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2023年3月、個人情報保護委員会は、「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」(以下「本文書」といいます。)を公表しました。本文書は、顔識別機能付きカメラシステムを導入する際に、個人情報保護法の遵守や肖像権・プライバシー侵害を生じさせないための観点から留意すべき点や、被撮影者や社会からの理解を得るための自主的な取り組みについて、個人情報保護委員会が設置した検討会の報告書をうけ、同委員会が公表したものです。
本文書においては、①個人情報取扱事業者が、②駅や空港等の大規模施設において、③顔識別機能付きカメラシステムを、④犯罪予防や安全確保のために利用する場合が対象とされており、商用目的での利用は対象としないとされています。しかし、本文書では、上記に該当しない事業者にも参考となる事項が指摘されています。
本稿では本文書で新たに示された見解や、望ましいとされる事項について整理します。
本文書において、顔識別とは「カメラにより撮影された者の中から、その者の顔特徴データと照合用データベースに登録された顔特徴データを照合してデータベースに登録されている特定の個人を見つけ出すこと。」と定義されています。
顔識別機能付きカメラシステムの技術的仕組みは、以下のように述べられています。
① 顔識別機能付きカメラシステムによる検知対象者を定め、その者の顔画像から顔特徴データを抽出し、照合用データベースに登録する
↓
② カメラにより顔画像を撮影する
③ ②で撮影した顔画像から顔特徴データを抽出
↓
④ ③で抽出した顔特徴データと①で照合用データベースに登録した顔特徴データの照合
⑤ 照合の結果、同一人物である可能性が高い場合にシステムが検知
↓
⑥ 検知対応者への対応
また、本文書は顔識別機能付きカメラシステムを設置する空間的範囲として、同システムにより「顔画像を取り扱うことについて事前に本人の同意を得ることが困難な、不特定多数の者が出入りする大規模な空間」を対象としています。「事前に本人の同意を得ること」が容易な場合としては、入退館システムのために事前に本人の同意を得て顔認証機能を用いる場合が挙げられています。
これに関して、本文書は、顔識別機能付きカメラシステムの懸念点として、「被撮影者が自己の個人情報が取り扱われている事実を認識できず、またその取扱いを受容するか否かを選択することができない状況で、撮影範囲に入った全ての者の顔画像を自動的、無差別かつ大量に取得することができる」ことを指摘しています。このことから、事前に本人の同意を得ることができるか否かにより、行うことが望ましい対応が異なると考えられていると思われます。
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、利用目的をできる限り具体的に特定しなければなりません(法17条1項)。本文書においては、本人が自らの個人情報がどのように取り扱われることとなるか合理的に予測・想定できるよう、①防止したい事項等や②顔識別機能を用いていることを明らかにすることで利用目的の特定を行わなければならないとされています。
①防止したい事項については、少なくとも「犯罪予防」、「行方不明者の捜索」等としなければならないと示されています。
また、本文書別紙3の「施設内での掲示案」では、利用目的が「犯罪予防のために顔識別機能付きカメラシステムを利用しています。」と示されていることから、②については、顔識別機能付きカメラシステムを利用していることを示せばよいと考えられます。
これまで、顔認証データを防犯目的で利用する場合の利用目的は、「防犯のためにカメラ画像及び顔認証技術を用いた顔認証データの取扱いが行われることを本人が予測・想定できるように利用目的を特定」すると示されていました(個人情報保護委員会Q&A「Q1-12」)が、本文書では、より具体的な利用目的の特定方法が示されました。
利用目的の特定方法は、犯罪予防や安全確保以外の商用目的等のために顔特徴データを利用する場合にも参考にすることができます。
本文書では、顔識別機能付きカメラの利用に関する施設内とWebサイト等での掲示の考え方が示されています。
個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段による取得とならないよう、カメラが作動中であることを掲示する等、カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能とするための措置を講ずる必要があります。ただし、外観上カメラであることが明らかであり、個人情報が取得されていることが被撮影者において容易に認識可能な場合は、カメラが作動中であることの掲示等を行なわなくても、個人情報保護法(以下「法」といいます。)20条1項の求めは満たしています。
また、個人情報を取得した場合、その利用目的を本人に通知し、又は公表しなければなりません(法21条1項)。「公表」は、「自社のホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所への掲載」により行うことが考えられる(通則ガイドライン2-15)とされています。
さらに、保有個人データに関し、個人情報取扱事業者の名称等や、利用目的、安全管理措置等について本人の知り得る状態に置かなければなりません(法32条1項)。これは、ホームページへの掲載などにより行うことが考えられます(通則ガイドライン3-8-1)。
すなわち、外観上カメラであることが明らかな顔識別機能付きカメラシステムを利用する場合、その利用目的、個人情報取扱事業者の名称等や安全管理措置等を自社のホームページに掲載すれば法20条1項、21条1項、32条1項の要請は満たすものと考えられます。
これに加えて、本文書では、本人からの理解を得るためにも、できる限りわかりやすく情報提供を行うために、情報の重要度に応じて、施設内における掲示と、Webサイト等での法定事項以外の事項の掲示が望ましいと示しています。
施設内においては、以下の事項を掲示することが考えられると示されています。
①顔識別機能付きカメラシステムの運用主体
②顔識別機能付きカメラシステムで取り扱われる個人情報の利用目的
③問い合わせ先
④WebサイトのURL及びQRコード等
また、本文書別紙3には、具体的な掲示案が示されています。
これを、人が出入りする際に目につきやすい出入口に掲示することが考えられます。
Webサイト等においては、以下の事項を掲示することが考えられると示されています(※をつけたものは、公表や本人が容易に知り得る状態とすること等が法律上義務付けられている事項)。
①顔識別機能付きカメラシステムを導入する必要性
②顔識別機能付きカメラシステムの仕組み
③顔識別機能付きカメラシステムで取り扱われる個人情報の利用目的(※)
④運用基準(登録基準、登録される情報の取得元、誤登録防止措置、保存期間等)
(ただし、利用目的の達成を妨げない範囲で明らかにすることが望ましいと留保されている。)
⑤他の事業者への提供(委託、共同利用(※)等)
⑥安全管理措置(※)
⑦開示等の請求の手続、苦情申出先(※)
法19条は、個人情報保護法その他の法令に違反する行為、及び直ちに違法とはいえないものの、個人情報保護法その他の法令の制度趣旨又は公序良俗に反する等、社会通念上適正とは認められない行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用することを禁止しています。
これに関し、本文書は、顔識別機能付きカメラシステムにより検知される者が、性別や肌の色の以外により特定の属性の者に偏る等の不当な差別的取り扱いが法19条違反になるおそれがあることを指摘しています。
また、本文書は肖像権・プライバシー侵害との関係についても整理しています。「不法行為と個人情報保護法はその目的や性格に異なる部分があることから、…不法行為が成立したからといって必ずしも個人情報保護法違反となるわけではない」としつつ、「不法行為の成否を評価するに当たり考慮される要素は、個人情報保護法上も不適正利用の禁止規定(法第19条)や適正取得規定(法第20条第1項)の解釈などにおいて、考慮すべきであると考えられる」と示しています。
法19条は、違反となる事例が通則ガイドライン3-2にいくつか示されているものの、個別の事案においてどのような要素が考慮されるかは、明らかではありませんでした。今回、顔識別機能付きカメラシステムの利用との関係では、肖像権やプライバシー侵害に関する不法行為の成否を評価するに当たり考慮される要素が、個人情報保護法の成否の検討においても考慮されることが示されたことは留意する必要があります。
さらに、本文書は「撮影の場所に関してトイレや更衣室など通常撮影されることが想定されないような場所にカメラを設置して撮影することや、商用的な観点から特定の個人を追跡して監視する場合には法第19条及び法第20条第1項違反になり得る」と示しています。「商用的な観点から特定の個人を追跡して監視する場合」について、「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」報告書(案)パブリックコメント結果(以下「パブリックコメント結果」といいます。)116番は、法19条違反及び法20条1項違反となるかは、「個別の事案に応じて判断される」と示しているため、商用的な観点からの利用が全て法19条及び法20条1項違反になるわけではないと考えられますが、この点には十分留意する必要があります。
本文書は、登録基準、対応手順、保存期間及び登録消去基準等の顔識別機能付きカメラシステムを運用するための基準(運用基準)を、いずれの担当者においても同様の判断を行うことができる統一的なものとして作成し、その基準に従って一定の運用を行うことができる体制を整備することが重要であると指摘しています。
照合用データベースに個人情報を登録するための登録基準を作成するに当たっては、対象とする犯罪行為等をあらかじめ明確にし、当該行為の性質に応じ、利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報が登録されることのないような登録基準としなければなりません(法18条1項)。例えば、①登録対象者を定めるにあたっては、対象とする犯罪行為を行う蓋然性が高い者に厳格に限定し、さらに②照合用データベースに登録する際も、当該犯罪行為を行う蓋然性があることを厳格に判断することが望ましいと示されています。
顔識別機能付きカメラシステムで取り扱う情報の具体的な保存期間は示されていませんが、保存期間を設定する際の考え方が示されています。なお、具体的な保存期間は、個別の事案に応じて判断されるものと考えられています(パブリックコメント結果162番等)。
照合用データベースに登録した情報の保存期間は、対象とする犯罪行為の再犯傾向や、登録対象者が再来訪するまでの一般的に想定される期間等を考慮することが考えられます。
また、検知対象者でなかった者の顔特徴データ及び顔特徴データを抽出するために用いた個人データである顔画像は、利用する必要がないと考えられるため、遅滞なく消去するよう努めなければなりません(法22条)。一般に顔識別機能は通常の防犯カメラに追加して行われるものですが、防犯カメラの映像自体は、顔識別機能とは別に、利用する必要がなくなったときに遅滞なく消去することが望ましいと考えられています(パブリックコメント結果164番)。
顔識別機能付きカメラシステムを利用する際、カメラ画像の分析やシステムの運用を委託することがあり得ますが、従来型防犯カメラとは異なる性質を有する個人データを取り扱っており、固有の留意事項があることを委託先と共有し、委託先に対する監督を行わなければならない(法25条)と示されています。
本文書では、顔識別機能付きカメラシステムに登録された者の情報を複数の事業者間で共有する方法の一つとして、共同利用(法27条5項3号)が挙げられています。
ただし、顔特徴データの特徴に鑑み、「共同利用する者の範囲を利用目的の達成に照らして真に必要な範囲に限定することが適切である」と示されています。
この「真に必要な範囲」は、「組織的な窃盗の防止を目的とする場合、盗難被害にあった商品や、当該商品に関する全国的あるいは地域全体における組織的な窃盗の発生状況をもとに、登録対象者が共同利用する者の範囲において同様の犯行を行うことの蓋然性を踏まえて」検討する例が示されています。
顔特徴データの共同利用を行うに当たっては、共同利用する者の範囲を設定した理由を説明できるようにしておくことが重要になるでしょう。
個人情報取扱事業者は、本人から保有個人データの開示等の請求を受けたときは、原則として遅滞なく開示等をしなければなりません(法33条2項、34条2項、35条2項)。
ただし、個人情報保護法施行令5条は、保有個人データに該当しない場合を定めています。本文書では、「例えば、テロ防止を目的としているとき、登録基準を施設内で危険物を所持している者と定め、登録時に被登録者が危険物を所持していることを少なくともカメラ画像を通じて確認し、危険物を所持しているという情報を取り扱っている場合」は、施行令5条により保有個人データに該当しないとも考えられることが示されています。ただし、施行令第5条各号は例外的な場合であるため、慎重な判断を要するとされています。
また、開示等の請求に応じる義務がない保有個人データ又は個人データが生じることがあらかじめ想定される場合は、その場合を整理して基準を定め、恣意的な運用がなされないようにしておくことが望ましいことが示されています。
本文書では、個人情報保護法上義務付けられていませんが、顔識別機能付きカメラシステムにおいて、適正に個人情報が取り扱われ個人の権利利益の保護がされることや、導入の必要性について理解を得るための自主的な取組として考えられる事項が指摘されています。
このうち、犯罪予防等のための方策を選定するに当たっては、実現しようとする内容を明確にして検討し、その内容に照らして必要かつ適切な手段を選択することが重要であり、以下の順に沿って検討することが望ましいとされています。
①実現しようとする内容を具体的に特定して、明確にする
②①について、当該施設や類似施設における発生実態(発生事実・可能性の有無、発生頻度、犯罪の態様)や被害が生じた場合の大きさ等の観点から重大性や緊急性を検討する
③②の重大性や緊急性に照らし、有効な手段のリストアップ
④③でリストアップ手段の中から、実現しようとする内容を十分に実現でき、かつ個人の権利利益をより侵害しない適切な手段を選択する
このような検討は法律上の義務ではないものの、個人情報保護委員会は、導入の必要性が認められやすいと考えられる犯罪予防目的での顔識別機能付きカメラシステムの導入に際しても、手段の適切さの検討を行うことが望ましいと示しています。本文書において、顔識別機能付きカメラシステムの商用利用については、上述のとおり法19条及び法20条1項違反になり得ると指摘していることからすれば、商用利用の場合も手段の適切さを検討することは重要であると考えられます。
これに加え、本文書は、PIAの実施、システムの利用開始前からの広報、導入後の内部監査、第三者委員会、透明性レポートなども望ましい対応として指摘しています。
顔識別機能付きカメラシステムの利用は広がりつつありますが、個人情報保護委員会は、犯罪予防や安全確保目的での利用については一律に規制するのではなく、個人情報保護法やその他の法令に則り、適切に運用されることを求めるとの方向性を示したといえます。