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2024.06.26

プロスポーツビジネスに関する法律問題①-放映権

<目次>
1.はじめに
2.放映権は誰に帰属するか
(1)問題の所在
(2)放映権に関連する法的権利
 ア 肖像権(パブリシティ権)
 イ 施設管理権
(3)実務上のポイント
3.放映権契約における留意点

1. はじめに

 一般的に、プロスポーツビジネスにおける収入の柱は、①放映権、②スポンサーシップ、③グッズ販売、④チケット販売と言われている。
 近時は、特に放映権料が高騰しており、例えば、米大リーグの大谷翔平選手の10年7億ドルという契約総額を球団が払えるのは放映権料が理由であると言われている(「『大谷1000億円』放映権が支え」日本経済新聞電子版2023年12月16日)。
 そこで、今回は、その放映権に関する法律問題について解説する。

2. 放映権は誰に帰属するか

(1)問題の所在

 我が国において、放映権は成文法で認められた権利ではない。また、放映権の根拠について示した公刊された裁判例もない。実務上大変大きな価値を有しているにもかかわらず、放映権は、その法的根拠について争いがある(施設管理権説、肖像権説、主催者説等)のが現状である。
 放映権の法的根拠は、プロスポーツイベントを中継するために必要な権利の内容と直接関係するので、重要な問題である。

(2)放映権に関連する法的権利

 プロスポーツイベントを中継するためには、少なくとも、当該プロスポーツイベントの会場にカメラ・中継車等の中継用の機材を持ち込み、その上で、当該プロスポーツイベントに出場するプロ選手のプレー中及びプレー前後の顔及び容姿を撮影し、それらを出場選手の氏名、プロフィール及び成績等と共に用いることが必要である。
 したがって、(i)出場選手に関する権利関係、及び(ii)イベント会場に関する権利関係をクリアにする必要がある。

肖像権(パブリシティ権)

 上記(i)の出場選手に関する権利関係については、ピンクレディ事件最高裁判決(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)が参考になる。
 ピンクレディ事件最高裁判決は、「肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」と判示した。
 上記最高裁判決によると、プロスポーツイベントの中継において選手の肖像等を使用する態様が上記の①から③に該当する場合、肖像権(パブリシティ権)を有する者の許諾を得なければ、肖像権(パブリシティ権)を侵害し、不法行為法上違法となる。
 プロスポーツイベントに出場する選手の肖像が利用されている物品(ブロマイド写真、選手カード等)は有料で販売されていることは争いがないところであるが、プロスポーツイベントの中継映像のほとんどには、画面に大きく出場選手の顔、容姿が、その氏名、プロフィール及び戦績と共に映し出されている。出場選手のファンは、中継映像に応援する選手の顔、容姿等が映し出されることを期待して当該中継番組を視聴する(当該プロスポーツイベントの結果よりも出場する選手の肖像を見たいという顧客は少なからず存在することは争いのないところである。なお、プロスポーツイベントの中継映像には、会場や観客の風景が映し出されていたり、実況が付されていたりするが、会場や観客の風景は添え物にすぎず出場選手の肖像等を離れて独立した意義が認められるものではなく、また、大会の実況も、画面に映し出される選手の動作や状況を説明する内容にすぎず、添え物にすぎない)。
 また、プロスポーツイベントの視聴者は、当該プロスポーツイベントに出場する卓越した技術を持った著名なトップ選手が、一般的なアマチュア選手ではできないようなプレーをし、さらに、トップ選手同士で競い合うことで生ずる筋書きのないドラマを期待して視聴するのである。つまり、著名なトップ選手の肖像等を中継することにより、一般的なアマチュア選手が出場するスポーツイベントの中継との差別化がはかられている。
 このように、プロスポーツイベントの中継において、出場選手の肖像等はそれ自体を独立して鑑賞の対象になり得るものであり、また、出場選手の肖像等により一般的なアマチュア選手が出場するスポーツイベントとの差別化が図られているといえる。
 したがって、プロスポーツイベントの中継は、専ら出場選手の肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的としているといえ、当該中継映像には出場選手の肖像権(パブリシティ権)が及ぶことになる。そのため、プロスポーツイベントを中継するためには、出場選手の肖像権を保有する者から許諾を得る必要がある。なお、通常は、プロスポーツイベントの出場選手に関する肖像権は、選手個人ではなく、選手が所属する競技団体等が保有している。

施設管理権

 上記(ii)のイベント会場に関する権利関係についてであるが、プロスポーツイベントを中継するためには、プロスポーツイベントの会場にカメラ・中継車等の中継用の機材を持ち込む必要がある。これらの中継用機材をプロスポーツイベント会場に持ち込むには、当該会場の施設管理権を有する者の許諾を得る必要がある。したがって、プロスポーツイベントを中継するためには、プロスポーツイベントの会場の施設管理権を有する者(会場の所有者又は所有者から許諾を受けた者)から、許諾を得る必要がある。

(3)実務上のポイント

 法的根拠は上記のとおりであり、プロスポーツイベントの放映権を保有しているといえるためには、(i)出場選手の肖像権と、(ii)プロスポーツイベントの会場の施設管理権を保有している必要があり、逆にいえば、これらの権利を保有している者に放映権が帰属する。もっとも、実務的には、当該プロスポーツイベントの開催に関わる当事者間において、誰に放映権が帰属するかについて合意されているのが一般的である。例えば、プロ野球の放映権は、ホームゲームの球団に帰属し(日本プロフェッショナル野球協約第44条)、Jリーグの放映権は、Jリーグに帰属している(Jリーグ規約第119条第1項)。
 他方、新規に開催するプロスポーツイベントや、過去複数回開催しているものの放映権の帰属が不明確なプロスポーツイベントについては、上記法的根拠を踏まえつつ、誰に放映権を帰属させるかについて交渉することになる。特に、後者(過去複数回開催しているものの放映権の帰属が不明確なプロスポーツイベント)における交渉は、それまでの歴史・経緯、各当事者の関係性等を考慮した上で交渉する必要があるため、合意に至るまでには厳しい交渉が必要となる。当事務所のような放映権帰属交渉の案件に精通した弁護士に相談すべきであろう。

3. 放映権契約における留意点

 それでは、放映権の帰属者がテレビ局及びインターネット動画配信業者との間で放映権許諾契約をする際に、何に留意すべきであろうか。
 まず留意すべきなのは、中継映像の著作権の帰属である。中継映像は、プロスポーツイベントの映像を効果的に表現するために、様々な工夫や手法が用いられ、撮影・編集されていることから、「映像の著作物」に該当するのが通常である(参考裁判例:東京地判平成25年5月17日判タ1395号319頁、最一小判平成15年2月27日税資253号)。そのため、中継映像は、著作権法による保護を受けるので、放映権帰属者であったとしても、中継映像の著作権を保有していなければ当該中継映像を自由に二次利用等することはできない。
 次に留意すべき点は、独占性である。独占的な許諾の場合は、その範囲や例外について、具体的に定めるべきである。例えば、地域・媒体を限定したり、インターネット配信を独占的に許諾する場合には、ハイライト映像を競技団体等のSNSで配信する権利や報道利用する権利を留保することが考えられる。
 また、放映権許諾契約の対象となったプロスポーツイベントが中止になった場合の放映権料の支払義務も問題になる。放映権許諾契約の対象となったプロスポーツイベントが複数の場合には、中止になったイベントが一定数を超えない限り放映権料は減額にならないとか、中止になったイベントが全体に占める割合に応じて減額する等の条件が考えられる。
 その他問題になる点としては、許諾対価(固定額、レベニューシェア等)、許諾地域、許諾媒体、許諾期間・許諾回数、映像の編集権等である。
 上記のような放映権契約の条件をどのように設定するかについては、基本的にはビジネス上の問題ではあるものの、思いも寄らない法的リスクが潜んでいる可能性がある。そのため、交渉の初期段階から弁護士を参加させ、潜在的な法的リスクを検討しながら交渉することが望ましい。当事務所のような放映権契約交渉の案件に精通した弁護士に相談すべきであろう。

以上