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2024.03.05

パブリックコメントを踏まえた「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)」の公表

業務分野

執筆弁護士

2024年2月29日、文化審議会著作権分科会法制度小委員会において、「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)」(以下「令和6年2月素案」)が公表されました(溶け込み版リンク見え消し版リンク)。

1つ前のバージョンである令和6年1月15日時点版(以下「令和6年1月素案」)の概要については、同年1月16日付けニューズレターでご紹介したとおりですが、その後、2024年1月23日~2月12日にかけてパブリックコメントが実施され、その結果を踏まえて作成されたのが、令和6年2月素案になります。

令和6年2月素案と令和6年1月素案の間には大きな変化は見られませんが、パブリックコメントを踏まえて記載の趣旨を明確化する等の修正が行われています。

以下では、重要と思われる修正箇所について、ご紹介します。

1.生成AIに関係する当事者の定義

「AI開発事業者」や「AIサービス提供事業者」といった言葉について明確な定義付けをすることが望ましいとの意見を踏まえ、関係当事者として想定される者が以下のとおり定義されました(パブリックコメントNo.48参照)。

①AI開発事業者:生成AI(学習済みモデル)の開発に向けた、学習データの収集、学習用データセットの構築、及び学習用データセットを用いたAI学習等の行為を行う者。主として事業者が想定されるが、これに限るものではない。

②AIサービス提供事業者:既存の生成AIに対する追加的な学習、生成AIを組み込んだソフトウェアやサービスのAI利用者に対する提供等の行為を行う者。主として事業者が想定されるが、これに限るものではない。

③AI利用者:生成AIを組み込んだソフトウェアやサービスを利用して、コンテンツの生成及び生成物の利用を行う者。事業者及び非事業者(個人利用者)のいずれも想定される。

2.論点の整理

改めて説明しますと、著作権法の平成30年改正において著作権法第30条の4が新設され、著作物の本来的利用に該当せず権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型について、著作物の利用が認められることとなりました。

第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあっては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
 
※下線は筆者による。

上記のとおり、法第30条の4に基づいて著作物の利用が認められるためには、①当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合であること、②著作権者の利益を不当に害することとならないことが要件となります。

以下では、(1)開発・学習段階、(2)生成・利用段階、(3)生成物の著作物性、(4)その他の論点について、同年1月16日付けニューズレターでご紹介した令和6年1月素案からの修正内容を赤字で示します。

(1)学習・開発段階‐AI学習・開発段階での著作物利用が既存著作物の著作権を侵害しないか

 ア 著作権侵害該当性‐法第30条の4の適用可能性

 (ア)「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」にあたるか(法第30条の4の要件①)

本素案は、著作物の利用行為に、複数の目的が併存する場合、その中にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、要件①を欠くとしており、具体的に以下のとおり分析しています。

ケース1:既存の学習済みモデルに対する追加的な学習(そのために行う学習データの収集・加工を含む)のうち、意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部そのまま出力させることを目的としたもの追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合
[筆者注:下図2の複製③及び④に関するとされています。]

→享受目的が併存する(法第30条の4が適用されない)

「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)」18頁から引用

ケース2:AI学習のために用いた学習データに含まれる著作物の創作的表現を出力させる意図は有していないが、既存のデータベースやインターネットWeb上に掲載されたデータに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、これに用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合
[筆者注:下図3の複製⑤に関するとされています。]

→享受目的が併存する(法第30条の4が適用されない)

「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)」19頁から引用

ケース3:学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部そのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合

→(a)学習データの著作物の創作的表現(表現上の本質的特徴)を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存する(法第30条の4が適用されない)
(b) 学習データの著作物の創作的表現(表現上の本質的特徴)を直接感得できる生成物を出力することが目的であるとは評価されない場合は、享受目的が併存しない(法第30条の4が適用され得る)

 (イ)著作権者の利益を不当に害することとならないか(法第30条の4の要件②)

本素案は、要件②を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮して検討することが必要であるとしたうえで、具体的に以下のとおり分析しています。

ケース1:著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれが生じるにとどまる場合

→著作権者の利益を不当に害することとならない(法第30条の4が適用され得る)

※ただし、ここでいう「著作権者の利益」と、著作権侵害が生じることによる損害とは必ずしも同一ではなく別個に検討し得るといった見解から、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得ると考える余地があるとする意見があることに注意する必要があります。また、令和6年2月素案では、アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されること等の事情が、法第30条の4との関係で「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないとしても、当該生成行為が、故意又は過失によって第三者の営業上の利益や、人格的利益等を侵害するものである場合は、因果関係その他の不法行為責任及び人格権侵害に伴う責任の要件を満たす限りにおいて、当該生成行為を行う者が不法行為責任や人格権侵害に伴う責任を負う場合はあり得ると考えられる旨が指摘されていることに注意する必要があります。

ケース2:インターネット上のウェブサイトで、ユーザーの閲覧に供するため記事等が提供されているのに加え、データベースの著作物から容易に情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPIが有償で提供されている場合において、当該APIを有償で利用することなく、当該ウェブサイトに閲覧用に掲載された記事等のデータから、当該データベースの著作物の創作的表現が認められる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する場合

→著作権者の利益を不当に害する場合があり得る(法第30条の4が適用されない可能性がある)

※この点に関して、令和6年2月素案では、本ただし書の適用範囲が明確となることに資するよう、データベースの著作物から容易に情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPIが有償で提供されていること等の情報が、このような有償提供を行う権利者から事業者等の関係者に対して提供されることにより、AI開発事業者及びAIサービス提供事業者においてこれらの事情を適切に認識できるような状態が実現されることが望ましい旨が追記されました。

ケース3:AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置(例:ウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述やID・パスワード等を用いた認証によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置)を回避してAI学習のための複製等を行う場合

→著作権者の利益を不当に害することとなる(法第30条の4が適用されない)

※この点に関して、令和6年2月素案では、本ただし書の適用範囲が明確となることに資するよう、robots.txtでのアクセス制限において必要となるクローラの名称(User-agent)等の情報が事業者から権利者等の関係者に対して適切に提供されること、また、特定のウェブサイト内のデータを含み情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が現在販売されていること及び将来販売される予定があること等の情報が、権利者から事業者等の関係者に対して適切に提供されることにより、クローラによりAI学習データの収集を行おうとするAI開発事業者及びAIサービス提供事業者においてこれらの事情を適切に認識できるような状態が実現されることが望ましい旨が追記されました。

また、本素案は、AI学習のために海賊版等の権利侵害複製物が複製される問題に言及し、AI開発事業者やAIサービス提供事業者が学習データの収集に際して新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長しないよう配慮することを求めています。

※この点に関して、令和6年2月素案では、権利者が、これらの事業者等の関係者に対して、海賊版を掲載している既知のウェブサイトに関する情報をあらかじめ適切な範囲で提供することで、事業者においても海賊版を掲載しているウェブサイトを認識し、これを学習データの収集対象から除外する等の取り組みを可能とするなど、海賊版による権利侵害を助長することのない状態が実現されることが望ましい旨が追記されました。

 イ 著作権侵害が生じた場合に侵害者が受け得る措置

侵害者が受け得る措置としては、(i)損害賠償請求(民法第709条)、(ii)侵害行為の差止請求(侵害行為の停止又は予防の請求)(法第112条第1項)、(iii)将来の侵害行為の予防侵害の停止又は予防に必要な措置の請求(同条第2項))、(iii)(iv)刑事罰(法第119条)等が挙げられているところ、これらの一環として、AI学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去請求や学習済みモデルの廃棄請求が認められる可能性が指摘されています。

(2)生成・利用段階‐生成AIによる生成物の出力及び当該生成物の利用が既存著作物の著作権を侵害しないか

 ア 著作権侵害該当性

裁判例上、ある作品が既存著作物に関する著作権侵害となるか否かは、既存著作物との類似性及び依拠性があるか否かによって判断されます。本素案は、生成AIによる生成物についても、同様の規範に従って著作権侵害の有無を判断するとしています。

 (ア)類似性

本素案は、類似性の有無の判断について、人間がAIを使わずに創作したものについて類似性が争われた既存の判例と同様、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるか否か等により判断されると考えられるとしています。

 (イ)依拠性

本素案は、生成AIの開発のために利用された著作物を生成AIの利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合があることを念頭に、生成AIによる生成行為について依拠性が認められる場合について、以下のとおり整理しています。

ケース1:AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合

→依拠性あり。

ケース2:AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合

→依拠性あり。
ただし、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような状態が技術的な措置が講じられてに担保されているといえること等の事情から、当該生成AIにおいて、学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において利用されて出力される状態となっていないと法的に評価できる場合には、依拠性がないと判断される可能性がある。

※具体的な例として、令和6年2月素案では、学習に用いられた著作物と創作的表現が共通した生成物が出力されないよう出力段階においてフィルタリングを行う措置が取られている場合や、当該生成AIの全体の仕組み等に基づき、学習に用いられた著作物の創作的表現が生成・利用段階において生成されないことが合理的に説明可能な場合などが想定されるとしています。

ケース3:AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合

→依拠性なし。

 イ 著作権侵害が生じた場合の侵害主体

AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合に誰が侵害者となるかについて、本素案は、原則として、物理的な行為主体であるAI利用者が侵害主体であるとしつつのみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があるとします。そのうえで、事業者が侵害者と判断される場合について、以下のとおり整理しています。

ケース1:ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合

→事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる

ケース2:事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段措置施して取っていない場合

→事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる

ケース3:事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する技術的な手段措置施して取っている場合

→事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなる(仮にAI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成された場合でも、同様である)

なお、本素案は、事業者が著作権侵害の行為主体と評価されない場合でも、AI利用者による著作権侵害の幇助者として、民法上の共同不法行為責任を負う場合が考えられる旨の意見を紹介しており、注意する必要があります。

 ウ 著作権侵害が生じた場合に侵害者が受け得る措置

著作権の侵害者が受け得る措置としては、差止請求、損害賠償請求及び著作権侵害に基づく刑事罰が挙げられています。このうち、差止請求の内容としては、(i)新たな侵害物の生成及びすでに生成された侵害物の利用行為の差止請求、(ii)侵害行為による生成物の廃棄請求、(iii)(生成AIの開発事業者に対して)侵害物を生成した生成AIの開発に用いられたデータセットからの当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄請求、(iv)(生成AIの開発事業者又はAIサービス提供事業者に対して)当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置(例:①特定のプロンプト入力については、生成をしない、②当該生成AIの学習に用いられた著作物の類似物を生成しない)の請求といったものが認められる可能性が指摘されています。

これに加え、留意すべき点として、本素案は、AI利用者が侵害行為に関する著作物等を認識していなかった場合に、著作権侵害についての故意又は過失は認められず損害賠償請求が認められないとしても、著作物の使用料相当額等の不当利得返還請求が認められる可能性がある旨を指摘しています。

(3)生成物の著作物性

本素案は、生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係については、著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられるとしています。そのうえで、AI生成物が著作物と認められるかは、個別具体的に、単なる労力にとどまらない創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるとしています。判断要素の具体例としては、①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択が挙げられています。

なお、本素案は、仮にAI生成物に著作物性が認められない場合であっても、当該生成物の複製や利用が営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められる可能性を指摘しています。

(4)その他の論点

本素案は、その他の論点として以下を挙げています。

  ①AI学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去請求(上記(1)イに対応すると思われる)については、現状ではその実現可能性に課題があり、将来的な技術の動向も踏まえて検討する必要がある。

  ②著作権者等への対価還元については、著作権法において補償金制度を導入することは理論的に困難であるものの、著作権法の枠内にとどまらない議論として、検討する必要がある。

  ③著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させる行為については、民法上の不法行為や刑法上の詐欺罪に該当する可能性があるが、これに加えて著作権法による保護をすべきか等について、検討する必要がある。

文化審議会著作権分科会法制度小委員会によれば、「AIと著作権に関する考え方について」の最終案が3月中(本年度中)に文化審議会著作権分科会において報告されるとのことです。もっとも、上記「考え方」については、①AIの開発や利用によって生じた著作権侵害の事例・被疑事例、②AI及び関連技術の発展状況、③諸外国におけるAIと著作権に関する検討状況等を踏まえて考え方の見直しを行うとされているため、4月以降も国内外の議論状況をフォローする必要があると思われます。また、本素案では、著作者人格権や著作隣接権とAIとの関係(俳優・声優等の声を含んだ実演・レコード等の利用とAIとの関係等を含む)等、未検討な事項があると指摘されており、これらの事項に関する議論状況についても注意を払うことが必要です。

以上

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