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2018.02.20

景表法違反の広告等がもたらす経営リスク

1.平成28年4月1日施行の改正景表法による課徴金制度の導入

景表法は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘因を防止することを目的として、過大な景品類の提供及び不当表示を禁止している。

このうち、本稿の主題である表示[1]に関しては、商品や役務(以下、商品と役務を併せて「商品等」という。)の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に反して他の事業者の商品等よりも著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)や、商品等の価格その他の取引条件について、実際のもの又は他の事業者の商品等よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示(有利誤認表示)等が禁止されている[2]

【不当表示の例】

優良誤認表示 ●衣類の販売に際し「シルク100%」とチラシなどに記載しておきながら、実際には素材の50%がポリエステルであった

●掃除機の販売に当たって、自社ウェブサイトにおいて、布団などのダニを吸引・除去する旨を記載しておきながら、実際には、当該掃除機にそのような効果は存在しなかった

有利誤認表示 ●商品の値札に存在しないメーカー希望小売価格を表示するとともに、それより安い販売価格を表示した

●ある役務の提供に関して、「キャンペーン特別価格1,000円」等と表示して、キャンペーン期間中に購入した場合のみ特別価格の適用があるようにしておきながら、実際には上記キャンペーン期間として表示された期間後においても当該価格で購入することができた

不当表示に関しては、従前より違反事業者に対する措置命令が出されていたが(景表法7条。具体的には、違法行為を行わないことや一般消費者の誤認を排除するための公示、再発防止措置等が命じられることになる[3]。)、平成28年4月1日施行の改正法(平成28年改正)は、さらに課徴金の納付も命ずるものとしたのである。

平成28年改正により導入された課徴金制度の概要は、以下のとおり(景表法8条)[4]

ア.課徴金対象行為:優良誤認表示及び有利誤認表示

イ.課徴金額の算定方法:課徴金対象期間(最長3年)に取引した課徴金対象商品等の売上額の3%[5]

この課徴金制度は、平成29年9月30日現在で既に合計5件の適用事例が存在し、例えば、自動車メーカー(三菱自動車工業)に対する4億8507万円もの課徴金納付命令や、健康食品メーカー(日本サプリメント)に対する3073万円及び2398万円の課徴金納付命令が出されている。

【景表法における措置命令・課徴金納付命令の件数の推移】

平成27年度 平成28年度 平成29年度
国による措置命令件数 13件 27件 15件
課徴金納付命令件数 0件 1件 4件

※ 平成29年度は平成29年9月30日現在のもの

※ 課徴金制度は、平成28年4月1日施行以降のもの

2.課徴金による経済的負担を減らす方法

このように景表法に違反する不当表示は、違反事業者に対して多額の経済的負担を生じさせ得るものともなったが、景表法においては、課徴金による経済的負担を軽減するための以下の方法が存在する。

ア.自主申告による課徴金額の減額(景表法9条)

課徴金対象行為をした事業者が、当該行為についての調査がなされる前に、課徴金対象行為にかかる事実を景表法の定めに従い自主申告した場合、課徴金額の2分の1が減額される。

イ.返金措置の実施による課徴金の額の減額(景表法10条・11条)

違反事業者が、景表法に定めに従い課徴金対象商品等の購入者に対する自主返金のための計画を作成し、これに対する内閣総理大臣の認定を受けたうえで、当該計画に従った返金を実施した場合には、当該返金合計額が課徴金額から控除される[6]。この返金措置は、これを実施することで、違反事業者におけるコンプライアンス・消費者保護の姿勢を示すことができるのみならず、(課徴金が税務上損金とならないのに対し)返金が事業者の損金となり得る点で、事業者の経済的負担を減らすことにつながる。

そのため、事業者が、万が一、不当表示を行ってしまった場合には、これら制度によって課徴金による経済的負担を軽減することを積極的に検討すべきことになる。もっとも、このような万が一の事態にも対応できるように、次に紹介する体制の構築(後記3.⑦等)も予め行っておくべきである。

3.不当表示に関するコンプライアンス体制の構築の必要性

不当表示違反に対する措置命令や課徴金納付命令は、消費者庁のウェブサイトで企業名とともに公表されるほか、報道されることも少なくない。そのため、これら命令を受けること自体が、対象事業者のレピュテーション・対象商品等の評判に対する重大な悪影響を生じさせることになる。
このような事業活動に対する重大な悪影響や課徴金等による多額の経済的負担を避けるためには、事業者において、不当表示を防止するための(また、万が一のときには迅速に対応するための)コンプライアンス体制を構築することが必要である。
この点、景表法は、平成26年12月1日施行の改正法によって、事業者に対し、景品類の提供及び表示の管理上の措置を講ずることを義務づけるとともに(景表法26条1項)、内閣総理大臣が、当該措置に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとした(景表法26条2項)。
この規定に基づき定められた「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(「管理措置指針」平成26年11月14日内閣府告示第276号)によれば、事業者は、その規模や業態、取り扱う商品又は役務の内容等に応じ、必要かつ適切な範囲で次に示す7つの事項(下記の①~⑦)に沿うような具体的な措置を講ずるべきとされている。

① 景表法の考え方の関係役員・従業員への周知・啓発

例:適宜、関係従業員等に景表法の考え方をメール等で配信する
関係従業員等を社内・社外の研修に参加させる

② 法令遵守の方針や法令遵守のためにとるべき手順等の明確化

例:法令違反があった場合、処分されることを社内規則、役員規程に定める
禁止される表示内容や表示を行う際の手順についてマニュアルを作成する

③ 表示等に関する情報(表示の根拠となる情報)の確認

例:企画・設計段階で想定する表示が実現可能か検討する
調達段階において、調達する原材料等の仕様、規格等を確認し、表示内容に与える影響を検討する
生産・製造・加工段階で、企画書と整合しているか確認する
提供段階で、過去の不当表示等の事案を参照し、改めて表示等を検討する

④ 表示等に関する情報の関係各組織・部門による共有

例:イントラネット等により、関係従業員等が表示等の根拠となる情報を閲覧できるようにする
表示等に影響する商品等の内容の変更を行う場合、担当部門が速やかに表示担当部門に伝達する

⑤ 表示等を管理するための担当者等を定めること

例:自社の表示等に関する監視・監督権限を有する表示等管理担当者を選任する
表示等管理担当者を社内において周知する方法を確立する

⑥ 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること

例:表示等の根拠となる情報を記録し、保存しておく
製造業者等に必要に応じて問合せができる体制を構築しておく
調達先業者との間で、品質等の変更があった場合、その旨の伝達を行うことを予め申し合わせておく

⑦ 不当な表示等が明らかになった場合に迅速かつ適切に対処するための措置

例:表示等管理担当者等が速やかに事実関係を確認する
速やかに違反を是正するとともに、必要に応じて速やかに一般消費者に対する周知や回収を行う
当該事案を関係従業員等で共有し、改善のための施策を講じる

上記措置を採ることは、景表法上の課徴金制度との関係においても重要である。これは、(ア) 違反事業者が課徴金対象行為をした期間を通じて課徴金対象行為に係る表示が不当表示に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められる場合には、課徴金は課されないものとなっていること(景表法8条1項)、また、(イ) 上記の管理措置指針に沿う具体的措置を講じていた場合には、「相当の注意を怠った者でない」と認められるものとされていること(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」(消費者庁・平成28年1月29日))によるものである。

そのため、事業者においては、不当表示を防止し、また、万が一の際にもその影響を可及的に小さくするために、上記の管理措置指針を参考とした表示の管理のための具体的措置を構築し、着実にそれを実施していくことが必要である。なお、これら対応は、景表法の解釈を前提として、各事業者の表示や商品等の具体的な内容、業務内容等も踏まえて行う必要があることから、適宜その分野に明るい弁護士の助言・チェックを受けることが肝要である。

以 上

[1] 顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するもの(景表法2条4項)をいうが、その範囲は極めて広く、事業者が顧客を誘引するために使用するものは、口頭によるものも含めこれにあたると考えて差し支えない。

[2] その他に、特定の商品又は役務について内閣総理大臣が指定した不当表示(例えば、商品の原産国に関する不当な表示)が禁止されているが、課徴金の対象とならないこともあり、本稿においては割愛する。

[3] 一般消費者の誤認を排除するための公示としては、通常、日刊新聞紙2紙への社告の掲載が必要となり、その掲載費用も事業者にとっての経済的負担となる。

[4] この課徴金の納付を命じるにあたっては違反事業者の主観的要素が要件となっている。具体的には、違反事業者が課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が不当表示に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められる場合、当該事業者に対する課徴金納付命令は出されない。

[5] この計算の結果、課徴金額が150万円未満となる場合には、課徴金は賦課されない(景表法8条1項)。

[6] 返金合計額が課徴金額以上となれば、課徴金の納付は命じられない。