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2025.03.19

2025年土壌汚染対策法改正の議論とその方向性

業務分野

<目次>
1. 土対法の改正論点
(1)土壌汚染状況調査契機の拡大・見直し
(2)区域指定の見直し、自然由来の汚染の取り扱い
(3)土壌汚染情報の管理・承継
(4)その他

令和5(2023)年10月から令和6(2024)年5月にかけて「土壌汚染対策法の施行状況等に関する検討会」が開催され、令和6(2024)年6月には「土壌汚染対策法の見直しに向けた検討の方向性」が取りまとめられました。
現在も土壌汚染対策法(以下「土対法」といいます。)の改正の議論・検討が進められており、令和7(2025)年夏~秋頃に答申の取りまとめが予定されています。そこで、本稿では現時点における土対法改正の議論とその方向性について概要を説明します。

1. 土対法の改正論点

(1) 土壌汚染状況調査契機の拡大・見直し

現行の土対法では、主に以下の3つの場合に土壌汚染状況調査を実施する必要があります。

① 水質汚濁防止法(以下「水濁法」といいます。)で規定される有害物質使用特定施設(※)の使用を廃止したとき(土対法3条)
② 一定規模以上の土地の形質変更を行う際の届出を受けて、土壌汚染のおそれがあると都道府県知事が認めるとき(土対法4条)
③ 上記の他、特定有害物質による土壌汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがあると都道府県知事が認めるとき(土対法5条)

※「有害物質使用特定施設」とは、有害物質を、その施設において製造し、使用し、又は処理する特定施設をいい(水濁法2条8項)、「特定施設」とは、①カドミウムその他の人の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定める物質(「有害物質」)を含むこと、②化学的酸素要求量その他の水の汚染状態(熱によるものを含み、前号に規定する物質によるものを除く。)を示す項目として政令で定める項目に関し、生活環境に係る被害を生ずるおそれがある程度のものであることのいずれかの要件を備える汚水又は廃液を排出する施設で、政令で定めるものをいいます(水濁法2条2項)。

ア 有害物質使用特定施設の敷地の調査(土対法3条及び同法4条)について

①現行法における課題

大規模でない事業者(中小企業)は、廃業に伴って有害物質使用特定施設の使用を廃止することも多く、多額の費用が必要となる調査・対策が経済的に実施できないという事例が多くみられます。
また、土壌汚染の発見の蓋然性が非常に低い場合や事業場の敷地外に土壌が移動しない場合など、健康リスクが特段ない場合であっても土対法に基づく調査事務等が発生し、事業者及び地方自治体双方にとって負担が生じます。

②改正法の方向性

有害物質使用特定事業場の敷地の土地に係る調査契機は、土対法3条と同法4条に分散されていたため、これを一元化することが検討されています。
また、土対法上、土壌汚染状況調査が「地歴調査」と「試料採取等調査」の2段階から構成されることを明確化した上で、①地歴調査の契機を拡充しつつ、他方で、②試料採取等調査は健康リスクの程度に応じて実施対象等を合理的な範囲に限定するという方向で改正を検討する方針が示されています。

改正法で検討されている土対法3条及び同法4条の調査の契機・調査の内容は以下のとおりです。
まず、以下の(a)ないし(d)の場合には、地歴調査を実施することが必要になります。

(a) 有害物質使用特定施設を廃止するとき(調査契機が一部拡充:地歴調査について使用継続等の場合の猶予措置は廃止か)
(b) 事業場の敷地で一定規模(900㎡)以上の土地の形質変更を行うとき(調査契機が一部拡充:汚染のおそれにかかわらず地歴調査が必要となるか)
(c) 有害物質使用特定施設を承継するとき(新設
(d) 事業場の土地の所有者等を変更するとき(新設

上記(a)又は(b)に伴う地歴調査の結果から、土壌汚染のおそれがあると判断される土地については、試料採取等調査が必要になります。
もっとも、地下水汚染による健康被害のおそれがないとき、又は上記(b)の場合で事業場敷地外に土壌が搬出されないときには、一般人への汚染の曝露や汚染の拡散が想定されないとして、試料採取等調査の実施義務の対象から除外することを可能とするなどの合理化を図ることが検討されています。なお、上記(c)及び(d)の場合には地歴調査のみが要求されます。

イ 形質変更時の調査(土対法4条)について

①現行法における課題

土壌汚染が発見される蓋然性が非常に低い山林等の土地での形質変更であっても調査義務の対象に含まれてしまい(調査件数全体の半数程度を占めていたようです。)、事業者や地方自治体の負担が増大しているという問題があります。

②改正法の方向性

通常の利用では特定有害物質(※)の使用等の取扱が想定されない土地における形質変更については届出の対象外とすることが検討されています。
※ 特定有害物質とは、土対法上の概念で、鉛、ひ素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいいます(土対法2条1項)。

(2) 区域指定の見直し、自然由来の汚染の取り扱い

ア 区域指定の見直し

①現行法における課題

現行法では、区域指定は土地の平面方向でしか行えず、指摘された区域は深度方向も含めて一律対象区域として指定されてしまうため、一定の深度のみで汚染がありその他の深度では基準適合土壌があったとしても一体として汚染土壌とみなされてしまいます。これにより、それらの基準適合土壌を区域外に搬出するためには認定調査が必要とされていましたが、認定調査のためには、改めて地歴調査を行い、区域指定の対象となった物質以外の特定有害物質についても基準適合を確認する必要が生じる場合もあるなど、手間やコストの負担が大きいという問題があります。

②改正法の方向性

上記課題に対処するために、深度方向の汚染範囲を特定する調査について、試料採取等調査の一部として位置付けることが検討されています。
また、基準不適合が確認された平面区画について特定の深度のみの区域指定を可能とすることが検討されています。これが実現すれば、深さ方向で基準不適合土壌の範囲を画定し、それ以外の深度の基準適合土壌については区域指定の対象外とすることができることになり、それらの基準適合土壌を区域外に搬出するために認定調査を利用する必要がなくなります。

イ 自然由来の汚染の取り扱い

①現行法における課題

自然由来等の汚染土壌(自然由来等土壌)は、元の位置あるいは一般人が立ち入らない事業場の敷地内に留まる場合は健康リスクの増大の原因となる可能性は想定されないものの、一度基準不適合土壌が発見されると土対法規制の対象となってしまいます。これに対して、様々な特例制度が存在していましたが、各特例制度も区域指定制度に伴う負担の大きさや手続の複雑さ等の理由から十分活用されていないという問題があります。

②改正法の方向性

自然由来等土壌に対しては、従来の区域指定(形質変更時要届出区域の指定)は行わず、事業場外への搬出時に基準適合性を確認し、不適合である場合には従来と同等の管理を適用するような仕組みとすることが検討されています。
区域指定を行わずに基準不適合土壌を特定する手法としては、搬出の前又は掘削ロット毎に土壌中の特定有害物質の濃度を測定し、その結果に基づき搬出又は処理等の規制を課すことが検討されています。

(3) 土壌汚染情報の管理・承継

ア 現行法における課題

地歴情報等の土壌汚染状況に関する情報は、企業の統廃合、土地の所有者等の変更や高齢化等による不在化、長期間の経過など様々な要因によって散逸が進んでおり、地歴調査を円滑に行うことが年々困難になっているという問題があります。

イ 改正法の方向性

有害物質使用特定事業場の敷地の土地の所有者等が変更される際には、地歴調査の実施を義務づけた上でその結果を新しい所有者等に当事者間で承継することを義務化することが検討されています。

(4) その他

その他にも以下のような改正が検討されています。

① 現行法では、汚染原因者に汚染除去等計画の作成等に要した費用を求償できる(土対法8条)のとは異なり、土壌汚染状況調査の実施やその費用については汚染原因者に対して求償することを可能にする旨の規定がありません。そのため、現行制度において、土地の所有者等と汚染原因者が異なり、汚染原因者に対して措置を実施させることができるとされている場合(土対法8条)においては、汚染原因者に対して、法に基づき実施した土壌汚染状況調査の費用を求償できるようにすることが検討されています。
② 地下水に関して水濁法上の事故(水濁法14条の2の事故をいいます。たとえば、施設の破損等による漏えいなど)の届出が行われ、事故により生じた土壌汚染の状況の把握が必要と考えられる場合に対しては、有害物質使用特定事業場の設置者を実施主体として汚染状況の調査を実施するように求めることができるようにすることが検討されています。

以上

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