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2025.05.01

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2025年3月・4月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. 租税法

 裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2025年3月・4月)。
 東京地判令和6年10月10日(下記1(2))は、放送事業を営むX社が、連結対象とすべき子会社A社を持分法適用関連会社として処理した違法な会計処理等について、当時の取締役Yらに対し任務懈怠を理由に損害賠償を請求し、これに対し、当時の代表取締役会長Y2及び代表取締役社長Y1が、X社に対して退職慰労金の支払等を求めて反訴を提起した事案です。東京地裁は、X社の損害賠償請求を一部認容するとともに、退職慰労金については株主総会及び取締役会による決議により具体的権利が発生していたと認め、その後の株主総会における不支給決議によって一方的にこれを剥奪することは許されない旨判示し、Y2及びY1の退職慰労金支払請求を認めました。退職慰労金が具体的権利として発生した後に、その支給を総会決議によって制限できるかが争点となった事案は、これまでの公刊裁判例には見当たらず、実務上参考となります。
 大阪高判令和6年3月14日(下記2(6))は、リフォーム業者Y2が設置したロール網戸の操作コードが幼児の首に絡まり死亡した事故について、製品の欠陥及び設置時の注意義務違反が争われた事案です。原審(大阪地判令和4年11月17日)は欠陥の存在を否定しましたが、大阪高裁は、製品に指示・警告上の欠陥があったと認め、設置時の説明についても注意義務違反があったと判断しました。本判決は、製造物責任法上の「欠陥」の存否を判断するにあたり、具体的事情に踏み込んで原審とは逆の結論を導いており、実務上参考になります。
 大阪高判令和7年1月23日(社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会(差戻審)事件)(下記3(2))は、福祉施設で長年技術職として勤務していた男性が、事前の打診なく施設管理担当へ配置転換されたことが職種限定合意に反するとして損害賠償を請求した事件です。上告審(最二判令和6年4月26日)で違法と判断された配転命令に関し、差戻審の大阪高裁は、使用者が、職種変更についての説明や労働者の同意に向けた働きかけを行っていなかったとして、88万円の損害賠償の支払を命じました。職種限定合意や勤務地限定合意を行っている企業にとって、就業規則や個別の労働契約の内容を見直すうえで、示唆に富む判断といえます。
 東京地判令和6年6月27日労働判例1326号14頁(モルガン・スタンレー・グループ事件)(下記3(7))は、韓国国籍の労働者(X)が、使用者であるモルガン・スタンレー・グループ(Y社)に対し、職場における国籍・人種を理由とするハラスメント被害を申告し、Y社が実施した調査結果を受け入れず、Y社の命令や指導に従わなかった上、Y社及びその関係会社の経営陣に対してメールを送信したことなどにより、懲戒処分を経て普通解雇されたことについて、解雇の無効等を争った事案です。東京地裁は、Xの行為が解雇事由に該当すると認め、Xの請求を棄却・却下しました。本判決は、外国籍の従業員がいわゆるレイシャルハラスメントを訴えた場合に、会社としていかに対応すべきかを検討する上で、示唆に富むものといえます。
 最二判令和7年3月3日(ドワンゴvsFC2事件)(下記4(1))は、コメント付き動画配信サービスの表示制御技術に関する特許権侵害が争われた事案です。米国に所在するサーバから日本国内にサービスを提供する行為が、日本の特許権を侵害するかが争点となり、最高裁は、実質的に日本国内でサービスが提供されていると評価して、特許権侵害を認めました。国際的なオンラインサービスに関して特許権の保護が認められる範囲について、今後の実務に重要な影響を与える判決といえます。
 東京地判令和6年1月18日(評価通達6項事件)(下記5(2))は、非公開株式がM&Aにより通達評価額よりも著しく高い価格で売却された事案において、納税者が通達評価額で相続税申告を行ったところ、税務当局が、通達評価額が著しく不適当な場合に適用される財産評価基本通達6項を適用し、相続税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったため、当該処分の適法性が争われた事案です。東京地裁は、税務当局が通達評価額を上回る価額を用いることは原則として許されず、納税者に租税回避目的も認められないとして、課税処分を違法と判断し、控訴審の東京高判令和6年8月28日も東京地裁の結論を維持しました(公刊物未掲載)。かかる裁判所の判断は、今後の相続税実務に大きな影響を与えるものと考えられます。

1. 商事法

(1) 東京高決令和6年10月16日(資料版商事法務493号53頁)

エルアイイーエイチ元代表取締役による株式交換差止仮処分命令申立事件

(2) 東京地判令和6年10月10日(金融・商事判例1713号10頁)

会社に対する損害賠償責任が認められる一方で、退職慰労金請求が認められた事例

(3) 広島高岡山支判令和6年9月26日(金融・商事判例1714号15頁)

1 いわゆるリンク債の販売に適合性原則違反、説明義務違反および実質的投資一任業務の違法が認められないとして同リンク債の購入者の損害賠償請求を棄却した原判決が変更され、適合性原則違反が認められた事例
2 購入者の過失が3割であるとして過失相殺された事例

(4) 東京高判令和6年9月11日(金融・商事判例1710号14頁)

1 株主権確認の訴えにおいて被告となった株式会社が敗訴部分につき控訴せず確定し、相被告として株主権を有すると主張した者が当該会社を被控訴人として控訴した場合に、控訴の利益を有しないとされた事例
2 株式会社の代表者の地位に争いがある場合に、当該会社について特別代理人が行った第1審での訴訟行為につき直ちに違法とまではいえないとされた事例

(5) 東京地判令和6年8月23日(金融・商事判例1710号28頁)

金融ADRにおける指定紛争解決機関の苦情処理手続等の対応について不法行為の成立が否定された事例

(6) 東京地判令和6年8月9日(金融・商事判例1712号38頁)

株価指数オプションを扱うファンドへの出資に関し、金融商品販売業者による金販法上の説明義務の違反や断定的判断の提供があったとはいえないとされた事例

(7) 大阪地判令和6年8月1日(金融・商事判例1710号34頁)

契約当事者以外の者に対して運送契約約款の効力が及ぶとされた事例

(8) 大阪地決令和6年7月5日(金融・商事判例1712号46頁)

報酬請求権について、給与に係る債権と実質的に同視できるとして4分の3に相当する部分について差押命令を一部取り消した事例

2. 民事法

(1) 水戸地判令和7年2月20日(金融法務事情2256号54頁、裁判所ウェブサイト)

普通預金口座の開設を拒絶されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認められなかった事例

(2) 広島高判令和6年10月4日(判例タイムズ1528号59頁)

生命共済事業約款の暴力団排除条項に基づく生命共済契約の解約が有効とされた事例

(3) 大阪地決令和6年9月5日(判例タイムズ1528号174頁)

建物の区分所有等に関する法律59条1項に基づく訴訟の口頭弁論終結後に被告であった区分所有者が死亡した場合に、同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることはできないとして、競売開始決定が取り消された事例

(4) 大阪地決令和6年7月5日(判例タイムズ1529号192頁)

継続的な業務委託契約に基づく報酬が給与と同視できるとして、民事執行法153条1項に基づき、報酬債権6か月分の全部に対する差押えの範囲が給与債権と同じ程度まで変更(減縮)された事例

(5) 大阪高決令和6年6月6日(判例タイムズ1528号63頁)

借地権者が借地上の建物の売買を原因とする所有権移転登記の後にした賃借権譲渡許可の申立てを不適法なものとして却下した原決定の判断を是認した事例

(6) 大阪高判令和6年3月14日(判例タイムズ1528号65頁、裁判所ウェブサイト)

1 ループを形成する操作コードの付属した上げ下げロール網戸について、製造物責任法3条の欠陥(指示・警告上の欠陥)があったと認められた事例
2 1の上げ下げロール網戸を設置したリフォーム業者の従業員に操作コードの危険性等について説明しなかったなどの注意義務違反があったと認められた事例
3 リフォーム工事の請負契約等について特定商取引に関する法律に基づくクーリングオフが認められた事例

(7) 福岡高判令和6年1月18日(判例タイムズ1528号97頁)

1 昭和48年に建築されたマンションにおける区分所有者全員による管理者選任合意が認められた事例
2 建物の区分所有等に関する法律25条2項に基づくマンション管理者解任請求が認容された事例

3. 労働法

(1) 最一判令和7年4月17日(裁判所ウェブサイト)

地方公共団体が経営する自動車運送事業のバスの運転手として勤務していた職員が運賃の着服等を理由とする懲戒免職処分に伴って受けた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分が裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例

(2) 大阪高判令和7年1月23日(労働判例1326号5頁、裁判所ウェブサイト)〔社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会(差戻審)事件〕

職種限定合意成立時における配転の違法性

(3) 神戸地判令和7年1月15日(WEB労政時報4097号12頁)〔川崎重工業事件〕

海外出向先で過重な業務に従事していたとはいえず、出向元に業務軽減義務違反は認められない

(4) 福岡地判令和6年11月8日(WEB労政時報4096号10頁)〔九州旅客鉄道事件〕

定年後再雇用者が高年齢雇用継続基本給付金を受給できることは、正社員との待遇の相違の不合理性を否定する方向での「その他の事情」に該当する

(5) 東京高判令和6年11月6日(労働判例1324号5頁)〔国・中労委(ワットラインサービス)事件〕

請負労働者の労組法上の労働者性等

(6) 東京地判令和6年10月4日(WEB労政時報4094号10頁)〔LNJ東京事件〕

立ち小便は職場の風紀を乱し重要な取引に悪影響を及ぼす可能性がある行為だとしても、それだけで普通解雇事由があるとは直ちには認められない

(7) 東京地判令和6年6月27日(労働判例1326号14頁)〔モルガン・スタンレー・グループ事件〕

レイシャルハラスメント申告後解雇の適法性等

(8) 神戸地判令和6年5月13日(労働判例1323号57頁)〔あさと物流事件〕

運行時間外手当を導入する賃金規定の改定の有効性等

4. 知的財産法

(1) 最二判令和7年3月3日(14号)最二判令和7年3月3日(2028号)(裁判所ウェブサイト)〔ドワンゴvsFC2事件〕

【14号事件】動画共有サービスを提供するため、米国所在のサーバからインターネットを通じてユーザが使用する我が国所在の端末にプログラムを配信することが、特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提供」及び同法101条1号にいう「譲渡等」に当たるとされた事例
【2028号事件】動画共有サービスを提供するため、米国内でウェブサーバ及びコメント配信用サーバ等の設置管理をしているYが、上記ウェブサーバからインターネットを通じてユーザが使用する我が国所在の端末にファイルを配信することにより、上記端末と上記コメント配信用サーバ等とを含むシステムを構築することが、特許法2条3項1号にいう「生産」に当たるとされた事例

(2) 東京地判令和6年1月18日(判例時報2614号58頁、裁判所ウェブサイト)

発信者が著作物にリンクするURLを送信した行為が、情報の流通によって原告の著作権の侵害を直接的にもたらしているものと認めることはできず、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律5条1項にいう権利の侵害に当たらないとされた事例

5. 租税法

(1) 東京地判令和6年9月27日(金融・商事判例1715号9頁)〔PGM事件〕

1 適格合併に係る被合併法人の未処理欠損金額を合併法人の欠損金額とみなして損金の額に算入する計算につき、法人税法132条の2に基づき否認することができないとされた事例
2 完全支配関係適格合併における法人税法57条2項による繰越欠損金の引継ぎに関し、事業の移転および継続がその前提や要件となるか否か(消極)

(2) 東京地判令和6年1月18日(判例タイムズ1529号165頁)

相続開始直後に取引相場のない株式が財産評価基本通達の定める方法により評価した価額より著しく高額で売却されたものの、納税者側において相続税の負担が軽減されるような効果を持つ行為を何らしていないなど判示の事情の下では、相続税の課税価格に算入される同株式の価額を国税庁長官の指示を受けて別途評価した価額によるものとすることは平等原則に違反するとされた事例

                                                以上

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