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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. 改正の背景
(1) はじめに
(2) 概要
2. 区分所有法の改正
(1) 集会の決議の円滑化
(2) 共用部分の変更
(3) 建替え決議
(4) 所有者不明専有部分管理命令
(5) 管理不全専有部分管理命令及び管理不全共用部分管理命令
(6) 集会の招集通知
(7) 国内管理人
(8) 専有部分のある建物の滅失時
(9) 団地内の建物の建替え承認決議
(10) 団地内の建物の一括建替え決議及び団地内建物敷地売却決議
マンションは国民の1割以上が居住する重要な居住形態であるが、その建物と居住者の「2つの老い」が進行しており、外壁剥落等の危険や集会決議の困難化等が課題となっています(※1)。このような社会経済情勢の変化に鑑み、マンション等の区分所有建物の管理及び再生の円滑化等を図ることを目的として、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「マンション管理再生円滑化法」といいます。)が2025年5月23日に成立し、同月30日に公布されました。改正後の区分所有法は、2026年4月1日から施行されます(同法附則第1条)。
※1:報道発表資料:マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案を閣議決定~新築から再生までのライフサイクル全体を見通した取組~ – 国土交通省 参照
マンション管理再生円滑化法では、管理の円滑化等に関する規定、再生の円滑化等に関する規定及び地方公共団体の取り組みの充実に関する規定が設けられています。
(ア) 管理の円滑化等に関しては、①新築時から適切な管理や修繕が行われるよう、分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ仕組みを導入し、②マンション管理業者が管理組合の管理者を兼ね工事等受発注者となる場合、利益相反の懸念があるため、自己取引等についての区分所有者への事前説明を義務化し、③修繕等の決議は、集会「出席者」の多数決によることを可能とし、裁判所が認定した所在不明者を全ての決議の母数から除外する制度を創設し、④管理不全の専有部分等を裁判所が選任する管理人に管理させる制度を創設しました。
(イ) マンションの再生の円滑化等に関しては、①建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取壊し等を、建替えと同様に、多数決決議(4/5以上、但し、耐震性不足等の場合3/4以上、政令指定災害による場合2/3以上)によることを可能とするとともに、これらの決議に対応した事業手続等(組合設立、権利変換計画、分配金取得計画等)を整備し、②多様なニーズに対応した建替え等の推進のため、隣接地や底地の所有権等について、建替え等の後のマンションの区分所有権に変換することを可能にし、 ③耐震性不足等で建替え等をする場合、容積率の他、特定行政庁の許可による高さ制限の特例を創設しました。
(ウ) また、地方公共団体の取り組みを充実させるものとして、①外壁剥落等の危険な状態にあるマンションに対する報告徴収、助言指導・勧告、あっせん等の措置について規定し、②区分所有者の意向の把握、合意形成の支援等の取り組みを行う民間団体の登録制度を創設しました。
本稿では、マンション管理再生円滑化法により改正された法律のうち、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)について、主な改正の概要をご紹介します。なお、本稿では、改正後の区分所有法を「改正法」、改正前の区分所有法を「旧法」といいます。
集会の議事は、区分所有法又は規約に別段の定めがない限り、出席した区分所有者(※2)及びその議決権の各過半数で決することとされました(改正法第39条第1項)。改正前は、集会の議事は区分所有者及び議決権の各過半数で決することとされ(旧法第39条第1項)、欠席者は反対者と同様に取り扱われていました。
また、裁判所は、区分所有者又はその所在を知ることができない場合は、当該区分所有者(「所在等不明区分所有者」)以外の区分所有者(「一般区分所有者」)又は管理者の請求により、一般区分所有者による集会の決議ができる旨の裁判をすることができることとされ、所在等不明区分所有者は、集会における議決権を有しないこととされました(改正法第38条の2第1項及び第2項)。
※2:議決権を有しない者を除く。
改正前は、共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する(ただし区分所有者の定数は規約で過半数まで減ずることができる)とされていました(旧法第17条)。
改正法では、共用部分の変更に関して、以下のように集会の決議の多数決要件が緩和されました(改正法第17条第1項、第3項及び第5項)。
(ア) 共用部分の変更(※3)は、集会において、区分所有者(※4)の過半数(※5)かつ議決権の過半数(※5)を有する者が出席し、出席した区分所有者(※4)及びその議決権の各4分の3(※6)以上の多数による決議で決する。
(イ) 上記(ア)の決議により共用部分の変更をする場合において、規約に特別の定めがあるときは、当該共用部分の変更に伴い必要となる専有部分の保存行為等は、集会において、区分所有者(※4)の過半数(※5)かつ議決権の過半数(※5)を有する者が出席し、出席した区分所有者(※4)及びその議決権の各4分の3(※6)以上の多数による決議で決することができる。
(ウ) 共用部分の設置又は保存に瑕疵があり、他人の権利又は法律上保護される利益が侵害されるおそれがある場合等において、当該瑕疵の除去に関して必要となる共用部分の変更(※3)等については、上記(ア)及び(イ)の集会の決議要件の「4分の3」は「3分の2」とされます。
※3:その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。
※4:議決権を有しない者を除く。
※5:規約で過半数を上回る割合を定めた場合はその割合以上。
※6:規約で2分の1超かつ4分の3未満の割合を定めた場合はその割合。
集会における建替え決議は、改正前と同様に、区分所有者(※7)及び議決権の各5分の4以上の多数による決議が必要です(改正法第62条第1項)。しかし、建物が、地震又は火災に対する安全性に係る建築基準法等への不適合などに該当する場合には、決議要件が5分の4以上から4分の3以上に緩和されました(同条第2項)。
また、建替え決議があったときは、建替え決議に賛成した区分所有者等は、専有部分の賃借人に対して賃貸借の終了を請求でき、当該賃貸借は請求があった日から6か月を経過することによって終了することとなりました(改正法第64条の2第1項及び第2項)(※8)。当該専有部分の区分所有者と上記の請求をした者は、当該専有部分の賃借人に対し、連帯して、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければなりません(同条第3項及び第4項)(※9)。
上記の規定は、改正法で新設された、建物更新決議(第64条の5)、建物敷地売却決議(第64条の6)、建物取壊し敷地売却決議(第64条の7)及び取壊し決議(第64条の8)にも準用されています。
※7:議決権を有しない者を除く。
※8:この規定は、専有部分が使用貸借の目的物とされている場合や、専有部分に配偶者居住権が設定されている場合にも準用されます(改正法第64条の3及び第64条の4)。
※9:この規定は、専有部分に配偶者居住権が設定されている場合にも準用されます(改正法第64条の4)。
裁判所は、区分所有者又はその所在を知ることができない専有部分等について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、「所有者不明専有部分管理人」に対して管理することを命ずる処分(「所有者不明専有部分管理命令」)をすることができるとされました(改正法第46条の2第1項)。
裁判所は、区分所有者による専有部分の管理が不適当であることによって他人の権利が侵害される場合等において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、「管理不全専有部分管理人」による管理を命ずる処分(「管理不全専有部分管理命令」)をすることができるとされました(改正法第46条の8第1項)。
また、裁判所は、区分所有者による共用部分の管理が不適当であることによって他人の権利が侵害される場合等において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、「管理不全共用部分管理人」による管理を命ずる処分(「管理不全共用部分管理命令」)をすることができるとされました(改正法第46条の13第1項)。
改正前は、集会の招集通知には会議の目的たる事項を示して、少なくとも1週間前に区分所有者に発しなければならないとされ、この1週間という期間については規約で伸縮できるとされていました(旧法第35条第1項)。改正法では、招集通知には、会議の目的たる事項のほか議案の要領まで記載することが必要となり、1週間という期間については伸長のみできることとされました(改正法第35条第1項)。
また、会議の目的たる事項に利害関係を有する占有者がいる場合の集会の招集の掲示についても、集会の日時、場所及び会議の目的たる事項のほか議案の要領を掲示することが必要となりました(改正法第44条第2項)。
区分所有者は、国内に住所等を有しない場合等には、その専有部分等の管理に関する事務を行わせるため、国内に住所等を有する者を管理人として選任できるとされました(改正法第6条の2)。
専有部分のある建物が滅失した場合において、当該建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であった場合、又は当該建物の附属施設等につき数人が共有持分を有していた場合は、それらの権利を有する「敷地共有者等」は、その滅失の日から起算して5年を経過する日までの間は、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるとされました(改正法第72条)。
また、上記の集会において、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、建物の再建決議及び敷地売却決議をすることができるとされました(改正法第75条第1項及び第76条第1項)。
建替え承認決議について、集会において、議決権の過半数(※10)を有する団地建物所有者が出席し、出席した団地建物所有者の議決権の4分の3以上の多数によりすることができるとされました(改正法第69条第1項)。改正前は、集会において議決権の4分の3以上の多数による承認決議が必要とされていたため、決議要件が緩和されました。
また、建替え承認決議に係る建替えの対象となる特定建物が、地震又は火災に対する安全性に係る建築基準法等への不適合などに該当する場合には、上記の集会の決議要件の「4分の3」は「3分の2」とされます(改正法第69条第8項)。
※10:規約で過半数を上回る割合を定めた場合はその割合以上。
一括建替え決議について、集会において、①団地内建物の区分所有者(※11)及び議決権の各5分の4以上の多数ですることができることとし、かつ、②当該集会において、当該団地内建物のうちいずれか1以上の建物につき、その区分所有者(※11)の3分の1を超える者又は区分所有法第38条に規定する議決権の合計の3分の1を超える議決権を有する者が反対した場合は、この限りでないこととされました(改正法第70条第1項)。改正法では、上記①の全体要件は旧法と同様の要件としつつ、上記②の各棟要件について、各棟につきその区分所有者の3分の2以上の者であって区分所有法第38条に規定する議決権の合計の3分の2以上の議決権を有する者の賛成がある場合に限り一括建替えが可能となる仕組みを改め、各棟につきその区分所有者(※11)の3分の1を超える者又は区分所有法第38条に規定する議決権の合計の3分の1を超える議決権を有する者の反対がない限り一括建替えを可能とする仕組みとしました。
また、区分所有法第70条第1項本文に規定する場合には、集会において、①団地内建物の区分所有者(※11)及び議決権の各5分の4以上の多数で、当該団地内建物及びその敷地につき一括して、その全部を売却する旨の決議(「団地内建物敷地売却決議」)をすることができることとし、かつ、②当該集会において、当該団地内建物のうちいずれか1以上の建物につき、その区分所有者(※11)の3分の1を超える者又は区分所有法第38条に規定する議決権の合計の3分の1を超える議決権を有する者がその団地内建物敷地売却決議に反対した場合は、この限りでないこととされました(改正法第71条第1項)。
さらに、団地内建物の全部が、地震又は火災に対する安全性に係る建築基準法等への不適合などに該当する場合には、上記の一括建替え決議及び団地内建物敷地売却決議の①の全体要件については、「5分の4」が「4分の3」とされます(改正法第70条第2項及び第71条第2項)。
※11:議決権を有しない者を除く。
本ニューズレターは、掲載時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことにご留意ください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者ら個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。
以上