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2018.08.07

顧問弁護士が内部通報の外部窓口を担当する場合の留意点

業務分野

執筆弁護士

 
1. はじめに―内部通報制度の導入状況―

公益通報者保護法が平成18年(2006年)4月に施行されてから10年以上が経過し,大企業を中心に,内部通報制度を設けることは一般的になっている。また,近時,内部通報制度は,内部統制システムの一環をなす制度として広く認知されるようになっており,上場会社については,コーポレートガバナンスコードによっても適切な体制整備が求められている。

消費者庁の報告[1]によれば,内部通報制度[2]を導入している企業[3]は全体の46.3%(従業員数が1000人を超える企業については,9割超)であった。

そして,同報告によれば,内部通報制度を導入している企業のうち,社内にも社外にも通報窓口を設置している企業が59.9%にのぼり,社外のみに通報窓口を設置している企業(7%)と併せ,3分の2超の企業が社外に通報窓口を設置しており,社外に通報窓口を設置することは一般化しているといえる。

このように,多くの企業において社外に通報窓口が設置されている理由としては,①通報について客観的・中立な対応が期待できる,②通報者の匿名性を確保しやすい,といったことが考えられる。この点については,消費者庁の平成28年12月9日付け「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下,「消費者庁ガイドライン」という。)も,「可能な限り事業者の外部(例えば,法律事務所や民間の専門機関等)に通報窓口を整備することが適当である」としている。

もっとも,消費者庁の報告によれば,社外に通報窓口を設置している企業のうち,顧問弁護士[4]に通報窓口を委託している企業が49.2%に上り,従業員数が1000人を超える企業についていえば,過半数の企業が顧問弁護士に通報窓口を委託している(これに対して,顧問ではない弁護士に委託している企業は21.6%である。)。

このように,多くの企業が顧問弁護士に通報窓口を委託している理由は,①会社の内情をよく知る弁護士によって,迅速かつ適切な対応がなされることが期待できること,及び,②コスト的にも(別の弁護士を使った場合と比較して)安く抑えられるというメリットがあるためであると考えられる。

かかる現状を踏まえ,以下においては,外部通報窓口としての弁護士の役割,顧問弁護士に外部通保窓口を委託する場合の留意点,及び,企業が今後取るべき対応について述べることとする。

2. 内部通報の外部窓口としての弁護士の役割

弁護士が内部通報の外部窓口の委託を受けた場合,弁護士が文字通り通報の窓口のみを行う(通報の受付けや調査・検討結果の通知等のみを弁護士が行い,通報事案の調査,法的判断や是正措置の検討等は会社の担当部署が行う。)ケースと,弁護士が窓口のみならず,調査や法的判断,是正措置のアドバイス等にまで関与するケースとが考えられる。

外部窓口たる弁護士が,通報案件の調査等にどの程度関与すべきかは,会社の規模や組織の実情によるであろうし,事案によっても異なってくると考えられる。

もっとも,一般に,通報者は,外部窓口である弁護士自身が調査や法的判断にも関与することを期待していることが多い。そのため,弁護士が,単なる窓口として,会社の調査・検討結果を通知するにとどまる場合には,通報者が,「社内窓口と大差なく,社外窓口に通報した意義がなかった」と受け止めてしまう可能性がある点には留意が必要である。

弁護士が単なる窓口としての機能しか果たさない場合であっても,社外の弁護士を窓口とすることにより,通報者の匿名性を担保しやすいなどの意義がある。外部窓口となる弁護士にいかなる役割を担わせるにせよ,通報者の期待を裏切ることにならないよう,従業員等に対して自社の外部窓口の存在意義を丁寧に説明することが重要である。

3. 顧問弁護士に外部窓口を委託する場合の留意点

まず,外部窓口が顧問弁護士である場合,通報者が,会社に情報が筒抜けになると考えて,通報を躊躇してしまい,ひいては,外部窓口を設けた意味がなくなってしまうということが考えられる。

したがって,外部窓口たる弁護士を従業員等に対して周知する際等に,当該弁護士は通報者の匿名性を守る旨を明示的に説明するなどの配慮が必要である。

次に,利益相反に該当するおそれがあるといった指摘がある点にも留意する必要がある。例えば,外部窓口たる弁護士への通報の実質は,弁護士への「相談」に他ならないから,会社と従業員との間に見解の相違がある場合に顧問弁護士が外部窓口となることは,利益相反になるという見解も存在する。

この点については,外部窓口を担当する弁護士は通報者の代理人でもアドバイザーでもなく,その旨を通報がなされた際等に明確にしておけば,かかる利益相反の問題は基本的には生じないとの考え方には十分合理性があると思われる。

しかしながら,通報者の立場から見た場合には,外部窓口が顧問弁護士であった場合に,中立な立場からの調査・法的判断は出来ないのではないかの懸念を抱いてしまう可能性は否定できない。

そのため,外部窓口を顧問弁護士に委託する場合には,外部窓口の中立性・公正性及び利益相反関係の排除を確保する措置をとるとともに,そのことを従業員等に対して説明するべきである。

なお,この点に関しては,消費者庁ガイドラインにおいても,「通報の受付や事実関係の調査等通報対応に係る業務を外部委託する場合には,中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や民間の専門機関等の起用は避けることが必要である」と記載されているが,同ガイドラインは,顧問弁護士に外部窓口を委託することを一律に避けるべきとしているものではなく,外部窓口の中立性・公正性及び利益相反関係の排除を確保することを求めているものと考えられる[5]

4. 企業が今後取るべき対応

顧問弁護士に外部窓口を委託した場合,上述のような問題点もあるため,通報者からの疑いを排除し,通報を促進するという観点からは,顧問弁護士以外の弁護士に外部窓口を委託することも検討すべきであると考えられる。

また,コスト等の理由により顧問弁護士に外部窓口を委託する場合には,従業員等に対して,匿名性が確保される旨,並びに,中立性・公正性及び利益相反関係の排除が確保されている旨を十分に説明するべきであると考えられる。顧問弁護士が所属する法律事務所の別の弁護士に外部窓口を担当させ,ファイアウォールを引いたうえで,顧問弁護士と外部窓口を担当する弁護士との間で情報共有がなされない旨を従業員等に説明することも検討に値すると考えられる。

以 上

[1] 消費者庁「平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」

[2] 内部通報制度とは,公益通報者保護法を踏まえ,不正を知る従業員等からの通報を受け付け,通報者の保護を図りつつ,適切な調査,是正及び再発防止策を講じる事業者内の仕組みを意味する。

[3] 消費者庁の調査では,上場企業3,628社及び無作為に抽出した非上場企業11,372社が調査対象とされ,そのうち3,471社(23.1%)から回答がなされた。

[4] 顧問弁護士とは,顧問契約の有無にかかわらず事業者から法律事務を継続的に受任している弁護士を指す。

[5] 平成28年12月9日に公表された「『公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン』(案)に関する御意見募集の結果について」のNo.58他

特集「改正公益通報者保護法準拠の匿名の外部通報窓口サービス(グローバル対応)

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