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2022.12.19

EUの国境炭素調整措置(CBAM)と事業者の義務(2023年)

業務分野

執筆弁護士

<目次>
1. EUの国境炭素調整措置(CBAM)の2022年12月暫定合意
2. 日本におけるカーボンプライシングの動向

1. EUの国境炭素調整措置(CBAM)の2022年12月暫定合意

2022年12月13日、欧州連合理事会と欧州議会は、国境炭素調整措置(CBAM)の設置規則案について暫定的な合意(以下「本暫定的合意」といいます。)に達しました。

CBAMは、炭素制約が不十分な国からの輸入品に対し、同じ製品がEU内で生産された場合にEU排出権取引制度(ETS)で支払われる炭素価格に連動した炭素賦課金を課す措置で、これによって炭素リーケージ(※)を防止することを目的としています。

(※)炭素制約の厳しい国の企業が緩やかな国へ生産拠点を移転することによって、世界全体の排出量が増加すること

CBAMは、2019年12月に欧州委員会が発表した、2050年までの気候中立(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた成長戦略である「欧州グリーン・ディール」において提案され、以降、欧州委員会、欧州連合理事会、欧州議会における検討、議論を重ねて本暫定的合意に至りました。上記を含む主な時系列は以下のとおりです。

2019年12月 欧州委員会が欧州グリーン・ディールを発表
2021年7月 欧州委員会が2030年までに二酸化炭素排出量を1990年比で55%削減することを目標とした気候変動政策パッケージである「Fit for 55」を採択。その一環としてCBAM設置規則案を発表
2022年3月 欧州連合理事会が、CBAMに関する原則的なアプローチ(general approach)を採択
2022年6月 欧州議会がCBAM設置規則案を修正する立場(position)を採択
2022年7月 欧州委員会、欧州連合理事会、欧州議会がCBAM設置規則の最終案に関する三者協議を開始
2022年12月 本暫定的合意
2023年10月 CBAMの移行期間開始
2026年 炭素賦課金の支払義務化開始

本暫定的合意の対象となったCBAM設置規則案は公表されていませんが、その概要は以下のとおりとされています。

  • セメント、アルミニウム、肥料、電力、鉄・鉄鋼、水素の各分野の製品が対象となる(水素が2021年7月案から追加)。
    • 前駆体やネジ、ボルトといった川下製品にも適用される。
    • 対象範囲は移行期間終了までに判断され、有機化学品やポリマーなど他の製品カテゴリーにも拡大される可能性がある。
  • 直接排出(対象製品の生産時の温室ガス排出)のみならず、間接排出(対象製品の生産に使用される電気の発電時の温室効果ガス排出)も一定の条件の下で対象となる。
  • CBAMのガバナンスは欧州委員会が管轄する。

本暫定的合意は、EU加盟国の大使及び欧州議会が確認したうえで、欧州連合理事会と欧州議会の双方において採択されることによって最終合意になるとされています。最終合意に至った後、上記時系列で言及したとおり、2023年10月1日から移行期間が開始する予定となっております。また、2026年に炭素賦課金の支払義務化がなされる予定となっています。
移行期間においては、対象製品を域外から輸入する事業者は、まず報告義務を負うこととなります。現時点で報告義務の詳細は明らかになっていないものの、これまでに発表された規則案を前提とすると、商品の総量、CO2排出量、及び原産国において支払われる炭素価格が報告の対象になると予想されます。
また、2026年に予定されている炭素賦課金の支払義務化が開始されると、対象製品を域外から輸入する事業者は、EU排出権取引制度(ETS)で支払われる炭素価格に連動した炭素賦課金が課されることになります。

CBAMの影響を受ける可能性のある日本企業としては、CBAM設置規則案の最終化過程及び移行期間開始後の対象品目の推移など、CBAMの動向に引き続き留意する必要があります。EUに拠点を有している輸入企業のほか、EU域内に輸出する側にも影響が生じるものと思われます。

2. 日本におけるカーボンプライシングの動向

排出する炭素に価格を付ける仕組みはカーボンプライシングと呼ばれ、その手法には、炭素税、排出権取引、クレジット取引、国境炭素調整措置といった様々なものがあります。日本においても低炭素社会(カーボンニュートラル)の実現に向け、再生可能エネルギーの導入や省エネ対策をはじめとする地球温暖化対策を強化するため、平成24年10月から「地球温暖化対策のための税」(炭素税)が段階的に施行されています(平成28年4月に最終税率への引上げ完了)。

加えて、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)や地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)等に基づき、温室効果ガスの排出量やエネルギー使用量の報告が課されることがあります。
そのうえ、東京都の都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)では、東京都内に事業所等を有し一定の要件を満たす事業者には、事業所ごとに温室効果ガスの排出量を削減する義務が課される場合があるほか、排出量等の定期報告を行う義務があります。それぞれの義務が生じる要件は、省エネ法や温対法とも異なるなど複雑であり、またこれらの義務に違反すると罰則が課される場合もあるため注意が必要です(猿倉健司「東京都条例その他の脱炭素・温暖化対策条例における排出量削減義務と報告制度」(BUSINESS LAWYERS・2022年07月05日))。

なお、本稿に関連し、猿倉健司「環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)」(牛島総合法律事務所特集記事・2022年3月29日)、「2023年4月施行改正省エネ法において留意すべき定期報告制度」(牛島総合法律事務所Client Alert 2022年6月17日号「8. 環境法」)もご参照ください。

以 上

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