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事務所概要・アクセス
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2025年9月1日付日本経済新聞朝刊で、特定目的会社(TMK)の配当に対するシンガポールとの租税条約上の軽減税率の適用の否定が国税当局によって検討されましたが、約3年に及ぶ調査の末、結局、否定されなかったという事例が紹介されました。
事例の概要
報道によれば、事例の概要は、次のとおりです。海外の投資マネーがケイマン諸島をはじめとするタックスヘイブンを経由し、シンガポールの特別目的会社(SPC)に流入し、SPCが日本のTMKに出資しました。TMKがデータセンターや物流施設などの不動産を購入・運営して利益を上げ、シンガポールのSPCに配当しました。
TMKの課税関係
日本の資産流動化法に基づいて設立されたTMKはいわゆる導管型のエンティティであり、一定の条件の下で、支払配当が損金に算入されます(租税特別措置法67条の14)。したがって、収益のすべてを配当すればTMKには課税所得が残らず、法人税はかからないことになります。
TMKの配当の課税関係
TMKの配当については、国内税法の規定上は、支払者が20.42%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しますが(所得税法212条1項、213条1項1号)、シンガポールとの間の租税条約により、シンガポールの居住者である受益者に対しては源泉税率は5%に軽減されます(同条約10条2項)。
大きな税負担の減少
よって、このままでは、海外投資マネーはシンガポール法人を通じて日本のTMKに投資することにより、TMKにおいて法人税の負担がなく、配当についての源泉所得税も5%に軽減されることにより、大きな税負担の減少が可能となります。日本の国税当局からすれば大きな税収の喪失です。
このような事態を防ぐため、最近締結又は改正された租税条約では、損金算入が認められる支払配当については、租税条約上の軽減税率を認めない旨の規定が設けられています(例えば、日米租税条約10条5項)。しかし、シンガポールとの間の租税条約にはそのような規定は入っていません。
BEPS防止措置実施条約上のPPT条項
日本とシンガポールとの間では、多数国間条約であるBEPS防止措置実施条約(MLI)の7条が適用されます。MLIの7条は、租税条約上の特典を受けることが仕組み又は取引の主たる目的の一つであったと判断することが妥当である場合には、そのような場合においても当該特典を与えることが租税条約上の関連規定の目的に適合することが立証されなければ、当該特典は与えられない旨規定しています。これは「主要目的テスト(Principal Purpose Test)」(PPT)と呼ばれています。
国税当局は、今回、このPPT条項の適用を検討しましたが、「シンガポールのSPCに実態があることなどから、租税条約を乱用したとまでは認定できないと判断した」と報じられています。
PPT条項の内容は抽象的であり、適用基準に不明確さが残ると言われています。同じくMLIの7条を採用している他国では、わずかながら既に同条項を適用した事例があったり、同条項の運用方法を整理したガイドラインを策定した国もあるとのことです。また、日本でも、国税当局が同条項の適用に向けた指針の作成を検討していると報じられています。
MLIは2017年に締結され、効力が生じてまだ間もないですが、日本では、国税当局において、同じく抽象的な内容を持つ法人税法132条(同族会社の行為計算の否認)や財産評価基本通達6項の適用を積極的に試みているところであり、PPT条項の運用についても、今後、注視していく必要があると思われます。
以上