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2025.04.25

カジノを併設する娯楽複合施設(Entertainment Complex)法案

<目次>
1. 娯楽複合施設法(Entertainment Complex Act)に関する近時の動向
2. 本法案の概要
(1) 娯楽複合施設(Entertainment Complex)とは
(2) 娯楽複合施設の営業ライセンス
(3) カジノの営業に関する規制

1. 娯楽複合施設法(Entertainment Complex Act)に関する近時の動向

 仏教国のタイでは、競馬や宝くじなど一部を除き、賭博は厳格に禁止されてきました。しかし近時、タイの主要な産業である観光業を活性化させるため、カジノを併設する娯楽複合施設(Entertainment Complex)を合法化する動きがあります。
 本年1月13日には、タイ内閣が娯楽複合施設法(Entertainment Complex Act)の法案(以下「本法案」といいます)を原則として承認し、法制委員会による修正を経て、本年3月27日には内閣が本法案の修正案を承認しました。本稿では、修正された本法案の概要をご紹介します。
 今後、本法案の成立には、タイ下院・上院での審議・承認と国王の承認が必要となります。本法案に関しては、カジノの合法化への反対運動が国内で広がり、連立与党内でも異論が出ているため、今後の動向を注視する必要があります。

2. 本法案の概要

(1) 娯楽複合施設(Entertainment Complex)とは

 本法案における娯楽複合施設は、カジノが併設された、4種類以上の娯楽施設(※1)を擁する施設です(本法案50条)。娯楽複合施設には、総面積の10%以上を占める、特産品やタイの芸術・文化を宣伝するエリアが設置されます(本法案50条)。
 カジノの面積は、娯楽複合施設の土地面積又は建物の利用可能面積(いずれか小さい方)の10%を上限として、政策委員会(Policy Committee)(※2)が決定する面積以内に制限されます(本法案49条)。
 娯楽複合施設は、政府(※3)が決定する特定のエリア内(※4)にのみ設置されます(本法案44条、45条) 。報道によると、タイ政府は、最初の娯楽複合施設の候補地として、主要な観光地であるバンコク、チョンブリ、チェンマイ及びプーケットの四か所を挙げています。

※1 本法案では、娯楽複合施設で営業される娯楽施設の業種として、ショッピングモール、ホテル、サービス施設、スポーツスタジアム、ヨットクルージングクラブ、ゲーム施設、プール・ウォーターパーク、アミューズメントパーク、その他政策委員会が定める事業が指定されています。
※2 政策委員会は、首相を議長とし、副首相、10名の大臣等、6人以下の専門家により構成されます(本法案9条)。政策委員会の責務には、娯楽複合施設の営業に関する政策、娯楽複合施設のエリア及びライセンスの数、カジノに関する税制等について内閣に提言することや、ライセンスの発行・更新・取消に関する命令等が含まれます(本法案15条)。
※3 政策委員会が、娯楽複合施設が許可されるエリアに関する政策を内閣に提言します。
※4 娯楽複合施設のエリアを定める勅令において、土地の境界や地図等が記載されます。

(2) 娯楽複合施設の営業ライセンス

 娯楽複合施設を営業する事業者は、政策委員会から、娯楽複合施設事業を営業するライセンス(以下「本事業ライセンス」といいます)を取得しなければなりません(本法案46条)。発行される本事業ライセンスの数は政府(※5)が決定します(本法案44条)。

※5 政策委員会が、本事業ライセンスの数の決定に関する政策を内閣に提言します。

 本事業ライセンスの申請者は、タイで登記された非公開会社又は公開会社であり、かつ100億バーツ以上の払込資本金を有する必要があります(本法案47条)。事業者の取締役は、一定の欠格事由(破産者、汚職、マネーロンダリングやテロ等の犯罪経歴を有する者など)に該当しない個人でなければなりません(本法案48条)。(※6)

※6 公開会社の取締役については、タイ国籍者でない取締役の数は、政策委員会が定める数を超えないものとされています(本法案54条)。

 本事業ライセンスの取得者(以下「ライセンシー」といいます。)であるタイ法人には、タイ法人に対する外国人(外国企業)の株式保有割合を50%未満に制限する外国人事業法が適用されないため(※7)、ライセンシーであるタイ法人の株式の50%以上を外国人(外国企業)が保有することが可能です。

※7 タイの外国人事業法は、外国人(①タイ国籍を有しない個人、②タイで登記されていない法人、③上記①又は②が株式の50%以上を有するタイ法人など)が同法上の規制対象である事業を営むことを禁止し、又は外国人事業許可の取得を義務付けています。娯楽複合施設事業は、ホテル業やサービス業などの外国人事業法上の規制対象である事業に該当すると考えられますが、本法案では、本事業ライセンスのライセンシーに対して外国人事業法が適用されない旨が規定されています(本法案54条)。

 本事業ライセンスの申請者は、申請書類として、娯楽複合施設の営業に関する投資計画、事業計画、タイ人従業員の雇用計画(※8)、組織・役員・株主等の詳細、コーポレートガバナンスや内部統制、娯楽複合施設の営業により生じる影響への対応措置、カジノ営業の統制計画などを提出します(本法案50条)。申請手数料は10万バーツです(本法案別紙)。本事業ライセンスの発行の可否は、政策委員会が決定します(本法案52条)。

※8 ライセンシーは、執行委員会(後述)が定める割合のタイ人従業員を娯楽複合施設において雇用しなければなりません(本法案67条)。

 本事業ライセンスのライセンス料は、初回ライセンス料として上限額が50億バーツ、年間ライセンス料として上限額が年額10億バーツと定められていますが、ライセンス料の金額は省令に定められます(本法案52条及び別紙)。政策委員会が本事業ライセンスの発行を決定した場合、申請者は、決定の通知を受けてから30日以内に、初回ライセンス料と1年目の年間ライセンス料を支払わなければなりません(本法案52条)。

 本事業ライセンスの有効期間は30年間です(本法案53条)。ライセンシーが本事業ライセンスの更新を希望する場合、政策委員会が更新を許可すれば、10年以下の期間更新されます(本法案75条)。本事業ライセンスが更新された場合、ライセンス更新料として上限額が50億バーツ、年間ライセンス料として上限額が年額10億バーツと定められていますが、ライセンス料の金額は省令に定められます(本法案75条及び別紙)。

 娯楽複合施設事業の営業のために土地等を賃借する場合、賃貸借期間は最長30年間とされています(本法案63条)。賃貸借期間の更新は可能ですが、更新後の期間は最長30年間とされています(本法案63条)。

 ライセンシーは、原則として自ら娯楽複合施設事業を営業しなければならないとされており、営業を第三者に委任する場合、本事業ライセンスに基づく権利を譲渡する場合、株式の50%超を譲渡する場合などには、執行委員会(Executive Committee)(※9)の許可を得なければなりません(本法案64条)。

※9 執行委員会は、首相が選任する議長、12名の事務次官等、5人以下の専門家により構成されます(本法案18条)。執行委員会の責務には、娯楽複合施設事業監督事務局(娯楽複合施設事業の監督機関)の運営の監督や政策委員会への意見提供等が含まれます(本法案20条)。

(3) カジノの営業に関する規制

(a) カジノに適用される法令(本法案69条)

 カジノは、娯楽複合施設内にのみ設置されなければなりません。カジノ内における賭博は、本法案によって規制され、賭博を規制する賭博法や賭博による債務の請求を認めない民法典の規定は適用されません。本法案に基づき設置されたカジノ内での賭博による債務は、適法な債務とみなされます。
 カジノを設置したライセンシーは、反マネーロンダリング法上の金融機関とみなされるため、同法上の規制を遵守する必要があります。

(b) カジノにおける賭博(本法案70条)

 ライセンシーは、政策委員会により決定される賭博の種類に従って、カジノ内における賭博を営業しなければなりません。賭博の遊戯方法等は、執行委員会により決定されます。

(c) カジノの場所(本法案72条)

 カジノは、他の娯楽施設と同じ建物内に設置される場合には、他の娯楽施設とは別のフロアに設置されなければならず、他の娯楽施設とは別の建物に設置される場合には、フェンスが設置されなければなりません。
 カジノには専用の出入口を設置し、入場者の身分証明書によるチェックや登録を行わなければなりません。

(d) カジノの従業者(本法案74条)

カジノには、執行委員会が定める資格を有する、カジノの管理者であるマネージャー、ディーラー等のギャンブル関連の従業員、警備員などを配置しなければなりません。

(e) カジノの入場者(本法案80条から82条)

 カジノには、20歳未満の者や、執行委員会が定める欠格事由に該当する者などは入場が禁止されます。
 タイ国籍者は、カジノへの入場料として一回当たり5000バーツが徴収されます。また、カジノで賭博を行うタイ国籍者は、連続した6ヶ月間において5000万バーツ以上の預金を有していなければならず、かつ執行委員会が定める基準に従った審査に合格しなければなりません。このタイ国籍者に対する厳格な要件により、娯楽複合施設のカジノは、事実上外国人と国内富裕層向けのカジノになることが予想されます。
 カジノの入場者に対しては、武器の携帯、賭博に関するルール違反、薬物犯罪、売春、酩酊などを規制しなければなりません。

(f) カジノ場外からの賭博の禁止(本法案84条)

 カジノの場外の者が、コンピュータシステム、インターネットに接続された電子機器や放送を通じて、カジノ内で賭博を行うことや、このような賭博を組織する行為は禁止されます。

(g) 広告・勧誘等に関する規制(本法案85条、86条)

 カジノに関連する勧誘、広告、宣伝活動などは、執行委員会の定める規制を遵守しなければ行うことができません。また、カジノの賭博者数を増やし、又はカジノでの賭博に費やされる金銭の額を増やすために、他者を雇用し又は利益を供与する行為は禁止されています。

以 上

※本ニューズレターは、一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に関する法的アドバイスを含むものではありません。