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<目次>
1. はじめに
2. 医療法人における、社員による臨時社員総会招集請求の概要
3. 令和6年最高裁決定の内容
4. 令和6年最高裁決定が実務に与える影響
5. 結語

1. はじめに

 医療法人の社員が裁判所に対して臨時社員総会の招集の許可を求めた事案について注目すべき最高裁の決定が下された。最決令和6年3月27日LEX/DB25573446(以下「令和6年最高裁決定」という。)である。
 株式会社及び一般社団法人においては、株式会社ないし一般社団法人が、株主ないし社員の請求にもかかわらず、株主総会ないし社員総会を開催しない場合、株主ないし社員が、裁判所の許可を得て、株主総会ないし社員総会を招集できると定められている(会社法297条4項、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」という。)37条2項)。しかしながら、医療法(以下条文を引用する場合「法」という。)においては、社員が臨時社員総会の招集を請求できる旨が定められているにもかかわらず(法46条の3の2第4項)、会社法や一般法人法の上記規定に相当する規定が定められておらず、また、会社法ないし一般法人法の上記規定を準用していないため、社員がどのように臨時社員総会の招集を実現するかは解釈に委ねられていた。
 そのような中、令和6年最高裁決定は結論として、社員は臨時社員総会の招集の許可を求めることはできないと判断した。当該最高裁決定は理事の選解任といった医療法人の支配権をめぐる紛争に大きな影響を与えるものであり、今後の実務上の課題も残すものであるため、同決定を紹介することとしたい。

2. 医療法人における、社員による臨時社員総会招集請求の概要

 医療法は、社員による臨時社員総会の招集の請求に関し、医療法人の社員総会の招集は理事長が行うと定めているが(法46条の3の2第2項)、同時に、理事長が社員総会の招集を行わないような場合には、社員が理事長に対して、総社員の5分の1以上(※1)の社員の連名で(社員数が5名以下ならば単独で)、臨時社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求することができるとしている(法46条の3の2第4項)。理事長が社員から招集請求を受けた場合、請求のあった日から20日以内に臨時社員総会を招集する必要があるとされている(法46条の3の2第4項)。
 もっとも、社員による臨時社員総会招集請求があっても、理事長が、社員からの臨時社員総会招集請求を無視し、社員総会の招集を行わない場合も考えられる。株式会社及び一般社団法人においては、株式会社ないし一般社団法人が、株主ないし社員の請求にもかかわらず、株主総会ないし社員総会を開催しない場合、株主ないし社員は、裁判所に対して、株主総会(社員総会)招集許可申立てを行うことができる(会社法297条4項、一般法人法37条2項)。裁判所は、当該申立に応じて、株主ないし社員に対して、株主総会ないし社員総会を招集する許可を与え、当該許可を与えられた株主ないし社員は、自身で株主総会ないし社員総会を招集することができる(会社法297条4項、一般法人法37条2項)。この制度によって、株主ないし社員は、株式会社ないし一般社団法人が株主総会ないし社員総会を開催しない場合でも、自らが招集権者となって株主総会ないし社員総会を招集・開催することができるとされている。
 上記招集許可の申立ては、比較的よく利用される制度であるが、当該制度を医療法人にも準用できるのかという点が令和6年最高裁決定における争点である。
 医療法には、社員が裁判所の許可を得て臨時社員総会を招集するという規定はなく、また、上記会社法297条4項ないし一般法人法37条2項の規定を準用していないが、一般法人法は、非営利法人の基本的法律として、解釈上類推適用(※2)すべきという見解も有力であり(※3)、一般法人法37条2項を類推適用して、医療法人でも社員が裁判所の許可を得て臨時社員総会を招集できるという見解も十分に考えられる。一般法人法37条2項を類推適用するとした場合、社員に臨時社員総会の招集を許可する裁判に対して医療法人側は不服申立てできないため、早期に臨時社員総会を開催することができるなどの利点もある(一般法人法293条4号)。

※1 定款で5分の1未満とすることもできる(法46条の3の2第4項但書)。
※2 類推適用は、ある規定を直接適用することはできないが、その規定が直接対象としている事柄との間に本質的に類似性が認められる場合には、その場合にも当該規定を用いて解決を図ることをいう。具体的には、医療法人は、一般法人法が対象とする一般社団法人及び一般財団法人でないため、医療法人に一般法人法37条2項を直接適用できないが、医療法人と一般社団法人の類似性を認め、医療法人に対しても一般法人法37条2項を適用することは、類推適用にあたる。
※3 後藤元伸「一般社団・財団法人法および会社法の成立と団体法体系の変容」法律時報80巻4号132頁

3. 令和6年最高裁決定の内容

 令和6年最高裁決定は、医療法人の社員が理事長に対して、臨時社員総会の招集を請求したが、理事長は臨時社員総会の招集を行わなかったところ、臨時社員総会の招集を請求した社員が、一般法人法37条2項の類推適用を主張して、裁判所に対して、社員が当該医療法人の臨時社員総会を招集することの許可を求めたという事案に関するものである。令和6年最高裁決定は、以下のとおり判示して、医療法人で一般法人法37条2項の類推適用により臨時社員総会の招集許可を得て臨時社員総会を招集することができないと判断した。

 一般法人法は、一般社団法人の適切な運営のために、37条1項において、一定の割合以上の議決権を有する社員が理事に対して社員総会の招集を請求することができる旨規定し、同条2項において、その請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合などには、当該社員は、裁判所の許可を得て、社員総会を招集することができる旨規定する。これに対し、医療法46条の3の2第4項は、医療法人の理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨規定するが、同法は、理事長が当該請求に応じない場合について、一般法人法37条2項を準用しておらず、また、何ら規定を設けていない。このような医療法の規律は、社員総会を含む医療法人の機関に関する規定が平成18年法律第84号による改正をはじめとする数次の改正により整備され、その中では一般法人法の多くの規定が準用されることとなったにもかかわらず、変更されることがなかったものである。他方、医療法は、医療法人について、都道府県知事による監督(第6章第9節)を予定するなど、一般法人法にはない規律を設けて医療法人の責務を踏まえた適切な運営を図ることとしている。
 以上によれば、医療法人について、一般法人法37条2項は類推適用されないと解するのが相当である。そうすると、医療法人の社員が同項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することはできないというべきである

 令和6年最高裁決定は、上記判示の理由として、以下の2点を指摘している。
 1点目として、医療法は、昭和23年(1948年)に制定され、現在までに(数え方によるが)9回ほどの大きな改正が行われている。その内、令和6年最高裁決定が指摘する平成18年法律第84号による医療法改正(平成19年(2007年)に施行されている。第5次医療法改正と呼ばれる。)では、医業経営の透明性や効率性の向上を目指して、医療法人に関する制度が大きく見直された。さらに、平成27年法律第74号による医療法改正(平成28年(2016年)に施行されている。第7次医療法改正と呼ばれる。)でも、医療法人制度が見直され、一般法人法を医療法人に準用する規定が、多く設けられた。医療法は、このような数次の改正にもかかわらず、社員が裁判所の許可を得て臨時社員総会を招集するという株式会社などの法人においては一般的な制度を導入することはしなかった。
 2点目として、医療法人は、都道府県知事により監督されており、当該監督を通じて適切な運営を期待できることである。都道府県知事による監督を、理事の選解任に即して具体的に述べると、以下のとおりとなる。
 都道府県知事は、医療法人の業務が法令に違反し、又は運営が著しく適正を欠くときは、医療法人に必要な措置をとるべきことを命じることができるため(法64条1項)、医療法人に対して、社員総会の開催等を命じることができるように思われる。都道府県知事は、医療法人が当該命令に従わない場合、業務停止を命じ(法64条2項)、又は一定の要件の下で医療法人の設立認可の取消を行うことができる(法66条1項)。ただし、都道府県知事は、上記命令を強制的に直接実現することはできず、業務停止や設立認可の取消により間接的に医療法人に強制力を有しているにすぎず、理事長の協力なしに社員総会が招集できないことは変わりがないことには注意が必要である。さらに、理事長が再任されないことをおそれて定時社員総会をせず、理事長の任期が満了した場合、都道府県知事は、「医療法人の業務が遅滞することにより損害を生ずるおそれ」があるという限定的な場合であるが、一時的に理事ないし理事長の職務を行う者を選任することができるともされている(法46条の5の3第2項)。

4. 令和6年最高裁決定が実務に与える影響

 令和6年最高裁決定により、医療法人において、社員が、裁判所の許可を得て、臨時社員総会の招集を行うことができないことが明確になったが、それでは実際に理事長が社員からの臨時社員総会招集請求に応じない場合に、社員としてはどのような対応をすることができるかが問題となる。
 上記令和6年最高裁決定は、医療法人の適切な運営を確保する制度として、都道府県知事の監督を指摘している。したがって、社員は、理事長が臨時社員総会招集請求に応じない場合、当該医療法人の主たる事務所の所在地である都道府県に相談し、都道府県から医療法人に対して、臨時社員総会招集請求に応じるよう指導及び命令をしてもらうよう求めることが考えられる。厚生労働省が定める医療法人運営管理指導要綱(平成2年3月1日健政発第110号厚生省健康政策局長通知)においても、臨時社員総会招集請求を受けた場合には、社員総会を招集しなければならない旨が明記されているため(同要綱I5(1))、都道府県から医療法人に対して臨時社員総会を招集するよう指導することが期待できる。もっとも、指導を行うかは都道府県の判断であること、医療法人には指導に応じる法的義務はないこと、都道府県知事が医療法人に臨時社員総会の開催等を命じるには行政上の手続きを踏む必要があり時間を要するなどの問題もあるため、都道府県にどの程度協力を求めるかは、事案に応じて検討する必要がある。
 次に、都道府県の協力が得られない場合、ないし医療法人が都道府県の指導等に従わない場合、社員としてどのように対応するべきか問題となる。この点については、渡邉惠理子裁判官が以下のとおり補足意見を述べ、社員が理事長に対して、臨時社員総会の招集を命ずる旨の訴訟を提起することができるとする。

 医療法が、その現行規定上、社員に社員総会の招集権限それ自体を付与していない理由には、医療法人の責務や役割に照らし、社員による当該招集権限の濫用を防止する必要があるということが挙げられる。その一方で、医療法人の規模や経営形態、社員から臨時社員総会の招集を請求された理事長がこれに応じない理由や状況等は様々であり、社員において臨時社員総会の招集を実現させる法的手段を保障することが医療法人の適切な運営に必要である場合があることも否定できない。そして、医療法は、46条の3の2第4項において、理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨を規定することによって、社員による社員総会の招集権限の濫用防止との調和を図りつつも、上記のような場合には社員が医療法人の運営に直接関与することを認めることによりその適切な運営を確保する趣旨に出たものと解される。このような同項の趣旨に照らすと、同項は、社員が医療法人の運営に関与する必要性があるというべき場合には、社員において理事長に対して臨時社員総会の招集を請求することができることとしたものと解することが相当であり、社員において臨時社員総会の招集を図るために採り得る法的手段として、訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得ることが考えられる。
 なお、上記の訴訟手続によるときは、医療法が本来予定している臨時社員総会の招集を図るものであって、同法の現行規定における医療法人の社員総会に関する規律に混乱を生じさせるものではない。これに加え、上記訴訟手続は、一般法人法37条2項に基づく非訟事件手続とは異なり、理事長において、当事者として臨時社員総会の招集請求に応じない理由等を含めて主張立証を尽くすことが期待され、また、社員も理事長もその判決に対する控訴をすることができることからすれば、これらの審理を通じて、より医療法人についての適正手続を確保することができ、上記医療法46条の3の2第4項の趣旨、ひいては同法の現行規定にも整合するものということができる。
 社員が理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得た場合に、その執行方法の可否等を含め、具体的に社員がどのようにして臨時社員総会の招集を実現するかについては、今後の議論に委ねられている部分が大きいところではあるが、社員が理事長に対して臨時社員総会の招集を請求することが医療法人の適正な運営の確保に資する面があることを十分に考慮した議論がされることを期待する。

 上記補足意見が述べる方法は、医療法の文言上無理のない方法であり、かつ、これを認容した裁判例(※4)があることからも、今後一般的なものとなると思われる。もっとも、上記方法を採用し、理事長を解任しようとする場合、以下の3点について実務上注意が必要である。
 1点目として、訴訟を提起した場合、臨時社員総会の招集を命ずる判決が確定するまで早くとも1年半から2年程度の時間を要するため、実務上は民事保全(仮の地位を定める仮処分)を利用することが多くなると思われる。民事保全(仮の地位を定める仮処分)を利用する場合、いわゆる保全の必要性が必要となるところ、何をもって当該必要性があるとするかは明らかではない。
 2点目として、上記補足意見で述べられているように、仮に判決及び保全命令が得られたにもかかわらず、理事長がなお判決及び保全命令に従わない場合、どのように履行を強制するのかは明らかではない。訴訟提起ないし民事保全の申立てを行う際には、強制執行ないし保全執行の方法についても検討する必要がある。
 3点目として、上記補足意見は、訴訟において、理事長が臨時社員総会の招集請求に応じない理由等を含めて主張立証を尽くすことを前提としているようであるが、合理的理由の中身が明らかになっていない。もっとも、理事の選解任については、社員総会の判断に委ねられているから、例外的な場合を除いて、臨時社員総会招集請求は認められるべきであろう(※5、※6)。

※4 東京地判平成30年10月26日判例タイムズ1471号248頁は、社員が理事長に対して、臨時社員総会の招集を命ずる旨の訴訟を提起し、当該請求が認容されたことを前提に、社員総会の日時等の変更の有効性が問題となった事案である。
※5 表宏機・原田謙司「改訂版新 医療法人制度の解説」(日本法令、2021)162頁
※6 多くの医療法人が依拠している、厚生労働省が示す社団医療法人定款例では、医療法人の社員総会は、事業計画その他重要な事項について決定する権限を有しており(平成30年3月30日改正の同定款例19条1項及び2項)、会社法よりも権限が広く、それらを議題とする臨時社員総会招集請求については、ケースバイケースの判断になるものと思われる。

5. 結語

 以上のとおり、令和6年最高裁決定により、医療法人において、社員が、裁判所の許可を得て、臨時社員総会の招集を行うことができないという取り扱いが一般的となるように思われ、同決定は、理事の選解任といった医療法人の支配権をめぐる紛争を検討する際には、必ず把握しておくべきものである。
 もっとも、同決定は、社員が臨時社員総会の開催を実現する一方策を否定したものであるから、これからは、どのように社員による臨時社員総会招集請求を実現していくか、検討が必要となるものである。

以上

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