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1. はじめに

2019年2月8日付けの帝国データバンクの調査(2018年度のゴルフ場経営業者の倒産を調査対象とする)によると、1970年代から1990年代の安定成長期に設立されたゴルフ場の多くは、2000年代前半に預託金の償還期限を迎え、その償還期限を15年や20年という期間で延長することで再建に取り組んだものの、近年再び預託金の償還期限を迎え、倒産に至るゴルフ場が少なくないことが指摘されている[1]

近年再び預託金の償還期限を迎えているゴルフ場については、今後、ゴルフクラブ会員による預託金返還請求が増加することが予想される。

他方で、ゴルフ場経営会社としては、倒産等に至る事態を回避すべく、預託金の償還期限を再度延長することにより、預託金の返還を先延ばしとすることが予想される。

本ニューズレターでは、預託金据置期間の延長の有効性に関する近年の裁判例の判断の傾向を中心に、ゴルフ場預託金返還請求訴訟の裁判実務について紹介したい。

 

2. 預託金返還請求訴訟の基本構造

預託金会員制ゴルフクラブの会員が、ゴルフ場経営会社に対して預託金の返還を裁判上請求するには、以下の要件事実を主張立証すれば足りる[2]

①     預託金会員制ゴルフクラブ会員契約の成立

②     会員が上記①の契約に基づきゴルフ場経営会社に金員を預託したこと

③     預託金据置期間の満了

④     会員がゴルフクラブの退会の申出をしたこと

これに対して、ゴルフ場経営会社は、会員からの預託金返還請求を免れるために、預託金据置期間が延長されたことを抗弁として主張立証する必要がある。

このような場合、預託金据置期間の延長が有効といえるかが争点となる。

 

3. 近年の裁判例の傾向

(1) 預託金据置期間を延長するための要件に関する裁判例

ゴルフクラブの会則には通常、預託金据置期間を延長するための要件(以下「延長事由」という。)が記載されている。

近年の裁判例において、ゴルフ場経営会社が、2011年3月の東日本大震災や2008年9月のリーマン・ショックによる景気低迷等を延長事由として預託金据置期間の延長の有効性を主張する又は事情変更の原則により預託金返還請求が許されない旨の主張をする事案が散見されるため、以下に整理する。

 

会則 ゴルフ場側の主張 裁判所の判示
1. 東京地判平成30年11月16日 「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合には、預託金の据置期間を延長できる」(6条ただし書) 経済不況の異例の長期化や、リーマン・ショックによる景気低迷、東日本大震災による深刻な影響(本件ゴルフクラブは、福島県に近い群馬県(以下略)にある。)からすれば、本件会員契約の基礎たる事情に著しい変化が生じ、かつ、当該事情の変化は契約当時予見不可能であった。 〈1〉本件会則6条ただし書は、「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態」との文言であり、天災と同視し得る事態を想定していると解すべきであること、〈2〉預託金の据置期間の延長や年間の返還額の上限の設定は、会員の権利行使に関する重大な変更というべきであるから、会員の権利行使が制約されてもやむを得ない重大な事情の存在を要すると解すべきであること、〈3〉据置期間の長さは被告が決定したものと解される上、預託金には利息及び配当が附されずに返還されることからすれば、経済情勢の変化や被告の経営上の問題を重視するのは相当でないことなどに照らすと、被告が主張する経済不況の長期化、景気低迷、東日本大震災による本件ゴルフクラブへの影響や被告の財務状況の悪化などによって本件会則6条ただし書の要件を充たすとは解されず、また、事情変更の法理の適用を基礎付けるものとも解されない。
2. 東京地判

平成29年11月22日

「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合は、会社取締役会の決議により、常務理事会の承認を得て据置き期間を延長することができる。」(6条ただし書) バブル経済の崩壊とそれに続く長期の不況、近時のリーマンショック、東日本大震災などの影響といった、一般人には予見不可能の、かつ被告の責めに帰すべきでない社会経済の情勢の変化の下、被告の経営が悪化し、即時の預託金返還請求に応じられないことはやむを得ないものである。 「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合」(実体的要件)とは、単なる経済情勢の変動や被告の経営上の問題を指すものではなく、契約の当時予見できないような社会経済情勢の激しい変化や被告の責めに帰すことができないことが明白な経営上の問題を指すものというべきである。そうすると、被告が主張するような社会経済情勢の変化等は、本件返還契約の債務者として、当然に備えることができる、すなわち予見可能なものであって、上記6条ただし書の要件を満たさないものというべきである。
3. 東京地判

平成28年5月25日

「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合は、会社取締役会の決議により、常務理事会の承認を得て据置期間を延長することができる。」(6条ただし書) バブルの崩壊やその後の経済不況の長期化だけでなく、リーマン・ショックによる景気低迷、東日本大震災など、一般人には予見不可能の、かつ被告の責めに帰すべきでない事情により、本件ゴルフクラブの会員契約の基礎たる事情に著しい変化が生じた。 被告の主張する諸事情は、ゴルフ場を経営する営利企業である被告にとって予見可能であり、被告は、このような経済状況が生じ得る事及びその場合に据置期間の満了した会員から預託金の返還請求を受けることを予想した上で、会員となるべき者との間で会員契約を締結すべきであるといえる。本件延長決議は、平成14年の時点で据置期間を10年延長し、さらに平成24年の時点において据置期間を10年延長するものであるが、本件全証拠をもってしても、本件延長決議の際に、上記延長後の据置期間経過後に預託金の返還に応ずることが可能になる客観的見通しを被告が有していたと認めることはできない
4. 東京地判

平成27年11月27日

「ゴルフ場の円滑な運営を著しく阻害すると会社が判断したとき、あるいは天災地変その他止むを得ない事由が発生した時、会社は入会保証金の据え置き期間および償還期間の延長またはその方法を変更することができる。」(13条(3)) 平成23年3月11日の東日本大震災及びその後に続いた強い余震により、コース及びクラブハウス等が甚大な被害を受け、多額の補修費用を要したことに加え、同年3月12日から同月18日までの7日間は完全クローズ、同月19日から同年4月22日までの35日間は9ホールクローズでの18ホール営業であり、約1か月の間このような制約を伴った中での営業が続き、震災後来場者数の落ち込みに拍車がかかり、営業上大きな打撃となった。
以上のような事情は、本件預託金の預託時には予見することができなかった経済事情の変動に当たる。
本件延長条項にいう「ゴルフ場の円滑な運営を著しく阻害する」、「天災地変その他止むを得ない事由」とは、上記のような制約を加えてもやむを得ない客観的合理的な事由であることを要し、そのような事由に該当するとしても、延長に係る期間が当該事由に照らして会員の預託金返還請求権の内容に著しい変更を生じさせない程度のものでなければ、据置期間延長の効力は生じないものと解すべきである。・・・

本件ゴルフ場においては、平成23年3月11日に発生した東日本大震災ないしはその余震により、コース及びクラブハウス等に被害が生じ、同月12日から同月18日までは営業をすることができなかったが、同月19日からは全27ホール中9ホールを閉鎖して18ホールで営業を再開し、同年4月23日からは9ホールの閉鎖も解除されていること、これらに先立ち、被告は、平成22年6月28日の取締役会において、本件ゴルフ場の経営が厳しい状況にあることを理由に預託金の据置期間を平成27年3月31日まで延長する旨の決議をした旨会員に通知していることが認められるのであって、上記証拠に照らしても、東日本大震災の発生が被告の経営に一定の影響を及ぼしたことは認められるものの、これが被告の経営悪化の主たる要因となっているとまでは認めるに足りない
さらに、本件延長決議に係る預託金の据置期間は6年近く、原告の退会の意思表示からでも5年3か月以上と短期間とはいえず、当該期間が経過した時点で被告が預託金の返還に応ずることができるような具体的な見通しがあることを認めることのできる証拠もない

5. 東京地判

平成27年7月14日

「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合は、会社取締役会の決議により、常務理事会の承認を得て据置き期間を延長することができる。」(6条ただし書) バブルの崩壊、リーマン・ショック及び平成233月の東日本大震災等が発生してゴルフ客数が落ち込んでおり、契約の基礎となる事情に著しい変化が生じたといえる上、上記事情変更は契約当初予見不可能であったといえる。 会則6条ただし書の「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合は、会社取締役会の決議により、常務理事会の承認を得て据置き期間を延長することができる。」との規定は、原告らと被告との会員権契約の内容をなすものであるが、預託金返還請求の据置期間の延長が会員の権利に関する重大な変更に当たることに鑑みると、上記会則6条ただし書の定める要件に当たるというためには、会員の契約上の権利である預託金返還請求権の行使を制約してもやむを得ない合理的な事情が存在することを必要とするものと解すべきである。・・・ そして、被告が主張する本件ゴルフ場を取り巻く経済環境等の諸事情は、ゴルフ場経営を行う上で当然予想することができた事情であって、預託金返還請求権の行使を制約してもやむを得ない合理的な事情に当たるとはいえないから、本件会則6条ただし書が定める「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合」に当たるということはできない。
6. 東京地判

平成25年10月31日

 

「天災、会社経営上、その他やむを得ざる事態が発生した場合は、会社取締役会の決議により、常務理事会の承認を得て据置期間を延長することができる」(6条ただし書) 被告の経営するゴルフ場は群馬県高崎市にあるところ、いわゆるバブル経済の崩壊や近年発生したリーマン・ショックによる景気低迷を要因とするゴルフ客の落込み、平成23年3月の東日本大震災による計り知れない深刻な影響からすれば、契約の基礎たる事情に著しい変化を生じたもので、このような事情の変化を予見することは不可能であったから、原告の本件預託金の返還請求は事情変更の原則により許されない。 本件訴訟において提出されている証拠によっては、平成14年2月5日及び平成24年3月25日の各決議の時点で、本件据置期間延長条項が定める「天災、会社経営上、その他やむを得ざる事態が発生した」との事由の存在を認めるに足る証拠はない(被告は、バブル経済の崩壊、いわゆるリーマン・ショック、東日本大震災などを本件延長決議の理由として主張しているが、被告が経営するゴルフ場は群馬県高崎市に所在するもので、被告が主張する理由から直ちに、本件据置期間延長条項に定める延長事由が存在するものと認めることはできない。むしろ、被告は、こうした決議をする一方で、可能な金額の範囲であるとはいえ、会員の預託金の返還に応じてきたことが認められる。)

 

上記の各裁判例では、東日本大震災やリーマン・ショックによる景気低迷の影響等について、①延長事由に該当するものとして預託金据置期間の延長が有効である、又は②予見することが不可能であったことから事情変更の原則により預託金返還請求は許されないというゴルフ場経営会社側の主張が、いずれも排斥されている。

これらの各裁判例を踏まえると、各事案と類似の延長事由を定めた会則を有するゴルフ場経営会社について、ゴルフ場経営会社が延長事由として東日本大震災やリーマン・ショックによる景気低迷等を理由に据置期間の延長の有効性を主張したとしても、当該主張が裁判所に受け入れられる可能性は低いと考えられる[3]

なお、会則によっては、「天災その他の不可抗力」と「クラブ運営上又は会社経営上やむを得ない場合」とが別個の要件と解される余地があり得る[4] 。この場合には、単に東日本大震災やリーマン・ショックによる景気低迷等が延長事由に該当しないと主張するだけでは不十分となる可能性が考えられる。これらの事象がクラブ運営又は会社経営にどの程度の影響を及ぼしたのか、延長後の据置期間経過後に預託金の返還に応じる客観的な見通しが認められるのかなどを考慮し、預託金返還請求権というゴルフクラブ会員の基本的な権利を制約してまで据置期間を延長する合理性が認められるのか、実務上は個別に検討する必要があると考えられる(上記裁判例4の判示内容が示唆に富むものである。)[5]
 
(2) 預託金据置期間の再度の延長に関する裁判例等
また、上記1で述べたとおり、預託金据置期限を再度延長することにより、預託金の返還を先延ばしとするゴルフ場経営会社が想定されるところである。

再度の預託金据置期限の延長については、「仮に現在の預託金返還請求が棄却されたとしても、据置期間が延長された五年ないし一〇年後には、再び据置期間が満了し、預託金の返還請求がされる事態の発生することは必至であり、その際には、再度の延長決議の抗弁が正当として採用されることは期待できない」との指摘がある[6]

預託金据置期間が再度延長された事案については、以下の裁判例が参考になる。

事案の概要 裁判所の判示
7. 東京地判平成29年2月10日 被告が経営するゴルフクラブの会員であった被相続人を相続した原告(選定当事者兼選定者)及び選定者が、被告に対し、被相続人が預託した保証金の返還を求めた事案。

被相続人は、被告との間で、平成12年8月に、「新会則及び理事会決議による入会保証金の償還期限到来後の預託金据置期間延長について同意」する旨の覚書を作成し、また同意書を被告に対して差し入れた。

被告は、預託金の据置期間を平成12年の時点で15年間延長し、平成26年の時点で再度15年間延長した。

「被告が主張する『新会則及び理事会決議による償還期限到来後の預託金据置期間の延長』の意味するところは、将来的に、償還期限が到来しても、(天変地異や被告の経済状態の変動など、新会則7条が規定する要件はあるものの)理事会の決議があれば、一方的に据置期間が15年も延長されてしまうというものであって、被告の経済状態等によっては繰り返し延長され、800万円もの入会保証金が永遠に償還されない可能性を含むものであるから、平成12年3月に本件クラブを退会しゴルフのプレー権を有する立場ではなくなった亡Eが、直ちにこれを容認したと考えることも疑義がある。」等として、被相続人が預託金据置期間の再延長にまで同意したと認めることができないと判示された。

 

上記裁判例7は、預託金据置期間の再度の延長決議の有効性が直接問題となった事案ではないが、繰り返し預託金据置期間が延長され、預託金が永遠に償還されない可能性があることにより、預託金の償還を求める会員にとって受忍し難い制約が生じ得ることを指摘している点において、今後、預託金据置期間の再度の延長決議の有効性を検討するに際して参考になると思われる。
 
4. 今後の展望について
預託金据置期間の再度の延長の有効性については、1度目の延長の有効性よりも厳しく判断されることが想定される。

そのような中、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、売り上げが大きく減少し、民事再生手続による再建を図ることとなったゴルフ場も現れている[7]

今後、ゴルフ場経営会社としては、新型コロナウイルス感染拡大の影響を延長事由として主張することが想定される。

預託金返還請求権の行使を検討するゴルフクラブ会員としては、新型コロナウイルス感染拡大による経済事情の変動が予見可能であったか、新型コロナウイルス感染拡大がゴルフ場経営会社の財政にどのような影響を与えたのか、延長後の据置期間経過後にゴルフ場経営会社が預託金の返還に応じる客観的な見通しがあるのか、据置期間延長の時点におけるゴルフ場経営会社の財務状況、適切かつ十分な代償措置の有無等諸般の事情を総合的に検討することが求められる。

以 上

 

[1] 株式会社帝国データバンク「特別企画:ゴルフ場経営業者の倒産動向調査(2018年)」1頁

[2] 岡口基一『要件事実マニュアル第6版 第2巻 民法2』210~211頁(株式会社ぎょうせい、2020年)

[3] 「天災、地変その他の不可抗力の事態が発生した場合」を延長事由としている場合、「その他の不可抗力の事態」とは、天災、地変に類するものであることを要し、経済変動からくるゴルフ業界の好況不況等の事態はこれに含まれないと考えられている(井上繁規「預託金会員制ゴルフクラブにおける預託金の据置期間延長の可否」銀行法務21・565号43頁(1999年))

[4] 上記裁判例のうち、裁判例4以外は、「天災、会社経営上、その他止むを得ざる事態が発生した場合」が延長事由とされており、「天災」と「会社経営」が並列されている。他方で、裁判例4のような「ゴルフ場の円滑な運営を著しく阻害すると会社が判断したとき、あるいは天災地変その他止むを得ない事由が発生した時」といった延長事由の場合、「天災その他の不可抗力」と「クラブ運営上又は会社経営上やむを得ない場合」は、「一応別個の有効要件であると解することができよう。」と指摘されているところである(井上繁規「預託金会員制ゴルフクラブにおける預託金の据置期間延長の可否」銀行法務21・565号43頁(1999年))。

[5] なお、ゴルフクラブ会員の基本的な権利である預託金返還請求権を犠牲にしても、据置期間の延長決議の有効性を是認することができるような合理的な事情の存在を肯定するために主張立証が必要とされる事情として、①当事者が入会契約の締結当時には予見することのできなかったような経済事情の変動が生じたこと、②預託金の返還請求に応ずると倒産が必至であること、③据置期間の延長措置は、会社の経営の維持のために真にやむをえない措置であって、他に採りうる手段がないこと、④ゴルフ場経営会社が経営努力をしており、かつ、会員権の分割などの据置期間の延長の代償措置をとっていること、⑤据置期間の延長期間は、会員の基本的な権利である預託金返還請求権を剥奪するものではないと認められる短期間であること、⑥据置期間の経過後には、預託金の返還に応ずることが合理的に期待可能であること、⑦据置期間の延長について、少なくとも、会員の三分の二以上及び預託金総額の三分の二以上の賛成があること、が指摘されている(井上繁規「預託金会員制ゴルフクラブにおける預託金の据置期間延長の可否」銀行法務21・565号43頁(1999年))。

[6] 井上繁規「預託金会員制ゴルフクラブにおける預託金の据置期間延長の可否」銀行法務21・565号43頁(1999年)。

[7] 東京工リサーチのTSR速報(大型倒産情報・注目企業動向)(https://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20200702_01.html(2021年5月27日時点))