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2024.07.12

下請代金支払遅延等防止法上の親事業者による下請事業者に対する損害賠償請求の問題点-親事業者が負担している下請代金との相殺における注意点-

<目次>
1.下請事業者に対する損害賠償請求の問題点
2.損害賠償を行う際の下請法上の問題点
(1) 検討の対象となる事例
(2) 検討対象事例における下請法上の問題点とその解釈
3.下請代金との相殺に際しての注意点

1.下請事業者に対する損害賠償請求の問題点

下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)における親事業者が下請事業者に対して損害賠償請求権を有する場合、親事業者としては、当該下請事業者に対する、既に発生している下請代金の支払債務との相殺を検討することになります。親事業者としては、既に負担している下請代金の支払債務と相殺することができるのであれば、当該債務の支払いを免れることができるとともに、当該下請代金の範囲において確実に損害の賠償を受けることができるからです。
しかしながら、下請法は、親事業者が、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金を減ずることを禁止しています(同法4条1項3号)。そのため、親事業者としては、そのような相殺を行って良いのかといった問題が生じます。そこで、本稿においては、このような相殺の可否・注意点についてご説明いたします。

2.損害賠償を行う際の下請法上の問題点

(1) 検討の対象となる事例

例えば、A社(親事業者)がB社(下請事業者)に対してA社製品に用いる部品の製造委託を行ったところ、B社がその過失により債務不履行を生じさせたことによって、A社において、その部品を用いて製造するA社製品を顧客(C社)に納入することができず、A社において損害を被ったとします(A社とB社の資本金及びA社とB社との間の取引の内容は、いずれも下請法上の親事業者・下請事業者となる要件をみたすものとします。)。
この場合、A社としては、B社に対して、A社に生じた損害についての損害賠償請求を検討するものと思われます。また、その際には、A社にとって確実に回収できるB社の資産として、A社がB社に対して既に負担している下請代金債務との相殺を行うことも検討することになるものと思われます。

(2) 検討対象事例における下請法上の問題点とその解釈

上記のとおり、下請法は、親事業者の禁止行為として「下請代金の減額」を定めています(下請法4条1項3号)。そのため、親事業者は、下請事業者の責に帰すべき理由がなければ、下請事業者に対する下請代金を減額することはできません。なお、「下請事業者の責めに帰すべき理由」としては、下請事業者の給付の内容が発注書(3条書面)に明記された委託内容と異なる場合や給付に瑕疵がある場合、納期遅れがある場合が挙げられます。
もっとも、「下請代金の減額の禁止」は、下請代金の実質的な修正を禁止するものであり、別途発生した債権との相殺など、合理的な理由のある減額を許容しています。そのため、親事業者による下請代金との相殺は、一律に禁止されるものではありません。この点については、公正取引委員会も、下請事業者に販売した商品等の対価や下請事業者に対する貸付金等の弁済期にある債権を下請代金から差し引くことは「下請代金の減額の禁止」に違反しないものとしています(公正取引委員会・中小企業庁 令和5年11月「下請取引適正化推進講習会テキスト」54頁)。
想定事例において、A社は、B社による債務不履行がA社の指示に起因するものであるといった例外的な場合でなければ、B社の債務不履行を理由とした損害賠償請求権を有することになります。また、当該請求権をもって、B社に対して既に負担している下請代金債務と相殺(減額)することは可能です。
ただし、B社に対する損害賠償請求権が、B社がA社に引き渡した目的物(製造委託の対象となった部品)について、種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことによるものである場合(契約不適合責任)には、A社において受入検査を行っていたかが問題となります。
すなわち、下請法は、親事業者の禁止行為として、下請事業者の責に帰すべき理由のない返品を禁止しているところ(下請法4条1項4号)、いわゆる瑕疵がある製品の納入等がなされた場合であったとしても、親事業者において、その品質や仕様に関する受入検査を行っていない場合には(受入検査を文書で下請事業者に委任しているのでない限り)返品できないものとしています(公正取引委員会・中小企業庁 令和5年11月「下請取引適正化推進講習会テキスト」62及び63頁)。この返品できない製品に関する契約不適合を理由とした損害賠償の請求は、実質的に返品が認められない製品の返品となるため、認められないものと考えられます(なお、公正取引委員会が令和5年12月22日に行った株式会社伊藤軒に対する勧告においては、下請事業者が製造・納入した瑕疵等が不良品であることに基づき伊藤軒が行ったクレーム対応に関して、クレーム1件あたり1,080円を下請代金から差し引いていたことが、下請法(下請代金の減額の禁止)に違反するものとされています。)。
その他、契約不適合を理由とした損害賠償請求については、商法526条に基づく契約不適合である旨の通知も問題となります。かかる通知を欠く場合、契約不適合に基づく損害賠償請求はできないと解されるところ、民法・商法上、損害賠償請求ができない場合には、下請法上も認められないものと考えられますのでご注意ください。

3.下請代金との相殺に際しての注意点

以上のとおり、下請事業者の債務不履行を理由とした損害賠償請求権を、親事業者が下請事業者に対して既に負担している下請代金債務と相殺することは可能ですが、そのような相殺を行うにあたっては、損害賠償請求が、下請法上の禁止行為に該当することを免れるために仮装したもの等と評価されないようにする必要があります。
例えば、下請業者に対する損害賠償請求権が根拠を欠くものであったり、その金額が合理的な範囲を超えるものであったりした場合には、その損害賠償請求権による下請代金との相殺は、「下請代金の減額の禁止」に違反するものと評価されることとなります。また、下請事業者が損害賠償債務の存在や金額を争うなどして訴訟となり、判決において親事業者が相殺に供した損害賠償請求権の全部又は一部が否定された場合には、結果的に当該相殺は「下請代金の減額の禁止」に違反するものと評価されるおそれがあります。
そのため、下請業者に対する損害賠償請求権と下請代金との相殺を行うにあたっては、当該損害賠償請求権について、その存在及び金額が合理的なものであることを確認するとともに、それを立証するための証拠を確保しておく必要があります。また、下請事業者と協議・合意した金額において相殺を行うことが望ましいものと解されます。
この点、「下請代金の減額の禁止」(下請法4条1項3号)は、これに反する減額に対して下請事業者が同意していたとしても違反となるものですが、上記の立証のための資料を備えたうえで、損害賠償請求権の存否及びその金額についての下請事業者との協議・合意のもとでなされた相殺であれば、これが「下請代金の減額の禁止」に違反するものと評価される可能性は乏しいものと解されます(ただし、当該協議は、実質的なものとして行う必要があり、また、その内容は議事録などで記録化しておくべきです。)。

以 上

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