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2024.05.02

適格機関投資家等特例業務の届出者であるSPCによる犯罪収益移転防止法上の取引時確認について

<目次>
1.はじめに
2.取引時確認の要件
(1)「特定事業者」とは
(2)「特定業務」とは
(3)「顧客等」とは
(4)「特定取引等」とは
3. 特例業務届出者において「特定取引」に該当する取引について
(1) 匿名組合契約の締結
(2) 信託受益権売買契約の締結
ア信託受益権を購入する場合(以下イの場合を除く)及び信託受益権を売却する場合
イ信託の当初委託者兼当初受益者から信託受益権を購入する場合
4. SPCである特例業務届出者による取引時確認の方法
(1) アセットマネジャー又は事務代行会社に業務委託する方法
(2) 他の特定事業者に、代表者として取引時確認をさせる方法

1. はじめに

 いわゆるGK-TKスキームにおいて、営業者であるSPC(合同会社)が金融商品取引法63条2項に定める適格機関投資家等特例業務の届出を行う場合、SPC(以下「特例業務届出者」といいます。)において、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」又は単に「法」といいます。)上の取引時確認が必要になる場合があります。本ニューズレターでは、特例業務届出者において取引時確認が必要となる取引について及びSPCである特例業務届出者による取引時確認の方法について解説します。
 なお、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者らの見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではないことにご留意ください。

2.取引時確認の要件

 まず犯収法上、取引時確認が義務づけられる要件について、概説します。
 犯収法は、①「特定事業者」が、②「特定業務」において、③「顧客等」との間で、④「特定取引等」を行う際に、取引時確認を義務づけています(法第4条第1項及び第2項)。

(1) 「特定事業者」とは

 特定事業者とは、法2条2項各号に列挙された事業者をいいます。
 特例業務届出者は、特定事業者に該当します(法2条2項23号)。

(2) 「特定業務」とは

 特定業務とは、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令(以下「施行令」といいます。)6条各号に列挙された業務をいいます。
 特例業務届出者の特定業務は、金融商品取引法63条2項に規定する適格機関投資家等特例業務とされています(施行令6条8号)。

(3) 「顧客等」とは

 顧客等とは、「顧客又は顧客に準じる者として政令で定める者」(法2条3項)をいい、「顧客」について犯収法上の定義はありませんが、特定事業者が特定業務において行う特定取引の相手方をいい、これに当たるか否かについては、取引を行うに際して取引上の意思決定を行っているのは誰かということを、取引の利益(計算)が実際には誰に帰属するのかということを総合判断して決定されると解されています(警察庁平成20年1月「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令案等に対する意見の募集結果について」(※)(以下「平成20年パブコメ回答」といいます。)別紙2・1(1))。
 したがって、特例業務届出者の顧客等は、以下(4)における特例業務届出者の特定取引の相手方ということになります。

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000033963

(4) 「特定取引等」とは

 「特定取引等」とは、「特定取引」(法4条1項)及びマネー・ロンダリングに用いられるおそれが特に高い取引(法4条2項各号。以下「ハイリスク取引」といいます。)をいいます(法4条4項)。
 まず、「ハイリスク取引」とは、(a)なりすまし取引、(b)偽り取引、(c)ハイリスク国の居住者等との特定取引又は(d)外国PEPs等との取引をいいますが(法4条2項各号)、本ニューズレターの検討対象からは除外します。
 「特定取引」とは、①施行令7条1項各号及び施行令9条1項の取引、並びに②特別の注意を要する取引(施行令7条1項、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(以下「規則」といいます。)5条)をいいます。
 特例業務届出者の特定取引としては、施行令7条1項1号に列挙されている行為のうち、

(a) 同号リ(金融商品取引法2条8項1号から6号まで若しくは11号に掲げる行為又は7号から9号までに掲げる行為(有価証券の売買、有価証券の募集・私募等)により顧客等に有価証券を取得させる行為を行うことを内容とする契約の締結)及び
(b) 同号ヌ(金融商品取引法28条3項各号又は4項各号に掲げる行為(投資助言・代理業、投資運用業(自己運用))を行うことを内容とする契約の締結(当該契約により金銭の預託を受けない場合を除く。))
(c) 同号ニ(信託行為、信託法89条1項に規定する受益者指定権等の行使、信託の受益権の譲渡その他の行為による信託(受益権が資金決済に関する法律2条9項に規定する特定信託受益権である信託を除く。)の受益者との間の法律関係の成立(上記リに規定する行為に係るものを除く。))

が該当する可能性があると思われます。特例業務届出者の行う具体的な取引の「特定取引」の該当性については、以下3で論じます。

3.特例業務届出者において「特定取引」に該当する取引について

 前記2のとおり、特例業務届出者が行う取引が、適格機関投資家等特例業務における「顧客等」との間の「特定取引」に該当すれば、当該取引を行うに際し、取引時確認が必要となります。以下、GK-TKスキームにおいて特例業務届出者が通常締結する契約(特例業務届出が締結しうる契約全てを網羅しているわけではありません。)について、「特定取引」に該当し取引時確認を要するかについて検討します。

(1) 匿名組合契約の締結

 GK-TKスキームにおいては、特例業務届出者は投資家との間で匿名組合契約を締結します。
 特例業務届出者が適格機関投資家等特例業務として金融商品取引法63条1項1号に定める私募(自己募集)を行う場合は、私募により顧客等に有価証券を取得させる行為を行うことを内容とする契約の締結は、特定取引に該当するため(施行令第7条第1項第1号リ)、匿名組合契約の締結に際して投資家について取引時確認をする必要があります。
 他方、特例業務届出者が適格機関投資家等特例業務として金融商品取引法63条1項2号に定める自己運用を行う場合は、①金融商品取引法28条4項各号に掲げる行為を行うことを内容とする契約において②金銭の預託を受ける場合に当該契約の締結が特定取引に該当します(施行令7条1項1号ヌ)。この点、上記①について金融商品取引法28条4項3号に掲げる行為(自己運用)を行うことを内容とする契約とは何かが問題になりますが、匿名組合契約がこれに該当すると思われます。したがって、特例業務届出者が自己運用を行う場合においても、匿名組合契約の締結に際して投資家について取引時確認をする必要があると思われます。
 以上より、特例業務届出者は、自己募集を行う場合、自己運用を行う場合のいずれにおいても、匿名組合契約の締結の際に、投資家について取引時確認を行う必要があると思われます。

(2) 信託受益権売買契約の締結

ア信託受益権を購入する場合(以下イの場合を除く)及び信託受益権を売却する場合

 特例業務届出者が匿名組合契約に係る事業として、信託受益権を購入する行為及び信託受益権を売却する行為は、適格機関投資家等特例業務の自己運用の一環であることから、かかる行為は特定業務の取引に該当します。
 また、信託受益権の売買契約の締結は、金融商品取引法2条8項1号に掲げる行為を行うことを内容とする契約(施行令第7条第1項第1号リ)に該当するため、その締結は特定取引となります。
 もっとも、適格機関投資家等特例業務を行う特例業務届出者にとって、信託受益権の売買の相手方が「顧客等」に該当するかは問題になりますが、前記2(3)のとおり、犯収法上の「顧客」とは、「特定事業者が特定業務において行う特定取引の相手方」と解されているため、特定取引の相手方である信託受益権の売買の相手方も「顧客等」に該当すると思われます。
 したがって、特例業務届出者は、信託の当初委託者以外の者との間で信託受益権売買契約の締結する場合、契約の相手方である売主又は買主について取引時確認をする必要があると思われます。

信託の当初委託者兼当初受益者から信託受益権を購入する場合

 当初委託者が信託受益権(合同運用信託の場合を除きます。)を売却する行為は、金融商品取引法上有価証券の発行に該当し、有価証券の売買には該当しません(金融商品取引法2条5項、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令14条4項1号イ)。また、信託受益権の募集又は私募は、金融商品取引法2項8項7号の募集又は私募にも該当しません。したがって、この場合、信託受益権売買契約の締結は、施行令第7条第1項第1号リに係る特定取引には該当しないと思われます。
 他方、信託の受益者との間の法律関係の成立は特定取引として掲げられています(施行令7条1項1号ニ)。かかる規定は、信託会社の受益者に対する取引時確認を求めた規定のようにも読めますが、文言上、信託受益権売買契約の締結も「信託の受益者との間の法律関係の成立」に該当するように思われます。また、信託受益権を購入する場合、売主が、信託の当初委託者か否かにより、取引時確認の要否が異なる実質的な理由は見いだしにくいことから、施行令7条1項1号ニに係る特定取引に該当すると解される可能性は否定できないと思われます。
 以上から、特例業務届出者は、信託の当初委託者との間で信託受益権売買契約の締結する場合であっても、売主たる当初委託者について取引時確認を行うのが妥当と考えます。

4SPCである特例業務届出者による取引時確認の方法

 SPCである特例業務届出者は、公認会計士、税理士などの専門家を役員とし、従業員を雇用しないため、その業務執行社員(一般社団法人)又はその職務執行者が自ら犯収法に規定される取引時確認を履行することは事実上困難である場合が多いと思われます。その場合は以下の方法が考えられます。

(1) アセットマネジャー又は事務代行会社に業務委託する方法

 取引時確認をアセットマネジャーや事務代行会社に業務委託することは可能です。もっとも、業務委託した場合であっても、特例業務届出者は取引時確認の責任を免れるわけではなく、その営業所で保存する場合と同様に、必要に応じて直ちに確認記録を検索できる状態を確保しておく必要がある点に留意が必要です。

(2) 他の特定事業者に、代表者として取引時確認をさせる方法

 複数の者が取引確認を行う義務を負う場合、いずれかの特定事業者が他の特定事業者を代表して取引時確認を行うことが認められています。したがって、SPCである特例業務届出者は、匿名組合契約・信託受益権売買契約の締結にあたり、第二種金融商品取引業者(私募の取扱業者・媒介業者)を選任する場合、当該第二種金融商品取引業者を代表者として取引時確認を行わせることができます。もっとも、かかる場合でも、特例業務届出者は取引時確認の責任を免れるわけではなく、その営業所で保存する場合と同様に、必要に応じて直ちに確認記録を検索できる状態を確保しておく必要があることにつき、上記(1)と同様です(平成20年パブコメ回答別紙1・1(4)ア及びイ参照)。

以 上

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