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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. クロスボーダー収納代行に関する2025年資金決済法改正の概要
3. クロスボーダー収納代行に関する改正の経緯
(1) 収納代行の為替取引該当性
(2) 資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告(2025年1月22日)
4.今後の対応における留意点
2025年6月6日に、資金決済に関する法律の一部を改正する法律が成立しました(同6月13日公布。以下、これによる改正を「本改正」といいます)。本改正は、暗号資産・電子決済手段(ステーブルコイン)関連及び資金移動業関連の改正を内容とするものですが、本ニューズレターでは、資金移動業関連の改正のうち、「国境を跨ぐ収納代行への規制の適用」について解説いたします。
本改正のうち「国境を跨ぐ収納代行への規制の適用」は、自身が関与しない取引の決済のために国際送金を行う収納代行業者(いわゆるクロスボーダー収納代行)について、利用者保護やマネロン等のリスクへの対応の観点から、資金移動業の規制を適用することを内容とするものです。以下の行為がクロスボーダー収納代行の例とされています(2024年11月7日付け金融庁「第4回 金融審議会資金決済制度等に関するワーキング・グループ 事務局説明資料」8頁)。
本改正により、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)2条の2が改正され、概要以下の要件をみたす行為(クロスボーダー収納代行)が「為替取引」に該当するものとされました(※)。
「為替取引」を業として営むには資金移動業の登録が必要となります(資金決済法2条2項及び3項、37条)。もっとも、本改正においては、上記要件をみたすクロスボーダー収納代行であっても、「当該行為の態様その他の事情を勘案し、利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定めるもの」(本改正後の資金決済法2条の2第2号かっこ書き)は為替取引に該当しない旨の除外規定が設けられました。本ニューズレター執筆時点において当該内閣府令案は公表されていません。
※ 本改正に係る新旧対照条文を参照。
収納代行については、「代金引換を含め、①金銭債権を有する債権者から委託又は債権譲渡を受けて債務者から資金を収受し、②当該資金を直接輸送することなく債権者に移転させる行為」が典型であり、コンビニエンス・ストアによる収納代行や運送業者による代金引換がこれに当たります(2019年12月20日付け金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」16頁)。
上記のとおり、「為替取引」(資金決済法2条2項)を業として行うには資金決済法上の登録が必要となりますが(銀行業の免許を受ける方法もあります(銀行法4条1項))、「為替取引」は資金決済法等に定義が規定されておらず、これを「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」と判示する最高裁決定があります(最決平成13年3月12日刑集55巻2号97頁)が、その外延は明確ではありません。
この点、2009年の資金決済法制定時において、収納代行が為替取引に該当するか議論されたものの、支払人に二重支払の危険がないなどの意見があったことから、「性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当と考えられる」とされました(2009年1月14日付け金融審議会金融分科会第二部会「資金決済に関する制度整備について―イノベーションの促進と利用者保護―」3頁)。
その後、2019年12月20日付け金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」を受けた2020年の資金決済法改正により、収納代行サービスのうち、個人間の収納代行の一部(いわゆる「割り勘アプリ」のサービス)が為替取引に該当することが明示的に規定されました(資金決済法2条の2、資金移動業者に関する内閣府令1条の2)。ただし、同報告は、その他の収納代行を含め、「今後とも、収納代行を巡る動向を注視しつつ、それぞれのサービスの機能や実態に着目した上で、為替取引に関する規制を適用する必要性の有無を判断していくことが適当と考えられる」(同報告16頁)としており、金融庁の「事務ガイドライン(資金決済移動業者関係)」も、上記の資金決済法2条の2等は確認規定であり、これに該当しない行為が為替取引に該当しないことを意味するものではなく、事業者の行為が為替取引に該当するかは、その事業者が行う取引内容等に応じ、最終的には個別具体的に判断するとしています(同I-2)。
このように、収納代行の「為替取引」該当性については資金決済法の制定・改正において検討課題とされていたところ、2025年1月22日付け金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告」は、クロスボーダー収納代行が、海外オンラインカジノや海外出資金詐欺等の事案で用いられる事例が存在することなどを踏まえ、「クロスボーダー収納代行のうち、為替取引に関する規制に服する銀行や資金移動業者が行うクロスボーダー送金と同機能を果たしていると考えられるものについては、リスクに比例的な規制として為替取引に関する規制を、過剰な規制とならないように留意しつつ適用することが考えられる」としました(同8頁)。
具体的には、「金銭債権の発生原因の成立に関与する者が行うクロスボーダー収納代行」や「エスクローサービス」は「直ちに規制の対象とせず引き続き検討課題とする」とした上で、「金銭債権の発生原因の成立に関与しない者が行うクロスボーダー収納代行」のうち、例えば以下について為替取引に関する規制が適用されるべきものとしています(同9頁以下)。
※ 上記①及び②については、海外オンラインカジノや無登録金融商品取引業者のために収納代行を営む者が資金移動業登録を申請したとしても認められず、無登録業者として取締りの対象となります。
他方で、「金銭債権の発生原因の成立に関与しない者が行うクロスボーダー収納代行」であっても、以下については、直ちに為替取引に関する規制を適用する必要性は高くないと指摘しています(同10頁)。
また、上記③及び④に該当する行為でも適用除外に該当する場合もあり得ると指摘しています。その上で、③(海外EC取引業者からの委託を受け、決済だけに関わる収納代行)については、「形式的には金銭債権の発生原因に関与していないが、海外EC取引業者の指導・監督の下で委託を受けて収納代行を行い、ビジネスモデル全体として金銭債権の発生原因に関与していると考えられる場合等」についての規制の要否は「個別の取引態様やビジネスモデルに応じて判断される」ことが、④(インバウンド旅行者の国内での決済のための収納代行)については、「インバウンド旅行者が国内で用いる決済手段に係る他法令によるリスク軽減措置等も踏まえて規制の要否が判断される」ことが、それぞれ指摘されています(同11頁)。
自社の取り扱うサービス等が本改正により新たに為替取規制の対象となるクロスボーダー収納代行に該当する場合には、資金移動業者の登録を受けることやサービス内容の変更などについて検討する必要が生じます。今後、上記の2025年1月22日付け金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告」などを踏まえ、本改正後の「為替取引」から除外されるクロスボーダー収納代行について規定した内閣府令案が公表されます。この点に関連し、金融庁は、2025年6月20日、「クロスボーダー収納代行(国境をまたぐ収納代行)に関する相談窓口」を開設しました。当該窓口は、金融庁が、事業者から、「具体的にどのようなビジネスが規制の適用対象となるのか」「適用除外を定める内閣府令はどのような規定になるのか」などといった相談を受けるために開設したものです。
今後公表される内閣府令により、為替取引規制の対象となるクロスボーダー収納代行の範囲が具体化されることになりますので、関連する事業者におかれては、上記窓口や専門家への相談を行うなどして、今後公表される内閣府令の内容や解釈、自社のサービス内容等を確認しておき、本改正の施行に向けた準備を進めることが重要です。
本改正は、公布の日(2025年6月13日)から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます(改正附則1条)。なお、本改正の施行の際に現にクロスボーダー収納代行を業として営んでいる者は、本改正の施行から原則として6か月間は当該行為を業として営むことが可能です(改正附則2条)。
本ニューズレターは、掲載時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことにご留意ください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。
以 上