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2020.07.08

賃貸物件で民泊事業(住宅宿泊事業)を行う場合の留意点と営業差止めのリスク

業務分野

執筆弁護士

 

2018年に施行された民泊新法(住宅宿泊事業法)に基づく民泊は、市場規模も大きく、新型コロナ感染症の流行で停滞している経済の巻き返しとともに、今後新たな宿泊の選択肢の一つとして発展していくことが予想されます。その一方で、規制対応や法的整理(ガイドライン含む)について十分な検討がなされているとは言いがたい分野であるうえ、地域毎に条例による規制内容が異なるほか運用も一律でないことなどから、対応に苦慮する点も多いと想像されます。

また、民泊事業は、不動産を自ら所有する者のみならず、賃貸不動産を賃借する者が当該賃貸物件において行うことも想定されております。

本稿においては、賃貸物件で民泊事業(住宅宿泊事業)を行う場合の留意点民泊の営業差止めのリスク(実例)について解説します。

 

本ニューズレターは、2020年6月26日時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことに留意してください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者ら個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

 

なお、以下、特段の指定のない限り、住宅宿泊事業法を「法」、同施行規則を「規則」、同施行令を「令」などということがあります。

 

1. 住宅宿泊事業(民泊)

(1) 住宅宿泊事業(民泊)とは

「住宅宿泊事業」とは、住宅において宿泊料を受けて宿泊サービスを提供する事業で、年間営業日数(人を宿泊させる日数)が180日以内のものをいいます(法2条3項)。住宅宿泊事業を営む旨の届出をした場合、旅館業法に基づく許可を得なくても、上記の年間営業日数の範囲内で宿泊サービスの提供を行うことができることになります(法3条1項)。

 

(2) 民泊新法制定の経緯

これまで、「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」は、旅館業法に基づき都道府県知事の許可を得なければ行うことはできませんでした(旅館業法3条1項)。しかし、訪日外国人の急増等により宿泊施設の不足が切実な問題となると共に、世界各国で民泊ビジネスが展開されるようになり、インターネットによる民泊あっせんサービス(アメリカの「Airbnb」や中国の「途家(TUJIA)」等のポータルサイト)を利用することで、日本でも、事実上民泊の利用が加速されてきました。

政府の重要なテーマである観光立国の推進や地方創生の観点からは、民泊は、多様化する宿泊ニーズに対応し、都市部の宿泊施設不足を一定程度解消し、また、地方等における空き家問題の解決策として期待されています。もっとも、旅館業法その他の規制に従わず、行政による監督がなされない民泊が増加することによる感染症蔓延のリスクや、テロリストの潜伏場所となるリスクのほか、近隣住民の生活環境の悪化を招くおそれなども指摘されています。

そのような状況において、「我が国における観光旅客の宿泊をめぐる状況に鑑み、住宅宿泊事業を営む者・・・の業務の適正な運営を確保しつつ、国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の発展に寄与することを目的」(法1条)として、2017年(平成29年)6月16日、住宅宿泊事業法が公布されました。

また、同年10月27日に、住宅宿泊事業法施行令、住宅宿泊事業法施行規則のほか、厚生労働省関係住宅宿泊事業法施行規則、国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則等の関係政省令が公布され、同年12月26日には、「住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)」が公表されています[1]

こうして、2018年(平成30年)6月15日に、住宅宿泊事業法が施行されるに至りました。
 
2. 賃貸住宅を利用した民泊営業の法的問題点

(1)    賃貸借契約における無断転貸に関する規定

賃貸物件において賃借人や転借人が民泊事業を行う場合、宿泊利用者に当該物件を使用させることが、当該物件の賃貸人との間の賃貸借契約(転貸借契約)に違反するのではないかという問題があります。

実務上、賃貸借契約書には賃借人による転貸禁止条項を定めているのが一般的であり、たとえば、国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書を踏まえて、「書面による承諾を得ることなく、本物件の全部又は一部につき、賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない」などとする規定が見られます。

また、民法612条の規定により、賃借人による賃借権の無断譲渡及び無断転貸は禁止されています。

 

(2)    賃貸住宅を利用した民泊(特区民泊)を行う場合の法的問題点

国家戦略特別区域法上の特区民泊は、事業者と宿泊利用者との間で「賃貸借契約及びこれに付随する契約」(国家戦略特別区域法13条1項)が締結されることが予定されており、「事業予定者は貸主及び転貸人の転貸の承諾を得る必要があります」との説明がなされています[2]

かかる説明によれば、賃貸住宅を利用した民泊(特区民泊)は、賃貸借(またはそれに準ずるもの)として、民泊事業について賃貸人の承諾を得ていない場合は、無断転貸と評価される可能性があると考えられます。

 

(3)    賃貸住宅を利用した民泊(住宅宿泊事業)を行う場合の法的問題点

住宅宿泊事業(民泊新法)による民泊の場合も同様に(特に、家主不在型民泊の場合)、事業者が宿泊利用者との間で締結する契約は賃貸借契約と同様の実態があるともいえることから、賃借人(住宅宿泊事業者)が宿泊利用者に賃貸物件を使用させることは転貸(またはこれに準ずるもの)にあたると考えられるように思われます。住宅宿泊事業を行おうとする者が届出を行う際にも、添付書類として、「賃貸人が住宅宿泊事業の用に供することを目的とした賃借物の転貸を承諾している旨」を記載した書類の提出が求められています(法3条3項、規則4条4項1号リ・ヌ)。

このような考え方によれば、賃貸住宅を利用した民泊(住宅宿泊事業)についても、民泊事業について賃貸人の承諾を得ていない場合は、無断転貸と評価される可能性があると考えられます。

 

いずれにしても、実務上、賃貸借契約書には賃貸物件の使用目的を定める条項が規定されているのが一般的です(たとえば、国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書を踏まえて、「居住のみを目的として本物件を使用しなければならない」などとする規定が見られます)。そのため、賃貸物件で民泊事業を行うことは、「居住のみ」を目的とする使用方法ではないとして、転貸条項違反ないし用法遵守義務条項違反(民法594条1項、616条参照)となり、賃貸借契約の解除事由となると主張され争いとなる可能性があることになります[3]

 

3. 民泊事業に対する利用差止め・明渡し請求の実務対応

(a) 住宅宿泊事業が法令に反する場合や、(b) 賃貸物件で賃借人が民泊事業を行っているケースで、賃借人が賃貸借契約に反して民泊事業を行った場合、(c) 区分所有マンションで民泊事業を行っているケースで、マンション管理規約に違反して区分所有者が民泊事業を行った場合などに、民泊事業に対する差止請求、賃貸物件の明け渡し請求がなされることが考えられます。

 

(1) 民泊事業の差止め事例

ア.     大阪地裁平成29113判決

実際に、マンション管理規約に反する民泊事業が行われていたことを理由として、民泊事業の停止及び不法行為を理由とする損害賠償請求がなされた事案があります(大阪地判平成29年1月13日判例秘書L07250289)。

当該事案においては、民泊事業により、鍵の管理が不適切でマンションの安全性が害されている、多数の利用者がエントランスホールでたむろする、共有部分で大きな声で話す、民泊利用者が夜中まで騒ぐ、ゴミを指定場所に出さず放置し害虫も発生している、大型スーツケースを引いた多数の利用者が通る共用部分の床のメンテナンスの回数が増えている等の事情が主張され、民泊事業を停止することが求められました。

判決においては、当該民泊経営が旅館業法の脱法的な営業にあたるおそれがあるほか、マンション管理規約における「区分所有者は、その専有部分を次の各号に掲げる用途(住戸部分は住宅もしくは事務所)に使用するものとし、他の用途に供してはならない」との条項、「住戸部分は住宅もしくは事務所として使用し、不特定多数の実質的な宿泊施設、会社寮等としての使用を禁じる」との条項のいずれにも違反すると判断されました[4]

もっとも、訴訟の被告である民泊事業者が当該区分所有建物をすでに売却していたことを理由に差止請求は認められませんでしたが、その一方で、不法行為責任を理由とする損害賠償請求(50万円)は認められました。

 

イ.     東京地裁平成308月判決、同年9月判決

その他にも、東京都のマンションで管理規約を改正して民泊を禁止した後も区分所有者が民泊行為を続けているとして、民泊の営業差止めと弁護士費用(約97万円)の支払いが命じられた事案があります(東京地判平成30年8月9日判例秘書L07331275)。

当該事案においては、民泊により外国人の家族連れなどが滞在し、夜間にバルコニーで会話したり、ごみを分別せずに捨てたりして住民から苦情が出るようになったという事情があったようですが、「その専有部分を専ら住宅あるいは事務所として使用するものとし、他の用途(不特定の者を対象としてその専有部分を宿泊や滞在の用に供することを含む。)に供してはならない」等の管理組合規約に違反し、今後も民泊行為を続ける可能性があると判断され、請求が認容されました。

 

また、平成30年9月にも同様に、東京都のマンションで、民泊の営業差止めと弁護士費用(約75万円)の支払いを命じられたことが報道されています[5]。報道によれば、オートロック式マンションに(第三者の)侵入の可能性を生じさせ、平穏な生活を害したとして、民泊営業が「(部屋は)専ら住宅として使用する」と定めた旧管理規約と、民泊禁止を明示した新管理規約のいずれにも違反すると判断したようです。

 

(2) シェアハウス事業の差止め事例(東京地裁平成27年9月18日判決)

その他、いわゆるシェアハウスの運営が、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし他の用途に供してはならない。」と定めるマンション管理規約に違反するとして、設置された間仕切りの撤去等が認められた事案(東京地判平成27年9月18日判例秘書L07031046)[6]も見受けられますが、かかる裁判例も参考になると思われます。
 
(3) 賃貸借契約に反して(または違法に)民泊が行われている物件の明渡請求

賃借人が賃貸借契約に違反して賃貸物件で民泊営業を行っているような場合には、賃貸人としては、賃貸借契約を解除したうえで、賃借人(民泊業者)に対する賃貸物件の明渡し判決を得ることが考えられます。

しかし、それだけでは直ちに宿泊利用客に対して明け渡しの強制執行を行うことはできません。つまり、宿泊利用者は賃貸物件の賃借人ではないことから、賃借人(民泊業者)に対する賃借物件の明渡し判決の効力はただちに民泊の利用者には及ばず、別途、宿泊利用者に対する明け渡しを命ずる判決を得ることが必要となります。

しかし、民泊の実態からすれば、賃貸物件を占有して利用している宿泊利用者は頻繁に変わるうえ、当該宿泊利用者がどこの誰かという特定も困難であるという事情があります。そこで、賃貸人としては、賃貸物件の明渡し請求訴訟を提起するのに先立ち、「債務者不特定の占有移転禁止の仮処分」(民事保全法25条の2)を申し立てる方法が指摘されています。これにより、宿泊利用者に対する明け渡しを命ずる判決を得ることによって対応することが考えられます[7]

 

以 上

 

 

[1] ガイドラインは平成31年3月に改正がなされています《https://www.mlit.go.jp/common/001215784.pdf》

[2] 内閣府地方創成推進事務局平成28年11月11日付け通知『特区民泊の円滑な普及に向けたマンション管理組合等への情報提供について』(国住マ第39号・国住賃第22号)《https://www.mlit.go.jp/common/001152253.pdf》

[3] 猿倉健司「住宅宿泊事業法(民泊新法)のポイントと民泊運営の実務対応『賃貸物件・区分所有マンションを利用した民泊事業の実務対応(条項例)』」(月報司法書士(2018年12 月号)・日本司法書士連合会)《https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2019/03/201812_00.pdf (46頁)》

[4] マンション管理規約の条項が前者から後者に変更されるという事情があったことから、いずれの条項についてもマンション管理規約違反が判断されたものです。

なお、同判決においては、民泊営業が賃貸借の形式をとっているとしても許容されるものではないことが付言されています。

[5] 平成30年9月5日付け日本経済新聞電子版《https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35007800V00C18A9CC1000/》、同日付け毎日新聞電子版

[6] マンションにおいてシェアハウスを運営していたことが管理規約に違反し、また区分所有者の共同の利益に反する行為に当たるとして、シェアハウスの禁止及び間仕切りの撤去等を求めた事案

[7] 猿倉健司「住宅宿泊事業法(民泊新法)のポイントと民泊運営の実務対応『住宅宿泊管理業/仲介業に対する規制、民泊事業者の民事責任と実務対応』」(月報司法書士(2018年11月号)・日本司法書士連合会)

https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2019/01/201811_00.pdf (48頁)》