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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. PCB特別措置法における規制
(1) 規制対象となるPCB廃棄物
(2) PCB廃棄物の処理義務と処理期限
(3) PCB廃棄物に対するその他の規制
(4) 地方自治体等の行政の権限
2. 廃棄物処理法における規制
(1) 規制の対象
(2) 管理責任者の設置、廃棄物の適切な保管、及び適切な処理の実施
3. その他の法令における規制
4. 条例による規制
5. PCB廃棄物を処理する際の実務上の留意点
(1) PCB廃棄物の保管の委託・保管場所の変更
(2) PCB廃棄物が所在する不動産の譲渡
PCB(ポリ塩化ビフェニル。以下「PCB」といいます)は、生物の体内に蓄積されやすく、人の健康を損なうおそれがある有害物質です。常温で液体の油状の化合物で、難燃性、低揮発性、耐熱性、高絶縁性などの特徴から、かつては、受変電設備のコンデンサー、トランス類の絶縁油、蛍光灯の安定器、熱媒体、ノーカーボン複写伝票のインクなどに使用されていました。しかし、PCBは、昭和43年のカネミ油症事件を契機にしてその毒性が社会問題化し、昭和47年以降、行政指導や化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)によってPCBの製造・使用が禁止されました(※1)。
そして、PCB廃棄物を保管している事業者等は、行政に対して保管状況等を届出なければならないうえ、一定期間内に処分することが法律上義務付けられています(2016年改正法において、高濃度PCB廃棄物についても処理期限が明確にされていますが、2022年5月31日に、「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」が改定され、処理の完了時期が実質的に延長されることが公表されました(※2)。)。
以下では、企業が保管しているPCB廃棄物について、法令・条例で求められる対応を解説します。
なお、断りのない限り、以下で使用する「法」、「令」、「規則」の記載は、それぞれポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(以下「PCB特別措置法」といいます)、同施行令または同施行規則を意味します。
※1: 環境省『ポリ塩化ビフェニル(PCB)早期処理情報サイト』、東京都環境局『PCB(ポリ塩化ビフェニル)とは』
※2: 環境省『ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画の変更等について』(2022年5月31日)
本ニューズレターは、2020年6月に公表した内容に、2022年7月31日時点までに入手した情報を加筆して執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことに留意してください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。
事業活動に伴ってPCB廃棄物(ポリ塩化ビフェニル廃棄物)を保管している事業者には、PCB特別措置法の規制が適用されます。同法では、PCB廃棄物等の保管、処分等について一定の規制が定められています。
PCB特別措置法は、後述する廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」といいます)の特別法と位置付けられています。
2016年にPCB特別措置法が改正されましたが、同改正においては、PCB廃棄物の保管事業者に対して、届け出た保管場所の変更を禁止する旨の規定が追加されたほか、高濃度PCB廃棄物についての処分期間がPCB廃棄物の種類ごと及び保管の場所が所在する区域ごとに政令により設定されるなどの大きな改正がなされています(詳細は後述します)。
PCBが付着したり染みこんだ汚染物等は、その汚染物に含まれているPCBの濃度を実際に測定することで、PCB廃棄物にあたるかどうか、PCB廃棄物にあたるとして低濃度か高濃度かを判断します。PCB廃棄物は、高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物に分類されますが、後述のとおり、両者で処分期限や処分可能な処分場が異なります。そのため、いずれにあたるかを確認することが必要となります。
高濃度PCBにあたる廃棄物は、以下のとおりです。
2019年の改正法においては、これまで高濃度PCB廃棄物(廃棄物に含まれるPCBを含む部分が重量を占める割合で0.5%を超えるもの)として分類されていたもののうち、可燃性の廃棄物(汚泥、紙くず、木くず又は繊維くず、その他PCBが塗布され、又は染み込んだ物が廃棄物となったもの)で、PCBを含む部分が重量を占める割合で0.5%を超え10%以内のものが、新たに低濃度PCB廃棄物に分類されることになりました。
これに対し、金属くずやガラスくずなどの非可燃物の高濃度PCB廃棄物、PCBを含む油が廃棄物となったものは、従来の区分方法(PCBの含有率が0.5%を超えるもの)と変わりません。
その事業活動に伴って高濃度PCB廃棄物を保管する事業者(PCB保管事業者)は、高濃度PCB廃棄物の種類や保管場所が所在する区域ごとに、処分期間内に、自らまたは業者に委託して適切に処分する必要があります(法10条、14条)。
高濃度PCB廃棄物の処理期限については、以下のとおり、地域ごとに決められています(※3)。
高濃度PCB廃棄物の処理量が想定よりも増えたことなどから、2022年5月31日に、「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」が改定され、処理の完了時期が実質的に延長されることが公表されました(※4)。具体的には、「計画的処理完了期限」の後に設定されていた「事業終了準備期間」(処理事業を終了するための準備期間)の間にも処理を行うことができることとしたものです。
なお、北九州事業地域で計画的処理完了期限の後に新規発見された大型変圧器・コンデンサ等について、大阪PCB処理事業所及び豊田PCB処理事業所において処理を行うこととされました。
※3: 環境省・経済産業省『ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用製品及びPCB廃棄物の期限内処理に向けて』
※4: 環境省『ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画の変更等について』(2022年5月31日)
※ 事業対象地については、以下のとおり。
A地域:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県
B地域:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
C地域:岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
D地域:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県
E地域:北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県
ここで注意すべきは、高濃度PCB廃棄物については、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の処理場で処理をする必要があるということです。JESCOに処理を委託する場合にはあらかじめ登録を行う必要がありますが、処理施設の数が極めて限定されているため、委託してから実際に処理が行われるまでにかなりの期間を要することが予想されます。実際にも、処理に入るまでに相当の期間がかかっている例も多いようです。
低濃度PCB廃棄物については、処理期限が2027年3月31日までとされています(令7条)。低濃度PCB廃棄物の処分場については、JESCOの処理場に限られず、民間の処理事業者(無害化処理認定施設、都道府県知事等許可施設)で処理できることになります。
PCB特別措置法で規定されている処理義務を履行しない事業者に対しては、行政により、指導・助言や改善命令がなされる場合があるほか、行政による代執行等の措置がなされる可能性があります。
PCB保管事業者は、上記の処理義務に加えて、処理までの間、適切にPCB廃棄物を保管することが義務付けられ、第三者に譲渡することも原則として禁止されています。
PCB廃棄物の処理義務や保管義務を負わせていることに関して、行政には報告徴収及び立入検査等の権限が与えられています。
なお、PCB保管事業者らの代表者や従業員等が、その事業に関して違反行為をした場合には、当該違反者の他、会社に対しても同様に罰金刑が科されることがあります。
上記のとおり、PCB特別措置法は廃棄物処理法の特別法であり、PCB特別措置法に規定のない事項については廃棄物処理法の規定が適用されることになります。
PCB廃棄物は、廃棄物処理法上の「特別管理一般廃棄物」、「特別管理産業廃棄物」に該当する場合があります。
「特別管理一般廃棄物」とは、「一般廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するもの」をいいます(廃棄物処理法2条3項、同法施行令1条)。また、「特別管理産業廃棄物」とは、「産業廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するもの」をいいます(廃棄物処理法2条5項、同法施行令2条の4)。
廃棄物処理法では、特別管理産業廃棄物管理責任者を設置し、事業に伴って排出されたPCB廃棄物(特別管理産業廃棄物)を適切に保管することが求められ、また、処理の際にも政令で定められた基準に従い適切な処理を行うことが求められます。
なお、PCB特別措置法や廃棄物処理法とは別に、PCBは土壌汚染対策法の対象物質(第三種特定有害物質)としてあげられています(土壌汚染対策法2条1項、同法施行令1条25号、同法施行規則4条3項2号ロ)。
また、PCBの一種であるコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)は、ダイオキシン類と同様の毒性を示すものでダイオキシン類似化合物と呼ばれますが、ダイオキシン類対策特別措置法では、「ダイオキシン類」として規制対象とされています。
そのため、土壌中のPCBについてはこれらの規制を受けるかどうかについても注意が必要となります。
上記とは別に、対象地の所在する地方自治体において、条例により法令とは異なる基準や規制内容等を定めているケースが見受けられます。そのため、法令のみならず条例や指針・ガイドラインについても確認することが必要となります。 条例改正対応におけるリスクや留意点については、「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』」(BUSINESS LAWYERS・2022年7月14日)も参照してください。
以下においては、PCB廃棄物の処理を行うにあたって実務上問題となる点について簡単に解説します。
PCB廃棄物の保管のみを第三者に委託することは、法令上明示的に規制がなされているわけではありませんが、前記1(3)で説明している譲渡及び譲受の行為(法17条)に該当し禁止されると解されていますので注意が必要です。これに対し、PCB廃棄物の保管事業者自らが管理する他の倉庫にこれらを移動して保管することは可能であるとされています(※6)。
この点に関し、前記1(3)のとおり、原則として保管場所の変更はできないとされており、違反した者は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が課される可能性があります。ただし、高濃度PCB廃棄物の種類に応じて決められた同一の区域内で保管場所を変更する場合等には、特例として変更することが認められることあります。
※5: 猿倉健司『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年8月)30頁、400頁以下、井上治・猿倉健司『所有地にPCB(ポリ塩化ビフェニル)廃棄物がある場合にとるべき対応』(BUSINESS LAWYERS実務解説Q&A)
※6: 環境省・経済産業省『ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用製品及びPCB廃棄物の期限内処理に向けて』(2016.10)、周藤利一『不動産取引におけるPCB問題』(RETIO. No.78 2010年7月)
前記1(3)のとおり、PCB廃棄物の譲渡を原則として禁止しており、PCB廃棄物を譲渡しまたは譲り受けた者は、3年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれを併科するものとされています。そのため、PCB廃棄物が所在する不動産を譲渡する場合には、当該PCB廃棄物については譲渡の対象から外す必要がありますので、注意が必要です。
これらの場合の取り扱いについては、弁護士等の専門家に確認の上で慎重な対応が必要となります。