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2024.04.18

旅館業法の許可の要否について

執筆弁護士

<目次>
1. はじめに
2. 許可が必要な「旅館業」の内容について
3. 旅館業の許可が不要(「旅館業」に該当しない)とされる場合について
4. 「旅館業」に該当する場合の申請手続きについて
5. 事業承継を行う場合について

1. はじめに

旅館・ホテル業界は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による行動制限や外国人の入国制限が解除されたことで、2022年頃から徐々に回復基調となり、再び盛り上がりを見せております。
また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大及びまん延防止のための措置に対する旅館・ホテル事業者への社会経済的な影響等を背景に、①宿泊拒否事由の改正、②感染防止対策の充実、③差別防止の更なる徹底等、④事業譲渡に係る手続きの整備のため、令和5年6月7日に旅館業法等の一部改正を行う法律が成立し、同年6月14日に公布、同年12月13日に施行されたことで、法規制の面でも注目を集めています。
本特集では、旅館業法の許可の要否に関し、特に旅館業の該当性と事業譲渡の場合についてその概要を解説します。

2. 許可が必要な「旅館業」の内容について

旅館業法は、旅館業を営もうとするものは、都道府県知事等の許可を受けなければならないとしています(旅館業法3条1項)。
旅館業法上、「旅館業」とは、以下の営業形態をいうものとされております(同法2条1項)。

① 旅館・ホテル営業(同条2項)

 施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいいます。
 例:温泉旅館、ビジネスホテル、リゾートホテル

② 簡易宿所営業(同条3項)

 宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいいます。
 例:民宿、カプセルホテル

③ 下宿営業(同条4項)

 施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいいます。

3. 旅館業の許可が不要(「旅館業」に該当しない)とされる場合について

以下の場合には、旅館業に該当しないとされています。

(1) 宿泊料を徴収しない場合

旅館業は「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」ですので、宿泊料を徴収しない場合には旅館業に該当しないこととなります。
ここで「宿泊料」とは、名目だけではなく、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされる、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費などが含まれる(民泊サービスと旅館業法に関するQ&A A9)とされていますので、単に「宿泊料」名目の金銭を徴収しなければ旅館業に該当しないとはされません。もっとも、食事代やテレビ使用料など必ずしも宿泊に付随しないサービスの対価は宿泊料には含まれないとされております。
何らかの対価を受領する場合について宿泊料に該当するか否かの判断には実質的な考慮が必要であるため、これまでに以下のような厚生労働省の通達・照会が存在しており、「宿泊料」の該当性判断においては、これらの通達を参考にすることとなります。

① 「宿泊料」名目でない金銭の受領に関する通達・照会の例

食事代食事代として徴収しても宿泊料にあたるものをそのうちに含むときは旅館業の許可を要するものの、食事の実費相当額又は社会通念上食事代と考えられる額しか徴収しないときは、旅館業法の適用対象とはならないとされています(昭和33年3月10日厚生省環境衛生部長回答)。
体験学習の指導対価地方公共団体から依頼を受けた地域協議会等が宿泊者から宿泊料に相当する対価を受けず、当該体験学習に係る指導の対価のみを受ける場合については、当該地域協議会等が体験学習を伴う教育旅行等における宿泊体験サービスを提供する農家等に支払う経費は宿泊料に該当せず、旅館業法の適用外となるとされています(平成28年3月31日厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部生活衛生課長通知)。
お布施又は思召寺院において、お布施又は思召と称して宿泊者に対し、料金を徴収している場合であっても、その実態が、不特定多数人を反覆継続して利用させ、かつ社会性を帯びている場合には、徴収する料金の名目の如何を問わず「宿泊料又は室料」とみなして処理すべきであるとされています(昭和28年3月6日厚生省公衆衛生局環境衛生部環境衛生課長回答)。

② 時間単位で利用させる場合

汽車の発着時刻の間に待合客の利用に供している休憩所汽車の発着時刻の間に、待合客の休憩のために利用させる施設であれば、それ自体においては、通例は、旅館業法の対象外の施設となるものですが、形式的には時間を単位として料金を徴収していても、実質的には、夜間数時間利用させてその料金を徴することは、一日を単位とする宿泊料を受けることと同様の結果となるものと考えられ、更に寝具設備まで利用させることは、宿泊料を受けて人を宿泊させることに該当するとされています(昭和31年11月29日厚生省公衆衛生局環境衛生部長回答)。

(2) 「営業」に該当しない場合

「営業」に該当しない場合、旅館業に該当しないこととなります。旅館業に該当する「営業」とは、「社会性をもって継続反復されているもの」とされています。
ここでいう「社会性をもって」とは、社会通念上、個人生活上の行為として行われる範囲を超える行為として行われるものであり、例えば、一般的には、知人・友人を宿泊させる場合は、「社会性をもって」には当たらず、旅館業法上の許可は不要と考えられています(民泊サービスと旅館業法に関するQ&A A5)。

(3) 不動産賃貸業に該当する場合

旅館業は「人を宿泊させる」ことという定義との関係で、利用者が施設に滞在する場合でも生活の本拠を置くような場合、例えばアパートや間借り部屋などは貸室業・貸家業であって旅館業には含まれないとされております。
もっとも、施設利用に関し、宅地建物取引業法に基づき、定期賃貸借契約を締結している場合であっても「人を宿泊させる営業」である以上は、旅館業法の適用を受けるものであるとされており(平成19年12月21日厚生労働省健康局生活衛生課長通知)、形式的な契約ではなく実質から考えるものとされております。
厚生省(当時)の通知によれば、以下の2点の条件を満たす場合には、旅館業法の適用がない不動産賃貸業ではなく、旅館業(「人を宿泊させる営業」)に該当すると判断されるとされております(昭和61年3月31日厚生省生活衛生局指導課長通知)。

(a) 施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること。
(b) 施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として、営業しているものであること。

これらの条件の考え方の例として参考となるものとして、いわゆるウィークリーマンションに関する通達(昭和63年1月29日厚生省生活衛生局指導課長通知等)があります。
当該通達を参照すると、実態として1~2週間の短期利用者が大半であるウィークリーマンションについて、次のような考え方から、旅館業法の適用対象施設と判断されると思われます。
上記(a)の点については、利用期間中の室内の清掃等の衛生上の維持管理を利用者が行うこととしているとしても、実態として1ヶ月に満たない短期間での利用者が大半であること等の施設の管理・経営形態に鑑みれば、利用者交替時の室内の清掃・寝具類の管理等、施設の衛生管理の基本的な部分はなお営業者の責任において確保されていると見るべきであり、本施設の衛生上の維持管理責任は、社会通念上、営業者にあると考えられていると思われます。
上記(b)の点については、利用の期間、目的等からみて、本施設には利用者の生活の本拠はないと解釈されていると思われます。

(4) 寝具を使用しない場合

「宿泊」とは、寝具を使用して旅館業の施設を利用することをいいます(同条5項)ので、寝具を使用しない場合についても、旅館業に含まれないこととなります。
ここで「寝具」とは、ベッド、敷き布団、掛け布団、毛布、包布、シーツ、まくら、まくら覆い等を指すとされております(昭和44年7月7日厚生省環境衛生課長回答)。
そのため、カラオケやネットカフェ等、寝泊まりすることが可能な施設であっても、寝具を使用しない場合には、「宿泊」に該当しないこととなります。
実際、カラオケやネットカフェ等の施設においては、一般的には布団やまくら等の「寝具」は貸し出されておらず、「宿泊」には該当しないと整理されております。
もっとも、平成29年度の旅館業法改正において、「いわゆるネットカフェ等に見られるような事実上宿泊できる施設に関し、必ずしも旅館業法が適用されていない事例が指摘されていることに鑑み、利用の実態に応じて旅館業法を適切に適用すること」との附帯決議がされており(平成29年12月7日参議院厚生労働委員会「旅館業法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」)、実際に指導が行われる事例もあるところです(令和3年8月27日第1回旅館業法の見直しに係る検討会 資料5「平成29年度改正旅館業法の施行状況②(実態として宿泊することが可能になっている施設(営業)に関する調査結果について(概要))」)ので、例えば、「タオル」や「ひざ掛け」の名目で実質的に「寝具」に該当する備品が貸与されている場合には、利用者が寝具を使用して旅館業の施設を利用していると判断される恐れが高くなり、そのように判断された場合には旅館業法の適用を受けることとなります。

4.「旅館業」に該当する場合の申請手続きについて

「旅館業」に該当する場合には、旅館業の営業の許可を受ける必要があります。
旅館業の許可に際しては、法律や条例に基づく構造設備の基準、衛生管理上の基準が適用されますが、その要件は、大きく分けて、①申請者が欠格要件に該当しないこと、②施設の設置場所が適切であること、③施設の構造設備が政令で定める基準に適合すること、という3種類があります。
旅館業を経営しようとする場合は、施設の平面図などを持参のうえ、計画段階で管轄の保健所に相談することが推奨されております。

5. 事業承継を行う場合について

一般的に事業の遂行に必要とされる許認可等は、特定の法主体に対して付与されるものであり、合併・会社分割・相続の場合とは異なり、事業を遂行する法主体に変更がある事業譲渡の場合には、原則として、譲受人側が新たに当該許認可等を取得するための申請等を行う必要があります。
旅館業法においても、令和5年改正以前は、譲渡人が廃業届を提出し、譲受人が許可申請を行い、改めて許可を取得することが必要でしたが、旅館業法の令和5年改正により、事業譲渡に係る手続きが整備されました。

営業者が旅館業を譲渡する場合において、譲渡人及び譲受人がその譲渡及び譲受けについて都道府県知事等(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。以下同じ。)の承認を受けたときは、譲受人は、営業者の地位を承継します(旅館業法3条の2)。
なお、譲渡人は、事業譲渡を行おうとする場合には、可能な限り、管轄の保健所に事前相談を行うこと、及び必要に応じて譲受人と連携し、都道府県知事等に対し、 事業譲渡後の衛生管理や事業の方針等の説明を適切に行うことが求められております(令和5年8月3日厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課事務連絡)。
また、譲受人について、営業における衛生管理に関する一義的な責任を有していることから、事業譲渡に際しては、事業の継続や従業員の雇用の維持等により衛生水準を確保することが重要であることを認識するよう注意喚起されております(同事務連絡)。

なお、許可の対象となっている事業の一部譲渡の場合(例:1号棟および2号棟を有し、両棟における旅館業を一体的に管理するもの として一つの許可を受けている旅館業の営業者が、どちらか一方の棟における事業 のみを譲渡する場合等)については、本規定の対象外とされております(令和5年8月3日厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)。

以上