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2020.09.15

優越的地位の濫用に関するアマゾンジャパンの確約計画の認定について

1. アマゾンジャパンの確約計画の認定について

公正取引委員会は、令和2年9月10日、アマゾンジャパンによる確約計画の認定申請に対して、当該計画の認定を行った[1]。確約手続は、公正取引委員会が独占禁止法の規定に違反する事実があると思料する場合に、その対象となる行為(以下「違反被疑行為」という。)について行われるものである。

上記アマゾンジャパンの確約計画は、優越的地位の濫用を違反被疑行為とするものであり、具体的には、アマゾンジャパンにおいて、その納入業者に対し、アマゾンジャパンの自社システムへの投資に対する協賛金等の名目で仕入金額に一定の料率を乗じる等して算定した額の金銭提供その他の金銭の提供や、代金額の減額、返品を違反被疑行為としたものである。公正取引委員会の確約計画の認定は、アマゾンジャパンの上記違反被疑行為について独占禁止法違反を認定するものではない。しかしながら、上記確約計画の実施により、アマゾンジャパンは、対象となった納入業者に対する総額約20億円もの金銭的価値の回復を行うことになる。

なお、弊職は、従前、上記違反被疑行為と思われる行為について解説を行っていることから、関連する問題点については、2月28日日本経済新聞朝刊(1面)[2]又は以下のサイトをご確認いただきたい(ただし、公正取引委員会は、違反被疑行為の詳細を公表していないため、当該説明対象となった行為が、違反被疑行為と同一のものであるかは必ずしも明らかでないことをご了承いただきたい。)。
● 2018年3月8日BUSINESS LAWYERS「アマゾンが求めた「協力金」は優越的地位の濫用にあたるのか」
https://www.businesslawyers.jp/articles/317

2. 優越的地位の濫用に関する規制の概要

独占禁止法上の優越的地位の濫用に係る規制は、取引の相手方に対して優越的な地位にある事業者がその地位を利用して、取引の相手方に不当な不利益を課すことで利益を得るといった行為を規制するものであり、その要件は、以下の①ないし④のとおりである。典型的な違反行為としては、量販店等の大規模小売業者が納入業者に対して協賛金の提供や従業員の派遣をさせることが挙げられる。

① 自己の取引上の地位が相手方に優越していること

② 濫用行為を行うこと

③ 濫用行為が(自己の取引上の地位を)利用して行われたこと

④ 正常な商慣習に照らして不当であること

このような行為は、当該行為を行った事業者がその競争者との関係で競争上有利となり、当該行為の相手方がその競争者との関係において競争上不利となるおそれがあることから、公正な競争を阻害するおそれある行為とされており、違反行為の取りやめ等を命じる排除措置命令や課徴金の納付を命じる課徴金納付命令[3]の対象となる。なお、優越的地位の濫用に関する課徴金の金額は、違反行為期間における相手方との間の売上額(または購入額)の合計額に対する1%に相当する金額とされている。優越的地位の濫用は、特定の取引先にとどまらず、同様の立場にある取引先一般に対して長期間に亘ってなされることが多いため、課徴金の金額が極めて高額なものとなり易いので注意を要する。

【優越的地位の濫用規制に係る課徴金額】

対象事業者 課徴金額
山陽マルナカ 1億7839万円
日本トイザらス 2億2218万円
エディオン 30億3228万円
ラルズ 12億8713万円
ダイレックス 11億9221万円

3. 優越的地位の濫用に係る規制の執行強化

優越的地位の濫用については、いくつかの重要な審決がなされたことから、公正取引委員会の解釈がある程度明らかになりつつある。しかしながら、その要件が抽象的であることなどから、具体的行為についての違反の有無の検討はいまだ容易とは言えない。

上記の弊職が従前報道機関の取材に応じて説明した行為に関しても、独占禁止法を専門とする弁護士から、よっぽどひどい交渉をしない限り優越的地位の濫用にはあたらないであろう、公正取引委員会も全く関心は示さないと思うといった趣旨の意見をいただいた。優越的地位の濫用に関する実務的な判断を行うことが容易でないことの証左であろう。
上述のとおり、公正取引委員会の確約計画の認定は、アマゾンジャパンの違反被疑行為について独占禁止法違反を認定するものではない。そのため、上記違反被疑行為が優越的地位の濫用となるか、独占禁止法違反となるかは明らかではない。しかし、公正取引委員会が優越的地位の濫用の規定に違反するのではないかと疑いを抱いたことをきっかけとして、アマゾンジャパンは、総額約20億円の金銭的価値の回復を実施することとなったのである。
現在の公正取引委員会は、優越的地位の濫用規制を公正かつ自由な競争の維持・促進のための重要なツールと考えているようであり、同委員会が公表するガイドライン(令和元年12月17日公表「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」)のみならず、実態調査報告書においても優越的地位の濫用に言及するものが散見される(例えば、令和2年6月12日公表「共通ポイントサービスに関する取引実態調査について」令和2年9月2日公表「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について」等)。優越的地位の濫用規制の執行が強化されているのである。

そのため、事業者においては、可及的速やかに、優越的地位の濫用に関するコンプライアンス体制を構築することが必要である。その際には、上記2①~④の要件のうち、①③④は、事業者においてはコントロールし難い事情等であることから、購買担当者等への教育その他の施策を通じて濫用行為(②)がなされないようにすることが肝要である。また、具体的な施策としても、単に優越的地位を濫用してはいけないといった一般論・抽象論を内容とした教育等を行うのではなく、事業活動のどこに濫用行為の危険があるかを早急に見つけ出し、具体的に生じ得る濫用行為を防止するための教育その他の施策を速やかに立案・実施することが極めて重要である。

以 上

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[1] 公正取引委員会 令和2年9月10日付け「アマゾンジャパン合同会社から申請があった確約計画の認定について」

[2] 当該記事は日本経済新聞の以下のサイトに掲載されている(ただし、有料会員限定)。

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO27454910X20C18A2MM8000?unlock=1

[3] ただし、課徴金納付命令は、優越的地位の濫用が継続的になされた場合に限られる(独占禁止法20条の6)。