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事務所概要・アクセス
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人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下、都市等への人口移動を背景とした土地の所有意識の希薄化等により、所有者不明土地が全国的に増加しており、今後も、相続機会の増加等に伴って所有者不明土地が増加することが見込まれています。所有者が不明である土地は、所有者の特定等に多大なコストを要し、公共事業の推進等の様々な場面で円滑な事業実施の大きな支障となっており[1]、このような課題に対応するため本法が制定されました。
具体的には以下のような問題が起きています。
・都内の再開発事業では、相続等登記未了の土地について法定相続人が100人以上となり、用地取得交渉が難航した。
・相続で700人以上の共有となり、うち10人の所在地が不明である。
・所有者の住所が「満州国」のままである。
・「六本木ヒルズ」再開発事業では、約11haの事業区域にある宅地等366区画(筆)の所有者や境界を明らかにするために4年かかり、費用も2億円以上を要した。特に官民境界画定には3年を要した。
本法は所有者が不明である土地の対策として大きく3つの仕組みを定めました。
その前提として、まず定義について確認します。「所有者不明土地」とは、相当な努力が払われたと認められるものとして所定の方法[2]により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地をいいます。この「所有者不明土地」のうち、反対する権利者がおらず、建築物(簡易・小規模なものを除く。)がなく、現に利用されていない土地(「特定所有者不明土地」)について、以下の仕組みを規定しています。
a. 地域福利増進事業[3]の創設
事業者は、地域住民等の福祉・利便の増進に資する事業について、特定所有者不明土地を使用しようとするときは、都道府県知事に対し、当該土地の使用権、土地上の所有者不明物件の所有権又は使用権(「土地使用権等」)の取得について裁定を申請できます。都道府県知事は、公益性等の要件を確認し、一定期間の公告に付した上で、6ヶ月以内に異議等がない場合、土地使用権等(上限10年間)を設定できます。なお、所有者等に対し金銭補償を要し(要供託)、所有者が現れ明渡しを求めた場合は、期間終了等の際に原状回復・返還することになります(但し、確知所有者全員の同意が得られれば原状回復義務免除)。
b. 公共事業における収用手続の合理化・円滑化(土地収用法、都市計画法の特例)
事業の実施主体は、国、都道府県知事が認定した事業(収用適格事業)について、特定所有者不明土地について裁定を申し立て、収用委員会に代わり都道府県知事が権利取得裁決及び明渡裁決について、裁定手続を行うことができます。これにより収用委員会による審理手続が省略され、権利取得裁決・明渡裁決を一本化し、公共事業における収用手続の合理化・円滑化を目指すことができます。
国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、家庭裁判所に対し、民法25条1項の不在者財産管理人の選任等必要な処分の命令を請求し、又は民法952条1項の相続財産管理人の選任を請求できます[4]。
a. 地域福利増進事業、収用適格事業又は都市計画事業の実施準備のため、都道府県知事等が土地所有者等を探索する必要が生じます。その探索のために必要な公的情報(固定資産課税台帳、地籍調査票等[5])について、行政機関が内部利用できる制度を創設しました。情報提供については原則本人の同意を要するものの、その範囲は所在が判明している者に限られ、また例外的に条例で別段の定めを置くことも可能です。
b. 長期間[6]、相続登記等がされていない土地について、登記官が、登記名義人となるべき相続人を探索後、職権で長期相続登記等未了土地である旨等を登記簿に記録することができる制度を創設(不動産登記法の特例)です。登記官は、登記名義人を知ったときは、相続登記等の申請を勧告することができます。
旧土地台帳制度下において、不動産登記簿の表題部所有者欄の氏名又は名称及び住所が正常に登記されていない土地[7]についての措置を規定しました。具体的には、
a. 登記官に所有者の探索のために必要となる調査権限を付与し、所有者の探索結果を登記に反映するための不動産登記法の特例を設けています。
b. 所有者の探索の結果、所有者を特定できなかった表題部所有者不明土地について、その適正な管理を図るための措置として、裁判所の選任した管理者による管理を可能とする制度を設けました(当該土地の買取りに応ずる権限を付与し、売却代金は所有者のために供託可能です。これに係る債権は時効消滅後、供託金は国庫に帰属します。)。
もっとも、「表題部所有者不明土地」に該当する土地は全国約50万筆のうち約1%にすぎず、この法律のみでは大きな解決にはなりません。
未登記農地について、全相続人を調べなくても一定手続で最長20年間借用可能としました。
共有林について、共有者が一部不明等の場合でも一定手続きで市町村に経営管理権を設定できるようにしました。
a. 土地基本法:管理や利用に関する所有者の責務を明記(所有者が適切な管理を怠り、周辺に悪影響が及ぶ場合には同意なく対策を取れるようにする等)することが検討されています。
b. 国土調査法、国土調査促進特別措置法:地籍調査の迅速化を図る旨検討されています(現状、土地の境界決定にはすべての土地所有者の立会が必要なところ、国土調査法の改正により、境界案の公告及び連絡できない土地所有者の意見の機会提供等により、一部所有者だけで境界を決定できるようにする等)。
c. 民法(物権法、相続法)、不動産登記法
所有権放棄の制度化(相続人がいない者の土地等の国への生前贈与制度[8]等)、共有ルールの見直し(処分のための要件緩和、不明共有者に対し公告し残りの共有者で利用を決める、持分に当たる金額を供託し共有関係を解消する等)、相続発生時の登記の義務化(登免税免除[9]、遺族に登記を促す手立て設置等)、登記簿と戸籍等の連携等が検討されています。
財産権、個人情報保護法、経済全体の効率向上等との調整が問題となっています。
以 上
[1] 特に東日本大震災後の復興事業で問題が顕在化し、復興事業の推進を阻害しました。
[2] 登記事項証明書の交付請求、占有者等に対し必要情報の提供を求める等(令1条等)
[3] 道路・駐車場、学校・教育・図書館施設、社会福祉事業施設、病院・公園、被災者居住用住宅等の整備事業をいいます。
[4] 民法は、利害関係人又は検察官にのみ当該請求を認めています。
[5] 従前、登記簿、住民票、戸籍等の照会の範囲は親族等に限定されています。
[6] 土地の登記名義人の死後30年(令10条)です。
[7] 例えば、表題部所有者の住所の記載がない(「A」とのみ記載)、字持地「大字A」、記名共有地「A外7名」(他の共有者名を省略)等です。
[8] 現行法上、不動産放棄の法律上の規定はありません。相続時の放棄については規定がありますが、相続人の裁判所への申述が必要(民938条)です。その他、国への生前贈与を認めて所有者不明地等の増加を防止する制度も検討されています。
[9] 一部法制化されています(平成30年度税制改正、租特法第84条の2の3第1項、第2項)。