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2025.11.06

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2025年9月・10月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法・民事手続法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. その他(プロバイダ責任制限法、仲裁法)

 裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2025年9月・10月)。

 東京地判令和7年3月27日(企業不祥事に伴う調査費用と取締役の負担)(下記1(1))は、上場企業であるX社が、元代表取締役ら(Yら)に対し、Yらによる売上の過大計上などの不正行為に起因してX社が支出した特別調査委員会・第三者委員会の費用、監査費用、上場契約違約金、法務アドバイザー費用及び弁護士費用についての損害賠償を求めた事案です。
 東京地裁は、上場企業が不正行為の調査に多額の費用を投じること自体が不合理でない場合であっても、Yらに対する請求は、別途、損害の公平な分担の観点から、事案ごとに吟味すべき旨判断しました。そのうえで、各支出のうち、通常生ずる範囲を超える支出、調査の重複部分、組織風土に関する調査、任務懈怠と関連しない調査などは相当因果関係を欠くとして除外し、一部のみを損害として認容しました。
 本判決は、取締役の任務懈怠と相当因果関係の認められる損害の具体的範囲を限定的に判断しており、今後、企業不祥事に伴う同種の事案に影響を与える可能性があります。

 東京地判令和6年5月27日(本来の意図と異なる契約書の記載)(下記2(5))は、X社(電気売買事業者)が、A社(小売電気事業者)との間の契約書に記載された①卸供給電力量の算定地点及び②卸料金の算出方法が、両社間の実際の合意内容と異なると主張し、不足料金等の支払を求めた事案です。
 東京地裁は、X社代表者が取引の重要な条件を社内の契約書作成担当部門に適切に伝えず、契約書の内容を確認もしないまま、自らの認識と異なる契約書を取り交わしたことは、代表者として普通になすべき注意を著しく欠いており、重過失が認められるとして、X社の請求を棄却しました。
 企業間契約の締結過程において、社内外の関係者の認識に齟齬が生じた結果、本来意図した内容とは異なる内容の契約書が作成されてしまう場合があります。本判決は、会社代表者が、契約締結過程における企業の意思決定プロセスをどのように監視すべきかについて、実務上の重要な示唆を与えるものです。

 東京地判令和6年9月26日(聖教新聞写真引用事件)(下記4(3))は、宗教法人Xがその会員Yに対し、Xが出版する新聞に掲載された写真をスマートフォンで撮影しSNSに投稿したことがXの著作権を侵害すると主張し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。
 東京地裁は、Yの投稿がXを批評する目的で行われたこと、投稿された写真は不鮮明で画質が粗く細部は捨象されていること、独立して二次的に利用されるおそれが極めて低いことなどから、Yによる写真の利用は著作権法32条1項にいう「引用」に該当し違法とはいえないとして、Xの請求を棄却しました。
 本判決は、新聞に掲載された写真をスマートフォンで撮影しSNSに投稿する行為が、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内である場合は著作権法上の「引用」として許されることを認めたものであり、同種事案の対応の際の参考になります。

 最二判令和6年12月23日(インスタなりすまし投稿訴訟)(下記5(1))は、氏名不詳者によるインスタグラム投稿により権利を侵害されたとするXが、経由プロバイダYに対し、発信者情報の開示を求めた事案です。
 最高裁は、発信者情報開示の要件である「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」の解釈につき、①少なくとも侵害情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信は「相当の関連性」が認められ、②それ以外のログイン通信は、あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情があるときは「相当の関連性」が認められ得る旨判断したうえ、開示請求がされた8回のログイン通信のうち、問題となった投稿と最も時間的に近接する1回のログイン通信についてのみ、開示請求を認めました。
 本判決は、発信者情報開示の要件である「相当の関連性」の判断枠組みを示した最高裁の初めての判断であり、実務上の指針として重要な意義を有するものと考えられます。

1. 商事法

(1) 東京地判令和7年3月27日(金融・商事判例1725号10頁)

 調査委員会費用の一部および追加監査報酬等の一部が取締役の任務懈怠または不法行為と相当因果関係のある損害であるとは認められないとされた事例

(2) 東京高判令和7年3月13日(金融・商事判例1723号18頁)

 債券の発行体が実質的破綻となったときには元本が削減されるとの条項は、顧客に交付された書面の記載から読み取ることができ、顧客はそれを理解し得たから、同顧客に対する説明義務違反はないとされた事例

(3) 東京地判令和6年12月19日(金融・商事判例1724号14頁)

 会社の抱える損失の財務諸表への計上を回避するため当該会社から損失を分離するスキームを構築し、これにより重要事項に虚偽記載のある有価証券報告書等を提出して分配可能額を超える違法な配当を行うなどしたことについて、会計監査人の善管注意義務違反による損害賠償責任が認められなかった事例

(4) 東京地決令和6年9月10日(判例タイムズ1535号241頁)

 株主総会に係る招集の決定事項の定めにより、法人である株主が代理人により議決権を行使する場合の本人確認書類が限定され、その議決権行使に一定の制約が生じていたとしても、当該株主総会の招集権者による招集通知後の対応により、上記議決権行使の機会は実質的にみて十分に確保されているなどとして、監査役の違法行為差止請求権を被保全権利とする株主総会開催禁止の仮処分の申立てが却下された事例

(5) 東京地決令和6年8月22日(判例タイムズ1536号45頁)

 会社法297条4項に基づき株主総会の招集を許可された株主が、当該会社の株主名簿管理人に対し、同株主名簿管理人が保管する株主名簿データの引渡しを求めることができるとされた事例

2. 民事法・民事手続法

(1) 最三判令和7年9月9日(裁判所ウェブサイト)

 請求異議の訴えについて請求を棄却する判決が確定し、当該訴えを本案とする強制執行の停止を命ずる裁判が取り消された場合において、当該裁判に係る申立てをした者に主張した異議の事由が事実上又は法律上の根拠を欠くことについて故意又は過失があるときは、上記の者は、債権者に対して損害賠償義務を負う

(2) 高松高判令和7年4月18日(判例タイムズ1535号137頁)

1 消滅時効の期間内に民法150条1項の催告が複数回されても、同条2項の「再度の催告」には当たらないとした事例
2 消滅時効の期間内に民法150条1項の催告が複数回された場合、同項の6か月の期間は最後の催告がされた時点から起算されるとした事例

(3) 東京高判令和7年2月5日(判例時報2629号66頁)

 土留改修工事の不備により地盤沈下が生じたとする不法行為に基づく損害賠償請求において、民法724条2号の消滅時効の起算点を当該工事の完了検査時点ではなく地盤沈下が発生した時点と判断した事例

(4) 東京地判令和6年10月17日(判例タイムズ1536号223頁)

 外国語で締結された契約の文言解釈をする際に単純な翻訳によらず、契約締結前後の事情を加味して解釈した事例

(5) 東京地判令和6年5月27日(判例時報2628号100頁)

 企業間取引に関する契約書の記載をめぐり、契約書とは異なる内容の合意があったとは認められず、また、契約書における契約当事者の意思表示にはその要素に錯誤があったと認められるが、その一方で重過失があったと認められた事例

(6) 東京地判令和6年4月22日(判例時報2627号44頁)

1 物流サービス業務の受託者が保管商品の出荷指示を拒否した行為につき債務不履行責任等を負うとされた事例
2 物流業務委託基本契約の契約期間中に委託者が新たな個別契約の締結を控えた場合に同基本契約に基づく違約金等が発生しないとされた事例

(7) 東京地判令和5年8月24日(判例時報2627号36頁)

 インターネットショップの利用規約における転売禁止を定める条項に違反した場合の違約金支払条項が、民法548条の2第2項に該当し、売買契約の合意内容とはならず無効であるとして、転売した顧客への違約金請求を棄却した事例

3. 労働法

(1) 東京高判令和7年3月27日(労働判例1336号5頁)〔福住不動産事件〕

 業務中の私的取引等を理由とした懲戒解雇・普通解雇の有効性

(2) 東京地判令和7年1月15日(労働判例1334号63頁)〔ICT・イノベーター事件〕

 会社における「パワハラ」口コミ投稿の違法性等

(3) 東京高判令和6年12月12日(労働判例1334号35頁)〔日本郵便(住居手当)事件〕

 住居手当等の労契法旧20条・パート法8条違反該当性

(4) 大阪高判令和6年12月5日(労働判例1337号16頁)〔大浜資材事件〕

 組合脱退勧奨拒否後の自宅待機命令等の違法性

(5) 東京地判令和6年9月26日(労働判例1337号48頁)〔フィリップス・ジャパンほか事件〕

 高水準での他社就労と解雇前就労先における就労意思の有無

4. 知的財産法

(1) 知財高判令和7年3月19日(Law&Technology109号87頁、裁判所ウェブサイト)〔豊胸用組成物事件〕

 前後に医療行為を伴うことが予定された組成物の発明の産業上の利用可能性(特許法29条1項柱書)と、医師による当該組成物の調剤行為の免責規定(同法69条3項)の適否

(2) 大阪高判令和7年2月27(判例タイムズ1535号180頁、裁判所ウェブサイト)〔映画『天上の花』脚本改変事件〕

 映画の脚本原稿に係る著作者人格権(同一性保持権)侵害の不法行為の成否が争われたが、脚本原稿の改変が著作権法20条1項の「意に反する改変」ではなく同一性保持権の侵害に当たらないとされた事例

(3) 東京地判令和6年9月26(判例タイムズ1535号247頁、裁判所ウェブサイト)〔聖教新聞写真引用事件〕

 創価学会の会員において聖教新聞掲載に係る報道写真をスマートフォンで写してこれをツイッターに掲載して批評と共に利用する行為が、著作権法32条1項にいう引用に該当するとされた事例

5. その他(プロバイダ責任制限法、仲裁法)

(1) 最二判令和6年12月23日(判例タイムズ1535号70頁、裁判所ウェブサイト)〔インスタなりすまし投稿訴訟〕

1 プロバイダ責任制限法(令和3年法律第27号による改正後のもの)5条2項の規定は、権利の侵害を生じさせた特定電気通信及び当該特定電気通信に係る侵害関連通信が令和3年法律第27号の施行前にされたものである場合にも適用されるか
2 インターネットを利用した情報ネットワーク上のアカウントにおいて他人の権利を侵害する投稿がされた後、上記投稿をした者によって上記アカウントにログインするための通信がされた場合において、上記通信が、上記投稿との関係で、プロバイダ責任制限法施行規則5条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるとされた事例
3 インターネットを利用した情報ネットワーク上のアカウントにおいて他人の権利を侵害する投稿がされた後、上記投稿をした者によって上記アカウントにログインするための通信がされた場合において、上記通信が、上記投稿との関係で、プロバイダ責任制限法施行規則5条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるとはいえないとされた事例

(2) 東京地判令和6年2月26日(判例タイムズ1535号210頁、裁判所ウェブサイト)

 地位確認等の訴えについて、米国法上有効な仲裁合意が成立しているとして、仲裁法14条1項本文に基づき却下された事例

以 上

(※)令和7年9月24日の裁判所ウェブサイトのリニューアル(リンク)に伴い、同ウェブサイト内のURLが変更されたため、これまでに配信したニューズレター中、裁判所ウェブサイト登載の裁判例のリンクがすべて無効となっております。ご不便をおかけしますが、ご了承ください。

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