が用いられることは極めて稀です。
 このように、賃貸借の当事者は、それぞれ鑑定事務所に依頼して継続賃料の鑑定評価書を裁判所に提出し、自己が主張する適正な賃料額を根拠づけようとしますが、当事者双方から鑑定評価書が提出された場合、裁判所は、そのどちらの内容が正しいか(あるいはどちらも正しくないのか)判断することができないため、最終的には、裁判所の選任する不動産鑑定士(法的には「鑑定人」と呼ばれます)により継続賃料の鑑定評価が行われるのが一般的です。
 鑑定人による鑑定評価がなされた後、裁判所は、これを踏まえて最終的な相当賃料額を認定します。鑑定人の鑑定評価がそのまま採用されることも多いのですが、当事者の主張が採用された結果(あるいは一部採用された結果)、鑑定人の鑑定評価ではなく当事者が提出した鑑定書が採用されたり、鑑定人の鑑定評価が一部修正されたりすることもあります。
 裁判例によると、鑑定評価額と現行賃料とが1%程度の乖離であっても増減請求が認められています。

以 上