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2022.12.13

株主間契約に基づく株主総会及び取締役会における議決権行使の強制が仮処分手続において認められた例

<目次>
1. はじめに
2. 議決権拘束合意の有効性
3. 議決権拘束合意の履行を確保する手段
4. 取締役会において特定の人物を代表取締役として選定する旨を定めた合意を実現するための手段
5. 東京地決令和4年6月24日決定(及びその異議審である東京地決令和4年7月26日決定)
6. 終わりに

1. はじめに

スタートアップ企業や合弁会社においては、主要な株主間で株主間契約が締結され、その中で、取締役の選任や代表取締役の選定について当該株主間での議決権拘束を合意することが多い。しかしながら、かかる株主間契約に基づき、契約当事者たる一方株主に対して合意したとおりの議決権行使を行うよう判決や仮処分等で認めた例は(少なくとも公刊されたものでは)存在しなかった。そのような状況下、今般、当事務所は、株主間契約の一方当事者が、他の契約当事者である株主に対し、①株主間契約に基づき株主総会において自身を発行会社の取締役として選任する内容の議決権を行使すべきこと、並びに、その後に開催される取締役会においても、他の契約当事者が指名した取締役をして、②自身を代表取締役として選定すべきこと、及び、③自身を代表取締役から解職させてはならないこと、を求めた仮処分につき、これを認容する決定を得た(東京地決令和4年6月24日(公刊集未搭載))。かかる決定に対しては、相手方株主から保全異議が申し立てられたが、異議審はかかる異議を認めず、原決定を認可した(上記東京地決令和4年6月24日の異議審である東京地決令和4年7月26日(公刊集未搭載))。

そこで、以下では、株主間契約に基づく議決権行使請求が法的請求として(つまり実体法上有効な請求権として)認められるか、及び、かかる請求権について履行強制が可能か(つまり裁判上の請求権として認められるか)について、これまでの裁判例と学説を踏まえ、今般の仮処分決定について紹介したい。

2. 議決権拘束合意の有効性

1で述べたようなスタートアップ企業における株主間契約では、当該契約当事者がそれぞれ出資先企業における取締役の指名権を持つこととされ、かつ、株主間契約の締結当事者は、株主間契約の当事者たる株主がそれぞれ指名した取締役が株主総会において選任されるよう議決権行使を行うべきことを合意することが多い(以下、かかる合意を「議決権拘束合意」と呼ぶ。)。

この点、まず、かかる議決権拘束合意の有効性自体が問題となる。
かつては、株主総会における議決権行使は株主の共益権であることを理由に、かかる議決権拘束合意は無効であるとする見解も存したようである。しかし、現在では、株主はその自由意思に基づいて議決権を行使できる以上、その行使内容について他の株主と合意し一定の制限を設けることを妨げる理由はないとして、議決権拘束合意を有効とする見解が通説である。裁判例においても、東京高判平成12年5月30日(判例時報1750号169頁)が一般論として議決権拘束合意の有効性を承認しており、裁判実務としてもこの点は固まっていると言える。

3. 議決権拘束合意の履行を確保する手段

ところが、かかる議決権拘束合意の有効性は認めながら、その履行を訴訟や仮処分といった裁判手続において強制できるかについては、近時においても、これを認めない見解が存在する。すなわち、かかる履行強制が可能なのは、対象会社の全株主が株主間契約の当事者となった場合に限るとする見解である。議決権拘束合意の有効性及び履行強制が問題となった名古屋地決平成19年11月12日(金融・商事判例1319号50頁)も、取締役の選任にかかる議決権拘束合意につき、「仮に、債務者が、同項に基づいて、本件議決権を行使してはならない不作為義務を負うといえる場合には、その債権的効力(同義務違反に基づく債務不履行責任)を否定する理由はないが、これを越えて、債務者の議決権行使を差し止めることになれば、その影響は、本件合意書の当事者である債権者及び債務者にとどまらず、コバショウ(注:対象会社)の他の株主にも及ぶことになる」と判示し、原則として、議決権行使の差止請求は認められないが、例外的に、株主全員が当事者である議決権拘束合意である場合には履行の強制が認められる余地があるとした。

しかし、ある株主による議決権行使の結果が、株主総会決議という形で他の株主に影響を与えることは当然であり、株主が自由に行使できる総会での議決権を、他の株主と事前に定めた内容にてこれを行使することにより(総会決議という形で)他の株主に影響を与える結果となることも当然である。したがって、他の株主への影響は、議決権行使に関して合意をした株主に対して、当該合意通りの議決権行使を裁判によって命じることを否定する理由にはならないと考えられる。

学説の多くもこれを肯定していると考えられるし、また、近時の裁判例(東京高判令和2年1月22日(金融・商事判例1592号8頁))も、「その内容、方針、意図から法的効力を発生させる意思が明確に認定できる株主間契約については、契約に沿った議決権行使の履行を強制する内容の裁判(判決・仮処分命令)をすることが可能であり、契約に沿わない議決権行使により成立した株主総会決議について、定款違反があった場合に準じて、株主総会決議取消の判決をすることも可能であると考えられる。ただし、後者の株主総会決議取消判決ができるのは、株主間契約の当事者ではない株主に予想外の影響を及ぼすことを避けるために、発行済株式の全部を株主間契約の当事者が保有している場合に限られる。」として、株主間契約違反の効果として株主総会決議取消しの対象となることを肯定することはともかく、株主全員が株主間契約(議決権拘束合意)の当事者でなくても議決権行使の履行を強制する内容の裁判(判決・仮処分命令)をすることは可能である旨を判示している(ただし、同判決では、結論としては、契約当事者の属性・その後の運用・株主間契約に関する学説や実務の変遷等も踏まえ、当該事件の株主間契約はいわゆる紳士協定的なものであり、履行強制をすることはできないと判断されている。)。

かかる合意の履行の強制執行は、判決主文あるいは仮処分決定の主文がどのような態様でなされるか(これはひっきょう、原告代理人ないし仮処分の申立代理人がどのような請求の趣旨あるいは申立ての趣旨を立てるか、である。)によるが、多くの場合、意思表示の擬制(民事執行法177条)によってなされることになる。

4. 取締役会において特定の人物を代表取締役として選定する旨を定めた合意を実現するための手段

次に、株主間契約においては、各株主による取締役の指名権のみならず、その指名した取締役のうちの特定の取締役(あるいは特定の株主が指名した取締役)を対象会社の代表取締役とする旨の合意がなされることも多い。このような合意も、取締役の選任に関する議決権拘束合意と同じく有効であることはいうまでもない。かかる合意は、具体的には、各株主が指名した取締役が、対象会社の取締役会において、株主間契約に沿った形で代表取締役の選定に関する議決権を行使することによって実現することになる。

一方、株主間契約の一部の当事者が上記のような合意に反する意向を示しているような場合(つまり自身が指名した取締役をして、株主間契約に従えば選定されるべき取締役を選定しない意向を示していたり、あるいは株主間契約に従って選定されている代表取締役を解任する意向を示していた場合など)には、何らかの裁判(事実上仮処分を提起するほかに選択肢はないように思われる)を提起してその合意の強制的な履行を求めることになる。問題は、かかる合意に従って実際に取締役会において議決権を行使すべき取締役自身は、多くの場合、株主間契約の当事者ではないということである。
そうすると、株主間契約に従った代表取締役の選定を求める株主側は、取締役自身を相手方として、訴訟あるいは仮処分を提起する訳にはいかない。かかる取締役に対しては、株主間契約に従った履行請求権は成立しないからである。

そこで、株主間契約という合意の強制的な履行を求める株主としては、株主間契約の他方当事者である株主を相手方として、その相手方が指名した取締役に株主間契約に従った議決権行使を取締役会において行わせるよう求める内容の訴訟ないし仮処分を提起することとなる。

このような場面において、相手方株主が株主間契約上の義務を履行するには、その指名した取締役の協力が必要となり、株主が相手方株主に対して、その指名した取締役(いわゆる派遣取締役)をして合意に沿った議決権行使をさせる義務を負う旨を合意しているとの整理は可能としても、義務の履行には第三者(派遣取締役)の協力が必要であり、相手方株主の意思だけでは履行ができないことから、かかる義務の履行を相手方株主に対して強制することができるのかという問題が生じる。

この点に関しては、義務の履行に第三者の協力が必要であったとしても、かかる第三者の協力を確実に得られる場合、又は第三者の協力の有無が明らかでない場合であっても、協力を得るために債務者が期待可能なすべてのこと(協力を求める事実上の措置や法的請求も含む)を行うことができる場合には、相手方株主に対して履行の強制が可能とすべきであると主張する学説が有力となっている。
上記のような場面においても、相手方株主は、自ら指名し派遣した取締役の協力を得られず、事実的・法的な措置を講じることができない事態というのはあまり考えられないため、派遣取締役の議決権行使に関する合意についても、基本的に履行の強制が認められ、株主間契約という合意の強制的な履行を求める株主は間接強制によることができると考えられる。

5. 東京地決令和4年6月24日決定(及びその異議審である東京地決令和4年7月26日決定)

冒頭で紹介した今般の仮処分決定においては、上記いずれの論点についてもこれを肯定し、株主間契約に基づき株主総会において自身を発行会社の取締役として選任する内容の議決権を行使すべき旨、及び、その後に開催される取締役会においても、他の契約当事者が指名した取締役をして、自身を代表取締役として選定させるべき旨の請求がいずれも認められた。さらに、同仮処分決定においては、株主総会において、株主間契約に反する内容の取締役選任議案に賛成してはならない旨の請求、及び、取締役会において、他の契約当事者が指名した取締役をして自身を代表取締役から解職させてはならない旨の請求も認められた。

今般の仮処分手続では、当事務所においては、申立てに際し、他の契約当事者によって株主総会において役員選任議案に関する修正動議(これもいくつかのパターンが考えられる。)がなされる可能性や、他の契約当事者が指名した取締役らによる持回り取締役会(いわゆる書面決議)がなされる場合も考えて、申立ての趣旨に様々な内容を盛り込んだ。
また、今般の仮処分は株主総会における議決権の行使を対象の一つとしているため、対象会社の株主総会招集通知の発送後に仮処分の申立てを行う必要があった。株主総会開催まで約2週間という期間しかなかったが、当職らの裁判所に対する働きかけもあり、裁判所が非常にスピーディに審理を進めてくれた。
相手方株主は、仮処分決定発令の翌日に保全異議を行ったが、異議審においても原決定が支持された。

これまで、株主間契約に基づく株主総会での議決権行使の強制、及び、取締役会における特定の人物を代表取締役として選定する義務の強制を認めた裁判例は見当たらないため、原決定及び異議審決定は、非常に意義のあるものと思われる(実際に、田中亘東京大学教授「スタートアップ投資と株主間契約」ジュリストNo.1576(2022年10月号)43頁においては、今般の仮処分決定について、「明確な契約によれば履行強制が可能であることが明らかにされたことは、株主間契約に関するわが国の法実務にとって大きな進展であるといえよう。」と評されている。)。

6. 終わりに

今般、日本でも、スタートアップ企業を育成することの重要性が説かれている。スタートアップ企業においては、資金がないがアイデアや技術を持つ創業者と、これに対して資金面や人的資源面からサポートを行う外部の企業(ベンチャーキャピタル等)の双方が株主となることが多いが、その際に、株主間契約を締結する場合が多い。

しかしながら、資金面に乏しい創業者は議決権では少数派になることが多く、多数派株主側が恣意的に議決権を行使し、株主間契約の内容通りに合意を履行しない場合に、裁判を通じてこれを実現することができなければ、スタートアップにおける資金調達実務は円滑に運用することができず、日本のスタートアップ企業の育成においても大問題となる。最近もシダックスの創業家とユニゾンとの間で締結された株主間契約(将来株式を手放すときは創業家か創業家が指定する指定先に売るという内容)に基づいて、創業家がユニゾンに対して創業家の指定する第三者(この場合はオイシックス)に売却するよう求める権利が問題となり、創業家の申立てによりユニゾンに対する譲渡禁止の仮処分命令が発令された(※)。今後も、スタートアップ企業に対する出資が増えてくるにつれ、株主間契約でなされた合意が問題となり、裁判所で争われる事案も出てくると思われるが、株主間契約やこれに含まれる議決権行使合意の有効性及び履行強制可能性について、裁判所において説得力ある議論を展開する必要があるだろう。

ユニゾンファンド所有のシダックス株式会社の普通株式の当社以外への譲渡禁止に係る仮処分命令の効力発生のお知らせ (oisixradaichi.co.jp)

以 上

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