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2023.03.02

請求払無因保証の概要と請求に際しての実務上の留意点

1.背景

請求払無因保証(Demand Guarantee)とは、ある取引において取引の一方当事者(受益者)が取引の相手方(保証委託者)の債務不履行を担保する目的で発行される保証状であって、無因保証人が保証状に明記された書類の提示があれば、原因契約と関わりなく、受益者に対して支払を行うことの確約をいう(※1)。
請求払無因保証は、国際的な建設プロジェクトや長期の物品供給契約等を海外の発注者と締結する場合などに広く利用されている。
国際的な枠組みとしては、取引の実情に即した請求払無因保証に関する統一的なルールとして、1992年、国際商業会議所(ICC)により、請求払保証に関する統一規則(Uniform Rules for Demand Guarantees)が制定された。
これを受けて日本国内では、1994年に全銀協が「請求払無因保証取引約定書試案」を制定した(※2)。

※1:全銀協の請求払無因保証取引約定試案第1条では、「私の依頼にもとづき、私の計算において、一定の要件を充足した支払請求書およびその他の書類の提示を条件として、原因契約等とは無関係に、かつ原因契約等に拘束されることなく、貴行が受益者に対して支払いを行うことについての貴行の確約をいう。」と定義される。請求払無因保証(Demand Guarantee、On-Demand Guarantee、On-Demand Bond)のほか、パフォーマンスボンド(Performance Bond)、パフォーマンスギャランティ(Performance Guarantee)、バンクギャランティ(Bank Guarantee)、コーポレートギャランティ(Corporate Guarantee)など様々な名称で呼ばれているが、その解釈に際しては実質をみて判断することになる。
※2:具体的な内容は、金融法務事情1395号41頁以下参照。

前記のとおり請求払無因保証は国際的プロジェクト等に利用されることが多いが、これまでのところ、日本国内の取引においては、公共工事など限られた範囲で利用されているにとどまっている。もっとも、請求払無因保証が利用されるケースは相当数あり、実際、当事務所も最近のみでも請求払無因保証に係る案件に複数関与している。コロナ禍において、海外プロジェクトの遅延に起因する損害に関して、無因保証人から即座の支払を受けるという意味で請求払無因保証が機能した実例もある。
日本における請求払無因保証に係る裁判例の蓄積は乏しいが、請求払無因保証の解釈が正面から問題となった、公刊されている唯一の裁判例として、大阪高判平成11年2月26日(金融・商事判例1068号45頁)・神戸地判平成9年11月10日(判例タイムズ984号191頁)がある(※3)。

※3:当事務所が受益者を代理して、日本の造船会社との間の造船契約における造船代金前払返還債務について保証状を発行した銀行に対して、保証状の保証限度額内であった既払いの前払金に関し、保証状に基づき同前払金相当額の保証債務の履行を請求した事件である(準拠法は英国法)。同事件では、保証状の無因保証該当性が問題となったところ、当該保証状にオン・ディマンド性(一定の形式を備えた請求のみによって支払をすべきとされていること)を示す文言が含まれていることや英国判例の先例等を踏まえて、日本の裁判所により無因保証に該当すると判断された。

2.請求払無因保証の概要

(1)民法上の保証との違い

請求払無因保証と民法上の保証(民法446条)との違いは、主たる債務に対する付従性の有無にある。
すなわち、民法上の保証においては、債権者の保証人に対する保証債務履行請求に対して、保証人は、主たる債務者が債権者に対して主張することができる原因契約に係る抗弁を主張することができる(民法457条2項)。
他方で、請求払無因保証においては、無因保証人は、受益者からの請求に対して、保証委託者が受益者に対して主張することができる原因契約に係る抗弁を主張することができない。
そのため、無因保証人は、原因契約上の債務不履行の有無にかかわりなく、保証状に記載された要件を充足した請求がされる限り、受益者に対し、保証状に記載した金額の支払義務を負う。
このような性質の請求払無因保証について、日本企業と取引をする海外企業等が、日本の銀行を無因保証人として請求払無因保証を発行する場合における日本法上の効力を懸念されるケースが散見されるが、下記(2)で述べるような機能を有し、実質的合理性があることから、契約自由の原則に基づき有効性には問題ないと解されている(※4)。もっとも、その一般的な有効性は認められるとしても、具体的な事案において請求払無因保証に該当するか否かは、当該保証状の文言に大きく依存するため、その解釈については当該保証状の具体的な文言に基づく慎重な検討が必要となる。具体的な事案において日本法に基づく請求払無因保証に該当するか否かについて明確化を図りたい場合には、法律専門家の意見書等の取得を検討する必要がある。

※4:江頭憲治郎「請求払無因保証取引の法的性質」金融法務事情1395号7頁

(2) 機能


上記のような性質の請求払無因保証には、以下のような機能がある(※5)。
① 受益者にとって、原因契約上の債務の存否につき受益者・保証委託者間に争いがあっても、保証状に記載された要件を充足した書類さえ提出すれば、無因保証人から迅速に支払を受けることができる(いわゆる「流動性機能」)。
② 無因保証人は、保証委託者の原因契約上の債務の存否にかかわらず、請求書類が保証状に記載された要件を充足しているか否かのみを点検して受益者に支払をし、保証委託者に対してその金額の償還を請求できる。そのため、無因保証人にとって、原因関係上の争いに巻き込まれることを避けることができる(原因関係上の争いは、保証委託者が受益者に対して提起する訴訟等を通じて最終的に解決される。いわゆる「転換機能」)。

※5:江頭憲治郎「請求払無因保証取引の法的性質」金融法務事情1395号7頁

3.無因保証状に基づく請求に際しての実務上の留意点

(1)権利濫用の抗弁に基づく仮処分リスク

無因保証人は、受益者からの保証状に基づく請求に対して、上記のとおり保証状に記載された要件が充足される限り、支払に応じることになる。
もっとも、以下の要件を充足する場合には、日本の裁判所が、受益者による権利濫用として、無因保証人が支払を拒絶することができると判断する可能性が高い(いわゆる「権利濫用の抗弁」。※6)。

(i). 事実が無因保証人の主張するとおりであるとすれば、原因契約上の債務が不存在であることが、法解釈問題としては争う余地がないほど明白であること
(ii). 当該事実が無因保証人の主張するとおりであることにつき、無因保証人の手許に主張を裏づける決定的な証拠があること
(iii). 当該事実が、取引の通常の過程ではめったに生じないほど重要なものであること

※6:江頭憲治郎「請求払無因保証取引の法的性質」金融法務事情1395号9頁

かかる権利濫用の抗弁が成立する場合には、無因保証人がその抗弁を提出し受益者の請求を拒むことは、無因保証人の義務であると解され(民法644条)、そのような場合には、保証委託者は、無因保証人の支払を差し止めるため、支払禁止の仮処分命令の申立てをすることができると解釈され得る(※7)。
そのため、受益者としては、保証状に基づく請求に際し、原因契約上の債務が不存在であることが明らかであるかどうかなど、上記権利濫用の抗弁が成立する余地がないかどうかに留意する必要がある。

※7:江頭憲治郎「請求払無因保証取引の法的性質」金融法務事情1395号9頁

(2)無因保証人による支払拒絶のリスク

請求払無因保証について、保証状に定める要件を充足した請求がなされる限り、無因保証人は支払に応じることになるが、無因保証人が、受益者による請求書類を点検し、書類上の瑕疵を見つけた場合には、当該瑕疵の存在をもって支払を拒絶する可能性がある。
そのため、請求払無因保証に基づく請求を検討する受益者にとって、請求書類の文面上、保証状に定める要件を充足しているか否かがきわめて重要となる。実際に請求をする際には、些細な文言の違い等を含め、保証状に定める要件を充足するものであるかどうか、請求書類を作成する際に慎重に確認すべきであることに留意する必要がある。

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