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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. 開発における留意点
(1) 用地取得について
(2) 周辺住民について
(3) 運用及び投資について
3. 物流施設に対する投資スキーム
(1) 合同会社と匿名組合出資を利用して信託受益権を取得するスキーム(いわゆるGK-TKスキーム)
(2) 特定目的会社(TMK)を利用するスキーム
(3) 合同会社と匿名組合出資を利用して現物不動産を取得するスキーム(特例事業者・特例投資家型)
(1) 物流は国民生活や我が国経済を支える社会インフラであり、物流業界の営業収入の合計は約29兆円(全産業の2%)、従業員数は約226万人(全就業者数の3%)です。また、国内貨物のモード別輸送量はトンベースで自動車が9割超となっています(※1)。その背景には、新型コロナウイルス禍で拡大したEC(電子商取引)需要が引き続き高い水準にあることが挙げられます。
(2) 物流については、人材不足、カーボンニュートラルへの対応等様々な課題があり、また自動車運送事業における時間外労働規制の見直しも行われ物流の停滞(いわゆる2024年問題)も懸念されています。そのため、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容について、政府は抜本的・総合的な政策を策定し、法改正も行われました(※2)。このうち物流の効率化については、即効性のある設備投資の促進(バース予約システムの導入、自動化、機械化等)、「物流DX」の推進(自動運転、ドローン物流、自動配送ロボット、港湾AIターミナル、サイバーポート、フィジカルインターネット(物流資産のシェアリング))等が取り上げられ、その一部は現実に運用されており、これに伴い、物流施設の開発も専門化・複雑化してきています。
(3) このような状況の下、物流施設の開発案件は増えており、地方圏でも数万~数十万㎡単位の開発案件が多数みられますが、①対象不動産の広域性や土地の筆数の多さ、②周辺住民・地権者との利害調整、③インフラ整備・規制法対応の煩雑さなど、法的課題が複雑に絡み合っています。 本稿では、こうした物流施設の開発と投資における留意点について解説します。
近時、物流施設の開発は大規模化しており、広大な用地を取得する場合、多数の地権者からの買取りが必要なケースも珍しくありません。その場合、多数かつ広範な土地のデューデリジェンス(DD)が必要となります。
対象土地には、相続不明又は未登記のもの、共有地や農地などが混在しています。相続人の確定や相続の登記手続において、所在不明者や海外在住者がいると、手続が難航することもあります。また境界確定や地積更正を要する場合もあり、更に現状の利用にあわせて地役権設定が必要である場合等もあります。更に、一部の地権者の同意が得られないと、開発に必要な敷地全体が取得できず、開発計画が遅れ、費用が増加し、頓挫するリスクもあります。
多数の地権者からの買取りが必要なケース以外でも、例えば、土地区画整理事業などの形で用地を取得する場合もあります。この場合、換地や保留地を取得することになりますが、事業の進行中は登記がなされず、売買の方法や対抗力具備の方法などについて対応が必要になります。また、工場跡地などの広大な用地を取得する場合には、土壌汚染や地中障害物などの検討も必要になります。
対象土地のDDにおいては、都市計画法や農地法等を含む行政上の規制・制約(用途地域、地区計画等)についても確認していく必要があります。
特に都市部近郊の農地等の開発においては、実務上、全体開発スケジュールに対して農地転用許可等の許認可取得や行政対応によるタイムラグが大きく影響することから、スケジュールの延期、コスト増加の場合の対応策を検討しておく必要があります。農地については、一定の規模以上の面積の場合、農林水産大臣等との協議等が必要となる場合もあり、注意が必要です。
売買契約の締結前後には、国土利用計画法や公有地の拡大の推進に関する法律に基づく届出の要否の確認も必要になります。
多数の地権者がいる場合、一部の用地のみを取得できても事業の遂行はできないため、用地の売買契約では、全体(一体)取得が条件となる条項などを設け、リスクを最小限とする対応を検討する必要があります。地場の不動産業者その他仲介業者が関与する場合、宅地建物取引業法上の他人物売買規制との関係にも配慮する必要があり、第三者のためにする契約(いわゆる三為契約)とすることの可否などを含め、法的な対応の検討が必要となります。
契約不適合責任や表明保証事項に関する内容の検討が必要になることは通常の不動産売買と同様ですが、その他にも、クローズまで解決できない問題に関するポスクロ条項や留保金の設定等を盛り込むかなども検討対象となります。
土地を取得して物流施設を開発する場合、当該開発又は建築に関するマネジメントや管理を専門の業者等(プロジェクトマネジャー又はコンストラクションマネジャー等)に委託する必要があり、その選定やこれに関する契約の締結も必要となります。建設業法などの関連法令への配慮も必要になります。
大規模な土地開発においては、隣地所有者を含めた多数の周辺住民との関係も問題となります。大型トラックの通行や騒音、開発による景観悪化等の懸念から、周辺住民の反対運動により開発が進まないこともあります。
これら周辺住民の懸念に対しては、住民説明会の開催や交通動線の整備・工夫、緑地・池沼の設置、自治会対応など、計画段階からの配慮が求められ、地権者との売買契約上の手当や各種覚書・協定書の締結などの検討も必要になります。
投資対象としての物流施設の開発・運用においては、投資スキームの適法性・合理性・遵法性等の検討も必須です。
複数投資家が関与する場合には収益分配、費用負担、重要事項の意思決定、投資終了時(出口)における売却方法等に関し、協定書等により事前に合意する必要もあります。開発や運用が途中で頓挫した場合に備えた解除条項、違約金の定め等も必要となります。
物流施設を投資対象とする場合、用地取得→建築→運用→出口(売却)という各段階を想定したスキームの設計が必要となります。対象土地の数や権利関係、投資家の属性、投資期間、リスク許容度、出口戦略等の複合的観点からスキームを検討することになります。
投資形態としては、投資家が物流施設に直接投資することも考えられますが、多数の投資家が参加したり、運用を専門業者に任せるため、SPCを用いるスキームも多くみられます。以下、SPCを用いるスキームとして典型的なものを紹介します。
不動産投資一般において、合同会社(GK)を設立し、これに投資家が匿名組合契約(TK)により出資するスキームは多く利用されています。対象不動産を信託契約に基づき信託受益権化し、合同会社(GK)が、匿名組合契約(TK)に基づく出資金を原資として、当該信託受益権を取得し、運用するスキームです。
このスキームでは、信託受益権や匿名組合出資持分が金融商品取引法上の有価証券となるため、同法の規制を踏まえた対応が必要になり、開発型の案件の場合には、不動産特定共同事業への該当性の検討も必要になります。また、対象土地が多数の場合、すべての土地に対し信託を設定し、信託登記を経て、受益権化を行うと実務的負担が大きくなります。物流施設の開発案件のなかでも、多数の地権者から用地を取得する案件では、各地権者毎に信託を設定するのかといった困難な問題もあります。
資産の流動化に関する法律(資産流動化法)に基づく「特定目的会社(TMK)」を設立するスキームです。特定目的会社(TMK)においては、現物不動産の保有も可能であるため、対象不動産の信託受益権化が難しい案件でも採用可能という意味で、上記(1)のスキームと異なります。
もっとも、特定目的会社(TMK)は、資産流動化法に基づき資産流動化計画を作成し、又はその変更について、関東財務局に対する届出等の手続が必要です。税務上のメリットを受けるための租税特別措置法等の要件を充足する必要もあり、手続上留意すべき点は多いといえます。
なお、資産流動化法上、特定目的会社(TMK)には宅地建物取引業法の規定が適用されません。売主が宅地建物取引業者である場合、買主である特定目的会社(TMK)は宅地建物取引業者ではないため、同法上、宅地建物取引業者間の売買であれば適用を受けない条項等の適用の有無については別途検討が必要になります。
合同会社と匿名組合出資を利用する点では(1)と同じですが、不動産特定共同事業法(不特法)上の特例事業者として合同会社を利用するスキームであり、不動産取引に係る業務を不動産特定共同事業者に委託するものです。
不特法上、投資家保護のため、投資家との間で、同法が定める許可等に係る約款に従った不動産特定共同事業契約(任意組合型、匿名組合型)を締結することが原則となりますが、プロの投資家である特例投資家のみの投資に限定すると約款規制等が及びません。また、特定目的会社(TMK)と異なり、特例事業者(GK)は宅地建物取引業者とみなされ、宅地建物取引業法第3条(免許)、第35条(重要事項の説明等)等一部の規定を除き同法が適用されますが、他方で、特例事業者(GK)が買主となり、売主が宅地建物取引業者の場合、同法上、宅地建物取引業者間の売買の場合に適用のない条項については適用がないものと考えられます。
宅地建物取引業者とみなされるため、特例事業の開始に当たっては供託金(1000万円)の納付も必要となります。不動産保証協会又は全国宅地建物取引業保証協会に入会して低額の弁済業務保証金分担金(60万円)を納付する形での対応も可能ですが、直近で確認する限り、各協会の運用上、不動産取引に係る業務を受託した不動産特定共同事業者が当該保証協会に加入していない場合、特例事業者(GK)において保証協会に加入することができないこととされているため注意が必要です。その他、流通税の軽減措置を受けるためには、租税特別措置法等の一定の要件を満たす必要があります。
(※1)国土交通省 物流・自動車局「物流拠点を取り巻く環境の変化や課題」2024年10月30日(https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001841023.pdf)
(※2)流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律は、すべての荷主・物流事業者に、物流効率化のために取り組むべき措置の努力義務を課し、一定規模以上の特定事業者に対し、中長期計画の策定や定期報告等を義務付けるなどの改正がなされ、2025年4月1日より、法律名を「物資の流通の効率化に関する法律」(物流効率化法)と改め、一部施行されています。物流効率化法の改正ポイントについては、以下の国土交通省等のポータルサイトで公開されています。
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/
本ニューズレターは、掲載時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことにご留意ください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者ら個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。
以 上