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1.人はいつか亡くなる-何もしないリスク

人は誰でも、年齢と共に老化し、死亡します。非上場同族会社のオーナー社長も例外ではありません。健常時においては、自由に財産処分ができますが、老化し認知症になる等して意思能力を欠いてしまったときは、単独で有効に会社の代表行為や自己の財産の処分をすることができなくなってしまいます。この場合は通常、法定後見人が選任されることになりますが、法定後見人制度については、一般的に後記2に記載する問題点があります。

また、非上場会社のオーナー社長が経営権の承継の準備をせずに死亡した場合、相続人が複数あるときは、会社の株式は法定相続人の共有となり会社経営は不安定になります。これを避けるため、予め遺言をして株式を特定の相続人に帰属させることが考えられますが、遺言についても一般的に後記4に記載する問題点があります。

2. 法定後見人制度の問題点

オーナー社長は、認知症になり意思能力を欠いてしまっても、相続が発生するまでは株主のままです[1]。意思能力を欠いたオーナー社長は、株主総会に出席し議決権を行使することができないため、オーナー社長が発行済み株式総数の過半数の株式を保有している場合は、そのままでは株主総会の開催ができない状況となります。そのため、この場合はオーナー社長の親族が家庭裁判所に法定後見人の選任を申し立てることになります。法定後見人は株主総会に出席し、議決権を行使することができます。

法定後見人は裁判所の監督の下、被後見人(オーナー社長)の財産を管理することになりますが、その運用は大変硬直的なものとなっております。すなわち法定後見人の財産管理は、維持・保全を中心に行われ運用や処分をしないのが通常です。そのため、法定後見人が選任された以降遺産分割が完了するまでの間は、被後見人が保有する財産を法定相続人は譲り受けること(例:後継者に株式を譲渡すること等)も活用すること(例:不動産を賃貸し活用すること等)もできないことになります。

また、法定後見人に親族が選任された場合、被後見人に500万円を超える資産(株式等の金融商品を含む)がある場合は、日常的な支払いをするのに必要かつ十分な金銭(その平均額は約451万円[2])を後見人に残し、残りの金銭を信託銀行等に信託する運用がなされています(東京家庭裁判所の例)。一旦信託した金銭の払い戻しや信託契約の解約には家庭裁判所が発行する指示書が必要とされています。

このように現在法定後見人制度は使い勝手の悪い制度となっており、これを避けるために、任意後見契約や信託契約を締結することが考えられます。

3. 法定相続の問題点

相続が発生すると、遺産の全てが法定相続人の共有となります。共有状態の遺産は、遺産分割が完了するまで法定相続人全員の同意がなければ処分することができません。遺産分割は長期化するリスクがあり、遺産分割未了の間は株式の最終的な帰属が決まらないため、会社経営は不安定になります。

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(遺産分割の手続)

また、遺産分割は法定相続分を基準になされるので、以下の問題点があると指摘されています。
(1) 法定相続分よりも多い額の財産を取得しようとするときは、代償金を他の相続人に支払う必要がある。
(2) 遺産中に不動産や自社株が含まれていると、法定相続分の割合で分割することは容易ではない。
(3) 不動産の評価、自社株の評価、取得する財産の内容について、相続人間で争われる可能性がある。

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(法定相続分)

そのため、法定相続が開始した場合、会社の後継者であることやそれまでの相続人に対する貢献がほとんど考慮されないなど、被相続人の生前の意思が生かせない問題点があると指摘されています。このような法定相続が何世代も続くと株式は広範囲に分散しその結果、議決権が行使できない株式や、権利者の確定が困難な株式が発生する可能性があります[3]

4. 遺言の問題点
法定相続の問題点を避けるために生前に遺言をしておくことが考えられますが、一般的に遺言には、以下の問題点があると指摘されています。
(1) いつでも撤回や書替えが自由である(内容の矛盾する第二遺言がなされる可能性がある。)。
(2) 遺言が偽造された場合、偽造の立証は困難である[4]
(3) 遺言の効力が争われた事例[5]は多数であり、裁判になると長期化が必至である。

5. 任意後見制度・種類株式・民事信託等の活用も検討する必要がある
上記の法定後見人制度、法定相続及び遺言に関する問題点については、任意後見制度、種類株式や民事信託等を適切に利用することで、かなり解決できるものと思われます。これらの制度の具体的活用方法については、次号以降で述べさせていただきます。
いずれにしてもその解決方法は事案によって異なり、また複雑なものとなりますので、経営権の承継に不安をお持ちの方は、専門家に早期に相談することが不可欠です。

以 上

[1] オーナー社長は議決権の過半数以上の株式を有しているのが通常でしょう。

[2] 石井=松永「後見制度支援信託の目的とその運用状況について」日本加除出版・信託フォーラムVol.4 59頁

[3] 1株でも権利者不明の株式があると、将来会社を売却することができない可能性があります。

[4] 偽造されたと思われる遺言であっても、遺言状に署名押印がなされている場合が多いようです。筆跡鑑定の信用性は一般的に低いと言われており、偽造の立証には困難を伴うのが一般的。

[5] 公正証書遺言であっても同様。