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前編に引き続き、令和5年(2023年)4月1日に施行される民法改正の内容について説明する。後編においては、主に相隣関係や相続などについて解説を行う。
不動産を取得するにあたり行うデューディリジェンスにおいては、取得不動産における使用制限・権利制限(共有不動産における権利制限を含む)・隣地との権利関係・使用制限等により、今後どのような紛争が起こりうるのか、不動産価値にどのような影響を与えるのかを適切に把握することが必要不可欠である。
改正前民法は、土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するために必要な範囲内で、他人の所有する隣地の使用を請求することができる旨定めている(改正前民法第209条第1項)が、同項に挙げられていない工事等の際に、隣地の使用を請求できるかは必ずしも明らかではなかった。そこで、改正後民法では、類型的に隣地を使用する必要性が高い3つの場合に隣地使用権を認めた((法務省民事局参事官室・民事第二課「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」93頁)) 。具体的には①建物等((改正前民法第209条第1項に挙げられていた障壁及び建物以外の工作物(工作物の例示として障壁又は建物を挙げている。)を境界線付近に配置する場合等についても、隣地の使用を認めることとされた(法務省民事局参事官室・民事第二課「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」94頁)。)) の築造・収去・修繕に加えて(改正後民法209条1項1号)、②境界標の調査又は境界((土地の境界には、所有権の境界と、いわゆる筆界(登記がされた際に土地の範囲を区画するものとして定められた線。不動産登記法123条参照)とがある。所有権の境界と筆界とは一致することも多いが、例えば、一筆の土地の一部につき売買がされたり、取得時効が成立したりした場合には、一致しないことがある。ここでいう境界を確定するための測量は、最終的に所有権の境界を確定するための測量を指していると考えられている(法務省民事局参事官室・民事第二課「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」94頁)ため、注意が必要である。)) に関する測量(同条2号)、③改正後民法233条3項の規定による隣地の竹木の枝の切取り(改正後民法209条1項3号。竹木の枝の切り取りに関する改正の概要については、後記3参照)の場合である。また、改正前民法では、「隣地の使用を請求することができる」とされていたのを、「隣地を使用することができる」と改められた(改正後民法209条1項柱書)。
他方で、隣地所有者及び隣地使用者のために損害が最も少ない日時・場所・方法を選ばなければならないこと(同条2項)、また、隣地使用にあたって事前にその目的・日時・場所・方法を隣地所有者及び隣地使用者に通知しなければならないこと(事前に通知をすることが困難なときは事後通知も可)(同条3項)、が規定された。
改正法では、隣地を使用する権利があるとされているが、その実現方法には注意が必要である。一般的に、権利があっても自力救済は原則として禁止されているところ、隣地使用者の同意なく隣地を使用することは、違法な自力救済に該当することになると考えられている。例えば、住居として現に使用している隣地について、隣地使用権を有しているからといって、隣地使用者の同意なく門扉を開けたり、塀を乗り越えたりして隣地に入っていくことまではできない。隣地使用者が事前通知(改正後民法209条3項)を受けても回答をしない場合であっても、黙示の同意をしたと認められる事情がない限り隣地使用について同意しなかったものと推認され、隣地使用権の確認や隣地使用の妨害の差止めを求めて裁判手続をとることが必要になると考えられている((法制審議会民法・不動産登記法部会資料52・2頁)) ので注意が必要である。
ただし、隣地が空き地となっていて実際に使用している者がおらず、隣地の使用を妨害しようとする者もいない場合は、裁判手続きがなくとも適法に隣地を使用できると考えられている((法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」25頁《https://www.moj.go.jp/content/001360808.pdf》)) 。
隣地使用に際して隣地の所有者が不明のために事後通知をする場合には、隣地の所有者が判明したときに通知すれば足りると指摘されている((法制審議会民法・不動産登記法部会資料56・3頁)) 。所有者を探索してその所在等が不明であることが明らかになった場合は、公示による意思表示の方法で通知をすることも可能であるが、公示による意思表示(民法98条)は必須ではないと考えられており((法制審議会民法・不動産登記法部会資料56・3頁 )) 、後記2.(2)のライフライン設置権の場合とは異なるので注意が必要である。
他の土地に設備を設置するか他人の所有設備を使用しなければ、電気、ガス、水道水等(ライフライン)の継続的給付が受けられないときは、必要な範囲内で他の土地に設備を設置し又は他人の所有設備を使用することができることとされた((民法はライフラインの技術が未発達の時代に制定されたため、公の水流又は下水道に至る排水のための低地の通水(220条)や、通水用工作物の使用(221条)を除き、各種ライフラインの設置における他人の土地等の使用に関する規定を置いていなかったと説明されている(法務省民事局参事官室・民事第二課「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」105頁)。)) (改正後民法213 条の 2 第1項(新設))。
ライフラインの設置等の場所・方法は、他の土地等のために最も損害の少ないものを選ばなければならず(同条2項)、設置等にあたっては目的・場所・方法を事前に通知しなければならない(同条3項)。また、設置等のために他の土地等を使用することができる(同条4項)。
他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害に対して償金を支払わなければならないが、1年ごとの定期払いが認められる(同条5項)。また、他人の所有設備を使用する者は、設備の使用開始にあたり生じた損害に対して償金を支払わなければならず、設備の設置・改築・修繕・維持に要する費用の応分を負担しなければならない(同条6項)。
土地の分割又は一部譲渡により継続的給付が受けられない土地が生じたときは、当該土地の所有者は、他の分割者又は従前の所有者の所有地のみに設備を設置することができる(この場合は土地の損害に対する償金支払義務はない。)(改正後民法213条の3第1項、同条2項)。
本条の権利は、ライフラインにより利益を享受する者に認められる権利であり、ライフラインを提供する事業者に認められる権利ではない。現状において存在している区分地上権や地役権などの約定使用権が、直ちに本条の法定使用権に移行するというわけではなく、いずれも併存するものであることには留意が必要である((法制審議会民法・不動産登記法部会第21回会議議事録17頁(山野目氏))) 。
隣地使用権と同様、自力救済は禁止されているため、ライフラインの設置等を拒まれた場合には、裁判所の判決を得ることなく私的に実力を行使して排除することは認められず、妨害行為の差止めの判決を得て権利を実現することになると解されている。他方で、例えば、他の土地が空き地になっており、実際に使用している者がおらず、かつ、設備の設置等が妨害されるおそれもない場合には、裁判を経なくても適法に設備の設置等を行うことができると考えられている((法制審議会民法・不動産登記法部会資料51・4頁、法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」26頁《https://www.moj.go.jp/content/001360808.pdf》)) 。
一方で、隣地使用権とは異なり(前記1.(2)参照)、他の土地の所有者等への通知は必ず事前に行わなければならず、事後的な通知は認められない。他の土地の所有者あるいはその所在が不明の場合には、公示による意思表示(民法98条)を行うことになる((法制審議会民法・不動産登記法部会第21回会議議事録20頁(大谷氏))) 。
ライフライン設置権には登記その他の公示方法がないため、土地の買主は、不動産取引に先立つ事前調査(デューディリジェンス)において、対象地に第三者のライフラインのために導管等が埋設されているか、その他第三者のためにライフライン設置権が成立し得る土地であるか否かを確認しておく必要がある((法制審議会民法・不動産登記法部会第18回会議議事録34頁(小田氏))) 。なお、宅地建物取引業者の重要事項説明において、「飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)」(宅地建物取引業法35条1項4号)の説明が行われることになっているが、宅地以外の土地の取引の場合には特に注意が必要となる。
改正前民法において隣地の境界線を越える根について認められていたのと同様に、竹木の枝についても、土地所有者が隣地の竹木の枝を自ら切り取ることができることが規定された。ただし、根の場合と異なり、①竹木所有者に枝の切除を催告したにもかかわらず相当期間内に切除しないとき(改正後民法233条3項1号)、②竹木所有者又はその所在を知ることができないとき(同項2号)、③急迫の事情があるとき(同項3号)に自ら枝を切り取ることができる(根の切り取りについては法文上、①②③の要件は課されていない(改正後民法233条4項)。)。
これにより、隣地の境界線を越える竹木の枝についても、債務名義を取得して隣地所有者に切除させる方法によらずに自ら切り取ることができることになる。そのため、隣地の所有者が不明の場合にただちに自己所有地の維持管理をはかることができる。
改正後民法においては、①個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した所有者不明土地・建物管理制度(改正後民法264条の2~8)、及び、②所有者が土地・建物を管理せずこれを放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある場合(管理不全状態の場合)((たとえば、破損が生じている擁壁が放置され隣地に倒壊するおそれがあるケース、ごみの不法投棄が放置され健康被害が生じているケースなど)) に管理人の選任を可能にする管理不全土地・建物管理制度(改正後民法264条の9~14)が創設された((法務省民事局「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し【民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要】」6頁《https://www.moj.go.jp/content/001360809.pdf》)) 。
上記①
発令要件
① 調査を尽くしても所有者又はその所在を知ることができないこと
② 管理人の管理が必要であること
利害関係人にのみ申立権あり。
管理人の管理権限は、①土地(又は建物)のほか、②土地(又は建物)に存する動産(同一所有者の有するものに限る)、③土地(又は建物)の管理処分により管理人が得た財産に及ぶ。
対象財産の管理処分権は管理人に専属し、管理人は保存・利用・改良行為ができるほか、裁判所の許可を得て処分もできる。
管理人は、管理の対象財産及び予納金から、裁判所の定める額の費用の前払・報酬の支払を受ける(費用・報酬は所有者負担)。
上記②
発令要件
① 所有者による土地・建物の管理が不適当
② ①により((管理の不適当と現在の侵害状態の継続との間に因果関係があれば足りると考えられている。不可抗力によって侵害状態が生じた後に適切に対応しないケースについても、申立ては可能であると考えられている(法制審議会民法・不動産登記法部会資料52・14頁)。)) 他人の権利・利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあること
③ 管理人の管理が必要であること
利害関係人にのみ申立権あり。
管理人の管理権限が及ぶ対象財産は、上記所有者不明土地・建物と同じ。
管理人の管理処分権
管理処分権は管理人に専属しない。
保存行為、対象財産の性質を変えない範囲での利用・改良行為が可能。
対象財産の性質を変える行為は裁判所の許可が必要。
土地・建物の処分行為は、裁判所の許可のほか所有者の同意が必要。
管理人は、管理対象財産及び予納金から、裁判所の定める額の費用の前払い・報酬の支払を受ける(費用・報酬は所有者負担)。
改正前民法においても、不在者財産管理制度や相続財産管理制度などの制度は存在したが、いずれも「人」単位での財産管理を目的としたものであり、特定の土地だけを対象に管理人を選任することは原則としてできなかった。これに対して改正後民法においては、土地、建物といった個々の財産単位で裁判所が管理人の選任することが可能となったことにより、管理の労力やコストを抑えることが期待される。
その土地を取得してより適切な管理をしようとする買受希望者は、所有者不明土地管理制度の申立てを行うことができる利害関係人に当たる場合があると考えられている((法制審議会民法・不動産登記法部会資料33・6頁)) 。ただし、単に土地を購入したいという者の申立てが認められるかは、慎重な認定が必要であると考えられており((法制審議会民法・不動産登記法部会資料11・5~6頁)) 、土地取得の希望の強弱や代金の支払能力などが考慮されると考えられる((法制審議会民法・不動産登記法部会資料33・6頁 )) 。そのため、土地の取得にあたってはこの点の検討も必要になってくる。
一方で、災害発生時には、企業が保有する土地が被災し、土砂崩壊等により近隣の土地に被害又はそのおそれが生じることも想定される。企業が速やかに対応することができず、土地の管理が不適当な状態が継続した場合、近隣の土地の所有者等から管理不全土地管理命令の申立てがなされる可能性がある。土地所有者は管理権限を失うわけではないが、想定していた土地の利用等ができなくなる可能性があり、注意が必要である。
相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、法定相続分又は指定相続分によって行われ、特別受益、寄与分は考慮されないものとされた(改正後民法904条の3)。
その趣旨は、所有者不明土地の発生を抑止するため、期間制限を設けることによってその期間経過前の遺産分割を促すとともに、期間経過後は、遺産の分割を法定相続分によって行うことで画一的な法定相続分による円滑な遺産分割を意図したものである((法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」46頁《https://www.moj.go.jp/content/001360808.pdf》)) 。
改正後民法においては、相続開始後10年を経過した後に遺産分割をすると、相続人によっては不利益を受けることになる(たとえば、寄与分のある相続人等は、自己の寄与分が考慮されなくなるため不利益を受けることになる。)。ただし、①相続開始後10年経過時までに相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき、又は、②相続開始時から10年の期間満了前6か月以内に遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由があった場合に、そのやむを得ない事由が消滅した時から6か月を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたときは、例外として、特別受益及び寄与分の規定の適用を受けることができる。
この期間制限は、改正法施行日前に相続が開始した場合にも遡及適用される(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則3条)が、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられた。具体的には、①相続開始時から10年経過時又は改正後民法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき、又は、②相続開始時からの10年の期間(相続開始時からの10年の期間の満了後に改正後民法施行時からの5年の期間が満了する場合には、改正後民法施行時からの5年の期間)満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合に、そのやむを得ない事由が消滅時した時から6か月を経過する前に、その相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした時は、相続開始時から10年を経過していても、特別受益、寄与分は考慮される((法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」47頁《https://www.moj.go.jp/content/001360808.pdf》)) 。
改正後民法においては、相続開始から10年経過後は、遺産共有持分と通常共有持分とが併存する共有物について共有物分割訴訟により単独所有の状態を実現することが可能となった(改正後民法258条の2第2項)。
その詳細は、下記第3.5 のとおりである。《https://www.ushijima-law.gr.jp/newsletter/20211227》
裁判所において、①所在等不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する制度、及び、②所在等不明共有者以外の共有者全員が特定の者(譲受人)に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、不明共有者の持分を当該譲受人に譲渡する権限を付与する制度が新たに設けられた(改正後民法262条の2、262条の3)。
その詳細は、下記第3.6のとおりである。《https://www.ushijima-law.gr.jp/newsletter/20211227》
もっとも、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合には、相続開始の時から10年を経過する(ただし、「共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」に限る((相続は発生しているものの、遺産共有の状態が生じていないケース、例えば、相続人不存在などを除外する趣旨であると考えられている(法制審議会民法・不動産登記法部会資料51・14頁))。)) )までは持分取得・譲渡の裁判ができない(改正後民法262条の2第3項、262条の3第2項)。また、10年経過後であっても、所在等不明共有者の持分取得制度については、遺産分割の請求があり、かつ所在等不明共有者以外の共有者が異議の届出をしたときは、持分取得の決定をすることができない(改正後民法262条の2第2項)。これらの点に留意が必要である。
遺産共有状態にある共有物に共有に関する規定を適用するときは、具体的相続分ではなく法定相続分(相続分の指定がある場合は指定相続分)により算定した持分を基準に決定(改正後民法898条2項)することが明らかにされた((共有に関する規定は、持分の割合に応じたルールを定めているが、相続により発生した遺産共有では、①法定相続分・指定相続分と、②具体的相続分のいずれが基準となるのか不明確であったためこれを明らかにする趣旨と考えられる(法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」34頁《https://www.moj.go.jp/content/001360808.pdf》、法制審議会民法・不動産登記法部会資料51・17頁)。)) 。
改正前民法は、相続財産が相続人によって管理されないケースに対応するために、家庭裁判所が、相続財産の管理人を選任するなど相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを相続の段階ごとに設けている。
しかし、共同相続人による遺産共有状態であるケースや、相続人のあることが明らかでないケースについては、その取扱いについて規定がなく、相続財産の保存に必要な処分ができない。
改正後民法においては、家庭裁判所は、相続開始後いつでも相続財産の管理人の選任その他相続財産の保存に必要な処分ができるものとして、包括的な制度として整備した(ただし、相続人が一人で単純承認した場合、相続人が複数でも遺産の分割が全部完了した場合等を除く。)(改正後民法897条の2)。
相続財産管理人を選任するには、その必要性が要件となるところ、相続財産の処分のために管理人の選任を申し立てることは、基本的には必要性の要件を欠き、認められないものと考えられている((法制審議会民法・不動産登記法部会資料34・11頁)) 。
また、相続財産管理人は、相続財産の保存を図ることを職務とする。相続財産が収益不動産である場合の利用行為、遺産の管理費用の捻出のために遺産の一部を売却するなどの行為は、その職務に照らして必要かつ相当であるときは、相続財産管理人が、事案に応じて家庭裁判所の許可を得た上で、行うことができるものと考えられているが、そのような事情がないのに相続財産の一部を売却するなど保存行為を超える行為をすることは、職務上の義務に反し、裁判所も許可をしないことが想定されている((法制審議会民法・不動産登記法部会資料34・15頁)) 。
そのため、相続財産である不動産の取得を検討する企業は、他の制度の利用も検討すべきだろう。例えば、相続財産に属する物が土地であり、その所有者(相続人)の所在等が不明である場合には、その土地の適切な管理のために、所有者不明土地管理制度の申立てをすることも可能である(前記第2.1.(2)参照)。保存のための相続財産管理制度と、所有者不明土地管理制度は、このように活用場面が重なり合うこともあるが、保存のための相続財産管理制度においては、相続人の所在が判明しているが相続財産の管理に意欲を失っている場合でも対応可能であることや、土地以外の相続財産も含めて管理の対象となること、相続財産の管理の費用は相続財産から支弁されること(民法885条)などの差異があり、事案に応じていずれの管理制度を用いるかの使い分けがされることが想定されている((法制審議会民法・不動産登記法部会資料34・11頁 )) 。
なお、改正前民法918条2項に基づく相続財産管理人が選任された場合に相続人自身の管理権が制限されるかどうかについては解釈上争いがあるが、この点については改正後も引き続き解釈に委ねられているので注意が必要である((法制審議会民法・不動産登記法部会資料34・14頁)) 。
今回の民法改正の内容ではないが、2019年に改正された遺留分減殺請求についても言及する。
改正後民法により、①遺留分減殺請求権が金銭債権として整理され(遺留分侵害額請求権:民法1046条)、②金銭を直ちには準備できない受遺者又は受贈者の利益を図るため、受遺者等の請求により、裁判所が、金銭債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるようになった(民法1047条5項)((法務省民事局「遺留分制度の見直し」《https://www.moj.go.jp/content/001263488.pdf》)) 。
改正前民法においては、遺留分減殺請求権の行使によってその限度で贈与・遺贈の効力が失われると考えられていた。しかし、遺留分減殺請求の結果、遺贈又は贈与の目的財産は受遺者又は受贈者と遺留分権利者の共有になることが多く、円滑な事業承継の障害となったり、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせた。
そのため、改正後民法においては、遺留分侵害額請求権の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることし、遺留分減殺請求権の行使による共有状態が発生しないこととされた((法務省民事局「遺留分制度の見直し」《https://www.moj.go.jp/content/001263488.pdf》 )) ・((法務省民事局「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律等の概要について」《https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00236.html》)) 。
ただし、遺留分に関する改正の施行日は2019年7月1日であり((平成30年11月21日政令第316号)) 、施行日前に開始した相続については、改正前の規定が適用される((民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)附則2条)) ので注意が必要である。
以上
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