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2026.02.04

賃料の増減請求(2) 賃料改定特約

業務分野

執筆弁護士

<目次>
1.はじめに
2.概要
(1)賃料改定特約に関する原則
(2)例外~定期借家の場合
3.様々な賃料改定特約
(1)賃料不改定特約
(2)○年毎に賃料を見直す旨の特約
(3)改定幅に上限・下限を付する内容の特約
(4)自動改定特約
4.賃料改定特約を設けるべきか否か

1. はじめに

2025年12月9日付ニューズレターでは、賃料増減請求権の概要について説明いたしました。
今回は、賃料増減請求権の行使に影響を与える賃料改定特約条項について説明いたします。

2. 概要

(1) 賃料改定特約に関する原則

 民法は契約自由の原則をとっています。したがって、賃料の改定について定めた賃料改定条項も、原則として有効です。ただし、借地借家法は、歴史的・類型的に立場の弱い賃借人を保護することを目的とした法律ですので、このような借地借家法の趣旨・目的からは、賃貸借契約において賃料改定特約条項(例えば、賃料を減額しない旨の特約条項)が定められていたとしても、賃借人は、賃料減額請求権の行使を妨げられないとされています(強行法規)。
 一方で、借地借家法は、賃料増額請求権については、一定期間、賃料を増額しない旨の特約条項を認めています(借地借家法第11条第1項ただし書き、第32条第1項ただし書き。このような特約条項は「賃料不増額特約」と呼ばれます。)。法律上は、賃料不増額特約は、「一定の期間」賃料を増額しない旨の特約であることを要件としていますが、裁判例上、この「一定の期間」については賃貸借契約の全期間であることも認められるとされています。また、「一定の期間」を定めなかったとしても不増額特約は無効ではないとされています(裁判例上、この場合は、相当な期間、賃料の増額請求ができないことを定めたものと解されています。)。つまり、「一定の期間」という要件はあまり厳格な要件とはされていません。

(2) 例外~定期借家の場合

 (1)で述べたとおり、賃料を増額しない旨の特約条項は有効ですが、賃料を減額しない旨の特約を設けても、賃借人は賃料減額請求権の行使を妨げられません。
 もっとも、これには例外があります。借地借家法の適用のある賃貸借のうち、賃貸借期間満了時に更新されることのない建物賃貸借契約(定期建物賃貸借)については、賃料を減額しない旨の特約も有効とされています(借地借家法第38条第9項)。現在、特に商業施設に関しては、多くの定期建物賃貸借契約において、このような特約条項が設けられています。

3. 様々な賃料改定特約

以下では、いくつかの賃料改定特約を紹介します。

(1) 賃料不改定特約

 賃貸借契約期間中賃料は改定しない、あるいは賃貸借開始後〇年が経過するまでは賃料は改定しないといった内容の特約です。
 2で述べたとおり、賃貸借期間満了時に契約を更新することのできる賃貸借契約(これを普通賃貸借契約と呼びます)においては、このような特約条項を設けても、賃借人による賃料減額請求権の行使は妨げられません。一方で、賃料増額請求権は行使することができません。
 したがって、このような特約条項が設けられるのは、多くの場合、定期建物賃貸借契約ということになります。

(2) ○年毎に賃料を見直す旨の特約

「地代は3年ごとに当事者間で協議のうえ改定を行うものとする。」といった特約条項は、その3年間は賃料改定をしない旨の賃料不改定特約の一種と考えられています。裁判例においても、複数の裁判例がそのように判断しています。その期間は、賃貸人は賃料増額請求ができない一方、賃借人は、賃料減額請求権の行使を妨げられません。

(3) 改定幅に上限・下限を付する内容の特約

 上記(2)の特約に、改定幅に上限あるいは下限を設ける例もあります。例えば、「賃料は3年ごとに当事者間で協議のうえ改定を行うものとする。ただし、その改定幅は、改定前の賃料の5%を超えないものとする。」「賃料は3年ごとに当事者間で協議のうえ改定を行うものとする。ただし、改定後の賃料は、改定前の賃料からその2%を加減した額を上限又は下限とする。」といった条項です。
 このような特約条項も有効です。もっとも、増額幅に上限を定めた部分については、それ以上に賃料を増額することはできない不増額特約が定められていると考えられるため、賃貸人は上限を超える増額請求権を行使することはできません。一方、減額の下限を定めた部分は、不減額の特約と考えられます。不減額の特約については、前述のとおり、このような特約があっても賃借人による減額請求権の行使は妨げられないため、賃借人は、下限幅を超えた賃料減額請求を行うことも可能です。

(4) 自動改定特約

 また、賃料を経済的な指標に連動させて自動改定する旨の特約条項も有効であり、当事務所の経験上も、このような条項を設けることはよくあります。その際に使用する指標は、借地契約であれば賃貸借の対象である土地の公租公課(固定資産税・都市計画税)の額であることが多く、また、借家契約の場合は消費者物価指数が多く用いられます。消費者物価指数を用いる場合、同指数にはその対象品目ごとにいくつかの種類が設けられていたりするので、どの指数を用いるのか、契約条項において正確に特定する必要があります。
 また、このような自動改定特約において、(3)で説明した上限・下限を設ける場合もあります。

4. 賃料改定特約を設けるべきか否か

 これまで述べてきたとおり、賃料改定特約を設けた場合、賃料増額請求権の行使は特約の内容により制約される一方、賃料減額請求権については、このような特約の内容にかかわらず、行使を妨げられないとされています。
 そうすると、特に賃貸人において、賃借人の賃料減額請求権を制限するような賃料改定特約を定めても法的には意味がないようにも思えます。
 しかし、全く意味がないということはありません。たとえば、いわゆるサブリースと呼ばれる事案では、最高裁は、賃料自動改定特約の存在は、賃料増減額請求の当否や相当賃料額を判断する場合における重要な事情として十分に考慮されるべきである、と判示しました。
 これらサブリースの事案では、不動産業者が、個人などの地主に対して、賃貸マンションなどの建設を持ち掛け、地主に銀行からの借入れを行わせて土地上にマンションを建設させたうえ、地主からマンションを賃借し、もとの賃料を上回る転貸料で多数の転借人に転貸して収益を上げる事業(サブリース事業)を行っていました。地主と不動産業者との間の賃貸借契約には、賃料自動改定特約条項が設けられ、地主は、この条項によって定期的に改定される賃料でもって銀行からの借入金を返済する計画を立てており、不動産業者もそのことは知悉していました。ところが、サブリース事業開始後、不動産業者において想定通りの転貸料にてマンションを転貸することができなかったため、地主に対して賃料減額請求を行ったという事案であり、最高裁は、「賃料不減額特約が存在しても賃借人は減額請求権の行使を妨げられない」という原則に立ちながらも、賃料減額請求権の当否や相当賃料額の判断に際しては、当該特約の存在を十分に考慮すべき、と述べたのです。
 このとおり、具体的事情によっては、賃料改定特約の存在やその内容が、賃料減額請求権の当否や相当賃料額の決定に影響することもあり得るのですから、賃料減額請求権を制約するような賃料改定特約を設けても意味がないということはありません。その賃料改定特約条項が設けられるに至った背景や重要性が裁判所にも明白になるように十分に練ったうえで賃料改定特約条項を設けることには十分な意味があると考えられます。

以 上