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事務所概要・アクセス
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合同会社は、平成18年に施行された会社法により設けられた比較的新しい会社形態であるが、近年、ストラクチャード・ファイナンス案件におけるビークルとして用いられるほか、外資系の大規模な事業会社の日本子会社として用いられる例もしばしば見受けられる。
米国法人の日本子会社として合同会社を用いると、米国税法上のチェック・ザ・ボックス規則(Check-the-box Regulation)により、米国法人において米国課税上、合同会社の損益についてパススルー課税の取扱いを受けることができ、このことは、米国企業にとって日本子会社として合同会社の形態を選択するメリットとなると考えられる。
さらに、最近の登記実務の変更により、外国会社の日本における拠点設立形態としての合同会社の利用が、ますます容易になったと思われる。すなわち、株式会社の代表取締役における取り扱い[1]と同様に、従前、合同会社の代表社員又はその職務執行者[2]のうち少なくとも1名は日本に住所を有しなければ、合同会社の設立並びに代表社員及びその職務執行者の就任の登記申請は受理されない取り扱いとされていたが、平成27年3月16日より、代表取締役の全員が日本に住所を有しない株式会社の設立及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記申請が受理される取扱いに変更され[3]、同時に、合同会社の代表社員及びその職務執行者についても、その全員が日本に住所を有しなくても、設立並びに代表社員及びその職務執行者の就任の登記申請が受理される取扱いとなった[4]。これにより、外国会社が日本子会社を合同会社として設立する際にネックとなっていた日本居住者の中から職務執行者を最低1名選任することが不要となり、親会社となる外国会社が代表社員に就任し、当該外国会社の本国在住の代表者等の日本の非居住者のみをその職務執行者に選任することも可能となった。
一般に、業務執行権を有する者は労働保険(労災保険及び雇用保険)の被保険者にはなれないと解されているため、合同会社の業務執行社員(代表社員を含む。)及びその職務執行者は、労働保険の対象にはならないと解される[5]。したがって、従前の登記実務の下では、代表社員又は職務執行者に選任された日本居住者は、労働保険の被保険者になることはできなかった。
そこで、職務執行者の住所要件が撤廃された現在、外国法人が唯一の業務執行社員兼代表社員に就任しているケースにおいて、日本居住者を職務執行者から退任させ、日本の非居住者に交替させることにより、退任した者を含む合同会社の業務に従事する日本居住者全員を労働保険の被保険者にすることができるか否かが問題となる。
この点に関する東京労働局労働保険徴収部への照会結果によると、上記ケースで職務執行者が日本の非居住者のみの場合、職務執行者以外の合同会社の業務に従事する日本居住者の中から「雇用保険適用事業所設置届」(労働保険に加入する際に必要とされる書類の一つ)に代表者として記載する者を選ぶ必要があり、当該代表者自身は労働保険の被保険者にはなれないとのことであった。これによると、代表者に選ばれた日本居住者は、職務執行者でなくても労働保険の被保険者になることはできないことになる。
今後登記実務の変更を受けて労働保険における取り扱いも変更されることも考えられるため、実際の届出の際には事前に管轄当局に確認する必要があるものの、職務執行者を全員日本の非居住者とすることが可能となった現在においても、依然として合同会社の業務に従事する日本居住者全員を労働保険の被保険者とすることはできない可能性があることに留意する必要がある。
[1] 株式会社の代表取締役のうち少なくとも1名は日本に住所を有しなければ,設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記の申請は受理されないとの取り扱い(昭和59年9月26日民四第4974号民事局第四課長回答及び昭和60年3月11日民四第1480号民事局第四課長回答)
[2] 法人が業務執行社員である場合には、その職務を行う自然人(職務執行者)を最低1名選任しなければならない(会社法598条1項)。代表社員の職務執行者については、その氏名及び住所が登記事項とされている(会社法914条8号)。
[3] 平成27年3月16日付法務省民商第29号通知
[4] 東京法務局への電話照会結果、松井信憲『商業登記ハンドブック[第3版]』(商事法務、平成27年)612頁。なお、日本において継続的に取引を行おうとする外国会社については、従来どおり、日本における代表者の少なくとも1名は日本に住所を有する者でなければならない(会社法817条1項)。
[5] 厚生労働省「平成27年度労働保険年度更新申告書の書き方」(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/hoken/h25/dl/keizoku-all.pdf )4頁「2.労働保険対象者の範囲」参照