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2025.05.15

譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律並びに企業価値担保権について

<目次>
(はじめに)
1.譲渡担保契約
(1)総則
(2)動産譲渡担保契約
(3)集合動産譲渡担保契約
(4)債権譲渡担保契約
(5)集合債権譲渡担保契約
(6)動産譲渡担保権の実行
(7)集合動産譲渡担保権の実行
(8)債権譲渡担保権の実行
(9)集合債権譲渡担保権の実行
(10)破産手続等における譲渡担保権の取扱い
2.所有権留保契約
3.動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の見直し
(1)競合する譲渡担保権を記録するための競合担保登記目録制度の新設
(2)譲渡担保権の順位の変更の合意の登記の新設
4.留保所有権に関する登記制度の見直し
5.融資実務への影響
6.事業性融資の推進等に関する法律について

(はじめに)

日本の企業の資金調達においては銀行貸出しを中心とした間接金融の役割が大きく、その際の担保としては不動産担保(抵当権)や個人保証が多用されてきた。他方で、不動産を有しない中小企業やベンチャー企業・スタートアップ企業において、個人保証の場合に過大な責任を負うおそれもあること等から、多様な資金調達手段を整備する必要性が指摘されてきた。実務上は、在庫や事業継続に必要な機械等、融資を受ける者が引き続き占有する必要がある動産については動産譲渡担保や所有権留保売買等の取引形式が、また債権については債権譲渡担保の取引形式が利用されている。もっともこれらについては明文の規定がなく、判例法理によるものの判例の射程が明確でなく法的安定性にかける面があり、判例がルールを示していない論点もあることから、その明文化が求められていた(※1)。 
今般、2025年3月7日、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」(以下「本法」という。)が閣議決定され、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関し、譲渡担保権者及び留保売主等の権利の内容、被担保債権の範囲、権利の順位、権利の実行の方法等について定める法律案が第217回国会に提出された(※2)。本稿では、本法の主な概要及び実務への影響等について述べる。 
なお、当該法律とは別に、2024年6月7日、企業価値担保権(以下「企業価値担保権」という。)の創設に向けた「事業性融資の推進等に関する法律案」が成立した(2026年春頃施行予定)。これは、不動産担保等によらず、事業価値やその将来性といった事業そのものを評価し、融資することができるよう、事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる制度として創設されたもので、本法と同様の目的を有しており、同法と関連する点等触れたい。

1. 譲渡担保契約

(1)総則

「譲渡担保契約」とは、金銭債務を担保するため、債務者又は第三者が動産、債権その他の財産(不動産や知的財産権を除く。以下「譲渡担保財産」という。)を債権者に譲渡することを内容とする契約(所有権留保契約を除く。)をいう(2条)(以下、譲渡担保財産の譲渡を受ける者が譲渡担保契約に基づいて譲渡担保財産について取得する権利を「譲渡担保権」という。)。譲渡担保権の設定者(「譲渡担保権設定者」)は、譲渡担保財産を継続して使用でき、担保権者(「譲渡担保権者」)は他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。譲渡担保権設定者はその有する権利を第三者に譲渡できるが、譲渡担保権者は、実行手続によらなければ譲渡担保財産を譲渡できない(5条、6条)。抵当権と同じく、譲渡担保財産は重ねて譲渡担保契約の目的とでき、不可分性、物上代位性も有する(7条ないし9条)。根譲渡担保権の設定も可能で、元本確定前において、設定者の承諾を得て譲渡、一部の譲渡もできるが、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「特例法」という。)による登記をしないと第三者に対抗できない(13条)。また、債権を目的とする根譲渡担保権の譲渡又は一部譲渡は、これらに係る登記について債務者に登記事項証明書(特例法11条2項に定める)を交付して通知し、又はその承諾を得ないと債務者に対抗できない(21条ないし23条)。

(2)動産譲渡担保契約

(ア) (効力)
動産に係る譲渡担保権者(「動産譲渡担保権者」)は、動産に係る譲渡担保権設定者(「動産譲渡担保権設定者」)が動産譲渡担保契約の締結後にその動産の常用に供するために附属させた他の動産であって動産譲渡担保権設定者の所有に属するものについても、動産譲渡担保権を行使することができる(別段の定めがある場合等を除く。27条)。また、動産譲渡担保権設定者は、譲渡担保動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる(29条)。動産譲渡担保権の対抗要件は占有改定を含めた引渡しである(民法178条、特例法3条1項)。 

(イ) (順位)
同一の動産について数個の動産譲渡担保権が互いに競合する場合には、その動産譲渡担保権の順位は、その動産の引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては、登記又は登録)の前後による(動産質権と競合するときは、動産質権の設定の前後による)(32条、35条)。順位の変更は各担保権者の合意及び利害関係人の承諾を得て可能だが、特例法による登記をしないと効力が生じない(33条、後記参照)。 

(ウ)(順位の例外) 
① 占有改定で譲渡担保動産の引渡しを受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法で譲渡担保動産の引渡し(特例法第3条第1項の規定により引渡しがあったものとみなされる場合を含む。)を受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権若しくは動産質権又は企業価値担保権に劣後する(36条)(※3)。また、動産譲渡担保権者が占有改定以外の方法で引渡し(特例法3条1項の場合を除く。)を受けることにより対抗要件を備えても、その後に動産譲渡担保権設定者が当該動産を現に所持して占有したときは、占有改定で引渡しを受けて対抗要件を備えたものとみなす。 

② 次に掲げる債務(その利息等を含み、「牽連性のある金銭債務」という。)のみを担保する動産譲渡担保権は、譲渡担保動産の引渡しがなくても、これをもって第三者に対抗することができる(31条)(※4)。この場合、動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡の時に占有改定以外の方法で当該動産の引渡しがあったものとみなす。 
(a) 譲渡担保動産の代金支払債務 
(b) 譲渡担保動産の代金支払債務の債務者から委託を受けた者が当該代金債務を履行したことによって生ずるその者の当該債務者に対する求償権に係る債務 

③ また、②の牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権は、牽連性のある金銭債務を担保する限度において、競合する他の動産譲渡担保権、動産質権又は企業価値担保権に優先する。ただし、動産譲渡担保権者が次に掲げる時のうち最も早いものより後に譲渡担保動産の引渡しを受けたときは、この限りでない(37条)。 
(a) 他の動産譲渡担保権(集合動産譲渡担保権を除く。)の動産譲渡担保権者が譲渡担保動産の引渡し(占有改定によるものを除く。)を受けた時 
(b) 他の動産譲渡担保権(集合動産譲渡担保権に限る。)の動産譲渡担保権者が(3)(イ)①の引渡し(動産特定範囲に属する動産の引渡しのこと。占有改定によるものを除く。)を受けた時又は譲渡担保動産が動産特定範囲に属した時のいずれか遅い時 
(c) 動産質権の設定時
(d) 譲渡担保動産が企業価値担保権の目的である担保目的財産(事業性融資推進法6条8項)に属した時

(3)集合動産譲渡担保契約

(ア) (特定範囲所属動産)
動産譲渡担保契約は、譲渡担保財産の種類、所在場所その他の事項を指定することにより、将来において属する動産を含むものとして定められた範囲(以下「動産特定範囲」という。)によって特定された動産(以下「特定範囲所属動産」という。)を、一体として、その目的とすることができる(40条、以下、かかる契約を「集合動産譲渡担保契約」といい、これに基づく動産譲渡担保権を集合動産譲渡担保権という。)。特定範囲所属動産に担保権設定を可能とする規定を設ける意義は、設定後に構成部分が変動した場合でも、新たな設定行為を要せずに新たに構成部分となった動産に担保権が及び、また、初めに対抗要件を具備しておけば、以後集合動産に加入した個別動産にもその効力を及ぼすことができる点にある。 
集合動産の譲渡担保権設定者(以下「集合動産譲渡担保権設定者」という。)は、正当な理由がある場合を除き、動産特定範囲に属する動産の補充その他の方法によって、特定範囲所属動産の一体としての価値を、集合動産の譲渡担保権者(以下「集合動産譲渡担保権者」という。)を害しないと認められる範囲を超えて減少することのないように維持しなければならない(価値維持義務)(43条)。 

(イ) (対抗要件の特例) 
① 集合動産譲渡担保権者は、動産特定範囲に属する動産の全部の引渡しを受けたときは、当該動産特定範囲に将来において属する動産(「特定範囲加入動産」という。)についても、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有することを第三者に対抗することができる(41条1項)。 

② 同一の動産について集合動産譲渡担保権と他の動産譲渡担保権(集合動産譲渡担保権を除く。)又は動産質権が競合する場合において、当該他の動産譲渡担保権に係る動産譲渡担保権当初設定者(動産譲渡担保契約の当事者のうち譲渡担保動産を譲渡した者をいう。以下同じ。)又は当該動産質権を設定した者がその動産譲渡担保契約の締結又は当該質権の設定の時点における当該集合動産譲渡担保権に係る動産譲渡担保権設定者以外の者であるときは、①の特定範囲加入動産についての動産譲渡担保権の順位については、集合動産譲渡担保権者が①の引渡しを受けた時又は当該特定範囲加入動産が動産特定範囲に属した時のいずれか遅い時に引渡しを受けたものとみなす(41条2項)(※5)。 

(ウ) 集合動産譲渡担保権設定者による特定範囲所属動産の処分 
① 集合動産譲渡担保契約における動産譲渡担保権設定者は、特定範囲所属動産の処分をすることができる。ただし、集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知ってしたときは、処分の効力を生じない。なお、別段の定めがある場合はそれによる(42条)。 

② 集合動産譲渡担保権設定者が、①ただし書に定める処分をし、又は別段の定めによる処分権限の範囲(以下「権限範囲」という。)を超えて動産特定範囲に属する動産の処分をした場合、民法第192条の規定の適用については、同条中「善意であり、かつ、過失がない」とあるのは、「善意である」とする(42条3項)(例えば、設定者が、担保権者との合意による権限範囲を超えて個別動産を譲渡した場合、譲受人は善意であれば(無過失は要求されない)、当該動産を、担保権の負担のないものとして取得でき、取引相手方の保護が強化される。)。 

③ 集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知って特定範囲所属動産の処分をするおそれがあるとき、又は権限範囲を超えて特定範囲所属動産の処分をするおそれがあるときは、集合動産譲渡担保権者は、その予防を請求することができる(42条4項)。 

(エ) 物上代位の例外 
集合動産譲渡担保権者は、集合動産譲渡担保権設定者が価値維持義務を履行することができると認められる間、特定範囲所属動産の売却、賃貸、滅失又は損傷によって集合動産譲渡担保権設定者が受けるべき金銭その他の物に対し、集合動産譲渡担保権を行使することができない(44条)。ただし、集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知ってした行為又は権限範囲を超えてした行為によって受けるべき金銭その他の物に対しては、この限りでない。

(4)債権譲渡担保契約

(ア) (効力、対抗要件)
債権譲渡担保契約は、債権を目的とする譲渡担保契約であり、設定者から第三債務者に対する通知又は第三債務者の承諾がなければ、第三債務者に対抗することができず、また、確定日付のある証書によって行わないと第三債務者以外の第三者に対抗できない(民法第467条参照)。第三債務者は、債権譲渡担保契約に基づく債権の譲渡について債権譲渡担保権の設定者(以下「債権譲渡担保権設定者」という。)が当該通知又は承諾した後に、債権譲渡担保権の担保権者(以下「債権譲渡担保権者」という。)に対してした弁済その他の債務を消滅させる事由をもって債権譲渡担保権設定者その他の第三者に対抗することができる(48条)。この場合において、債権譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期が到来するまでは、債権譲渡担保権設定者に対し、その受けた利益の価額に相当する金銭を支払うことを要しない。

  (イ) (順位)
同一債権について数個の債権譲渡担保権が互いに競合する場合、債権譲渡担保権の順位は、民法第467条第2項に規定する確定日付のある証書による通知又は承諾の前後による(債権質権についても同様)(49条、51条)。順位の変更は各担保権者の合意及び利害関係人の承諾を得て可能だが、特例法による登記をしないと効力が生じず、当該順位の変更及びその登記について、第三債務者に登記事項証明書を交付して通知をし、又は第三債務者が承諾をしなければ、第三債務者に対抗できない(50条)。

(5)集合債権譲渡担保契約

(ア) 譲渡担保債権の発生年月日の始期及び終期、発生原因その他の事項を指定することにより将来において属する債権を含むものとして定められた範囲(以下「債権特定範囲」という。)によって特定された債権(以下「特定範囲所属債権」という。)を一括して目的とする債権譲渡担保契約(以下「集合債権譲渡担保契約」という。)における債権譲渡担保権設定者(以下「集合債権譲渡担保権設定者」という。)は、集合債権譲渡担保契約に債権特定範囲に属する債権を取り立てることができる旨の定めがあるときは、当該債権特定範囲に属する債権を取り立てることができる(53条1項)。 

(イ) (ア)の規定により集合債権譲渡担保権設定者が債権特定範囲に属する債権を取り立てることができるときは、第三債務者が通知承諾後に集合債権譲渡担保契約における債権譲渡担保権(以下「集合債権譲渡担保権」という。)を有する者(以下「集合債権譲渡担保権者」という。)に対してした弁済等により集合債権譲渡担保権者が受けた利益については、集合債権譲渡担保権者は、弁済期の到来の有無にかかわらず、債権譲渡担保権設定者に対し、その受けた利益の価額から被担保債権の額を控除した残額を支払わなければならない(53条2項)。 
集合債権譲渡担保権設定者は、正当な理由がある場合を除き、特定範囲所属債権の一括した価値を、集合債権譲渡担保権者を害しないと認められる範囲を超えて減少することのないように維持しなければならない(54条、43条)。

(6)動産譲渡担保権の実行

現在、譲渡担保権の実行については明文の規定がなく、私的実行によって回収を図るしかないが、設定者の任意の協力を得られない場合、訴訟提起によって対象動産の占有を確保しなければならず、また清算価格の価値について紛争が生じうる。本法によって、以下の私的実行及び民事執行法190条の動産競売が可能となり、こういったデメリットを避けられることになる。 

(ア) 帰属清算 
動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった後に動産譲渡担保権者が動産譲渡担保権設定者に対して帰属清算の通知(譲渡担保動産をもって被担保債権の弁済に充てること、譲渡担保動産の合理的な見積価額、被担保債権の額について)をしたときは、当該被担保債権は、帰属清算の通知の日から2週間を経過した時又は当該動産譲渡担保権者が譲渡担保動産の引渡し(占有改定による場合を除く。)を受けた時のいずれか早い時(以下「帰属清算時」という。)に、帰属清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅する(60条)。 
動産譲渡担保権者は、帰属清算時における譲渡担保動産の価額が帰属清算時における被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭(以下「帰属清算金」という。)を動産譲渡担保権設定者に支払わなければならない。 

(イ) 処分清算 
動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった後に動産譲渡担保権者が第三者に対して譲渡担保動産の譲渡(以下「処分清算譲渡」という。)をしたときは、当該被担保債権は、処分清算譲渡、譲渡担保動産の合理的な見積価額、被担保債権の額の通知の日から2週間を経過した時又は当該動産譲渡担保権者若しくは処分清算譲渡を受けた第三者が譲渡担保動産の引渡しを受けた時のいずれか早い時(以下「処分清算時」という。)に、処分清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅するものとする(61条)。 
動産譲渡担保権者は、処分清算時における譲渡担保動産の価額が処分清算時における被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭(以下「処分清算金」という。)を動産譲渡担保権設定者に支払わなければならない。 

(ウ) 後順位の動産譲渡担保権者による実行 
後順位の動産譲渡担保権者(他の動産譲渡担保権に劣後する動産譲渡担保権を有する動産譲渡担保権者をいう。)がした帰属清算の通知又は処分清算譲渡は、当該後順位の動産譲渡担保権者が有する動産譲渡担保権に優先する動産譲渡担保権を有する動産譲渡担保権者の全員の同意を得なければ、その効力を生じない(62条)。 

(エ) 動産譲渡担保権者による他の動産譲渡担保権者等に対する通知 
動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡につき動産譲渡登記(特例法第3条第2項に規定する動産譲渡登記をいう。以下同じ。)がされた動産譲渡担保権の動産譲渡担保権者は、その被担保債権について不履行があり、かつ、譲渡担保動産の引渡し(占有改定による場合を除く。)を受けたとき(譲渡担保動産の引渡しに先立って帰属清算の通知又は処分清算譲渡をした場合にあっては、帰属清算の通知又は処分清算譲渡をしたとき)は、遅滞なく、その時にその動産譲渡登記の競合担保登記目録(競合する譲渡担保権に係る譲渡登記を一覧的に記録するための制度。譲渡人及び譲渡担保権の登記名義人は、共同して、競合する譲渡担保権に係る譲渡登記を明らかにして、譲渡担保権が競合する旨の登記を申請することができる。)に特定事項(各競合譲渡登記の登記番号及び登記年月日)が記録されている他の動産譲渡登記又は所有権留保登記において動産譲渡担保権者又は留保売主等として登記されている全ての者に対し、その旨を通知しなければならない(64条)。

(7)集合動産譲渡担保権の実行

集合動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった場合において、集合動産譲渡担保権者が帰属清算の通知又は処分清算譲渡をしようとするときは、その旨を集合動産譲渡担保権設定者に通知しなければならない。かかる通知をした集合動産譲渡担保権者が有する集合動産譲渡担保権及び当該集合動産譲渡担保権に競合する集合動産譲渡担保権は、当該通知が集合動産譲渡担保権設定者に到達した後に、当該通知をした集合動産譲渡担保権者が有する集合動産譲渡担保権に係る動産特定範囲(「実行対象動産特定範囲」という。)に属するに至った動産には及ばない(66条)。
上記通知が集合動産譲渡担保権設定者に到達したときは、当該集合動産譲渡担保権設定者は、実行対象動産特定範囲に属する動産の処分をすることができない。
集合動産譲渡担保権者は、譲渡担保権の実行により被担保債権の消滅等回収が一定の金額を超えた場合で、当該消滅から1年以内に設定者について法的倒産手続が開始された場合、超過額を破産財団等に組み入れなければならない(71条)。

(8)債権譲渡担保権の実行

債権譲渡担保権者は、被担保債権について不履行があったときは、譲渡担保債権を直接に取り立てることができる(92条)。債権譲渡担保権者が直接取立てを行い、又は実行の通知をしたときは、設定者の取立て権限は失われる(94条)。この場合において、債権譲渡担保権者の受けた利益の価額が被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭を債権譲渡担保権設定者に支払わなければならない(92条)。また帰属清算方式又は処分清算方式による実行について動産譲渡担保権と同様。

(9)集合債権譲渡担保権の実行

集合債権譲渡担保権の被担保債権について不履行があった場合において、集合債権譲渡担保権者が集合債権譲渡担保権設定者に対して特定範囲所属債権について取立て、帰属清算の通知又は処分清算譲渡をしようとする旨を通知したときは、集合債権譲渡担保権設定者は、債権特定範囲に属する債権を取り立てることができない(94条)。ただし、第三債務者にもその旨を通知しなければ、第三債務者に対抗することができない。超過分の金銭の組入義務について、集合動産譲渡担保権と同様(95条)。

(10)破産手続等における譲渡担保権の取扱い(97条)

破産手続において、譲渡担保権(破産者が譲渡担保権設定者としてその目的である財産について権利を有し、かつ、その権利が破産財団に属するものに限る。)を有する者を別除権者として扱う(当該権利が破産財団に属しない場合は準別除権者)。
再生手続において、譲渡担保権(再生債務者が譲渡担保権設定者としてその目的である財産について権利を有するものに限る。)を有する者を別除権者として扱う。
更生手続において、譲渡担保権(開始前会社が譲渡担保権設定者としてその目的である財産について権利を有するものに限る。)の被担保債権を有する者を更生担保権者として扱う。
特別清算手続(承認援助手続も同じ)において、譲渡担保権(清算株式会社が譲渡担保権設定者としてその目的である財産について権利を有するものに限る。)を有する者を担保権者として扱うものとする。
集合動産譲渡担保権設定者又は集合債権譲渡担保権設定者について破産手続開始の決定等があった場合、当該決定等後に新たに加入又は取得した動産又は債権には譲渡担保権は及ばない。但し、債権に関して、再生手続開始又は更生手続開始の各決定があった場合で、集合債権譲渡担保契約に別段の定めがある場合はこの限りでない(106条、107条)。

2. 所有権留保契約(109条)

留保所有権は、所有権留保動産の留保買主等から留保売主等への引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては、留保売主等を所有者とする登記又は登録)がなければ、第三者に対抗することができない。但し、所有権留保動産の代金の支払債務等(その利息、違約金、留保所有権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を含む。)のみを担保する留保所有権は、所有権留保動産の引渡しがなくても、これをもって第三者に対抗することができる。なお、その他譲渡担保権に関する規定が準用されている。

3. 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の見直し

(1)競合する譲渡担保権を記録するための競合担保登記目録制度の新設

競合する譲渡担保権に係る譲渡登記を一覧的に記録するための競合担保登記目録制度を新設する。 
譲渡人及び譲渡担保権の登記名義人は、共同して、当該目録に記録すべき競合する譲渡担保権に係る譲渡登記(以下「競合譲渡登記」という。)を明らかにして、譲渡担保権が競合する旨の登記を申請することができる。 
登記官は、上記申請に基づき、各競合譲渡登記において当該目録を作成し、当該目録に各競合譲渡登記の登記番号及び登記年月日(以下「特定事項」という。)を記録する。

(2)譲渡担保権の順位の変更の合意の登記の新設

順位を変更した譲渡担保権の登記名義人は、共同して、順位の変更の合意の登記を申請することができる。この登記は、競合担保登記目録に順位を変更した譲渡担保権に係る全ての競合譲渡登記の特定事項が記録されている場合に限り、申請することができる。

4. 留保所有権に関する登記制度の見直し

所有権留保契約の留保売主等及び留保買主等(法人に限る。)は、動産の所有権の留保について所有権留保登記の申請をすることができる(所有権留保登記の新設)。所有権留保登記がされたときは、所有権の留保に係る動産について引渡しがあったものとみなす。所有権留保登記については、動産譲渡登記に関する規定を準用する。

5. 融資実務への影響

本法による実務への影響としては、譲渡担保契約や所有権留保契約の効力、実行手続等が明確になり、当該契約に関する取引やリスク管理、より安定した融資スキームの組立て、迅速な倒産時の債権回収、権利行使等がより容易になると考えられる。また、事業者側からすると、不動産担保なくして十分な資金調達を得られない場合でも、事業を維持・存続・再生させるための「生かす担保」として活用でき、個別担保の積み上げによらずに集合動産や集合債権を担保として利用できることになる。引いては、事業性に着目した融資手法の普及・定着や、資本市場を持たない非上場会社におけるデットガバナンスの向上にも役立ち得ると考えられる。

6. 事業性融資の推進等に関する法律について

当該法律は、事業者が、不動産担保や経営者保証等によらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるよう、事業性融資の推進に関して定めた法律である。同法により、ノウハウ、顧客基盤等の無形資産も担保価値として評価され、融資が判断されることになり(事業性融資の推進)、また、事業に対する貸し手の関心が高まり、タイムリーな経営改善支援が期待される(融資実務の改善)。 
譲渡担保権と比べると、当該法律が定める新たな企業価値担保権の担保目的財産は総財産(将来キャッシュフローを含む事業全体の価値)であり、譲渡担保財産より担保の対象が広い。他方、譲渡担保権と比べて借り手は株式会社又は持分会社(自己の債務を担保するためにのみ設定可)と限定されており、担保権者は企業価値担保信託会社、貸し手は無制限(銀行の他、ベンチャー・再生ファンド等も利用可能)である。対抗要件は商業登記簿への登記であり、他の担保権との優劣は対抗要件の先後による。借り手は担保目的財産の処分が基本的には自由(通常の事業活動の範囲外の行為は、担保権者の同意必要)である。これは譲渡担保権と同じであるが、債務の弁済が滞った場合、私的実行が可能な譲渡担保権とは異なり、その実行手続は、事業継続しながら可能な限り高い企業価値を維持するため、担保権者が裁判所に申し立て、裁判所が事業の経営等を担う管財人を選任することによる。裁判所の監督の下、管財人は、事業を解体せず、原則として事業の経営等をしながらスポンサーヘ事業譲渡し(事業譲渡には裁判所の許可が必要)、貸し手は事業譲渡の対価から融資を回収することになる(管財人が事業譲渡の対価から、貸し手の金銭債権に充当する。)。

(※1)法案が成立後、公布の日から起算して2年6ヶ月以内に施行される見込み(附則1条) 
(※2)法務省「担保法制の見直しに関する中間試案」(令和4年12月6日)、「担保法制の見直しに関する要綱案」(令和7年1月28日)参照。 
(※3)本法では、対抗要件としての占有改定は、公示性が高くないことから、他の対抗要件より劣後する扱いがされている(占有改定劣後ルール)。 
(※4)牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権等については、狭義の留保所有権の政策的優遇に合わせた取り扱いが規定された。牽連性のある当該金銭債務に係る動産譲渡担保権等を有利に扱う実質的な理由は、①このような動産譲渡担保権等の目的物である動産は売主が売却したことによって買主の財産を構成するに至ったのであるから、売主がその動産から優先的にその債権の弁済を受けられるとすることが実質的公平にかなうこと、②既に他の担保権が設定されている場合に売主の担保権が劣後することとすれば、売主はその売買代金債権を保全する手段を失うこととなり、買主との取引を中止せざるを得ないこと、③競合する担保権者にとっても、融資先である買主が代金を完済しないまま売主から目的物の引渡しを受けている可能性があることは想定すべきであることなどによる(「担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討」(5) (部会資料33)11頁以下)。 
(※5)加入時説採用、法務省「担保法制の見直しに関する要綱案のたたき台2」(部会資料42)21頁以下。 

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以 上