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セミナー
事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. 米国国際貿易裁判所(CIT)の対応
3. 米国国際貿易裁判所(CIT)への提訴の可能性
4. 日本企業が検討すべき具体的実務対応
5. おわりに
2026年2月20日、米国連邦最高裁判所(以下「連邦最高裁」といいます。)は、Learning Resources, Inc. v. Trump事件において画期的な判決(以下「本判決」といいます。)を下しました。本判決は、トランプ政権による国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act:IEEPA)を根拠とした一定の包括的な関税措置について、2025年8月に米国国際貿易裁判所(Court of International Trade:CIT)が下した無効判断を支持するものです。連邦最高裁は、米国の対外経済制裁の根拠法であるIEEPAは、大統領に関税を課す権限を付与するものではないと判断し、その他の理由も踏まえ、2025年以降に米政府が導入した相互関税その他の措置を無効としました。
もっとも、本判決は、IEEPAに基づく関税の違法性を確定した一方で、違法な関税の対象となった製品を輸入した事業者が、どのようにして関税還付を受けることができるのか、その手続および方法については、判断を示していません。そのため、現在、米国実務において、無効とされた関税措置に基づき輸入事業者が支払った関税の還付手続や仕組みが、重要な論点となっています。
また、連邦最高裁が今回の判断を示す以前から、還付請求権を保全する目的で2,000件を超える訴訟が既に提起されており、その中には複数の日本企業による提訴も含まれていること、さらに、本判決後、日本の大手ゲーム機メーカーが米政府を新たに提訴したことも報道されています(※1)。
さらに、一部の事案では、関税を理由として価格を引き上げた企業に対し、米国の消費者がクラスアクション(集団訴訟)を提起する動きも見られます。これらの訴訟では、企業が支払った関税については還付を受けようとする一方で、消費者に対して課した高い価格を維持し、結果として、関税負担を実際に負った消費者に還元することなく、自らの利益として取り込んでいると主張されています。
本ニューズレターでは、連邦最高裁の下した本判決を踏まえ、関税還付手続および訴訟の観点から、日本企業が検討すべき実務対応について説明します。
※1 日本経済新聞電子版記事2026年3月5日11:47
米国国際貿易裁判所(CIT)は、2026年3月5日(その後の修正を含みます。)、連邦最高裁の下した本判決を受け、米国税関・国境取締局(United States Customs and Border Protection:CBP)に対し、無効とされた関税分を控除した上で既に徴収された関税額を再計算するよう命じました。
また、CITは、本判決の原告に限らず、無効とされたIEEPA関税を支払ったすべての輸入事業者が還付を受ける資格を有するとの見解を示し、訴訟手続を前提としない還付メカニズムを検討する意向を明らかにしました(以下、CITの出した上記命令を、「包括的還付命令(Universal Refund Order)」といいます。)。
もっとも、この包括的還付命令が出された直後、CBPから、現行システムでは影響を受ける大量の輸入申告を処理することが困難であり、相当の追加対応およびシステム変更が必要であるとの説明がなされました。これを受け、CITは、さらなる審理までの間、包括的還付命令の即時執行を停止しました。
その後、CBPは、輸入事業者が支払ったIEEPA関税に関する情報を提出できる新たなシステムを構築中であり、当該情報に基づき、米政府が各輸入事業者に直接還付を行う方式を検討している旨を明らかにしました。
2026年3月12日、CBPはCITに書面を提出し、この新たな還付システムの開発を進めていることを報告しました。当該システムは、Consolidated Administration and Processing of Entries(CAPE)システムと呼ばれ、以下の4つの主要構成要素からなるとされています。
1. クレーム・ポータル:輸入事業者および通関業者が、IEEPA関税の還付申請をCBPに提出するためのウェブベースの窓口
2. 一括処理機能:関税額を自動的に計算する処理機能
3. 審査および清算/再清算プロセス
4. 還付プロセス
CBPは、2026年3月11日時点で、各構成要素の開発は40%から80%程度まで進捗しており、段階的に展開する予定であると報告しました。
これを受け、CITは、CBPが還付プロセスの構築に向けて「適時に完了するための十分な進捗」を示していると判断し、2026年3月19日に改めて還付プロセスに関する進捗報告書を提出するよう指示しました。
もっとも、CAPEシステムが早期に利用可能となった場合であっても、実際に還付金が支払われるまでには、数か月、場合によっては数年を要する可能性があるとの指摘があります。他方で、還付の遅延が長期化すれば、米政府に多額の利息負担が生じることから、こうした状況が長く維持されるとは考えにくいとの見方も示されています。
包括的還付命令(Universal Refund Order)は、訴訟を提起していない事業者に対しても還付を行うことを想定しているものの、その実施方法や実際の還付時期についてはいまだ不透明な状況にあります。こうした中、還付請求権を確実に保全する観点から、CITへの提訴を検討する企業も存在します。
こういったCITへの提訴は、主として、2025年8月にCITがIEEPA関税を違法として無効と判断した後に発出した行政命令に基づいて行われています。当該命令において、CITは、IEEPA関税に対する新たな異議申立てについて、その審理を一時停止(ステイ)した上で、「新IEEPA関税訴訟(New IEEPA Tariff Cases)」と呼ばれる一つのグループに統合しました。現在もこの一時停止(ステイ)は継続しており、企業は引き続きCITに新たな請求を提起し、統合されたこのグループに参加しています。
この統合グループに参加することは、いくつかの点で重要な意味を持ちます。
第一に、米政府はCITにおいて、訴訟を提起した「現在および将来の、同様の立場にある原告」に対して、利息を含めた還付を保証することを約束しています。そのため、提訴を行うことで、還付が確実に受けられること、また、初期段階の還付フェーズに含まれる可能性が高まることが期待されます。
第二に、提訴は、適用され得る出訴期間制限(statutes of limitation)との関係で、請求権を確実に保全する効果を持ちます。
第三に、提訴の有無や訴訟の手続的な位置づけ、還付の法的根拠によって、還付金に付される利息の有無やその利率が異なる可能性があり、提訴がその点に影響を与える場合があります。
もっとも、連邦最高裁がLearning Resources, Inc. v. Trump事件において最終判断を下したことを受けて、CITは「新IEEPA関税訴訟(New IEEPA Tariff Cases)」に対する一時停止(ステイ)を、いつでも解除する可能性があります。仮に一時停止(ステイ)が解除された場合、それ以降に提起される訴訟が引き続き統合グループとして扱われるか否か、また、米政府がこれまで表明してきた還付に関する取り決めが、後続の提訴者にも及ぶかについては、現時点では明らかではありません。
さらに、IEEPAを根拠とする関税が無効とされたことを受け、1974年通商法122条に基づいて導入された代替的な追加関税(現在は税率10%、将来的に15%へ引き上げられる可能性があり、かつ150日間の期間限定)についても、その適法性を巡り、米国の複数の州が連携してCITに提訴しています。このように、米国の関税政策全体は、引き続き流動的な状況にあります。
以下、日本企業が検討すべき具体的な実務対応について、説明します。
まず、自社またはグループ会社において、IEEPAを根拠とする関税が課された輸入取引が存在するかを確認する必要があります。
具体的には、以下のような場合、関税還付を受けられる可能性があります。
・米国子会社や販売会社が輸入事業者として関税を支払っている場合
・契約上、日本企業が実質的に関税負担を負っている場合
米国関税法上、関税還付請求は原則としてImporter of Record(輸入事業者)が行います。
この点、日本企業の取引では、
・米国子会社
・米国販売会社
・米国ディストリビューター
などがImporter of Recordとなっているケースも多く、誰が還付請求の主体となり得るかを早期に整理することが重要となります。
米国実務では、将来の請求可能性を確保するため、権利保全を目的としてCITに提訴する(いわゆるプロテクティブ・ファイリング)という対応が検討される場合があります。
もっとも、前述のとおり、CITは、IEEPA関税を支払った輸入事業者であれば、訴訟の原告でなくとも還付の対象となり得るとの考え方を示しており、現在は、訴訟を前提としない還付スキームとして、CAPEシステムの構築が進められています。
このため、現時点において、CITへの提訴はあくまで実務上の選択肢の一つと位置付けられるべきであり、必ずしも必須の対応ではない点には留意が必要です。
CITへの提訴を行わない場合であっても、税関手続を通じて関税還付を求めることは可能です。
具体的には、以下の手続が考えられます。
・通関確定後180日以内のProtest(異議申立て)
・Post Summary Correction(PSC)
もっとも、米国関税手続においては、一般に、輸入申告後一定期間が経過すると当該申告は清算(Liquidation)され、関税額について争うことが困難となる可能性があります。そのため、実際の還付時期や運用の詳細については、当該申告の清算時期にも留意しつつ、今後の米政府およびCBPの対応を注視する必要があります。
また、並行して、CBPが運営するオンラインシステムであるAutomated Commercial Environment(ACE)上で、電子的な関税還付(電子還付)を受け取るための登録を行っておく必要があります。CBPは、還付はACH Refundによる電子的方法のみで行う方針を示しており、還付請求の方法にかかわらず、すべての還付対象事業者にとって当該登録が必要となります。
IEEPA関税の無効化とそれに伴う関税還付の問題に加え、連邦最高裁が本判決を下した直後にトランプ政権が発動した通商法122条に基づく追加関税についても、米国各州がCITに一斉提訴してその適法性を争っており、米国の関税政策は引き続き高い不確実性を伴う状況にあります。
日本企業としては、過去に支払ったIEEPA関税について還付の可能性があるか、かかる還付請求権保全のために何をすべきかを確認するとともに、現在あるいは将来適用される追加関税が事業や取引に与える影響を注視し、引き続き状況に応じた実務対応を検討していくことが重要となります。
とりわけ、関税還付の方法、権利保全の在り方、具体的手続の選択、IEEPA関税に関連する価格転嫁を巡る訴訟リスク(消費者からの請求への対応を含みます。)、さらには今後の関税訴訟の動向については、米国の通商法・関税法に特有の制度および実務運用を踏まえた迅速な判断が求められます。そのため、多くの場面において、米国の法律事務所との緊密な連携が不可欠となります。
当事務所では、米国の有力法律事務所と連携したクロスボーダー案件の対応実績を多数有しており、日本企業の立場から、米国側専門家との協働による実務的な検討・対応支援を行っております。
以 上